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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

七章 コリーの聖剣修理

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104話

『青き巨人の洞窟』は、王都から北へしばらく進んだところにある。

 険しい山脈の中腹だ。
 普通の人ならば、直線的な距離ではなく、道の険しさのせいで数週間はかかるだろう。
 昔コリーが来た時は、往路だけで一週間かかった。

 今は、片道、だいたい一日程度ですむ。
 ……途中で睡眠休憩を挟んでそのぐらいだから、進むだけならば半日と少しぐらいだろう。


 険しい山間を抜ける。
 時刻は、出発時からほとんどまる一日経っており、すでに次の朝だ。

 もやのかかる山中。
 飛び跳ねるように軽々進むアレクに、どうにかついていく。

 すると、不意に景色が開けた。
 もやが晴れる。
 視界が開ける。

 あらわれた景色は、青い輝きに満ちていた。
 一瞬、湖でもできたかと見間違う。
 しかし、コリーはかつてここに来た記憶を思い出した。

 それは青い鉱物でできた、巨大な洞窟だ。
 朝日を受けてきらめく、美しきダンジョン。
 だが、その美しさに吸い寄せられ、一歩でも内部に踏みこむと大変なことになる。


「このダンジョンは、天井、壁、床、すべて『触れると切れる』素材でできています」


 一歩で、靴底に深い裂傷が走る。
 二歩も進めば、両方の靴が使い物にならなくなる。
 三歩目を踏み出しかけ、靴が『ばらり』と足からとれて、ようやく事実に気付く。

 浮かせた足を、下ろせない。
 籠手に包まれた腕を、壁につく。
 すると、金属製の丈夫な籠手にさえ、深い裂傷が走る。

 おどろいて足を滑らせかけ、ゾッとする。
 もし、この洞窟で足をすべらせたら。
 つるつるとすべって、洞窟の深い場所まで、降りていってしまったら。

 ズタズタにすりおろされる。
 ……人体はペースト状になるだろう。

 見た目の美しさとは裏腹に、ダンジョン自体が恐ろしい殺傷能力を持った洞窟。
 その名を。


「……『青き巨人の洞窟』……アタシがここに来るのは、二回目ッス」
「そうですねえ。俺もですよ。一回目は奥まで進みましたが、特に発見はありませんでした」
「アタシは一回目、三歩で死にかけたんで、なんの発見もなかったッス」
「ドワーフの嗅覚だったら、『いと貴き鋼』を発見できるかもしれませんね。ちなみに、入口付近に聖剣に使える鉱石はありそうですか?」
「アレクさんの持ってる聖剣と同じ素材の鉱石は、なかったッス。たぶん奧かと……あとは鍛冶神ダヴィッドの工房もッスね」
「モンスターに注意してくださいね」
「……それなんスけど、ほんとにモンスターなんかいるんスか?」
「いましたよ。『青き巨人』がね。……そもそも、『青き巨人の洞窟』という名称は、勇者関連の文献からとったものです。その時代からいたモンスターではないかと思います」
「でも勇者とダヴィッドがこのダンジョンに入ったんスよね? そして工房まで作ったとなると、ダンジョンマスターは倒してたと思うんスけど」
「まあ、そのあたりは入口で議論するよりも、内部に入って確認してみましょうか。あのモンスターはかつての勇者でも絶対に倒せないと思いますし」
「どういう意味ッスか?」
「実際に出会った際に紹介しますよ」
「そんな友達を紹介するみたいな……ん? なんか今おかしなこと言わなかったッスか?」
「……なんでしょうか?」
「いや、今、出会った際に紹介するって」
「ふむ? モンスターを擬人化して表現したのが気に入らないと、そういうことですか?」
「そんなのはどうでもいいんスけど……モンスターはダンジョン内部にいるんスよね?」
「そうですね」
「ダンジョン内部でモンスターに出会った時に、アレクさんが、アタシに紹介するんスか?」
「そうですねえ」
「つまり、アレクさんがダンジョン内部までついてくる?」
「そうですね」
「……そういうことはしない方針じゃなかったんスか? それとも、アタシのじいちゃんが危ないから大サービスッスか?」
「いえ。可能な限り宿泊客の方々が目標を達成する際、手を貸さないのが方針ですので。そこは変わりませんよ。事情があるのはみなさん同じですからね」
「……じゃあなんでついてくるんスか?」
「一つは、あなたの目標が『ダンジョン制覇』ではなく『聖剣修理』であることが理由です」
「はあ」
「もう一つの理由は、ここで出るモンスターにあります。先ほど俺が述べた宿の方針に照らし合わせるならば、『可能な限り』の部分ですね。不可能なことはさせないということです」
「まーた、わかるような、わからないような……」
「ああ、セーブポイントはきちんとダンジョンの外に出しますよ。こんな場所ですから、見張りもいいでしょう。仮に誰か近付いてもロードして確認すればいいだけですし」


 なににせよ、アレクがダンジョン内部についてきてくれるらしい。
 直接的に手を貸してはくれないかもしれない。
 しかし、心強いことに変わりはなかった。

 これから絶望的なダンジョンに挑む。
 でも、コリーはなんだか明るい気分になってくる。

 対照的に、アレクはいつものままだ。
 笑顔のまま、ふと気付いたように口を開いた。


「わかるようなわからないようなといえば、このダンジョンの進み方は説明した方がよろしいでしょうか?」
「進み方ッスか?」
「ほら、このダンジョン、触れると切れるでしょう」
「ああ……」
「まあ、全身に魔力を行き渡らせて、装備と体を強化して進むだけなんですけどね」
「……そうッスよね。そんなことじゃないかと思ってたッス」
「そのために、魔力の効率的な運用はさんざん修業でやりましたからね。まだ修業は最後までやっていないので多少の不安は残りますけれど」
「……申し訳ないッス。アタシのために」
「今回、急ごうという提案をしたのは俺の方ですよ」
「そりゃそうなんスけど」
「……それにしても、鉱物そのものに『切断』の現象を起こす魔法が秘められているようですね。踏んだり、手をついたりすると、刺激に応じてその魔法が発動する……」
「刺激で魔法が発動するあたりは、普通の魔石と同じッスね」
「はい。ですが、天然で、ちょっとした刺激だけで金属さえ引き裂くというのは、かなり価値が高い……まあ採掘するのも命懸け、さらに言えばここまで来るだけでもかなり大変、もっと言うと場所が勇者にまつわる文献からの推測しかできないので、今まで手つかずだったようですけれど」
「発見されてなくてよかったッスよ。……聖剣の素材は、この魔石のもっといいものっぽいスからね」
「いえ、発見はされていたようですよ。奧の方に何体かそれらしいものが転がっていましたから」
「それらしいもの?」
「白骨です」
「…………そ、そうッスか」
「まあ『骨片のようなもの』という言い方が正しいでしょうか。奥まで探索した結果死んだわけではなく、足を滑らせて奧へ行ってしまった、という感じでしょうねえ」
「…………うひゃあ」
「死に方を分析するに、まず足を滑らせ――」
「あの! ……死に方とか分析しないでもらえないッスか」
「……? しかし、死に方に着目するということは、『どうすれば死ぬか』を理解するということですよ。死なないようにするには、死を見つめなければ」
「そりゃそうなんスけど……」
「まあ、説明がいらないとおっしゃるのであれば、やめましょうか。どうせ死ねばわかりますからね」


 彼が片手を横にかざす。
 すると、手のひらの向いた方向に、不思議な球体が現れた。

 ほのかに発光する、人間の頭部大の、浮遊物体。
 セーブポイントだ。

 アレクは、片手でセーブポイントを示した。
 そして言う。


「どうぞ、セーブを」
「『セーブする』ッス」
「俺も『セーブします』」
「……アレクさんぐらい強くっても、やっぱりセーブなしで高レベルダンジョンは怖いもんなんスか?」
「それは怖いですよ。なにがあるかわかりませんからね」
「……意外ッス。恐怖なんていうまともな感情が、アレクさんの中にもあるんスね」
「恐怖を知らなければ、人に恐怖を味わっていただくことはできませんからね」
「…………」
「痛みを知らなければ、人に痛み味わってもらうこともできませんし」
「……痛みは知ってるんスか。アレクさんぐらいの耐久力でも」
「昔に少しね。まあ、この世界にある痛みという痛みは、だいたい経験したと思います」
「…………どうしてそんな経歴をお持ちなんスか」
「交渉術の修業でちょっとね」
「……交渉? 交渉術で、この世界にある痛みという痛みを?」
「そうですよ。その話は今度機会があればということで、今は一刻も早く『いと貴き鋼』を回収しましょうか」
「……そうッスね。まあ、お話をうかがう機会は、一生ない気がするッスけど」
「生きていればあらゆる機会がありますよ。……さあ、あなたのおじいさんを生かすため、冒険を始めましょう」


 アレクに示され、コリーはダンジョンへと歩を進める。
『いと貴き鋼』を求めて。
 ――聖剣を追い求めて。
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