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気が付けば吹雪の中に-進み始めた隻腕の男

作者:RYUITI
 青白い光が身体と景色を包んで、どれくらいの時が過ぎたのか。

ゆったりとした温かさの中に居たであろう身体と意識は、
いつの間にか芯が凍り付くような寒さを感じながらも身動きが取れずにいた。

身体に力を入れようとも冷たさが覆っていて動かない、動かせない。

ようやくと耳に聞こえてきたのはドクンと波打つ心臓の鼓動と、
寒さと共に骨身に染みて行くようなゴウゴウという音だった。

血の廻りは感じない、ただ、其れでも。

「いつから、こんな状態だったか。
これより前の記憶はどんなモノだったか。
そもそも、何故オレは眼が開かないのか。」

苛立ちにも似た煮立つような感情が、いつの間にか。
心の声を、口から飛ばしていた。

寒さや冷たさしか感じられなかった自分が、
言葉を発している、感情を外へと出すことが出来ている。
ならば――その熱はまだ完全に冷えに染まる事は無く、未だ感情が死ぬことは無い。

冷たさの中に曝されていながら、熱をどんどんと蓄え帯びるような、
そんな気持ちが組み上げられていく感覚を覚えた。

その瞬間――ガシュガシュという音が耳に響いたと思えば、
瞼を閉じていても把握できるほどの白い光が飛び込んできた。

力の入っていない身体に力を入れようとするよりも早く、
瞼が眩しさに耐えきれずゆっくりと開こうとする。
そんな自分に気付いたのか、唐突に人の声が耳に響いて。
「もう、無理に眼を開こうとしないで。傷がつくよりもひどい事になってしまうわ。」

呆れと慌てを含んだその声になんだが懐かしい感覚を覚えながらも、
荒い息遣いと共に、ゆっくりとオレの身体が移動するのを感じながらじっとしていると。

不意に身体がまた新しい冷たさを感じて「はっ」と息をもらした。
そんなオレの声に小さく笑うように息を零した誰かは、オレの顔を温かな布らしきものでゆっくりと丁寧に拭いた後、「もう大丈夫よ。試しに見てごらんなさい。」とオレに声をかけてきた。

もう大丈夫と言われても、何が大丈夫なのかはわからんがとりあえず。
自分の状況を確認して観ねば。そう思ってゆっくりと恐る恐る冷たかった瞼を開いた。
――――眼を疑った。
今自分の視界に入っている光景は現実なのかと、
今自分の居るこの場所は、本当なのかと。
砂ほどの記憶も思い出せないハズなのに、
眼の前に、視界いっぱいに広がる景色は、映像は今まで体験した事が無いと断言出来た。
其れほどまでに真っ白なユキに覆われていたのだ。
気が付けば、身体中にまとわりつくある程度の硬さを持ったユキが、
この一面を白い大地に変えた事を想像させた。
「ここは――どこだ。」そんな景色に、唐突に出た言葉には本来誰も返す相手などいない筈なのに――。
「おかえりなさい。身体また冷えちゃうわよ。」
そんな言葉がザクザクとした音と共に背中から、耳へと伝わって来る。

――綺麗な眼をしている。
寒さと冷たさによって感覚がマヒしている状態のまま、ゆっくりと首を動かしてみた。
肌が寒さで赤くなっている。腕が、片腕が無い。
片腕が無かった事に動揺しても良いのだろうが、何故だか心は揺れ動かなかった。

そんなオレの眼に映り見えたのは、いつか見た懐かしい場所の湖のように澄み、潤んだ眼で。

――――キミは。
不意を突いて小さく零してしまった言葉を隠すことも出来なかったオレに対して、
黙々とオレの身体を起こして厚めの布を身体にかけてくれたその女性は、
何の記憶も残っていないオレとは違って、怪訝な顔をしながらも優しそうにチラチラとこちらを見て、
「貴方、何も覚えていないの――?まあそれもそれで面白いかもしれないわね。」とコロコロと表情を変えながら言葉をオレにそう向けていた。
その顔に見覚えは無かったが、なんだかずっと一緒に居た様な気がして、
自分の中の深い場所にあった警戒と不安が、溶けていくようだ。
もし、オレが温かい家族というモノを望むのなら、こんな女性が傍に居てくれていた未来を想像しただろう。そう思ったのは偶然か必然なのか、はどちらでもいい。
今は、この厚めの布の温かさが、とても心にしみていく。
無言の時間が続いていく。


いつの間にか、外で厚めの布に覆われていたと思っていたが、
俺と誰かを取り囲むように薄い膜のようなモノがオレと彼女を包んでいた。

「すまないが、オレは今自分が置かれている状況も、オレ自身の事すら頭に入っていない。
本来ならば見ず知らずの女性にこんなことを訊くのは申し訳ないのだが、
ココが何処だか教えて欲しい、どんな状況なのかも加えて。」

無言が続く中、走り気味に出た疑問を言葉にした途端、
ふふと小さく笑った後で、彼女はオレの眼の前にゆっくりと歩いてきた。
「改めまして、私は貴方の補助役だったモノの一つ。そして貴方は、私と一緒にこの場所にたどり着い騎士さんなの。この場所は私達の居た世界とも、立ち寄った別の可能性とも違う世界。
私たちは二年前にこの世界にやってきたハズなのだけれど、肝心の貴方とはぐれてしまっていたの。
意識もろとも凍結と眠りについた貴方をその場所から動かしてしまう事で万が一の事があってはいけないと、一日毎に様子を見に来ていたのだけれど御覧の通りの大雪と吹き流れる風のせいでまた埋まってしまっていたみたいね。
そしてここは五つの大貴族が小大問わず陸を統治、制している国。
とは言え、私たちがこの世界に来てから2年という短い間の中でも、
禍々しい何かにによってゆっくりと何かが変わってきているような気がする。」

ああ、大丈夫。
オレに向かって語られるゆっくりと、けれど長々とした言葉に、重苦しい疲れを感じていたが、
それでもある程度はちゃんと頭に入ってきている。
ちゃんと。本当に。
なので――「申し訳ない、もう少し温かい場所でゆっくり睡眠を取りたいんだが……。」
こういうことを口にしても、目覚めたオレに対しては許してくれるだろうと思って顔を伏せる。
もちろん、若干の罪悪感があるからだ。ただ、眠気と空腹感が凄まじいのは隠せない。

何を言われるか覚悟していたのだが、何の言葉も降りかかってくることはなく、
変わりにもう何度目かの軽い笑顔が、オレの眼には映っている。

彼女は、自分自身の真横に指で何かを描いて、変な紋様を出すと、
「起きてすぐだものね。」と言葉を零して俺の身体をゆっくりと支えて二人一緒に、
紋様に近づいていく。
何が何だかわからないままその紋様にオレの身体が触れようかと言う時に、
彼女はオレにささやいた。
「向こうに着いて少し休んだら、お祝いをするわよ。私たちの新しい人生にね。」

紋様に触れると、オレと彼女は淡く蒼色の光に包まれた。
ゆっくりと眼の前が霞んでいく。
――――いつだったか。コレと同じ景色を、オレは知っている。
そして、彼女のその口調もなんだかとても心地よく懐かしかった。

次に観る景色は、いったいどんなものなのだろうか。



二人の姿が、雪原から消えた後、
空に金色の光がきらめいた。
「まだ、足りない」と言葉を残して。

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