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エト・エウトクタ
作:隆伊



遊戯2


 荷室は広いが三人並んで寝るのは窮屈だ。アニナは助手席の背もたれを少しさげてダッシュボードに足を投げ出して寝ることにした。
「あなたにこれを渡しておくわ」グロック18Cを取り出してミキに渡した。グロックシリーズはオーストリアの名銃。その登場は全てのピストルの歴史を塗り替えた。その18Cはマシンピストル、フル・オート。装弾数は31発。グリップからダブルカラムマガジンがど派手に飛び出している。ピストルのフルオートだから当然集弾性は良くない。彼女のことは勿論自分達で護るけれど、何事も万全とは行かない。もし彼女が危機に瀕するとしたら、敵は至近距離にいるはず。その状況でこの銃なら、めくら撃ちで撃っても数発は当たる。
「この銃に安全装置はないわ。正確に言えばあるけれど、トリガーの部分にあるの。つまり引き金を引けば弾は飛び出す。引かない限り発射しない。暴発することはない。もしもピンチの時はこれを使って。予備のマガジンも渡しておくわ」アイコが通訳した。ミキは恐々と拳銃を受け取りその重さに驚いている。「むぎゅぅぅ」と言った。その日本語の意味はわからない。
 ホントに撃てるかしら? 多少心配になった。もともと心配だったのだが。
「明日少し練習をしよう」と言うと、
「イエス」とはにかみながら答えた。
 それから女三人で少しお喋りをした。こんな時になんだが、要は男の品定めだ。川野がキュートだとか、祐二が逞しいとか、ホンダがワイルドだとか。アニナが、三年前の祐二は今と正反対でもっと華奢だったと言うと二人は驚いた。ミキが耀はあんなじゃなかった。人が変わったみたいだと寂しげに言った。慰める言葉はない。彼がエレボスである以上。
 それから他愛無い話をしばらく続けるうちに、他の二人は眠りについた。アニナだけがなかなか眠れなかった。まどろみかけては目が覚める。数度そんなことを繰り返したあと、彼女は霧に包まれた世界の中にいた。
 目の前に現れた。ラ・プティエリ・ア・ナネ。淡い光をまとう妖精のような乙女。その口がこう告げた。
「エレボスの音速の剣も、そなたの日子の瓊矛も、わたしが念を込めた物。そのふたつであればあるいは災いを取り除くことできるやも知れぬ」
 アニナは次の言葉を待った。日子の瓊矛、どうすれば使えるようになる? だが、彼女は消えていく。
「待て。まだ話が……」と言ったとき、轟音とどろき、夢は引き裂かれた。
 目覚めれば硬いアスファルトの上に寝ていた。何故?? 考えるいとまもない。亡者が彼女に覆いかぶさってきていた。腰のTMPを抜くと全弾撃ち込んで跳ね起きた。爆音続けざまにとどろいている。見ればエレボスがいて刀を振るっている。彼以外仲間の姿はない。一体何が起きた。空のTMPを投げ捨て、レヴォリューションXOで近づく亡者を撃ち倒した。
「どうなっている!! 他のみんなは? ここは何処だ?」聞いた。日本語がかえって来た。わからない!! 駄目だ、コミュニケーションがとれない。


 アイコは冷たいフロアの上で目を覚ました。暗闇のなかだ。何処で目覚めたのかわからなかった。ぼぅっとする頭を持ち上げたとき、眠る前の記憶が戻り異常に気付いた。そばに人の気配がする。一瞬で眠気がとんだ。
「誰? アニナ?」
 懐中電灯で顔を照らされた。
「しー」とその人物は言った。
「ここ何処だかわからない。誰もいなくなった。気をつけて。奴らがいるかも」小声で言われた。
「川野君?」
 川野は懐中電灯を消した。カチャッと音をさせてアサルトライフルにマガジンを装填した。
「何がどうなったのかわからない。目が覚めたらここにいた。何処かのショッピングビルの中みたい」
 どうなっているのだろう? 戦慄に似た身震いが彼女を襲った。心臓がざわざわと鳴り、全身を冷たいものが走った。これは悪魔の業か? 人を一瞬にして移動させることができる悪魔もいる。複数いる。オノボスから聞いた十八霊のなかにもいる。しかしそれならわたし達を殺すことも容易だったはず。それはしなかったのか? ならばその理由は? そして他の仲間は何処にいるのか? そもそもホンダはどうして気付かなかったのだろう。オセ? オセなら可能かも。ホンダを幻界に導きその間にわたし達を引き離した。わからない。全て仮定だ。
 現状を把握すべきだわ。今、ここにいるのはわたしと川野君だけ。ここは? 暗闇に慣れた目で周囲を見回す。彼の言ったとおりショッピングビルの中みたい。わずかに朝の光が入ってきている。腕時計を見た。六時AM。冬の夜が明ける頃。九州の日の出は遅い。ようやく空が白み始める頃だ。
 そばに自分のショットガンがあった。アニナに借りたモスバーグ。
「明かりのほうに進もう」川野が言って、アイコは腰を上げた。ショットガンを手にした。店舗は大型のスポーツ用品店のようだ。テニスラケットやシューズやマウンテンバイクなどがおぼろに見える。
「ここ、もしかして……かな?」川野が呟いた。
 そのエリアを抜けると雑多な小店舗が隣接する場所へでた。雑貨屋、時計屋、アクセサリーショップ……。そこは既にかなり明るい。同時に聞こえてくる。
「聞こえる?」と、川野。
「奴らだ」
 遠く地鳴りのようにかすかに聞こえるその音は、亡者達のうめき声。
 やっぱりいる。アイコは身を硬くしてショットガンをコッキングした。角を曲がった。一面ガラス張り。外が見えた。この建造物の構造がわかった。そこは吹き抜けの中庭に面した場所。
「やっぱりここリバーウォークだ」川野が言った。
「え?」何処なのそれは。
「小倉だよ。俺たち小倉にいるンだ。ここ、友達と何回か来た」
 ガラスは自動ドアだった。通電していない今開かない。だが、鍵はかかっていない。川野がバールを差込こじ開けた。途端に猛烈に鼓膜に届く亡者のうめき声。警戒しながら吹き抜けの端に行き下を見下ろした。
 びっしりと地を覆う亡者の大群。蛆虫のようにのたうっている。
 ここからどうやって出ればいい?
 向こうにお堀と石垣が見える。
「小倉城だよ、あれ」川野が教えてくれた。
 お城とその建造物の間は遊歩道のようになっているらしい。今は亡者で埋め尽くされている。
「教えて。どうすればここから出られるの」
 川野は頭を抱え込んだ。金髪をくしゃくしゃに乱し、
「俺が聞きてぇよ」と言った。
 他の仲間はどうなった? ここを出て何処へ向かえばいい? まず、どうやってここを出る?  












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