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Winterな日々
作:HOLY



其の3 Surpriseな夕食


 今日びの女子高生とはいえ神無は田舎に属する高校に通っているわけで、当然カプセルホテルなんていうものは噂でしか聞いたことのないものだったわけで。カプセルって言うぐらいだからちょっと狭そうだなぁ、なんて思っていたわけだが・・・。

     ―●―

「・・・・・うぇ?」
思わず情けない声が漏れた。
「どうしたんですか?」
「・・・その、狭くないですか?」
「狭いですね。」
この人はなんでもないことのように返してくるけど、本当に狭いんだってば!1人でも寝返りを2回うてるかうてないかなのに、2人で入る!?圧迫死するって、絶対。
「いいじゃないですか。本来3000円のところを1500円で超特価ですよ?安いモンです。」
その代償がかなり大きい気がする。
 本来は(というか、当然)1つのカプセルには1人までしか入ってはいけないらしいが、この人いわく「田舎のほうのカプセルホテルはちょっと広めだし、警備員さんもなまけてますから大丈夫です。」とか。にしたって狭いでしょ。あたしの座高より低そうな天井では一度入ったら出るのも大変そう。
「あ、あっちにロッカーがありますね。荷物、置いてきちゃいましょう。」
指差すほうを見ると、カプセルがずらっと並ぶ廊下の一部が確かにコイン式ロッカーになっている。わりと新しくて綺麗なこのカプセルホテルになぜか緑色の塗装がはげかけたロッカー、それがまたあたしの心をずぅぅんとさせる。
 ぎいいいいい。これまた錆びれた音を立てて開くふた。
「よいしょっ・・・んっ、んっ!」
そしてまた何か意味不明なことを始める人。えらくがんばってバッグをロッカーの奥のほうに詰め込もうとしている。何の意味があると?
「あの、」
「ほら、あなたの荷物も入れてください。」
あたしの質問をさえぎってとんでもないことを言う。
「な、なんでですか!?別々のところに入れればいいじゃないですか!大体、2つも入りませんよ!」
抗議をしてはみたが、なぜかこの人は不思議そうな顔をする。あたし、的外れなことを言った?
「だってほら、ロッカー代も半分こ出来るじゃないですか。」
「そ、そこまでしなくても・・・。たかだか百円じゃないですか。」
「なに言ってるんですか。100円を笑う者は100円に泣くんです!さ、荷物を貸してください。」
しぶしぶ荷物をわたす。あああ、いろいろ入ってるのにぃ・・・。
「・・・あれ?」
いま、ふとコインロッカーの説明書きが目に入った。
「ちょ、ちょっと!ここのロッカー、お金返ってきますよ!?」
「え?あ、ホントですね。あはは。」
そして、あたしのバッグは体積3分の1になって開放された。そもそも、百円玉をどうやって半分にしようと?

「あっちは休憩室みたいですね。」
それぞれの荷物にゆったりとした空間を提供した後も、休むことなくホテルの探索じみたことが続けられる。
 入り口からカプセル群をはさんだ反対側は広めの部屋になっていて、自販機やらソファーやらテレビやらが置いてある。ちょうど温泉の待合室みたいだ。
「そっちにはシャワーですね。あとで浴びましょう。」
「・・・一緒に、ですか?」
恐ろしいので一応訊いてみる。はい、とか言われたら逃げ出してやる。
「はい。節約ですから。」
「・・・。」
ぞわぞわぞわと背筋に何かが走る。具体的にはでっかいムカデ。ダメだこの人、絶対に変な趣味がある。お嫁にいけなくなる前に逃げよう・・・。
「なんて、冗談ですよ。」
「え。」
しかし半信半疑。
「シャワーはサービスでお金がかかりませんから、存分に浴びてオッケーですよ。」
「な、なぁんだ。信じちゃったじゃないですかー!」
あはははは。いや、ほんとに。
「一緒に入りたいんですか?」
「断じていなです。」
きっぱり。
「うーん。ちょっと残念です。」
 それにしても、シャワー使い放題なんだ。もう当分シャワーなんて浴びれないだろうなって覚悟してたし、ちょっと感動かも。カプセルホテルってすごい。
「でも、普通入浴も出来るものなんですけどね。ちょっとここはレベルが低いようです。」
そしてその感動を木っ端微塵にしてくれたこの人。
「・・・。そんなにカプセルホテルよく使うんですか?」
ちょっと固めのソファーにばふっと座って訊いてみる。
「そうでもないですよ?今日みたいに新しい土地に来てすぐの時だけですから、回数で言うと多くはないですね。」
ああ、そういえば新しい土地だって言ってたな。
「いろんな所に行ってるみたいですけど、仕事の関係で転勤が多いとか?」
「残念。ハズレです。」
「じゃあ、なんでですか?」
「ふふふふふ。」
いきなりにやりと上目づかいで見つめられた。
「・・・知りたいですか?」
「はあ、まあ。」
興味はあるし、その怪しい表情も気になるし。
「私のことが、そんなに知りたいと?」
「はい、知りたいです。」
「まあ!」
なぜか急に頬を赤らめてキャーキャー恥ずかしがるこの人。
「いやですね!そんなに私のことが気になるだなんて!私、そっちの気はないんです!」
意味不明だし。あんたに言われたくないし。
「・・・じゃあいいです。」
「あ、つまんないこと言いますね。まあ、いずれにしろ自己紹介もまだですし。」
「・・・あ、そういえば。」
すっかり忘れてた。そんな基本中の基本も忘れるほど動揺してたんだろうか。いろいろと。
「お腹もすいたことですし、晩御飯を食べながらお話しましょう。」
「そうですね。」
携帯を見ると、6時。さっきのカップ麺であんまりお腹はすいていないんだけど、食べるとしよう。

     *

「私は北條みずなっていいます。」
食事&自己紹介をはじめる。休憩室にはあたし達2人以外は誰もいない。もっと遅い時間になるとちらほら人が来るようになるんだとか。
「朱宮神無です。よろしく。」
この人もといみずなさんにわけてもらったおにぎりを食べる。あたしだってちゃんと夕食用にカップ麺を買っておいたわけだけど、さっきロッカーに押し込められた時に原型を失ってしまったんで、みずなさんのご飯を半分こしている。「神無ちゃんね。高校生?」
「はい、一応。無断休学中ですけど。」
「家出?」
この人はまたえらい率直に聞いてくるな。自販機で買ったお茶を飲んでおにぎりを流し込む。
「初日です。」
「親御さんとけんか、とかですか?」
「・・・まあ、そんな感じです。」
うんうんとうなずいてこんなことを口にするみずなさん。
「そっかー。がんばってくださいね。親が謝ってくるまで帰っちゃダメですよ?」
なんじゃそりゃ!?普通、親を心配させちゃダメですよーとか言うもんじゃないの?
「・・・みずなさん、いくつですか。」
「私ですか?ぴったし20歳ですよ。お酒もタバコもオッケーです。」
そっかー、20かー。あたしの3つ上かー・・・って、
「20歳!?そんなに若いんですか!?」
びっくりして失礼なことを口にしてしまう。いや、でも、絶対30近いとばっかり・・・。
「うふふ、よく言われます。でもれっきとした二十歳はたちですよ?」
驚愕の事実・・・。あたしと3つしか違わないのに、この大人びた口調、堂々とした行動。確かに肩までの黒髪が年齢を高く見せるけど、顔を見ると・・・若い。
「私と神無ちゃんは3つしか違わないんですよ?だから敬語とか使わないでください。」
「・・・え?だって、3つ上のみずなさんはめちゃめちゃ敬語じゃないですか。」
「いいんですよ、私はこのほうがいいんです。でもって敬語を使われるのは嫌なんです。ブラザーソウルって言うんですか?私のことはみずなちゃんでお願いします。」
なんの脈絡もなく出てきたブラザーソウル。女同士なんだけどなぁ。サンドイッチをがばっと口に押し込んで、時間を稼ぐ。もちろんその言葉を口にするまでの時間を。
 しかし、時は無常に過ぎ去った。そしてついにその名を呼ぶ。
「・・・みずなちゃん。」
この違和感の海の底のほうからやってきた言葉にみずなちゃんは嬉しそうにうなずく。
「みずなちゃんは、なんでいろんな街に行ってるんです・・・の?」
あああ、話しづらーい。
「私、放浪の身なんです。」
「・・・放浪?ってあの放浪?」
それって時代劇とかの話じゃないの?
「その放浪です。ここ!っていう場所が見つかるまで旅をしてるんですね。いままでなかなか良い土地に巡り合えなくて、この霜月市は4ヶ所目なんです。」
「・・・・・は、ははあ。」
変な人だと思ってたけど、実はすっごい変な人だったのか・・・。
「でもやっぱり1人は淋しくてですね。神無ちゃんみたいなコについつい声をかけちゃうんです。」
ふっとみずなちゃんは悲しげな顔をする。・・・その顔は、女のあたしが見ても綺麗だった。
「みずなちゃん・・・。」
「と、言うわけで、もし無計画な家出だったんならしばらく一緒にいてくれませんか?神無ちゃん?」
「いえ、こちらこそ、その、よろしく。」
「うふふふー。そう言ってくれると信じてましたよー。普通、気味悪がって断るんですけどねー、神無ちゃん変わり者ですね。」
あんたが言うな、あんたが。さっきの暗い顔はどこにすっ飛んで行ったのか、一転して笑顔爛漫。まあ、無計画な家出だけどさっ。
 

 食事が終わった後に「放浪って、冗談?」って訊いたら「うふふふー。どうでしょう?」とはぐらかされてしまった。















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