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エト・エウトクタ
作:隆伊



『エト・エウトクタ』


はじめに:『エト・エウトクタ』そして『馬ヶ岳風土記』はとばして読んでいただいてかまいません。

『エト・エウトクタ』
 汝、霧の星を知る。
 天に眩き光なく、小暗い霧が果てなく続くその世界を。その奥に蠢く異形の者共を。悪しき霊を。そのもたらす災ひを。汝の血の奥底にその記憶は眠る。
 が、何人もその歴史を語ることあたわず。
 人に語りえるは、バサの国が栄えた、『時の歴史』以降のみのこと。
 然れども『時の歴史』以前の太古より、『時の歴史』に至るまで変わらぬこの世界のさまを語る。
 世界は決して晴れることのない霧で覆われ、その霧の奥に無数の塔がそびえ立っていた。そこは悪しき魔物の巣である。そこばかりではなく、魔物は森にも草原にも巣くうが、人々はとりわけ塔を恐れ、決して近寄らなかった。然れども、オル・ヴァブに比すれば、それらの魔物はものの脅威ではない。魔物は人を喰らう。だが人より魔物の数が多くなることはない。しかし、オル・ヴァブがひとたび目覚めれば、人の姿は希となり、人は歴史を失う。その目覚めとなれば、人は次々と正気を失い、魔物に喰らわれるのみとなるゆえに。
 かくのごとく、人は千年ごとに歴史を失う。それ故、人の歴史が、真実には何年あるのか、誰一人わかる者はいない。
→数頁欠損。
 この、『時の歴史』が始まる前に、伝え残っている伝説はひとつのみである。人の知るその伝説とはエレボスのことである。
 ある村で、若い男女が魔物にさらわれた。塔へさらわれ、生きて帰ってきた者はいない。誰もがあきらめたとき、ふたりは戻ってきた。しかし、男のほうは、人の姿をしていなかったという。その腕は剣となり、背には悪魔と違わぬ翼、頭には蛇が二めぐり纏い尾と首を背に垂らしていた。ふたりは森へ消えた。その後そのふたりを見たものはいない。
 その数十年後、その森の近くの国をアスルー神の大群が襲った。アスルーは三面六臂、眩く輝く美しい闘神である。その六本の腕にもつ剣に、立ち向かえる者はいない。人々はただ戯れに殺されるのみである。
 その時、森のなかから狼の眼を持つ若者が現れた。その若者が、たったひとりでアスルー神を排撃した。アスルーのふるう六本の剣を、若者は一本の剣ですべて弾き返し斬りふせた。そのふるう剣は音の速さを超え、ふるう度に轟音とどろかせ、衝撃でアスルーの腕は止まったともいう。
 若者は百のアスルーをすべて斬りふせると、名も告げず森へ帰っていった。これが人の知るエレボス(混沌の子)の伝説である。魔物の血の混ざった者という意味である。それは、あの、さらわれた男女の子孫だと言われた。そして『時の歴史』とかわった後も、森の奥深くに、その血をひく者がいると人は信じた。
『時の歴史』の始まる以前の出来事で、人の知る話はこれのみである。
→数頁欠損。
 『時の歴史』六六九年のこと。
 大きく栄えていたバサの国の国王は、狩猟と遊牧を生業とする『星を追う民』を滅ぼした。『星を追う民』は、巨猿の背に乗りドラゴンを狩る勇猛な一族であったが、バサの大群の奇襲に、一夜にして滅んだ。その王子が逃れたが、たとえ逃げ延びたとしても幼少。魔物のえさとなっただろうと、人々は噂した。
 翌年。バサの国に王女が誕生した。その誕生の際には、テラー神、応化しあらわれ、御子に破魔の力宿りしことを伝えた。王は喜び、宴をひらいた。その宴の大広間に魔物の群れが襲いきて、悪魔の使いの魔術師が姫に呪いをかけた。曰く、十五になる日に迎えに来ると。その呪いの定めは強く、テラー神でさえ違えることができなかった。故に、テラー神は姫を救える運命の()のこを定めた。
 時は流れ、その姫ラ・プティエリの十五の誕生日の日。待ち受ける勇者たちを嘲笑うかのごとく蹴散らし、魔術師は姫をさらっていった。その勇者たちの中に、運命の()のこはいなかった。
 王は国にふれを出し、数百の勇者が姫を取り返さんと塔へ向かったが、邪悪な魔術師の力の前に、ことごとく討ち果てた。
 ここに立ち至りて、銀色の巨猿の背に乗るひとりの戦士があらわる。死に絶えたと思われていた『星を追う民』の王家の若者である。彼こそが、テラー神の定めし運命の()のこ。その名はサムヤサ。
 彼は単身塔に乗り込み、巨大な竜に姿を変えた魔術師を討ち破り、ラ・プティエリを救った。かくしてラ・プティエリは闇の手を逃れたが、破魔の力は失われていた。
バサの王は喜び姫を迎えたが、若者が『星を追う民』であることを知ると、復讐を懼れ追い返した。
 が、既にラ・プティエリは若者を慕っていた。夜も眠れず彼を想い、その身が痩せ細るほど。
 憐れに思った叔父エリゴールの手引きで、サムヤサはバサの城に忍び込んだ。勇者もまた、塔にとらわれの姫を一目見たときより、己が想い人と定めていたのである。故に姫に自身のおもいを告げ、姫も同じおもいであると知り、数千の兵を蹴散らして姫を奪い去った。
 こうして、サムヤサ、ラ・プティエリ、そしてエリゴールは人の国から姿を消した。
→数頁欠損。
『時の歴史』六九九年のこと。オル・ヴァブが目覚めた。一瞬にして世界を覆いつくす狂気の勢いもはや効し難く、人は次々正気を失っていった。時を得たりと襲いくる魔物の群れ。
 その時である。敢然と人のまえに姿をあらわし魔物に立ち向かうは、サムヤサとその一族である。彼らはクリソレトゥスという石を身につけて、その石の力により正気を保っていた。それは、サムヤサとラ・プティエリの娘、ラ・プティエリ・ア・ナネが念を封じた石。母から失われた破魔の力を、ア・ナネは継承していた。
 そして、また、テラー神の冥助により、サムヤサは捜しだしていた。伝説であったエレボス、その血をひく少年を。人、称してエレボス・シ・ルカヤル。
 サムヤサ、エレボス、エリゴール、そしてア・ナネは、バサの国にあらわれた魔物を一掃すると、霧のなかにそびえる塔を次々攻め滅ぼした。魔物を殺し、竜を倒し、悪魔を封印した。悪魔は霊である。肉体を持たない。それは人に憑依してはじめて姿をあらわす。それを倒しても、憑依されていた人間が死ぬだけである。故に封印する他ない。
→数行欠損。
 ある塔の、呪いのかけられた魔の部屋で、エリゴールが自らの身を生贄にして仲間を通した。 彼がその身をささげた場所は、炎の平原。地平線まで続く悪鬼の群れと永遠に戦い続ける地獄。しかし、そのおかげで、サムヤサらはその塔の霧のドラゴンを倒し、世界に光を取り戻した。光を取り戻した世界は、美しい緑の森と草原がどこまでも続き、地平はかすみたち空へ登り混ざり合っていたという。
 その後、ある村で、正気を保っている老いた呪術師が言った。地獄の平原を凄まじい勢いで悪鬼を倒し地上へ昇り来る者がいると。呪術師は村はずれの井戸へ一行を導いた。そこで呪文を唱えた。すると地の底から戦ひ人の影が立ちのぼり口を開いた。我、地獄より蘇りともに戦わん。 それは霊となったエリゴールだった。呪術師は化翁せしテラー神だった。
 こうしてエリゴールは霊となりても、彼らとともに戦ったのである。
→数行欠損。
 その後、サムヤサらは、ある塔で奇怪な魔法の箱を見つけた。樽のようであり、数えきれないほどの管や金属がつながっており、それが幾つもあった。魔物達はそれをウイルオトスと呼んでいた。サムヤサはそれを壊した。それは、魔物が自分達の体を創ったり、より強靭にしたりするために使う魔具であった。最悪の敵である悪魔らは、その究極の力を用いることで、肉体さえ不要としたのである。
 その後、彼らはオル・ヴァブの棲家である塔を見つけだし、戦いの末これを封印した。そして人々は正気を取り戻した。
 アスルーの塔をエレボスが粉砕し、そこで彼らは『眩く輝くもの』を見つけた。その『眩く輝くもの』はアスルーが守護していたもので、『すべての始まりとなるもの』である。彼らはその災いを取り除こうとしたが叶わず、かろうじて封印した。
 最後の塔で、サムヤサらは、船を見つけた。
→この先、欠損。


リスト(ラ・プティエリ記。綴りは原文のまま。憑依した時の姿を記し、召喚の可・不可と召喚方法を記す)
Andoreassアンドレアス
 十四枚の翼を持つ。鳥の頭。人の体。獣の足。破壊的。召喚不可なり。交渉もしかり。
Asslluwアスルー
 三面六臂。好戦的。召喚不可。交渉もしかり。『眩く輝くもの』を守護する。
Olonbassオノボス
 馬頭獣身。知多し。中庸の道を行く者。召喚可なり。召喚数は三七九。
 召喚には四つの星、ふたつの扉を用意せよ。石はふたつで足る。
Selleセレ
 四枚の翼を持つ。長髪の戦士。狡獪にして好戦的。召喚不可なり。
Sabanackサバック
 獅子の顔。獰猛。召喚可。召喚数は五二八。
 召喚には多くの石を必要とする。剣も然り。ふたつの星が要る。対価なくしてその魔力を得ず。
Osseオセ
 狼の頭。剛胆にして気高き戦士。召喚可なり。しかれども御し難し。
 召喚には言の葉畏るべし。ふたつの星。ふたつの扉。ひとつの剣。
Varackウラク
 双頭の竜に乗る少年。召喚可なり。しかれども交渉あたわず。
 召喚には獣の血が要る。召喚すれば災ひ多し。
Bathinバティン
 みっつの長い首、蛇の尾を持つ。召喚可。『眩く輝くもの』の創造に携わる。
 破滅を求めざれば召喚するべからず。
→数ページ欠損。
Oll・Babbu
 すべての災ひの元凶。
 然れども、真の恐怖にあらざり。
→他、欠損。
                    『エト・エウトクタ』(グリモア)より抜粋。
                     ミスカトニック大学図書館蔵。












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