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エト・エウトクタ
作:隆伊



滅びへ2


 既に都市高速は降りた。居住区を二人は突っ走っている。同じ形のマンションが何棟も並んでいる。凍死者は影すらない。そのことを不審に思いながらもアニナは全速力で駆けた。ホンダに追いつけない。おいていかれる。それほどホンダの足は速い。
 居住区を抜け小さな橋を渡りきると、右手奥に福岡ドームの巨大な姿が垣間見えた。左手にパーキングビル(ホークスタウン)。ドームへと向かうその道は、おびただしい数の亡者で埋め尽くされている。幾重にも折り重なって這っている屍。
 ホンダは既にその只中へ斬り込んでいる。次々と跳ね上がる亡者を血の塊へと変える。アニナは追いつき、ホンダの援護にまわった。斬り込む彼の左右背後の亡者を退けた。復路はない。ただ進むだけ。
 既に『日子の瓊矛』は己の分身の如く使いこなせる。エリゴールの言葉を思い出す。『槍を伸ばしているのではない。創っているのだ』と。その言葉の意味はわからない。使えればいい。
 もしかしたらエレボスの刀とこの槍で同時に貫けば『眩い光』を封印できるのかもしれない。消滅できるとは考えづらい。もしできるのなら、数千年前にサムヤサとエレボスが災い滅したはずだ。けれど、もし、わたし達の力がオリジナルを超えていたら?
 だが、今、そんな話はできない。言葉が通じない。
 パーキングビルの陰から巨大な福岡ドームの全景が見えた。窓という窓から眩い光があふれでている。建物自体が光に包まれていると言っていい。
 そして、そこへ向かう巨大な階段。が、階段自体は隙間も見えない。まるで滝のように、うねりながら、折り重なって、這い、降りてくる、亡者の群れ。
 アニナは一瞬ひるんだが、ホンダは迷うことなく突っ込んでいった。
「仲間を待たないのか?」
 聞いたが通じない。わからない日本語が返ってきた。もっとも、仲間がいたとしても、この状況に対処できるのはホンダとわたしくらいだ。祐二の呪縛があれば助かるが。彼は今何処だろう。遠い空を見上げた。この空の下のどこかに彼がいる。生きていると信じたい。
 二人は既に階段半ばまで登ってきている。日本画で見たことがある。滝をのぼる黒い魚。アレに似ている。跳ね上がる亡者をホンダは超人的な動体視力で捉え粉砕する。自分は真似ができないと思った。わたしが敵を捉えられるのは、コンマ五秒後が見えるから。どの死体が襲ってくるか見えるからだ。対してホンダは、五体同時に襲い掛かられても、爆音五回轟かせ斬り抜ける。人間とは思えない。刀だけじゃない。拳も蹴りも、視認できない。敵を粉砕する。これがエレボスか。凄まじい。
 階段登りきった。ドーム全体が見えた。目前に五番ゲート。目を射る光。幾重にも折り重なってうねる亡者。そして、その只中に一体の悪魔。
「バティン」ホンダが言った。通じた。奴がバティン。

 川野とアイコは四階エスカレーターに陣取り、登って来る亡者の群れに銃弾をぶち込んでいた。そこは映画館のあるフロア。待合室から持ってきたソファなどでエスカレーターは完全に塞いである。が、そこを突破されればさらに上に逃げるしかない。それは死へ向かう悪循環。
 川野はエスカレーター脇へ行き、そこから身を乗り出して、ライフル弾を屍に叩き込んだ。マガジンがもう残り少ない。弾が切れれば三丁の九ミリ拳銃があるだけだ。役に立たない。どうすればいい? どうすればここから生きて出られるっていうンだ。
 その時、階上のエスカレーターから死者の群れが固まりになってなだれ落ちてきて、彼は完全に下敷きになった。
 川野は何が起こったかまったくわからなかった。気付けば亡者どもにおしつぶされている。八十九式小銃が手から離れた。あっと言う間にそれは何処かへ消えた。
 糞、離れろ、噛み付くな、糞野郎ども、もみくちゃにされながら腰の九ミリ拳銃を二丁抜いた。両手でめくら滅法撃つ。当たっても蚊が刺した程度かよ、畜生。身動き取れない。一体俺が何をした。神様に聞いた。生きたまま化け物に食い殺される最後なんて、そこまで悪いことをしたおぼえはない。空になった。最後の一丁を抜いた。不敵に笑い言った。
「脳みそなしの糞野郎ども。拳銃にはこういう使い方もあるンだ」
 額に押し当てた。歯を食いしばった。引き金を引いた。

 アイコは亡者の塊にショットガンをぶち込み続けた。しかし幾重にも折り重なっていて助けられない。動かなくなった屍を手で押しのけてショットガンぶち込んだ。待ってて、必ず助けてあげるから。なかから聞こえていた銃声が聞こえなくなった。まずい。焦った。その時。
 亡者が飛び掛ってきて押し倒された。頭に鈍い衝撃を受けた。夢中でショットガンを撃った。動かなくなった屍がずるりと落ちた。跳ね起きた。が、眩暈がする。立つのがやっと。左目に血が入ってきた。額に触れてみた。齧り取られている。手に血と脳漿がべっとりついた。
 糞畜生。噛み付いた死体を蹴っ飛ばした。
 まずい。わたしはもう死ぬ。川野君も死んだ。駄目だ。ここでは死ねない。何処へ行けばいいの。上の階も死人でいっぱい。
 彼女は回廊の先へよろめきながら歩いていった。違うエスカレーターを見つけた。死人の姿はない。彼女はそれを上りはじめた。意識が遠くなる。駄目だ。倒れたら。












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