福岡ドーム
10 福岡ドーム
福岡ドームは眩い光で包まれている。ドームから放たれた光が漆黒の闇のなかを射抜いている。ドーム内に強い光源があるのだ。その光を直視することは出来ない。直視すれば目を焼かれてしまう。既に何人もの自衛官が目を焼かれ視力を失った。
ドーム警戒には第八・第四師団があたったが既に壊滅状態にある。生き残りは二十数名。雪のなかに取り残されている。
不思議なことに、光は熱を伴っていない。この光源であれば、絶対温度十の二十乗K以上あることが予測される。が、周辺の雪が溶けることはない。近づいた人間が焼け死ぬこともない。不思議な光。しかし生き残った自衛官達にとって、その光は既に問題ではない。寒さのほうが脅威だ。この雪で凍死した隊員数知れず。ほぼ全員が精神崩壊の犠牲者だ。なんら身を護る手立てもせず、死んでいく。生き残った隊員たちは一箇所に集まり、火を焚き暖をとり、次の瞬間には己に訪れるかも知れぬ狂気の恐怖に怯えている。
「後藤隊士長、平山一等陸士被災しました」
部下の報告をうけ長は唇を噛んだ。被災したとはつまり精神崩壊したということだ。
これで生き残りは十九名。いや、二十数名だが、今また一人、生きる屍と化した。狭いテントのなかで絶望に囚われている。退却命令など出てなくても、できるものならば退却したい。しかし身動きが取れない。応援は来るのか。
何も期待できない。
一人の隊員が、雪の上を歩く少年に気付いた。金色の髪の少年。積雪は一メートル強、その上を歩いている。仄白い闇の底を、光に向かって。
「デモニアックだ」間違いない。
全員がライフルを構える。八九式小銃。セレクトレバーを「レ」にあわせる。「レ」はフル・オート。連射。奴らが弾を避けることは、数度に及ぶ経験からわかっている。それを踏まえて奴を捉えるには連射モードで一斉射撃、しかない。
「撃て」命令でいっせいに火を噴くアサルト・ライフル。弾幕。少年には逃げ場がないように思われた。が、次の瞬間、全員が目を疑った。
鋭く響き渡る甲高い金属音。その連続。少年は手のひらで銃弾を受け止めた。そして目にもとまらぬ敏捷さで他の弾丸を避けた。5.56mm弾は、少年の手のひらでぺしゃんこになっていた。弾を避けながら少年はそれを投げ返した。一人の隊員のヘルメットを砕き、額を陥没させた。ズン。少年の体が雪に沈んだ。
「撃ち方止めっ!!」倒したのか? いや、違う!! 雪のなかから襲ってくる。構えろっ、隊士長が号令を出す前に、テント前の積雪を破り少年が飛び出してきた。ライフルの銃身を押さえ、飛び上がり回し蹴り。顎をぶち抜く。銃口を上げた隊員に中段後ろ蹴りで踵を叩き込む。隊員たちは撃てない。同士討ちになる。少年の体が躍る。顎を砕かれ頚椎を折られる隊員たち。
掌低であばらを砕き心臓を握りつぶし呟く。屈強な自衛官達に向かい。
「エレボスに比すれば脆いな。お前達」
打ち下ろされた銃の台尻をとらえ、得物を奪って言う。
「それからコレ」八九式小銃を差し、
「面白い武器だが、エレボスの刃に比べれば生ぬるい」
ガチャン。地面に投げ捨てた。
再び、旋風のような蹴り技。ヘルメットを割り頭蓋を砕く。誰にも止める術がない。一人残らず殺されるまで。
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