多重人格な彼女(21/58)PDFで表示縦書き表示RDF


本文の書き方はあえてです。ご了承ください。本当にすみません……。途中で読むのをやめてくださっても本編には都合ありません。
多重人格な彼女
作:NAO



幕間・佐々木仁の憂鬱


 佳乃。
 夕凪佳乃。
 ゆうなぎ、かの。


 俺の幼馴染みであり、内にはもう一人の人格を宿していた。生まれたときからそうだったわけではなくて、幼い頃の事故によって、臓器移植を余儀なくされた。俺はそのときももちろん幼馴染みだったし――でなければ幼馴染みといわない……というかこんな事をいちいち但し書きしない方が良いな――近所でも評判になるほど仲が良い遊び相手だった。
 そんなに仲がよいと世間話好きの主婦が集まる井戸端会議場では、将来はきっと二人で結ばれて夫婦になるに違いないと勝手に噂し、俺達二人が遊んでいるのを見かけては、ほほえましい笑みを浮かべながら、これからも仲良くね、なんて当時の俺達にはうなずくことしか出ない微妙な台詞を残していくのだった。
 そんな二人だったが、俺が当時好きだったアニメのキャラクターに異常な執着持ってしまったことが、普通の幼馴染みというステレオタイプから逸脱してしまう原因となった。
 こんな事を人前で話して良いのかどうか分からないが……そうだ、その前に前置きをしておきたい。幼い頃によくごっこ遊びというものをすると思う。仲むつまじい夫婦を演じてみたり、理想の職業を真似してみたりするあれだ。もちろんお医者さんごっこで、幼かった佳乃の体をあちこち触診したりもした。今でこそ犯罪的に聞こえているかも知れないが、当時は幼かったし加えて純真無垢でもあった。男の俺には付いていて女の佳乃には付いていないあるものに半ば必然的に、むしろそれが運命であるように、いや通るしかない道というか、通過儀礼というか、登竜門というか、大人になるための階段というか、成人の儀式というか、単なる好奇心というか……ともかく丸々ひっくるめてそんな感情を抱いたり、それを取り沙汰して、立ちションを出来ないことで佳乃を馬鹿にしたりもした。後日そんなことで佳乃を泣かせてしまった事件が母の耳にはいることになり、お尻を百叩きにされたことは記憶に鮮明だ。一週間ほどお尻がひりひりしていたことを考えると、よほど男女間に横たわる性差というものは越えがたい壁であることを身を以て知らされるのと同時に、気安く触れるべきではない聖域なのだということも自ずと理解できるようになった。そういったごくごく当たり前の、普通の人間なら気が付かないうちに行ってしまっているはずの恥ずかしい体験が、今の俺にどのような影響を与えているのかはおいおい説明するとして――しないけどね――俺がこんなに長い文章でもって言いたかったことは、当時の俺は、それはそれは周囲もうらやむ、きら星の如く輝く目を持った純朴な少年だったということだ。今でもそうだが……と、付け加えたら周囲から非難囂々なのでここでは黙っておく。
 さて、ここで話は戻る。ステレオタイプを逸脱してしまった原因の話だ。
 純粋だった俺はアニメのキャラクターに異常な執着を持ってしまい、実際にそのキャラクターを佳乃に演じさせることにした。つまりは先に説明したようにごっこ遊びだったのだ。戦隊もので、誰がレッドで、誰がブラックだとか。そんな無邪気なごっこ遊びの一つとして佳乃はそのキャラクターを演じることになった。ただ普通の人間と違っていたことは、佳乃があまりにも純粋すぎたせいでまるでコピーでもするかのように人格の一つとしてすり込まれてしまったことだった。下手な例えだが、そう、かくれんぼをしたまま夕方になり、みんなが帰ってしまっても隠れている方は遊びが終わったことにも気が付かずずっと隠れ続けてしまう……という寂しい現象と一緒だ。もともと、佳乃が幼い頃から俺の背中ばかり追いかけてくるような可愛い女の子だったから、俺の言ったことをすぐに実行し、まるでスポンジのように吸収していった。それが重なって誕生したのが、一年前まで俺の隣で笑っていた彼女だ。俺が幾度もなく好きになっては真似させ、言葉の節々にまで浸透させた愛すべきキャラクター達。一時期、佳乃の言葉尻には、だっちゃ、という言葉まで付いた。もちろん俺の呼び方は、ダーリン。今ではものすごく恥ずかしいが、人生色々。俺の人生、色々だ。佳乃の人生も色々だったに違いない。幼馴染みの佐々木仁というちょっと可愛いプチ変態に従わされ、無理難題を注文され、あるいは虐げられて、育ってきたのだ。俺から見た佳乃は楽しそうで、終始俺といるときは笑顔だったが、もしかしたら俺のいないところでは仏頂面だったのかもしれない。丑三つ時になれば、神社のご神木にあてがった藁人形に、父親の工具箱の中からくすねてきた五寸釘を仁王顔で打ち付けていたのかもしれない。俺は佳乃が生まれてから最後の瞬間まで、そんな彼女を見ることは出来なかったけれど、もし見ることが出来たのなら見てみたかった。よく漫画などで、失った後で気が付くことがあるという後悔先に立たず的な台詞が使い回されているが、佳乃のその部分に限っては今思い返しても気が付ける部分なんてなかった。佳乃が俺の教育――間違っても調教ではない――を快く受け入れているような感じにしか見えなかった。最近、家の佳乃が妙な言葉を言うんです、と佳乃の両親が心配顔でうちの母に相談していたときには背筋が凍るような思いだったが――つまり背筋が凍るという時点で、自分のしていることが人道に反しているという自覚は少なくともあったのだ――何はともあれ、俺の悪癖を佳乃が受け継いでしまったということは誰も気が付かなかった。というか、うすうす気が付いてはいたが、犯人が俺ということなので、将来二人で生きていくんだし、今のうちに主人色に染まっていた方が何かと良いかもしれない、などと夕凪家と佐々木家の当事者は知るよしもない談合があったのかもしれない。かもしれないだけで、実際にそんな噂はない。俺の考えすぎだろう。それはそれとして佳乃はこのまま俺の思い通りにすくすく成長していくかに思われたが、さすがにそうはいかなかった。思春期や第二次性徴期などという気の利いた言葉で片付けることも出来たが、一番の原因になっているのは事故による後遺症だ。後遺症というにはいささか現実離れしている佳乃の二重人格、つまり二番面の人格――ここでは便宜上、裏佳乃と呼ぶ――のせいであった。初めて発現したのは佳乃の事故の怪我が癒えた一年後のことだった。事故の当時は、此の世がいつ終焉を迎えてもいいと本気で思ってしまうほど悲しかったし、涙も十分に流した。幼い俺の涙腺からあれほど大量の涙が流れたんだから、きっと涙腺というのはきっと際限がないのだろう。涙の流しすぎで熱中症になってしまったりするのあろうか。そんなことはここでは関係ないが、裏佳乃は突然その姿をあらわした。姿と言っても佳乃の髪の毛が長くなったり逆立ったり挙句の果ては全身に毛が生えたり、黄金のオーラをまとったりなどは当然無いわけで。



 ――アンタ変態じゃないの?



 これが裏佳乃の最初の言葉だった。俺はその言葉を聞いた瞬間に此の世がひっくり返ったのではないかと言うほどの衝撃をうけた挙げ句、もんどり打って倒れそうになった。それは前述したとおり佳乃が裏ではどう思っているか分からないという不安ゆえでもあり、佳乃にまさか新たな人格が芽生えているなんて事はつゆ知らなかったわけでもあるから驚くのは半ば当然というわけだ。それから俺は失意のどん底を幾度となく幽霊のようにさまよい歩くことになる。それからしばらくして佳乃が時々すぐ直前のことなのにもかかわらず記憶にないという不思議発言が相次ぐことになり、ようやく疑問が推測の域を抜け出した。裏佳乃発現当初から口調が著しく変わっていたのと、立ち振る舞いも一変していたから、長い付き合いと言うこともあって俺にはそういった推測が生まれていたのは言うまでもない。それはそうだろう。昨日まですごく仲の良かった友人なり親友なり恋人が、次の日に理由なくあんたなんか大嫌いと言われるようなものだ。キスをした後につばを吐きかけられるようなものだ。プロポーズをうけて指輪まで受け取ったのに、次の瞬間婚姻届に判を押さないようなものだ。ものだ、ものだ、ものだ。面倒臭いので例えは以下省略するが、そういったことがあれば人間誰しも驚くだろう。ならば、多少突飛ではあるとしてもそういう推論が立つかも知れないと言うことぐらい同情してくれてもいいはずだ。同情してくれ。そういった経緯もあって、俺の論拠を当の佳乃本人に突きつけてみたところ、表佳乃は知らぬ存ぜぬの一点張り。それではと裏佳乃らしきときの佳乃にそのことを直撃すると、いとも簡単にうなずきやがった。おっと、言葉が多少汚くなってしまった。裏佳乃が面倒臭そうに言うには、臓器移植に関しては未だに解明されていない不思議な後遺症があるという。経験したことのない記憶が脳に存在していたり、まぁデジャヴってやつだな、他に利き腕が逆になったり、味の好みに変化があったり。記憶は当たり前のように脳に記憶されるとばかり思っていたから、裏佳乃が言うことはびっくり仰天だった。裏佳乃もそんな自分の立場には混乱していたらしく、しばらくは発狂寸前にまで至っていたらしい。だとすると俺のぶしつけな質問――お前は佳乃じゃない人間なのか――という質問に軽くうなずいて見せた裏佳乃は、そうとうな自己認識、つまりは新たなアイデンティティの確立を経た後の姿だったのかもしれない。そう考えると、裏佳乃は意外な勉強家だな。ともかく当時の俺にしてみれば、青天の霹靂だったというわけだ。青天の霹靂……一度使ってみたかった言葉なんで許してくれ。というわけで、俺と佳乃の生活は一変したようにみえた。が、しかし俺は佳乃がいかなる佳乃の時も俺はいつも通りに佳乃に接していたから、俺としては幼馴染みが一人増えたとぐらいにしか感じてなかった。幼かったということは時に人を助けるという事があると俺はそのときに理解した。お医者さんごっこのことを言っているんじゃないぞ。あれは時効だ。そうして三度の入学と卒業を繰り返し、俺達はいつの間にか互いに惹かれ合ってしまったわけだ。いつだという決定的な事件があったわけでなく、ただ生活していく段階で少しずつ惹かれあっていったのだろうと思う。吊り橋の法則なんてついぞ経験したことはないから、本当に長い時間をかけて蓄積していった経験値を経て、俺と佳乃は恋心というレベルを上げていったのだ。ゆっくりとゆっくりと。それこそ宮崎県日南市にある鬼の洗濯岩のように、長い年月をかけて形づけられていったのだと思う。後は追って知るべし。最後のデートなどというくだらなすぎるイベントのあとに佳乃を失い、今に至るというわけだ。




 ……なに、やってるんだろうな、俺。



 自分で言っていてよく分らないカオス加減だ。
 こんな事を考えても何も変わらないし、なにも始まらないのに。
 何で佳乃のことを考えると、こんなに饒舌になれるんだろうな。
 女の子と付き合ったことすらない俺がだぞ? 


 あ、いや、付き合ったことはある。


 悪いが佳乃、俺はお前を彼女としてカウントすることにする。


 お前は幼馴染みであり、俺の彼女だった。それで良いだろ。


 ……なんだろうな、考えると苦しいよ。
 お前がいないなんて、信じられないんだよ。
 俺、お前と過ごしてきた年月だけで結構な量の小説が書けそうだ。



 ――……誰も読まないだろうけどな。


興味を持ってくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。前書きで述べましたとおり、これは最近読んだライトノベルの冒頭の書き方を真似てみました。分る人は分る……かも。
作者はライトノベル歴が浅く、ただいま大慌てで色々なものを手当たり次第読んでみたり、取り入れてみたりと研究中です。この「多重人格な彼女」はその研究の場、発表の場として使わせていただいています。大変お見苦しい小説となってしまっていますが、どうかお許しください。
次回からはきちんとした改行、文体にて続きを執筆します。大変申し訳ございません。
評価、感想、栄養になります。











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