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エト・エウトクタ
作:隆伊



デモニアック2



 ホンダは狐に貰った刀を手に、獣と対峙していた。その数、約二十。既に五・六匹は倒した。 凄い刀だった。斬った相手が粉々の肉片になって飛び散る。まわりの敵が衝撃波に転がる。足元のコンクリは割れ舞い上がり、太刀筋に沿い地から剥がれる。音速の剣と言った。その名の通りだ。刀をふるう自分の腕が見えない。逆に、彼の目は、俊敏な獣の動きをスローモーションのようにとらえていた。何故かはわからない。勝手に反応する。反射的に動く。しかも、恐怖は、感じない。それも、また、不思議だった。たくさんの人を殺した獣。だが、憎しみもまた感じていなかった。感じるのは闘気のみ。弟のことさえ忘れていた。四方八方から襲い掛かる獣に、腕をふりおろし、横に薙ぐ。とどろく轟音。増幅される衝撃波に小さな竜巻さえ起きた。
 冷静だった。こいつらがデモニアック。違う。こいつらは兵隊だ。親玉のデモニアックはあそこにいる。
 人に似た身体にふたつの首、ひとつは鴉の頭、ひとつは青白い老人の顔、背中に十四枚の翼を持ち、腰から下はこの獣達と同じ山羊に似た足。獣の群れのむこうに、瘴気をまとって浮いている。地上一メートル。片目眇めて敵を見た。奴を殺す。
 右手に刃、左手に鞘、頭を低くして駆けた。襲い掛かる獣は薙ぎ払う。降り注ぐ血と肉片のなかを駆け抜けた。阻む獣。フェイント。左に行くと見せて右へ抜けた。抜けざま隻腕ふるい斬った。とどろく爆音。躍り出た。そのデモニアックのまえに。鴉の口が開いた。
「これは、驚き。その刃、その眼。その血の者がまだおったとは」
 口がきけるのか、こいつは。ならば、問うまで。八つ裂きにするまえに。
「貴様に問う。その血とは」
「己を知らぬか。エレボスよ。混沌の子よ」
 エレボス? 名を知っても、何者か説明はつかない。
「エレボスとは何だ」
 悪魔はにたりと笑った。
「貴様にウィルオトスについて話しても理解できまい」
「ウィルオ……」
「ウィルオトスはめんめんと受け継がれるもの。我はその完成形なり。我においてそれはもはや変わらぬ」何を言ってやがる。
「貴様は悪魔か」その名の通りのモノなのか。
 高らかな哄笑をもって悪魔は答えた。
「忘れたか。我が名はアンドレアス。干戈を交えるか。エレボスよ。愚かな。汝に我は斬れぬ」 剣を抜いた。その足が地についた。刹那。
 瘴気渦巻き、獰猛な悪魔の刃が襲い掛かった。弾いた。爆音とどろいた。悪魔が羽ばたき身を宙に躍らせた。あわせて跳躍した。宙を斜めに跳びながら、腕をふり抜いた。轟音と衝撃波。悪魔の身体が粉々に吹き飛んだ。
 鴉の首が地に転がった。口を開いた。嘲笑とともに。
「貴様に我は斬れぬ」首は人間の頭に変わった。忘れていた。これは人間に憑依する。俺が斬ったのは、人間……?
 背後から声が聞こえた。人垣の中から。
「故に言ったであろう。我は斬れぬ」
 ふたたび、宙約一メートルのところに浮いている。その鋭い爪に子供をつかみ。子供は女の子。悲鳴があがり人垣が割れた。たったひとり、悪魔の足にしがみつく少年の姿が見えた。離せ、離せよ、小さな拳で殴っている。
「亮太っ!!」ホンダは叫んだ。亮太はふりかえった。
「おにいちゃん、助けてよ。麻奈ちゃんが殺されちゃう」その声に覆いかぶせるように悪魔が言った。
「これは貴様の家族か。面白い。引き裂けば貴様は苦しむだろう。それが人間だ。笑えるほど弱い」その爪を亮太の頭にかけた。
 クソ野郎。させるか。ホンダは剣を投げようとした。その時。
「許せ」悪魔の正面に立った自衛隊員、そう言うと自動小銃を乱射して、その頭部に銃弾をぶち込んだ。崩れ落ちる悪魔の身体。地に倒れたときには自衛隊の服を着た人間の姿に変わっていた。頭はぐちゃぐちゃに砕けていた。悪魔は、それ以上憑依することはせず、何処か遠くへ去ったようだった。獣の姿も消えていた。血まみれのルナティックの姿がそこかしこにあった。……そのふたつを結びつけて考えたくはない。……許されるなら。
 ホンダは刀をふるった。轟音とどろいた。一瞬で、刀身の血は吹き飛ばされた。一滴の血も残っていない。鞘におさめた。
 既に薄暗がり。陽が残っていれば、埠頭じゅうに散らばる肉片とコンクリを濡らす血が見えただろう。海上に赤い月。水面に映っている。ゆらゆらと波に揺れ……。美しいとは思わない。禍々しい。
 生き残りは、約二十人。デモニアックを撃った自衛隊員が歩み寄り聞いた。背後に倒れているのは、彼の同僚だった男……だろう。
「俺の名は豊田。君は?」
「ホンダ……」
「いや、君のことだ。その刀は? 君は何者なんだ」
 それは、彼自身が一番知りたい。
「俺が聞きてえよ……」












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