episode-1 道化の指揮者(ディレクトゥール)
episode-1 道化の指揮者
私は夕焼けで茜色に染まる黄昏時をただぼーっとしながら歩いていた。
見渡せばところどころに震災でもあったかのような傷跡を残す町並み。
倒壊した家屋。
倒れた電柱。
傷つき病院へと向かう人々。
そんな中私は終始無言で歩いていた。
側に誰か居るわけでもなく、別に誰か居て欲しいとも思わない。
今はただ考える時間が欲しかった。
救急車や消防車のサイレンの音が木霊する。
―――煩わしい。
倒壊した家屋から助けを求める声が聴こえる。
―――煩わしい。
現場を取材するのかヘリコプターが飛んでいる。
―――煩わしい。
携帯電話が鳴っている。
―――煩わしい。
地面が割れて通行止めになっている。
―――煩わしい。
煩わしい、煩わしい、煩わしい、煩わしい、煩わしい、煩わしい、煩わしい、煩わしい!!
「うるさいって言ってんのよ!もう!!ほっといてよ!」
誰に言うでもなく、誰が聞くでもなく。
ただ無性に叫びたかった。
叫ばないとどうにかなりそうで―――でも結局叫んだところでどうにかなるわけでもなく。
無性に泣きたくなった。
もう当の昔に涙も枯れ果てたと思っていたのに。
一体私はどうなってしまったんだろう。
理由なんて思いつきもしないのに・・・涙が出てくるなんて・・・。
変わったのは私?それとも環境?
でも私は私。
地球は地球。
海鳴市は海鳴市。
何も変わらない、何も変わっていないはずなのにこうも決定的に違う。
解らない。
理解出来ない。
信じられない。
信じたくない。
―――気が付いたら私は自分の家の前に立っていた。
あの巨木の被害に遭わなかったらしく見た目は別に問題なさそうだった。
瓦が落ちているわけでもなく、壁が崩れているわけでもなく、車庫が潰れているわけでもなく―――
「お母さん・・・帰ってきてるんだ」
車庫にはわりと大きめの車が1台。
所謂外車と呼ばれるものらしいけれど、私にそんなものの興味はない。
「梓!!無事だったのね?!もう・・・心配掛けて!!」
開けられた玄関の奥から高校生の姉(平坂巴)が顔を出す。
頭に頭巾なんか被って非常に滑稽だと思ったけれど、言葉にしても何の得もないため黙っておく。
「姉さん、どうしたんですか?」
普段冷静で落ち着いている姉がこうも慌てていると、その姿をみているだけで非常に滑稽だと思うし、改めて異常なことが起きたんだと再認識させられる。
「どうしたもこうしたもないわよ!電話にも出ないで!ホント心配してたんだからね?!」
マホウと呼ばれる異常なセカイ。
「確かに今電話が繋がりにくいっていうのはあったかもしれないけれど」
そのセカイの住人、ミナヅキカナデ。
「まぁ、とにかく無事でよかったわ」
私には到底理解出来ない、入り込むことさえ許されない魔法のセカイ。
「梓、私の話聞いてるの?!」
「聞いてますよ。姉さん。ご心配おかけしました」
謝ればいい。
そうすれば相手は満足する。
自分を殺してしまえばいい。
そうすれば相手は納得する。
私は道化師。
現実という舞台でただ面白おかしく踊る道化師。
誰にも理解されなくていい。
―――チガウ
誰にも求められなくていい。
―――チガウ
誰にも必要とされなくていい。
―――ヒツヨウトサレタイ
誰にも認められなくていい。
―――ミトメテホシイ
誰にも傷つけられなければ、それでいい。
―――ソウ。私ハ傷ツキタクナイダケ。デモ理解シテホシイ。求ホシイ。必要トシテホシイ。認メテホシイ。
―――寂シイノハ嫌。嫌ワレルノモ嫌。傷ツクノモ嫌。怒ラレルノモ嫌。
嫌―嫌―嫌―イヤ―イヤ―イヤ―いや―いや―いや―――
ダカラ私ヲ見テ?必要トシテ?求メテ?私ヲ・・・私ダケヲ―――
『みーつーけた』
「・・・?!」
何・・・?今の、声。頭の中から直接響くような―――
「どうしたの?梓。早く家の中に入りましょう?とは言ってもさっきの地震の影響でごちゃごちゃだけど」
あっちの、方・・・?
なんとなく、その声は自分の家の中から聴こえているような気がした。
「あ、梓の部屋もごちゃごちゃだから、ちゃんと片付けてきなさいよー?」
「はい。姉さん」
本棚が倒れ、食器棚が倒れ、テレビが倒れ、冷蔵庫が倒れ。
そんな道無き道を私は進む。
『こっちよ。こっち。早く来て』
誘うように、嘲笑うように、導くように、詠うように。
そして私は声の元に辿り着いた。
そこは私の部屋の前。
異常なことのはずなのに、私は脳が麻痺しているかのように従った。
それは私が異常を求めているからなんだろうか?
それとも異常に従っているだけなんだろうか?
けれど―――そんなことはどうでもよかった。
今はただこの声の主が知りたい。
私は思い切って戸を――開けた。
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梓は自分の部屋のドアを開け呆然としていた。
なぜならそこは自分の知る世界ではなくなっていたからだ。
広くもなく、狭くもない部屋に舞う漆黒の羽。
その中央に漂う漆黒の十字架。
「な、何・・・これ?」
思わず後ずさりしたくなる気持ちに駆られたが背後から"バタン"と戸が閉まる音が聞こえそれも断念された。
「大丈夫・・・怯えないで」
「え?」
振り返るとそこには1人の女性が微笑みながら立っていた。
歳は17、8歳ぐらいだろうか?
黄金色に輝く長い髪。
夕暮れの太陽よりも紅く、暗く光る瞳。
カラスのような漆黒の、自身を隠せるほど巨大な翼。
どこかの制服なのか白のブラウスに漆黒のロングスカートと同色のベスト。
赤黒いネクタイが印象的なそんな女性だった。(イメージ出来ない人はEXルーミアで検索しよう。お兄さんとの約束だ!)
「初めまして、かな。平坂梓さん。私の呼び声に答えてくれてありがとう」
女性は微笑みながら手を差し伸べる。
それに対し梓の中では一種の警戒信号が鳴っていた。
この手を握ってしまったらもう日常には戻れない。
憎悪と恐怖で身を震わせ、静寂と快楽に怯え、地獄と隣り合わせの生活を送ることになる。
それはただ生きているだけよりもずっと辛く、苦しく、悲しみに満ちた生活であろう。
それはただ生きているだけよりもずっと寂しく、空しく、恐怖に満ちた生活であろう。
けれど、私は―――逆らえない。
この人に逆らったら、私はもう二度と普通の生活しか出来なくなるだろう。
私はもう二度と異常に交わることなく生きていくことになるだろう。
相反する気持ちが鬩ぎ合い、結局梓は―――手をとった。
「アナタは・・・何者なの?」
背中に羽の生えた人間なんて只者じゃない―――むしろ人間とは呼べないかもしれない。
そんな女性は梓の問いにあごに手を当てて考える仕草を取ると、思いついたかのように指を鳴らし口を開いた。
「私の名前は業。そこの魔剣に宿る意志、みたいな存在かな」
そういってカルマと名乗った女性は黒の十字架を指差す。
梓もつられてソレに視線を向けると―――
『オイ、相棒。マサかとは思うガ、幼いコイツと契約を結べってワケカ?』
十字架、もとい魔剣は紅いオーラを出しながら宙に浮かび上がりまるで文句を言う(実際に言っているが)ように口を開く。
「十字架が・・・喋った・・・?!」
それに驚いたのはもちろん一般人でしかない梓。
しかしその言い方が不味かった。
『ンダとぉ?!小娘ェ!俺様が十字架ダァ?!テメェの目は節穴か!カスが!!』
激昂する魔剣。その剣からは禍々しい魔力を発しその切っ先は彼を止める人物が居なければ間違いなく梓の心臓を貫いていただろう。
無論"居なければ"の問題ではあるが。
「落ち着いて?ストームブリンガー。梓さんが怯えているわ」
『ハッ。コノ程度に怯えるようジャ使い物にナラねーヨ』
それっきり黙る魔剣ストームブリンガー。
カルマは苦笑しているが実際殺気に近いものを浴びせられた梓はというと腰が抜けてしまい地べたにへたりこんでしまった。
体が小刻みに揺れていることからそうとう怖かったに違いない。
カルマはまるで懐かしむようにソレを見ると静かに背中から覆うように抱きしめ手を回した。
「大丈夫。アナタのことは私が守ってあげるから」
人肌の温かさほど安心するものはないだろう。
ゆっくりと梓の震えも収まっていく。
「カルマ・・・さん?」
「さん、なんて遠慮は要らないわ。私のことはカルマって呼んで。ね?」
その優しい笑みに梓は何故か懐かしさと、寂しさと、嬉しさと、悲しさが入り混じった不思議な感覚に襲われた。
何故だろう?初めて会った人のはずなのに、どこかで見覚えがある気がする・・・。
「梓さん、折り入ってなんだけれど相談があるの」
「相談・・・?」
「ええ。私と、契約してもらえないかしら?」
私の平凡な生活は終わりを告げる。
そして私は異常な生活に足を一歩踏み出した。
現在執筆出来る状態ではありません。(梓的な意味で)
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