言葉になんかしなくても
どうもこんばんわ。
すとむみずみです。
よろしくお願い致します。
「今、かわいいって思ったでしょ」
「え? 何でわかるの?」
「なんとなく。だけど、マナの事は何でもわかるよ」
自慢気に言って、ノブくんは舌を出した。
あたしは、ふしぎだなと思った。
あたしの名前は鈴木 愛。3日前からノブくんと付き合っている。
ノブくんというのは、同じクラスの杉田 春信くんの事で、小学5年生にしては大人びているし、すごくかっこいい。
だけどときどきすごく無邪気で、子どもっぽくて、かわいい。
今だって、下校中見つけたノラ猫に走りより、抱きかかえた。
あたしはかわいいと思った。猫が、じゃなくて、ノブくんが。
「今、かわいいって思ったでしょ」
「え? 何でわかるの?」
「なんとなく。だけど、マナの事は何でもわかるよ」
自慢気に言って、ノブくんは、舌を出した。
あたしは、ふしぎだな、と思った。
あたしが何を思ったのかはわかるのに、誰に向けた思いかはわからないなんて。
「かわいいよね、この猫。マナもそう思うんだ」
ノブくんはその猫の、喉のあたりを、くすぐるように撫でた。
「よし。おれ、決めた。こいつ、連れて帰ろう」
「え? ノブくん家に?」
「うん、名前は、そうだな……」
ノブくんはしばらく考えていた。
どうやら、思いついたらしい。
「"マナブ"!! マナとノブから。いいね、マナブ」
マナブと名付けられた仔猫は、小さく鳴いた。
そして、あたしとノブくんは帰り出した。
そして次の日、教室で朝礼を終えると、ノブくんがあたしのところに来た。
「ねえ、スズキさん」
ノブくんは、ふたりっきりじゃないと、あたしをマナと呼んでくれない。
「あの、昨日の猫だけど……」
あたしは続きを待つ。
「………―――メスだった」
「メスだった、ってほんと? じゃあ」
あたしが続きを言うのとまったく同時に、ノブくんの言葉が重なった。
「「名前を変えた方がいいよね」」
あたしたちは、おかしくて笑い合った。
言葉になんかしなくても、ノブくんはあたしの考えている事がわかってるんだ。
「名前、何にする?」
あたしが訊くと、
「じつはね、もう考えたんだ」
ノブくんは得意気に続けた。
「"ハルナ"って、どうかな? ハルノブとマナが見つけたから、ハルナ」
「いい名前。ノブく……スギタくん、頭いいね」
ノブくんは照れていた。
そのようすを見て、近くにいた白井くんが、あたしたちに声をかける。
「スズキ~、ノブ~、何の話してるの?」
あたしは答えようと、口を開いた。
「「何でもないよ」」
また、ノブくんが声を重ねてきた。
あたしたちは、また、笑い出した。
白井くんが、ひとり、ふしぎそうな表情をしていた。
「ノブくん、いっしょに帰ろ」
誰もいなくなった教室で、あたしはノブくんに言った。
ノブくんは、意外にも
「ごめん、マナ。今日は早く帰って、ハルナの世話をしたいんだ」
「あ……、そう、わかった。また明日ね」
「うん、ごめんな、また明日」
そんなやり取りが、さらに2日続いた。
3日目の金曜日、あたしは、とうとう我慢できなくなって、教室を出ようとしたノブくんに大きな声で言った。
「ノブくん!!」
ランドセル越しに、ノブくんの肩がビクッと揺れた。
「あたしと、ハルナちゃん、どっちが大事なの!? どっちがかわいいの!? どっちが…………好きなの?」
ノブくんが振り向いた。
――笑っていた。
「やっぱりね」
「え?」
「やっぱりマナ、今日はそんな事言うと思った。ハルナと比べて、どっちが、どうなのって」
あたしは、ノブくんが何を言いたいのかわからなかった。
「ごめん、マナ。おれ、怒ったおまえが見たくて、泣いたおまえが見たくて、いじわるしてた」
ノブくんはもう一度、ごめん、と付け加えた。
「ハルナとマナなんて、比べようがないくらい、マナが大事だ。かわいいと思う! 好きだ!!」
あたしは、胸の奥が、ジーンとするのを感じた。
「だから、もう、先に帰ったりしないから……」
ノブくんは恥ずかしかったんだろう。顔が赤くなっていた。
「その、……いっしょに帰ろう」
あたしは、ただうれしかった。初めてノブくんの方から誘ってくれた。
言葉になんかしなくても、ノブくんはあたしの考えている事がわかってるんだ。
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これからもよろしくお願い致します。