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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

七章 コリーの聖剣修理

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106話

 これから聖剣を修理する。
 いよいよ目標達成の瞬間が近くなり、高揚感がある。

 でも。
 一方で、コリーは、戸惑いを覚えてもいた。


 ――本当に、それでいいのか?


 祖父に自分の技術を認めさせるために、聖剣の修理をする。
 方法論が間違っているとは思えない。
 というよりも、考え得る中では『これしかない』とさえ言える。

 でも。
 それはけっきょく、古いものに価値を見出す人に、価値ある古いものを見せるだけだ。

 ……鋳つぶされた傑作を思い出す。
 新しい剣。
 古い職人とは違ったアプローチから作られたもの。

 装飾や、柄と一体型の刃が気に入らなかったのだろうか。
 それとも美しさと調和のために、単一素材で打ったのを嫌われたのだろうか。

 新しい技術。
 ……古い技術。

 やりたいことは、『古い職人に新しい物を認めさせること』のはずなのに。
 今からやろうとしていることは、『古い職人に古いものを差し出すこと』だ。

 それがどうにも。
 違和感や戸惑いとなって、胸の奥に引っかかる。


「……でも、何度も考えて、これぐらいしかないって、そう結論したんだ」


 自分の行いは正しいと信じて突き進んできた。
 ……きっと、達成直前で不安になっているだけだろう。

 コリーは迷いを横に置く。
 そして、入って来た空間を、あらためて、ながめた。

 ダンジョンマスターはいない。
 全体としては、天井の高い、半球状の空間だ。

 設備を見れば工房に間違いはない。
 五百年前に使われたであろう、工房。
 しかし、現代から見ても、かなりの水準だ。

 内壁は青く輝く鉱石。
 しかし、床は土が敷かれている。
 土の層はかなり深いことが、ニオイでわかる。
 ここならば魔力による自己強化をしなくとも、体がズタズタになったりはしないだろう。

 金属を溶かすための炉は、近付くと勝手に火が入った。
 見たことのない技術におどろく。
 金床、鎚、やっとこに至るまで、かいだことのない鋼でできている。

 聖剣を打つためだろう、それなりの設備。
 鎚の大きさや、設備の配置から、鍛冶神ダヴィッドの体型は女性ドワーフと近いのだろうと推測できた。

 ダヴィッドというのは男性名だ。
 だから小柄な人だったのだろうと思う。

 ……ふと。
 コリーは、金床のすぐそばに、鍛冶に使わないであろう物体を発見する。

 それは四角い金属製の台座だ。
 道具台、ではないだろう。
 道具を置くには、傾斜がきつい。

 ボロボロの布がかかっている。
 きっと、ホコリなどを防ぐためだろう。

 コリーはこれと似たものを見たことがあった。
 偉人の石碑などの近くにある、その偉人がなにをしたかという説明書きだ。

 だいたい、石か金属製の台座に文字が彫りこまれている。
 ……ということは、これも、そうなのか。

 コリーは台座にかかっていた布をはいだ。
 果たして、そこには予想通り、文字が彫ってある。


『ダヴィッドより、未来の聖剣の打ち手へ』


「……これ、鍛冶神ダヴィッドの……!?」


 コリーは、台座に顔を近づける。
 そして、文字を読み上げた。


「……『ダヴィッドより、未来の聖剣の打ち手へ。最初に言っておく。聖剣というものは実在しない』……実在しない!?」


 コリーは、アレクから受け取った『折れた聖剣』を見る。
 文献で調べた限りだと、ほぼ間違いなく本物と言える聖剣だ。

 しかし、聖剣は実在しないと、ダヴィッドは言う。
 では、今、手に持っているこれは、なんなのだろう?

 しばらく、聖剣と台座を視線で往復した。
 それから、落ち着いて、台座に彫られた文字を読み進める。


「『アレクサンダーとかいうバカが、どんな素材の剣でも振っただけで折りやがる。折れない剣を作ることは、今の時点では不可能だった。そして、予言者によれば、私が生きているうちは不可能ということらしい。みんなしてできないとか言うもんで、もう嫌になった。だから、もうアレクサンダーに剣は作らないことにした』」


 急に『アレクサンダー』という名前が出てきて何事かと思った。
 しかし、コリーは思い出す。
 たしか五百年前の勇者の名前も『アレクサンダー』だった。
 ここで書かれている『アレクサンダー』は五百年前の勇者アレクサンダーだろう。

 それにしても……
 折れない剣は、ない。
 聖剣は、ない。

 追い求めたものが幻だった。
 ……それだけで、膝をつきそうになる。

 でも、他にできることも、ない。
 コリーは台座の文字をさらに読み進めた。


「『聖剣は、お前が歴史上、初めて打つらしい』」


 ……言葉の意味が、一瞬、理解できなかった。
 お前というのは、おそらくこの台座の文字を読んでいる者だろう。
 ということは。


「……アタシが、歴史で初めて、聖剣を打つ?」


 どういうことか。
 先を読み進める。


「『予言とかいうものをうさんくさく感じている私としては、こうして書き置きを残すのをとても面倒に思っているのだが、いちおう予言者には恩もあるし、未来にこのメッセージを見るであろう聖剣の打ち手に、設備と材料、それから、私なりの助言を残しておく』」

「『そもそも聖剣っていう名前は、なんかすごそうだから私の最高傑作をそう呼ぶことに決めただけで、別に見本とかはない。つまり、お前の最高傑作が槍だろうが鎌だろうが、聖剣を名乗ればそれが聖剣になる』」

「『私の剣は最高に素晴らしいものだが、未来にいるお前はもっといいものを作れるはずだ。だから古いかたちにこだわるな』」

「『一方で、私の技術も、お前にとってはもう古いかもしれない。でも、古いものをバカにしたり、新しいものを盲信するな。技術に貴賤はない。古くていいものも新しくて悪いものもある。いいものは、いいものだ。それ以外のなんでもない』」

「『私の技術は、たくさんの試作品にこめておいた。聖剣を打つまでに私の試作品を発見できなかった場合はしらんけど、発見できてたら、私の時代の技術は全部そこにあるから、せいぜい吸収しろ』」

「『アレクサンダーが最後まで使っていた剣がきっと聖剣扱いされるだろうけど、あんなのは剣じゃない。だから銘も記さなかった。もし手元にあるなら冷静に観察しろ。それが刀剣でもなんでもないことが、お前ならわかる。というか、わかれ』」

「『それから、私の最高傑作の、かしこくてかわいくて従順な青いゴーレムくんを部屋の外に置いておいた。聖剣ができたら試し切りしていい。予言者の言う本当の聖剣であれば私のゴーレムくんを斬れるはずだ』」

「『あと、最後に、その時代に聖剣と呼ばれているものの正体と、私はどうやら未来では男と思われているとかいう話なので、女だったということを付け加えておく』」


 聖剣の正体。
 最後の最後に書かれていたその文章まで、コリーは読む。
 それから、思った。

 鍛冶神ダヴィッド。
 五百年前の伝説で語られる、最高の鍛冶技術をもったドワーフ。
 刀剣鍛冶のみならず、金属にまつわるすべての職人から神として扱われている。

 だというのに。
 この碑文は……


「……ノリが軽いッスね、ダヴィッドさん」


 あるいは、本気で面倒がりながらこの台座に文字を遺したせいだろうか。
 ぶっきらぼうというか、口語体すぎる。

 幼いころから鍛冶神ダヴィッドの像に祈りを捧げていたコリーは複雑な気持ちだ。
 まあ、その像からして『男神』だったので、色々間違いだらけだったのだろうけれど。


「しかし、部屋の外の、ダヴィッドの作なのか……だからダンジョンマスターがいなくても稼働してるっていうこと……? っていうか部屋の外に配置とか工房に入れる気ねーだろっていう……いや、そもそも自立稼働するモンスターを作成するってどういう技術……」


 コリーには不可能だ。
 というか可能な職人はこの世にいないだろう。

 よく腕のいい鍛冶師の傑作は『魂が入った』とか表現される。
 しかしあのモンスターはそんなレベルではない。

 どんなに入魂の傑作でも、勝手に動いたりはしない。
 あくまで比喩だ。
 実際に動くものを作るというのは、もう、鍛冶とは別方面の、謎の古代技術だろう。


「……今まで調べた伝承と、色々差異があるっていうか……」


 コリーは立ち尽くす。
 聖剣を作れ。
 そう、台座には記されていた。

 いずれ作るつもりはあった。
 でも、いきなり、そんなこと言われても。


「……なんかもう、アレクさんみたいな人ッスね」


 また無茶ぶりか、という気持ちだった。
 コリーは笑う。

 そうだ、また無茶ぶりなのだ。
 なんだいつものことじゃないか、とコリーは思う。

 色々な人が、お膳立てを整えてくれた。
 ゴーレムを止めてくれているアレク。
 設備や材料を遺したダヴィッド。
 修業のつらさを分かち合った、宿の仲間たち。
 そして、生まれ育った工房のみんな。

 ……じいちゃん。
 剣を鋳つぶされた時は、怒ったし、わめいたし、責めた。

 悔しくて、絶対に、やり返そうと思った。
 そうして選んだ手段が、『鋳つぶせないような素晴らしすぎる剣を打つ』だった。

 ……つくづく、骨の髄まで刀剣鍛冶だな、と自分で自分を笑う。
 剣の復讐は剣で行う。
 それが、自分の選んだ道だ。

 だから、聖剣ぐらい打ってやろう。
 その程度もできずに、あの頑固で無口な職人をうならせることなんか、できない。


「わかったッス。アタシが聖剣を打つッスよ。ダヴィッド、アンタがおどろくような、剣を」


 気合いを入れる。
 邪魔な籠手を外す。

 そうして。
 コリーの、一世一代の挑戦が、始まった。
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