エト・エウトクタ(42/56)PDFで表示縦書き表示RDF


拙作読んでいただきありがとうございます。
長らく休筆して申し訳ありませんでした。
まだ、完結しておりませんが、連載再開したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
エト・エウトクタ
作:隆伊



合流13


 北九州市小倉市街地。街並みは災禍前となんら変わりない。しかし、以前そこを満たしていた音の数々、行きかう車の喧騒も人々のざわめきもない。
 代わりにあるのは地獄のような千の亡者のうめき声。慟哭。そして空を突き破るような轟音。立て続けに。
 道にあふれた亡者たちは、泣き叫びわめきながら自分の服をひきむしり他人の服をかき破り、半裸となって蠢き腹這いで進み、放置車両があればその上を這って乗り越え、ひとりの少年に群がる。その少年の前まで来ると跳ね上がり襲いかかる。しかし少年の刀に血の塊となって消える。
 鳥瞰すれば、重い曇天の下、濁流のようにうねる死者の流れ(その様は大量に湧いた蛆虫を思い起こさせる)の中心に、ひとりの少年があり刀をふり続けている。
 エレボスと呼ばれる少年。
 耀だ。体を回転させる。周囲に血の柱が立つ。亡者の只中にあって刀をふり続ける。爆音続けざまにとどろく。
 身体の変異は隠しようがない。その肌は見た目では普通の人間となんら変わりないが触ってみると鮫の皮のように硬い。骨が変質したことも感じている。腕が音の速さを超えても、その骨は折れることも、その筋が違えることもない。
 拳にボクシングのバンテージを巻いている。既に血にまみれかたまり黒く染まったそれがさらに血に染まる。その拳を亡者の顔に叩き込む。拳もまた音の速さを超える。轟音。亡者の顔が吹き飛ぶ。足が地を蹴る。上段回し蹴り。蹴りもまた音の速さを超える。爆音とともに吹き飛ぶ亡者の頭。
 狼の目で敵を見据え、その殺戮の手を一瞬も休めない。
 これが悪魔どもの仕業であることは推測がついている。全てのルナティックが凍死したここにあっては、奴らは自分の軍団を形成できない。ゆえに死者を蘇らせ俺の行く手を阻む。ここまで三昼夜、ぶっとうしで斬り続けた。睡眠は既に必要なくなっていた。食べ物も。何も食べなくとも空腹を感じない。俺はおかしくなった。知っている。エレボスになった。
 それが何者か知らない。だが、今、ここにいる、俺がエレボスだ。
 右手にバスターミナルがある。左手には観覧車のあるショッピングモールだ。ここが砂津、門司まであと数キロ。
 ラジオ放送を聴いた。ミキが関門海峡まで来ているという。追い返さなければいけない。俺にはやることがある。ここから逃げ出す気などさらさらない。
 自身の放つ轟音で、自分の耳がおかしくなったかと思った。音の奥に、亡者達のわめき声の奥に、ありえない音が聞こえたのだ。しかも次第に大きくなる。
 動いている車の音。
 交差点、中津方面からそれは来た。黒いボクシーなフェイスのスティションワゴン。
 北九州ナンバーのその車の車高は、元の持ち主がなにを考えていたかわからないが地を這うほど低い。亡者の群れに突っ込むと、まるでラッセル車のように奴らをかき分けながら目の前に止まった。助手席のドアが開き、金髪の少女がとびだした。英語で何か叫び、巨大な銀色のリホルバーをかまえると、続けざま撃った。ホンダの左右の亡者が胸から上を吹き飛ばされ倒れた。運転席のウィンドウが開いた。日本人の若い女が顔を出し叫んだ。
「乗って!! 早く!!」
 状況が理解できない。しかし、従わない理由はない。刀を納め、目前の敵を蹴り倒すと、這っている亡者の上を駆けた。後席のドアを開き飛び込んだ。同時に少女も助手席に戻った。
「いくわよ」若い女が言い車は急発進した。門司方面に向かって。
「あなたが、エレボスことホンダヨウね。やっと見つけたわ」女がふり返る。
「あんたは? いや、あんた達は? 何故俺を知っている」
「あなたをずっと捜していた」
「俺を? あんた達は?」
 車は濁流の如き亡者をかき分けて力強く進む。四輪駆動。ギアを三速キープのスノードライブモードに入れ、女はアクセルを吹かし言った。
「わたしはアイコ。大学で神学を専攻している。民族の古い信仰や神を研究しているの。簡単に言えばオカルティスト。デモニアスト(悪魔を召還し取引する者)と呼んでもらってもいいわ。こっちはアニナ。ルーマニアの山中奥深くにあるシルバニア公国の古い貴族の子。その家業はバンパイア・スレイヤーよ。わたしは自分の研究のため、彼女はローマ法王の依頼で九州に来たの」
 かなり、驚かされる内容だった。輪をかけるように、理解できないことを言われた。
「しかも、彼女はサムヤサの末裔でもある」
「サムヤサ?」
「そう。あなたがエレボスの末裔であるように」
 ホンダは軽い衝撃を受けた。瞠目した。この女は、エレボスが何者か知っている。












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