エト・エウトクタ(36/56)PDFで表示縦書き表示RDF


エト・エウトクタ
作:隆伊



合流7


 だぼだぼのラガーシャツと、だぼだぼのジーンズに着替えて、川野郁夫は試着室から出てきた。ラガーシャツはミキが見立ててくれたものだ。広島郊外の大型衣料品店。それから着替え用に何点か揃え、同じく商品のダウンジャケットをはおり、そのままレジへ行って「コレください」と言った。店員は困った末、客の首根っこ押さえつけるようにしてタグをスキャンした。約束どおり、野原祐二が精算した。勿論、払えと言われても川野には一円の持ち合わせもない。
 店の外に出ると、祐二はペンダントを彼にわたし言った。
「これを首にかけているといい。貴橄欖石といって悪魔のもたらす狂気や精神崩壊から君を護ってくれる石だ」
「へぇ。それはありがたい……けど、ほんとに効果あんの?」もしそうなら、びくつかずに堂々と九州入りできるが。
「うちの和尚の保証付きだ」信用度の計りようのない答えが返ってきた。
 うん、まぁ、しょうがない。
 ランクルの後席に乗り込んだ。タグを襟や腰につけたままだ。そのうち取ればいい。面倒くさいし。なにしろ九州へ行くって時にこんなもの気にしてられない。
 けれど着替え用に買った服のタグはむしりとっている。
 そんな川野の様子にミキは笑いながらはさみを取り出した。
「ちょっとじっとしてて」と言うと、襟のタグをはさみで切り取った。
「あ、サンキュ……」顔が近い。いい匂いがする。川野は照れ隠しに、ことさら無愛想に返事をした。実は東京の女子高生というものにはじめて遭遇して困惑している。こっちは田舎のヤンキーだ。どう考えても引け目を感じる。
 運転席に乗り込んだ祐二が言った。
「これから先は、高速を使わずに一般道で行く。封鎖されている道もある。迂回しながら西へ向かう。橋の直前で高速へ上がる。その辺はもう無人の筈だ」

 アイコとアニナのふたりは地図を見ている。
「これはアレだわね」とアイコ。
「あなたの言った子鹿田を抜けたほうが速いかも」
 このまま進めば日田に着く。日田インターチェンジからハイウェイを使えばどうだ? とアニナは言ったが、それでは大きく鳥栖ジャンクションから福岡へと迂回して北九州入りすることになる。そのうえ、放置車両の状況も予測がつかない。
 地図を見れば日田ICからさほど離れてないところに、小野川という川がある。この川沿いに北上すれば子鹿田がある。十軒ほどの窯元があるだけの寒村である。道はそこで途絶えているが、地図には林道が載っている。その林道の先には、日田彦山線線路沿いの県道五十二号線がある。後は線路に沿ってまっすぐ北上すれば添田を経て田川へ。田川まで出れば北九州には着いたも同然。
 道は決まった。
 アニナは心のなかでにんまりとした。三年前、日本に来て以来、日本は好きな国のひとつ。故国では自称日本通である。日本の焼き物の特に「MINGEI(民藝)」と呼ばれるものに非常に興味を引かれている。海外でのほうが、人気があるのではないかと思われる。子鹿田はその「MINGEI」の中でも王様的な存在である。
 一方、アイコは、助手席の女がそんな呑気モードに入っているとはつゆ知らず、エト・エウトクタの推理に没頭していた。ハンドルを握りながら。
 オル・ゼヴァブ召還は彼女にとって事件だった。核心にドンとつき迫れた。
 エト・エウトクタの世界、それが何処かはまだわからない。地球から程よい近さの惑星か、考えてもその程度の答えしか出てこない。だが、サムヤサを筆頭に人類は、いや、この場合は異星人だが、この地球上へ降り立った。それは確かと言っていいだろう。そして先住民である人類に様々な科学をもたらした。おそらく地上の女と交わり子供をつくったことも事実だろう。そうして、その子供らが殺されてしまった事件もあった筈。だが、現在もその血の系譜は息づいている。エレボスがそうだ。アニナも間違いなくサムヤサだ。本人に自覚がないだけだ。『日子の瓊矛』は間違いなくア・ナネからアニナに託されたものだ。それが『サムヤサの牙』であるならば、彼女はその血の継承者である。
 だが今はまだ、その使い方もわからない。
 対して悪魔側はどうだ。何処まで推理できる? 地上にある悪魔は十八霊。奴らの意識はコンピュータのローカルエリアネットワーク的なつながりを持ち、他の単体のデータを任意に参照できる。データとは、つまり知識、経験、情報などだ。故にテレパシーで会話などしなくても知りたいことを知れる。
 だが、共通した目的に向かって動いている様子はない。今まで会ったオノボゥス、セレ、オル・ゼヴァブ、どれも個性的な悪魔だが、統率が取れている印象はない。どの個体も他の個体のことには無関心。地球に来て勝手気ままにやっている印象を受けた。
 だが、オル・ゼヴァブが教えてくれたように、バティンという悪魔の一派だけは別だと考えたほうがいい。『眩く輝くもの』の封印を解こうとしているらしい。それは絶対阻止すべき事柄に属するようだ。アスルーは、バティンの傘下なのか、それとも自らの意思なのか、そこは知れぬが『眩く輝くもの』を守護している。アスルーが護っている以上、自分達には手が出せないと考えたほうがいい。エレボス抜きでは無理だ。さらに。
 エレボスがアスルーを排除して、バティンらも倒せたとしても、『眩く輝くもの』をどう処理すればいいのかは、皆目見当もつかない。ア・ナネもヒントすら与えてない。そもそも彼女はどうやって封印したのか。彼女にしか封印できないのであれば、わたし達にはお手上げだ。それを聞く相手は……。ア・ナネ本人が一番いい。が、召還できない。アニナが夢を見るまで待たなければいけない。そして夢を見たからといって情報が得られるとは考え辛い。それを聞く相手は、……エリゴール。彼しかいない。
 うん。頭のなかが随分整理できた。とにかく今はエレボスと会う。そのことだけを考えて北上しよう。このチャンスを逃したら、もう二度と捜し出せないかもしれないのだから。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう