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冬薔薇をあなたに

作者:
執筆中の「雑草姫の微笑」の元ネタとなったお話です。
※雑草姫とはほとんど原型とどめておりませんので、こちらのみ読んで頂いても全く問題ありません。
 昔、むかしのことです。

 とても豊かなある国に、とても貧しい少女がおりました。
 少女の両親は前に病気で死んでしまって、少女はひとりぼっちです。まだ大人になっていない少女を、本当なら親戚が助けてあげるべきでしょうが、悲しい事に親戚は一人もおらず、やっぱり少女はひとりぼっちなのでした。
 幸いなことに、少女には両親が残してくれた小さなお家がありましたので、雨や風を(しの)ぐことはできましたが、生きていくためにはお金が必要です。
 近くのお店で雇ってもらえないか少女は一生懸命お店の人にお願いしましたが、どのお店でお願いしてもまだ大人になっていないうえに、身寄りのない少女を働かせてくれるところはありません。

「お願いします、どうか私を雇ってもらえませんか?」

「だめだめ、荷物を持つのにその細い腕で持てるわけがない」
「だめだめ、そんな細いからだでパン生地はこねられないだろう」
「だめだめ、両親も親戚もいない、どこの誰かもわからない子を雇えないよ」

 豊かな国のはずだというのに、誰も冷たい言葉しかかけてはくれません。
 少女はとてもがっかりして、次にとても悲しくなりましたが、いつまでも悲しんでいるわけにはいきません。お店で雇ってもらえないのなら、自分でなんとかするしかないのです。
 自分でできることはなんだろう?一生懸命考えて、少女は両親が残した家の近くにある森の中に入り、季節によって咲くいろんな種類の花を売ることにしました。
 森の中なら、小さな頃から少女の遊び場になっていますし、野ウサギくらいしかいませんので危なくもありません。それに、季節によって満開に咲くたくさんの花がある秘密の場所を知っていましたので、少女にとってはとても魅力的でした。

 さっそく、少女は籠を手に森へ入り、森の神様へお祈りをしてから一日に必要な分の花だけを摘み取ります。摘んだばかりの花はとてもみずみずしく新鮮で、道行く人達の目を惹きます。

「朝摘んだばかりのお花はいりませんか?」
「まあ、とても綺麗なお花ね、一ついただけるかしら」
「私はこちらの赤いお花を」

 花弁に朝露がついた新鮮な花を少女が掲げると、綺麗なものが大好きな国の女性達はこぞって少女に集まります。やがて、摘んだ花は思ったよりも早く売り切れてしまいました。

「まあ、どうしよう…こんなにお金をもらってしまったわ。森の神様、ありがとうございます」

 沢山の花が入っていた籠の中には、今日一日で稼いだお金が入っています。数日は暮らせそうなお金に少女は森の神様へ感謝しましたが、思ったよりも花を摘んでしまった事を反省して、次の日からは一度に摘む花の量を減らしました。

 そんなある日の事です。
 いつものように街の片隅で花を売っていた少女の前に、とても美しい青年が訪れました。

「優しい目をしたお嬢さん、私に花を売ってくれませんか」
「もちろんです!お好きな花をどうぞ」

 綺麗な洋服に身を包んだ姿や、きりりと佇む姿からどこかの貴族さまでしょうか。
 きっと良い家柄の人でしょうが、そんなものを感じさせない優しい笑顔で青年は花を買ってゆきました。それからというもの、季節が移り変わっても毎日のように青年は少女の前に姿をあらわして花を買ってゆきます。
 その頃には、この青年がこの国で歴史のある大貴族であることに少女も気付いていましたが、毎日花を買う時に少しだけお話できることがとても嬉しくて、知らんぷりをしていました。
 いつの間にか少女はこの青年に小さな恋心を抱いていたのです。けれど、少女は貧しくてひとりぼっち。青年は豊かな人です。恋心を伝えても、青年の迷惑になってしまいますし、何より花を買いにきてくれなくなるのではという不安から、少女は何も言わずに毎日微笑んでいるのでした。

 けれど、そんな日々も季節が冬になった事から終わってしまいます。
 花を摘んでいた森に雪が降り、花が一輪もなくなってしまったのです。

 そんなことを知らない青年はいつも通り、同じ時間に少女の前へ現れました。

「ごめんなさい、冬になってしまってお花がもうないのです」

 花がなければ青年はきっと花に溢れた春が訪れたとしても、少女のことなんてすっかり忘れて来なくなるでしょう。そう考えると少女はとても悲しくなってうつむきました。
 すると青年はにっこりと少女へ笑いかけました。

「では、春になったらまた花を買いに来ましょう」

 びっくりする少女をよそに、青年はもう一度「絶対春にまた来ます」と念を押して去ってゆきました。とても悲しくてがっかりしていただけに、大げさなくらい少女はとても喜びました。

 この国の冬はとても厳しいものですが、花を売ったお金をこつこつと貯めていたため、ぜいたくをしなければ何とか春まで過ごせそうです。冬に備えて日持ちのする食料を街で買おうと出かけた少女は、街中に飾られた装飾に目を丸くしました。

「あの飾りは何ですか」
「明日、感謝祭があるから飾っているのさ」

 近くの人に聞いてみて、少女はやっとお祭のことを思い出しました。
 毎日の生活で一生懸命な少女はすっかり忘れていましたが、感謝祭は一年に一度、お世話になった人や感謝したい人へお菓子を渡すお祭りです。とくに、女性から男性へお菓子を渡すときは、愛の告白の意味もあるとても大切なお祭りなのでした。
 両親がいない少女は、毎日花を買いに来てくれた青年へ感謝の気持ちを込めて贈りたいと思いましたが、残念なことに高価なお菓子を買うような余裕が少女にはありません。

「…そうだわ、森にまだお花が咲いているかもしれない」

 空からはちらほらと真っ白な雪が降り、街全体を染め上げていますが、もしかすると咲き遅れた花が森で咲いているかもしれません。お菓子を贈ることはできないけれど、どうしても何かしたかった少女は月の光を道しるべに森へと分け入りました。
 ですが、吐いた息も真っ白になるくらい冷え込む時期です。冬以外の季節には色々な花の咲く場所でも、遅咲きの花は一輪も残っていません。手袋のない手でしげみをかきわけているものですから、手の感覚もなくなっていましたが、どうしても諦められない少女は月が高くのぼっても探し続けます。

 どれくらい時間がたった頃でしょうか?
 どんどん森の奥へ入り、探し続けた少女の目にちらりと赤い色が映りました。急いで駆け寄ると、広場のように少し開けた場所の端っこで一輪だけ咲いている赤い薔薇の花があります。

「ああ、よかった!森の神様、お恵みをありがとうございます」

 てっきりもう見付からないと思っていた少女はとても喜び、神様に感謝をささげるとかじかむ手で薔薇を摘み取りました。リボンを付けることはできませんが、せめて青年の手を傷つけないように鋭い刺をそっと取り除きます。
 そうして家へと戻った少女は、眠れないまま朝を迎えると、お祭で賑わう街へと駆け出しました。

 青年は街の中央あたりにある大きなお屋敷に暮らしています。そこまで行けばきっと会えると思って向かった少女の目に映ったのは、綺麗なお洋服や化粧をして、ちょっと見ただけでとても高価だと分かるお菓子を持って、青年に渡す少女達の姿でした。

「まあ、あの子を見て」
「なんてみすぼらしい姿かしら?」
「あの貧弱な薔薇は、お菓子の代わり?あんなもの貰っても嬉しくないわ!」

 綺麗に着飾った少女達は、薔薇の花を一輪もっただけのよれよれの洋服を着た少女を見ると、ひそひそと馬鹿にして笑います。それを聞いた少女は、自分の姿を見てとても恥ずかしくて、情けなくなりました。
 良く考えると、貴族の青年は薔薇の花なんて沢山買えますし、貰っても迷惑に違いありません。そう考えてとぼとぼと家へ歩き始めたとき、少女を呼び止める声が聞こえて少女は振り返り、とても驚きました。

「花売りの子だね」

 そこに立っていたのは、綺麗な少女達に囲まれていたはずの青年だったのです。
 びっくりしている少女を見て、小さく笑った青年の目に一輪の薔薇が映りました。それに気付いた少女はとっさに薔薇を青年へと差し出しました。
 それを見ていた他の少女達は、「そんなもの」と笑います。ですが、青年はとても嬉しそうに笑うと、その薔薇を宝物のように、少女の手と一緒に両手でそっと包み込みました。

 青年には見えていたのです。薔薇の刺がていねいに取り除かれているかわりに、少女のかじかんだ冷たい指先に出来た、薔薇の刺で傷付いたたくさんの傷を。

「どんなに高級な菓子も、何百本の花よりも、あなたが私の為に摘んでくれたこの冬薔薇こそが愛おしい。誰よりも優しくて綺麗な心を持つ人、この薔薇のように冷たくなった心を彩ってくれる私の薔薇になってください」





 昔、むかしのことです。
 あるところにとても豊かな国がありました。
 その国では、毎年感謝祭の時期になると、お世話になった人や大切な人、好きな人へ一輪の赤い薔薇を贈る事が慣わしになっています。

 それは、もうずうっと昔に身分を越えて結ばれた幸せな《薔薇のお姫様》のお話からきているそうです。



 おしまい。

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