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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

七章 コリーの聖剣修理

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101話

 風呂と食事と睡眠が、この宿屋における三大楽しみである。
 夕刻。
 風呂を終え睡眠をとったコリーは、ようやく目覚めた。

 お腹がぺこぺこだ。
 コリーは籠手をつけてない以外はそのまま出かけられる格好で、一階へ降りる。

 目的地は食堂だった。
 広めのスペースに入れば、そこにはすでに宿泊客と従業員が集っている。

 テーブル席を見た。
 ロレッタ、モリーン、ホーがいる。

 先日までは、あの中にソフィもいた。
 もう一人の宿泊客の姿は見えない。
 いまいち活動時間の読めない人だし、きっとまだ眠っているのだろう。

 テーブル席は四人掛けだ。
 だから、一つ席が空いている。

 コリーは、テーブル席に行こうかと足を進める。
 しかし。


「コリーさん、少しよろしいですか?」


 カウンター内部のアレクに呼ばれる。
 なので、方向転換。
 カウンター席に座り、アレクを見上げた。


「どうしたんスか? 修業のことッスか?」
「それもありますが、少し確認したいことがありまして」
「確認ッスか?」
「その前に、お食事どうされますか?」
「……ボリュームあるやつをお願いするッス」
「ボリュームのあるやつ、ですか? セーブされます?」
「死ぬほどはいらないッス」
「わかりました」


 アレクが奧へひっこんでいく。
 最近はとても軽い気持ちでセーブをすすめられる気がする。

 それだけ修業が佳境ということだろうか。
 あるいは、冗談を言ってもらえるぐらい、アレクからコリーに対する好感度が上がっているということだろうか。

 ……まあ、アレクに好かれることは、悪いことではないが。
 できれば修業が佳境の方であってほしいなと、コリーは思った。

 しばらくして戻ってきたアレクは、なにか大きな皿を抱えていた。
 抱えていた。

 ちなみに、『抱える』というのは、『両腕をいっぱいに使ってそれなりの大きさと重量をもつ代物を支える』という意味で用いる言葉だと、コリーは認識している。
 つまり、アレクが持ってきたものは、それなりの大きさと重量があるようだった。

 ドシン、とカウンター席に乗せられる大きな皿。
 すり鉢状の深さがある皿で、どうやら内部にはめいっぱいスープが入っているようだ。

 具材は、山のように盛られていた。
 座ったコリーが見上げなければいけないほど、具材の山は高い。

 コリーは頬をひきつらせた。
 そして、たずねる。


「……あの、アレクさん、これはなんスか?」
「これはヤサイマシマシメンオオメニクマシです」
「は?」
「ヤサイマシマシメンオオメニクマシです」
「修業以外のところで意味不明なことをするのはやめていただいていいッスか?」
「うちで出そうとしているラーメンの一種で、とてもボリュームがある一品です。俺の世界にあったものを参考に、いわゆるチャレンジメニューとして試作したものですね。時間内に食べきれれば無料、みたいな。異世界フードファイトとかやってみようかなって」
「補足されればされるほど意味が不明になっていくッス」
「ところで、どうでしょう? この量は食べきれそうですかね?」
「いやあ、アタシはちょっと……工房の若い男ならいけそうッスけど」
「なるほど。……というわけで、このヤサイマシマシメンオオメニクマシを小さくしたのがこちらになります」


 トン、と置かれる、先に置かれたものから二回り以上も小さい器。
 先に置かれたものをそのまま縮小したような代物だ。
 これでも充分に多いような気がするのだが、もう感覚は麻痺している。
 あと、どこに持っていたのかは不明だった。


「じゃあ、小さい方をいただくッス。……あ、でもでかい方はどうするんスか?」
「俺が食べますよ」
「一人でッスか?」
「そうですね。最近みなさん強くなってきていて、俺もHPがそこそこ減るようになったのでこのぐらいは食べられます」
「……なんかよくわかんないッスけど、アレクさんが大丈夫なら止めはしないッス」
「はい。まあ、寝起きにラーメンはきついかなと思ってもいたので、他のがよければ他のをお出ししますよ。ただ冒険者の方は激しく運動する職業ですからね。みなさん健啖家でいらっしゃいますし、いけるでしょうか」
「小さい方なら大丈夫ッス。ところで、話っていうのは……」
「ああ、食べながらでいいので。話というのは、工房のことです」
「……工房ッスか?」


 そう言われて真っ先に出てくるのが、昔過ごしていた生家のことだ。
 祖父と、祖父の弟子が複数人いる刀剣鍛冶の工房。
 コリーはそこで生まれ、育ち、修業して――

 ――じいちゃんは。
 ――じいちゃんは、なんでアタシを、認めないの。

 ……色々あって。
 今は、工房を飛び出し、冒険者をやっている。

 だからてっきり、生家の工房について言われるかと思ったのだが。
 アレクはどうやら、もっと通俗的な意味で工房という言葉を用いたらしかった。


「あなたの目的は聖剣の修理ですよね。そろそろ素材を採掘に行けそうなので、素材をゲットしたあと、修理の際に利用する工房はお持ちなのかなと、そういう質問ですよ」
「なるほど。たしかに、工房がないと、材料があっても剣の修理なんかできないッスからね」
「それで、使える工房に心当たりは?」
「…………心当たりは」


 生家のことが、どうしても頭によぎる。
 でも、あそこには戻れない。

 むしろ、戻るためにも、聖剣が必要で。
 聖剣の修理という偉業を成し遂げるまでは、戻りたくない。


「……申し訳ないッス。考えてなかったッス。心当たりさえもないッス」
「ということは、知らないようですね」
「どういうことッスか?」
「鍛冶神ダヴィッドの工房ですよ」
「……いや、まあ、そんなの知ってたら是非とも一度見てみたいッスけど」
「なるほど。どうにも調査に偏りがあるようですね」
「申し訳ないッス」
「いえ。コリーさんは、誰かと一緒に聖剣を追っていたわけではないんでしたよね?」
「そうッスね。ほとんど単独だったッス。『本物の聖剣』なんて、そんなの王宮にあるに決まってるってみんな思ってるッスから。それかお金持ちの貴族が持ってるか……だから、普通の人は『聖剣を探そう』だなんて言っても、鼻で笑うッスよ」
「なるほど」
「それがどうしたんスか?」
「いえ。こちらの話です。……まあしかし、ちょうどよかったですよ」
「?」
「『いと貴き鋼』の眠る『青き巨人の洞窟』に、ダヴィッドの工房はあるようですから」
「そうなんスか!?」
「はい。まあ、『文献によると』ですけれどね。実際に『青き巨人の洞窟』に入ったところ、俺にはその部屋を見つけることがかないませんでした。ひょっとしたらダンジョンマスターの部屋にあったのかもしれませんが……俺は制覇されていないダンジョンのダンジョンマスターとは接触しないよう心がけていますので」
「じゃあそうなんじゃないッスか?」
「文献通り存在するなら、たしかにそうでしょう。でも、ダンジョンマスターが倒れていないのに、ダンジョンマスターの部屋に工房というのは違和感がありまして」
「いくらダヴィッドが鍛冶神であると同時に比類なき戦士だとしたって、モンスターがわくダンジョンでのんびり鍛冶なんかできないと思うッスよ。工房があるならダンジョンマスターはすでに倒されてると思うッスけど……」
「だとすると、おかしいんですよね。モンスターがいましたから」
「いたんスか?」
「あなたは以前、入ったことがあるのでは?」
「……その、アタシは開始三歩で死にかけたんで、モンスターと出会ってはいないんスよ」
「そういえばそうでしたね。しかし、よく三歩ももちましたね。復路も数えたらあのダンジョンで五歩は歩いたわけでしょう? 当時のあなたのレベルでしたら、普通死にますよ」
「まあ、運がよかったんスよ」
「ともかく、文献によればダヴィッドの工房があるらしいのですが、俺は見ていないので、実際には存在しなかった場合に備えて、普通の工房も手配できた方がいいかと思いますよ」
「……ちなみに、アレクさんは工房に心当たりあったりしないんスか?」
「まあ、いくつか所持していますが、刀剣鍛冶には手を出していませんから、造りが違うと思いますよ」
「……工房をいくつか所持してるんスか?」
「意外と手広く商売をしていますので」
「でも、このご時世で刀剣鍛冶に手を出さないんスか」
「そのうち手を出したいですねえ。日本刀とか作りたいとは思っていますよ。ですが鋼や鍛冶に詳しいドワーフとの伝手がなくて。一瞬だけあった伝手も、切れちゃいましたし」
「そうなんスか?」
「はい。知り合うドワーフは、工房に所属していない、いわゆる『はぐれ』の方々ばかりで。ドワーフというだけで鍛冶ができると世間では思われがちですが、技術は生まれたあとに習得するのが普通ですしね。まったく誰にも習わず剣を打てる人種は存在しませんよね」
「……そうッスね」
「コリーさんも工房で生まれたのでしょう?」
「…………そうッスね。まあ、腕の方は信じてもらっていいッスよ。技術だけなら、たぶん世のドワーフの中でも五指に入るッスから」
「へえ、それはすごい」
「……実は昔、親方に内緒で打った刀剣が、権威ある賞をいただいたこともあるんスよ。……まあその剣は鋳つぶされてしまったんスけど」
「…………」
「あ、ああ、申し訳ないッス。こんなこと言ったって困らせるだけッスよね」
「いえ。気になる話ではありましたが」
「…………『上手な剣』と『いい剣』は別物ってことッスよ。大丈夫ッス。聖剣は『いい剣』にするッスから。ご心配なく」
「俺は、聖剣なんかよりも、あなたのことが心配ですがね」
「……」
「まあ、無理に聞き出す話でもなさそうですから、とりあえず、具体的な工房の手配はどうしましょうか。俺は刀剣工房を持っていませんが、頼める知り合いがいないわけでもないです」
「そうなんスか?」
「しかし他人の工房で『いい剣』が打てるかどうか、俺はそれが心配でした。使い勝手もあるでしょうし。なので、あなたに手配していただくのが一番かと考えていたんですが」
「……いえ。お願いするッス。どこでやっても、変わらないッスから」
「それはそれですごいことですね。わかりました。ダヴィッドの工房が存在しなければ、俺が手配しましょう」
「よろしくッス」
「では今日の修業ですが」
「え」


 あんまりに唐突な話題展開。
 心の間隙を突くような意外な言葉に、コリーは思わずフォークを落とす。


「……修業ってなんスか?」
「修業というのは、きたるべき本番に備えて己を鍛えることですね」
「いやいやいやいや……そうじゃなくって、もう夕方ッスよね?」
「そうですね。よくお眠りのようで」
「まあ、ここは寝心地いいんで……」
「恐縮です」
「そうじゃなくって、これから修業なんスか? もう夕方なのに?」
「夕方だろうが、夜だろうが、明朝だろうが、修業は行います。幸いにも、あなたにやっていただく修業は時刻が関係しませんからね」
「時刻が関係する修業とかあるんスか?」
「王宮に侵入する際は、昼だと修業にならないので、夜行うなどはありますね」
「それ修業じゃなくて犯罪行為じゃないッスか。発言するだけでも打ち首ありえるッスよ」
「そうかもしれませんねえ。首を何本用意すればいいやら」
「まったく笑いごとではないと思うんスけど」
「生きていて笑えないことなんかそうそうないですよ。俺の師匠は死んでも笑っていました」
「そういうすさまじい話を日常会話にサラリとまぜないでもらえないッスか。反応に困って仕方がないッス」
「困ったら笑えばいいんですよ。俺もそうしています」
「あなたは常に笑ってるッスけどね……」
「そして修業の話ですが」
「今日は起きて食事して風呂に入るだけの素敵な一日がいいッス」
「そこに修業を加えるともっと素敵になりますよ」
「修業と聞いただけで死んだ気になるッスね」
「結構。いい意気です」
「もう会話になってる気がしないッス。アタシの言葉は違った意味であなたの耳にとどいてるんじゃないッスか?」
「死んだ気になるというのは、いいことですよ。死んだ気になれば、だいたいなんでもできますからね」
「そういう意味じゃないんスけど!」
「まあ、修業自体はさほど難しくないですよ。昨日、というか、今朝方、のりこえたものと同じです」
「あ、そうなんスか。二秒に一回瀕死にされるから、元気になって反撃するアレッスね」
「そうです。ただ、同じ修業をしても仕方ありませんね?」
「仕方ないなら修業はなしでいいんじゃないッスか? この思いつき、我ながら超素敵に思うんスけど」
「いえ、その『二秒』を『一秒』に減らしたら、もっと素敵ですよね?」
「……ああ、そうか、なるほど」
「わかっていただけましたか」
「アタシはまだ寝てるッスね? だってこんなにつらい現実があるわけないッスからね。一秒に一回瀕死? そんで一秒で元気になれ? 瀕死ってどういうことかご存じッスか? 『死に瀕している』ってことッスよ。普通は全治数週間から数ヶ月ッスよ?」
「なるほど。そのご意見は、しっかりと受け止めさせていただきます」
「わかってもらえたッスか」
「それで、本日は『一秒に一回瀕死になる攻撃を十回受け、最後に俺に有効打を与える』というものです」
「増えてる増えてる! 『二秒に一回を五回』が『一秒に一回を十回』とか、体感的に修業の難易度は四倍なんスけど!? 意見を受け止めてくれないッスか!?」
「受け止めた上での、カウンター攻撃みたいなものですね」
「アンタのカウンターとか普通の人は死ぬッスから!」
「たしかに死ぬかもしれません。そこで、セーブですよ」
「…………」
「ご理解いただけたでしょうか?」
「あの、困るんスけど。程度がもう、アタシのキャパシティをオーバーしすぎで、反応に、困るんスけど」
「困ったら、笑いましょう。俺はそうしていますよ」
「笑えるかあ! 笑えるわけないッスよ!」
「ここでさらにお得な情報を」
「『さらに』の意味がわかんないッスよ!」
「明日はなんと、『一秒の半分に一回を二十回』です」
「……いやいや無理無理」
「本日の四倍の難易度ということは、本日の四倍強くなれますよ」
「…………」
「お得!」


 アレクが親指を立てた。
 そのハンドサインの意味はよくわからないけれど……。
 たぶん『死ね』という意味なんだろうとコリーは解釈した。
+注意+
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