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エト・エウトクタ
作:隆伊



合流2


 一刻も早く北へ向かうべきか、それとも今しばらくこの近辺にとどまり捜索を行うべきか、アイコとアニナのふたりは迷っていた。
 微かに聞こえるラジオでは北部九州が大雪だと言っていた。おそらく、その雪の中の何処かにエレボスはいる。しかし一方、ここは災禍の中心地である。オル・ヴァブはこの付近にいるはず。ただ、
「オル・ヴァブを見つけられたとしても、何ができるの?」
「確かにその通りだけど」たとえ倒したとしても他のルナティックに憑依する。銃で倒せるのかどうかもわからない。
「じゃあ、北へ行く?」
 うーん。ふたりは黙り込んだ。たとえ倒せないにしても、オル・ヴァブに対して何らかのアクションを取るべきではないのか。この災禍の元凶だ。みすみす通り過ぎるのは間違っている気がする。だが、いったい何ができる。結論は出ない。
 一夜明けた、きのうと同じホームセンターの駐車場だ。天候は曇り。曇天一面に広がっている。静穏、風はない。
 駐車場にルナティックの姿が多い。昨日より増えている。が、ふたりは気付いていない。低い空に稲光。ゴロゴロと音をたて、徐々に近づいてくる。
「出来るかどうかわからないけど、召還……してみようかしら。オル・ヴァブ」アイコがそう言った時だった。
 突然の大音響。雷の直撃のような、ミサイルの着弾のような、凄まじい爆音にふたりは縮み上がった。
 目をやれば、真紅の大火球が地にある。真っ赤に燃える火の玉。それが音をたて落ちたのだ。天から。
「なに!?」両手でスプリングフィールドXDを抜きアニナ。アイコは一言も口をきけず固まっている。ホームセンターのパーキングの半分を埋め尽くしている巨大な火球。それがふたりの見ている前で収縮し炎の竜巻へと姿を変えた。その中に人に似た姿が見え隠れする。やがて、炎の竜巻は散った。なかから現れたのは、十四枚の翼を持つ長髪の騎士。きらめく鎧をまとい、巨大な剣を携え不敵な笑みを浮かべている。炎の形に似た煌めく剣。
「ねぇ。もしかしてこれが……」アニナの問いに、
「セレ……」ようやく口のきけるようになったアイコ。いくら相手が悪魔でも、言いたいことは言いたい。なんて派手な登場なの。
「これは怪異。エレボスを捜す魔女ありと聞いたが、あの男の血を引く者がいるとは」
 誰のことを言ってるの? 顔を見合わせる二人。
「だがまだ牙も使えぬようだ。今のうちに殺しておこう」
 牙? 何のことなの?
「ねぇ……」アニナがアイコに聞いた。
「撃ってもいいのかしら?」
「た、多分……」
「あなたの石は使えないの?」
「魔方陣の外にいる悪魔は調伏できないわ……でも、ちょっと話しかけてみようかしら」
「え!?」まじまじとアイコの顔を見るアニナ。けれどアイコは至極真面目な表情。悪魔に向かって一歩進み出た。
「その翼、その髪、美しきその太刀、汝、……セレか?」英語で問いかけた。すると敵は英語で返した。
「然り。我が名を知るとは貴様が魔女か」翻訳の手間が省ける。
「汝に問う。牙とは何のことであるか?」
 蔑みの表情を浮かべ悪魔は答える。
「お前が持っている。だが宝の持ち腐れだ」アニナに言った。
「今ひとつ問う。あの男とは? 誰が誰の血を引いている?」
「それを知ってどうする。死ぬ身なれば知っても仕方ないこと」
 嘲りの笑みとともに、その手の太刀をかかげ言った。
「だが、我が太刀を汚すまでもあるまい」
 太刀を振るった。周囲にいたルナティックの姿が変わった。ジャッカルの頭、人の体、獣の足。
「死ね」冷たく呟くと再び爆音とともに赤い大火球に包まれ、炎とともに消えた。軍勢を残し。
 アイコとアニナは顔を見合わせた。周囲には犬の頭の怪人が数十体。悪魔はアニナが牙を持っていると言った。だが、そんなことは後回しだ。どうやってこの場を切り抜ける?
 アニナは思った。こいつらは弾を避けるらしい。けれどそれは今まで相手にしてきたバンパイアも同じ。自分には弾を避ける敵のアクションが見える。避けた先を狙って撃ってやる。
「離れないで」アイコに言った。頬が染まり、目がつりあがる。
 こんな世界の果ての国の何処とも知れぬ片田舎で……。母国語で呟いた。
 処女のまま死んでたまるかっ。吐き捨てた。
 撃った。両腕を交差させ狙い定めて。ほとんど同時に発射された二発の銃弾の一発目を獣が避け、その避けた頭に二発目が命中した。もんどりうって倒れる獣。倒れたときには人間の姿に戻っていた。襲い掛かってくる獣を立て続けに撃つ。面白いように命中した。次々と地に転がる獣。
「凄い……」アイコは感心した。しかし感心してばかりもいられない。自分も何かしなきゃ。
 渡されていたショットガンを撃った。銃を撃つのははじめてではない。アメリカで何度かピストルを撃った。しかし反動はその比ではない。めげじと立て続けに撃ったが、いっこうに当たらない。
「駄目だわ」
「そのまま撃ち続けて。こっちに余裕があるときはわたしが拾うわ」アニナの言葉に、要領を得ないままもショットガンを放つアイコ。
 アイコの銃弾を避けた獣の頭にアニナの放った銃弾が命中した。
 なるほど。そういうことか。アニナが横目で小さく笑みを見せた。
 余裕があるなぁ。この状況で。アイコは感心すると同時に少し落ち着いた。落ち着いてみれば、自分がどれほどパニくっていたかわかった。
 しかし冷静に見ても獣の数が多い。徐々に間合いを詰められている。躍りかかってきた敵の顎を蹴り上げて銃弾叩き込むアニナ。既にスプリングフィールドXDは空だ。ステアーTMPに持ち替えている。二体の獣の下をかいくぐりながら上にめくら撃ち。弾は喉から入って頭蓋を砕いて抜けた。周囲に転がる人間の亡骸。踏み越えながら四方の獣を撃ち続ける。
 今ならいけそうだ。アイコは咄嗟に思った。
 車を取りにいける。彼女と車の間に獣はいない。駆け出した。一匹の獣が横から襲いかかってきた。鋭い牙を避け地面に転がる。転がりながら銃口を敵に押し当て撃った。倒れた獣の下敷きになった。いや、もう既に人間の姿だ。半狂乱になって死体を押しどけ跳ね上がると、ようやく車の中に飛び込んだ。差しっぱなしのキーをまわす。エンジンがかかった。焦っている。ギアをローに入れるとエンストした。唇を噛み、再び試みる。今度は大丈夫だ。彼女はアニナの姿を捜した。獣がかたまっている。あそこか。手遅れなの?
 かたまっている獣の合間をすり抜けるようにしてアニナが姿をあらわした。勿論、その引き金は引きっぱなし。TMPは火を噴きっ放し。
 アイコはアクセルを思い切り踏み込み、獣の群れに突っ込んだ。人を轢くのはこんな感触なのかと思った。八匹くらいぶち当てた。けれど車に撥ねられるくらいでは致命傷とならないらしい。ボンネットの上にのぼってきた。振り落とそうとノーズを左右に振った。倒れている人間に乗り上げた。車は四駆だ。難なく乗り越えたが、嫌な感触がボディ下から伝わってくる。ボンネットの獣、ドアに張り付いている獣、撃ち倒して、アニナが躍りこむように乗り込んだ。
「オーケィ、ゴー」とだけ言った。アイコはアクセルをめいっぱい踏み込んだ。












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