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エト・エウトクタ
作:隆伊



合流6



 川野郁夫は普通病棟に移った。明日から警察署で事情聴取がある。どういう段取りになるのか知らない。知ったこっちゃない。警察署で一日過ごし夜になれば病院に帰ってくるのか、それとも、そのまま留置所で寝泊りすることになるのか。
 事情聴取なんて聞こえはいいが、どうせ尋問、取調べとなんら変わらないだろう。ひょっとしたら十字架を突きつけて正体を現せ!! とか、言われるかも知れない。だとしたらちょっと変わってらぁ。
 ともあれ、自由に病院内をうろつけるのも今日が最後かもな。そう思い、ぶらぶら病棟内を散歩してみた。院内散歩の許可は得てある。まぁ、許可なくったって、じっとしちゃいないが。ところが病院内なんて、散歩してみて全然楽しいものではない。ああ、床屋があるなぁ、へぇ、珍しい、その程度である。幾分華やかで心和むのは小児科病棟である。壁の絵、折り紙、鮮やかな色彩がその場所にだけある。彼は足を止めかけたが、そこに居る子供達を見て、やりきれなさを感じ足早に去った。
 最後に彼がたどり着いたのはディケァルームだった。なんだ? この爺婆の大群は? とも思ったが、喫茶コーナーもあった。彼は珈琲を注文し、久しぶりにその香りを楽しんだ。香りだけで目が回りそうだった。珈琲でぶっ飛ぶなんてあり得ねぇ。一人で笑った。目の端に見えた。部屋の隅のパソコンが。誰が使ってもいいみたいだ。
 彼は珈琲片手にそのパソコンを起動した。
 何を見てみよう。愚問だ。勿論、九州だ。デモニアックだ。被災地の現状だ。情報に飢えていた。
 が、一分と経たぬうちに驚愕することとなる。
 検索して引っ張ってきた一覧のそこかしこに、『エレボス』の文字があるのだ。
 彼はキーワードを『エレボス』に換え検索した。一万件以上のヒット。ありとあらゆる掲示板がエレボスの噂であふれていた。
 デモニアックを木っ端微塵に斬り吹っ飛ばす。その太刀筋に沿いコンクリが砕け散る。身長二メートル以上……?? 腕がゴムのように伸びる……??
「なんだよ、コレ。デマばかりだな」笑うような内容のものが多かったが。
 あいつ、スーパーヒーローだぜ。なんとなく鼻が高かった。気分がいい。
 上機嫌で自分の病室に戻ると来客がいた。ふたり。
「病院から患者を連れ出すには、夜中より日中昼日中のほうがいい。目撃されることが問題でなければ」男が言った。
「お願い。わたし達と一緒に九州へ行って」手を合わせて少女が言った。
「俺たちはこれからエレボスを救出に行く。君の案内が必要だ」
 はじめ耳を疑った。約一秒間、川野少年の思考は停止し、その後思ったことは以下だった。
 げっ!? 九州へ戻れってか? どれだけ苦労して出てきたと思ってンだ? 第一お前は何者だ?
「あんたはいったい誰なんだ」
 男は余裕の笑みを見せ言った。
「エクソシストだ」その返答に驚く相手のリアクションを楽しんでいるように見える。
 事実、川野郁夫は驚いた。エクソシストだと? 悪魔祓い師ということか。だったら、こっちの女の子は?
 川野の視線に、照れたように瞳をふせその子は言った。
「じょ……女子高生……」
 ある意味、それも驚きだった。
 それはともかく。
「お前ら、勘違いしてるぞ。確かに俺はエレボス……ホンダのことだろ?……奴と一緒だったけど、中津あたりで別れてそれっきりだ。今、あいつが何処にいるかなんて知らない」
「それでもいいンだ」祐二は笑みを浮かべた。
「君の土地勘、九州から生き延びてきたサバイバル能力、俺たちにとって欲しい戦力だ。かいかぶりでなく、俺は、君の力を高く評価する。利巧で精神力が強く判断力あり危険を避ける勘がなければ、生き延びられない筈だ」
 川野郁夫はしばらく答えなかった。
 彼は考えていた。これからはじまる警察の取調べ。あるかもしれない留置所生活。最悪の予想は、デモニアックの烙印を押され……檻の中か、はたまた火あぶりの刑か、予測のつかない最後。それに対して、ここに提案されているのは、生きるか死ぬかの決死行、精神崩壊するか死ぬかの二者択一。
「かったりぃよ」彼は答えた。
「ただ条件がある。マシな服を買ってくれ」手持ちの服はアウトドアショップで手に入れたモノばかりで、彼の好みとはあわなかった。

 北へ向かう車の中、驚愕のラジオ放送を聴いた。アイコとアニナだ。
 はじめ、ハンドルを握りながらアイコがチューニングしていた。FMは全滅。AMで愛媛の放送を聴いていたのだが受信状態が悪くなって。皮肉なことによく入る電波は韓国からのものばかりだった。明瞭に聞こえる放送を無視してチューニングを続けるアイコに、「今のは? よく聞こえたじゃないか」とアニナが言ったが、コリアからの電波だと説明すると納得した。
 が、突然、そのコリアの電波が、ハッキリした日本語を発信したのだ。
「わたしは、コリアのミョンスー。三十分おきに、このメッセージを流しています。エレボス、ことホンダヨウ。あなたのいとこのミキが、あなたを救出に向かっています。この放送を聴いたら、関門海峡へ、向かってください。関門ブリッジであなたと落ち合うつもりです。繰り返します。わたしはコリアのミョンスー。エレボス。あなたの、いとこの、ミキの、友人です。関門ブリッジへ向かってください……」
 エレボスが見つかるかも知れない!! いや、見つかったも同然。それより、その存在を確かめられた!! アイコは口早に英訳して聞かせた。アニナも驚いた。思いは同じ。
 まっすぐ海峡へ向かいたい。現在地は阿蘇。地図を見た。日田を抜け小石原を通って北九州へ入る。一直線に北へ。迷うことなくコースは決まった。目指すは海峡だ。
 自分のガイドブックを見ていたアニナが言った。
「小石原は焼き物で有名らしいが、日田の奥地に子鹿田おんた焼きというのがあるそうだな」
 どうしてそんなことに詳しいのよ? そのガイドブックは。日本人でさえ普通に知らないわ。そんなこと。
「立ち寄る暇ないわよ」釘を刺した。
「いや、ちょっと興味があっただけだ……」若干残念そうな答えが返ってきた。












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