エト・エウトクタ(28/56)PDFで表示縦書き表示RDF


エト・エウトクタ
作:隆伊



福岡ドーム


10 福岡ドーム
 福岡ドームは眩い光で包まれている。ドームから放たれた光が漆黒の闇のなかを射抜いている。ドーム内に強い光源があるのだ。その光を直視することは出来ない。直視すれば目を焼かれてしまう。既に何人もの自衛官が目を焼かれ視力を失った。
 ドーム警戒には第八・第四師団があたったが既に壊滅状態にある。生き残りは二十数名。雪のなかに取り残されている。
 不思議なことに、光は熱を伴っていない。この光源であれば、絶対温度十の二十乗K以上あることが予測される。が、周辺の雪が溶けることはない。近づいた人間が焼け死ぬこともない。不思議な光。しかし生き残った自衛官達にとって、その光は既に問題ではない。寒さのほうが脅威だ。この雪で凍死した隊員数知れず。ほぼ全員が精神崩壊の犠牲者だ。なんら身を護る手立てもせず、死んでいく。生き残った隊員たちは一箇所に集まり、火を焚き暖をとり、次の瞬間には己に訪れるかも知れぬ狂気の恐怖に怯えている。
「後藤隊士長、平山一等陸士被災しました」
 部下の報告をうけ長は唇を噛んだ。被災したとはつまり精神崩壊したということだ。
 これで生き残りは十九名。いや、二十数名だが、今また一人、生きる屍と化した。狭いテントのなかで絶望に囚われている。退却命令など出てなくても、できるものならば退却したい。しかし身動きが取れない。応援は来るのか。
 何も期待できない。
 一人の隊員が、雪の上を歩く少年に気付いた。金色の髪の少年。積雪は一メートル強、その上を歩いている。仄白い闇の底を、光に向かって。
「デモニアックだ」間違いない。
 全員がライフルを構える。八九式小銃。セレクトレバーを「レ」にあわせる。「レ」はフル・オート。連射。奴らが弾を避けることは、数度に及ぶ経験からわかっている。それを踏まえて奴を捉えるには連射モードで一斉射撃、しかない。
「撃て」命令でいっせいに火を噴くアサルト・ライフル。弾幕。少年には逃げ場がないように思われた。が、次の瞬間、全員が目を疑った。
 鋭く響き渡る甲高い金属音。その連続。少年は手のひらで銃弾を受け止めた。そして目にもとまらぬ敏捷さで他の弾丸を避けた。5.56mm弾は、少年の手のひらでぺしゃんこになっていた。弾を避けながら少年はそれを投げ返した。一人の隊員のヘルメットを砕き、額を陥没させた。ズン。少年の体が雪に沈んだ。
「撃ち方止めっ!!」倒したのか? いや、違う!! 雪のなかから襲ってくる。構えろっ、隊士長が号令を出す前に、テント前の積雪を破り少年が飛び出してきた。ライフルの銃身を押さえ、飛び上がり回し蹴り。顎をぶち抜く。銃口を上げた隊員に中段後ろ蹴りで踵を叩き込む。隊員たちは撃てない。同士討ちになる。少年の体が躍る。顎を砕かれ頚椎を折られる隊員たち。
 掌低であばらを砕き心臓を握りつぶし呟く。屈強な自衛官達に向かい。
「エレボスに比すれば脆いな。お前達」
 打ち下ろされた銃の台尻をとらえ、得物を奪って言う。
「それからコレ」八九式小銃を差し、
「面白い武器だが、エレボスの刃に比べれば生ぬるい」
 ガチャン。地面に投げ捨てた。
 再び、旋風のような蹴り技。ヘルメットを割り頭蓋を砕く。誰にも止める術がない。一人残らず殺されるまで。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう