━今年は『源氏物語』がいいかのぉ…━
波乱は、その言葉と共にやって来た。
「まったく、何考えてるのかしら…あの学園長…」
榊原会長が生徒会室を立ち去った途端、人目も気にせずに瑠華がぼやく。普段聞きなれない何とも乱暴な言葉遣いに、周囲は一斉に彼女へと視線を向けた。
「会長、言葉が過ぎますよ…」
誰も突っ込めなかった処に、かずいだけが冷静に注意を促し、先ほどの白い封筒から分厚い台本を手に取るとパラパラと捲る。確かに『源氏物語』のようだった。
「…ん?」
不意にページが止まり、そこには白い封筒が挟まれていた。きちんと糊付けされた手紙のようだが、一体誰あてなのだろうか。
「何だよ?」
かずいの様子に気がついて窓際で仕事をさぼっていた庶務(兼雑用)の香月 翔が近くに寄ると、そのまま彼の手にある封筒を取り、ビリビリとその封を開けてしまう。
「翔!?」
突然の出来事にかずいはなす術もなく、止めようとした手は宙を彷徨った。
皆の視線が翔へと集中する。彼は黙読で手紙の内容を把握すると、スッとかずいへと手紙を押し返した。
「何だったんです?」
「読めば分かる」
「はあ…」
押しつけられた手紙を開き、ゆっくりと目を通す。そこには何ともふざけた内容が書かれていた…。
『高等部・生徒会諸君へ
皐月祭を開くのでよろしくねん♡
それと、今回は生徒会からも催し物をしてちょ☆
つきましては同封の台本を参照してね。
それじゃ皐月祭まで時間もないし、頑張ってね~♡
学園長より☆ 』
かずいは手紙の内容に目を通すと、ガクッと大きく肩を落とす…。これがとっくに還暦を過ぎた大の男の書く文章だと思うと怒りを通り越して哀れみさえ湧いてくる。翔同様、何も言う気にならなくて会長へと無言で手紙を手渡すと、大きく溜息を一つ残して彼はその場を後にした。
「…何が書いてあったのよ」
「どれどれ…」
微妙な副会長と庶務の反応に不安心を掻き立てられながらも、瑠華は恐る恐る手紙を開く。麻斗も瑠華の隣に立ちその内容をのぞき見た。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
次の瞬間、彼女の手の中にあった手紙はグシャリとその形を歪ませ机に叩きつけられる。瑠華の手によって。
「なんじゃこりゃー!!!」
第一声は麻斗。
勢いよく突っ込みをいれてはみるが、翔に「…だから要望だろ」などと返り討ちにあわされてしまう。
そして微かな溜息が洩れ、瑠華は頭が痛そうに呟く。明らかな悪意を持って…。
「相変わらずね、あの狸ジジイ!!」
彼女の中の学園長はとうとう『人外』の、動物扱いにまで格下げされたようだ。
「会長…それは」
離れた処で見守っていた壊斗羅がさすがに苦笑いで口を挟むと、沈黙を保っていた梓と涼、そして祐麻までもが話に加わる。
「そう言えば、学園長ってどんな人なんです?俺、高校編入だから会ったことないんだけど…」
最後の方は、隣に座る梓に対して投げかけられる。
「私は残念ながら、一度もきちんとお会いしたことはないです」
梓の前に向かい合うように座っていた祐麻が答えると、梓もようやく口を開いた。
「そ~だねぇ。あんまり面識無いもんね~…麻斗君は会ったことあ~る??」
人差し指を一本口元に当てて考えるポーズをしてはいるものの、余り興味もなさそうに今度は麻斗へと話を振る。もっとも彼は3年生なのだから、2年生の自分よりは会う機会もあるだろうと思っての事だが…。
「あぁ?…会うも何も、学園長って言ったら」
「そんなことより、同封の台本を見てみましょう?」
話の途中不意にかずいが麻斗の後ろに立ち、そのお喋りな口を塞ぐ。ニッコリと微笑んでいるその表情は何故か冷たい空気を孕み、それ以上の会話を許さなかった。
「…は~…い」
有無を言わさぬ笑顔に三人は返事だけ返すと、黙って話を聞いていた。
「そうね、壊斗羅」
「はいっ、こちらです」
かずいが置いた台本を会長の元に持っていくと、壊斗羅も所定の位置へと腰掛ける。
瑠華は本を捲ると、小さく溜息をつく。そして…。
「…やりましょう」
「えっ??」
「…学園長からの要望を無下には出来ないわ」
彼女はスッと視線をメンバーへ移すと、ニコッと笑って見せる。怒りを含んだ不気味な微笑みを…。
「あんの学園長、わざわざこんなの持ってきて『挑戦』してるとしか思えないの…」
怒気を孕んだ、どす黒く重たい声が辺りに響く。
メンバーの中には『やっぱり』という言葉が浮かんでいた。
「まっ、待って下さい!」
その時、壊斗羅が口を挟む。何処か慌てたような雰囲気を纏って。
「これって女性の方が多かった気がするんですけど??」
壊斗羅の言葉に、皆一斉に固まる。言われてみればそうだ。
「まぁ…気のせいじゃ済まねぇわな…」
「実際女子の方が少ないしね」
苦笑い気味に麻斗が賛同すると、麻斗とは正反対に楽しそうに梓が答える。男と女ではこうも反応が変わるものだろうか。
「心配には及びません」
すると、かずいが少し目を細めて悪魔の微笑みを浮かべる。企みに満ちた嫌な表情で。
「誰かが『女装』すれば済む話ですから」
「昴、お前キャラが…いやいや、そーいう問題なのか!?」
かずいの豹変ぶりに思わず突っ込み所を見失った翔が、思い出したかのように不満を口にする。そして今度は涼が口を挟む。
「第一、 この中で女装が出来そうなのって…」
涼はメンバーを見渡す。涼自身は180センチ近く身長があるし、麻斗だってそれ以上。何より自分たちは体つきがしっかりしていて、とても『女装』には向いていないと言える。それに比べて残りの三人は、体つきも華奢でどちらかというと『細マッチョ』タイプだし…顔つきも『美人』か『可愛い』系。涼は麻斗と顔を見合わせる。考えていることは一緒のようだ。麻斗が迷わず口を開く。
「翔と壊斗羅とかず」
パーンッ
何処から取り出したのか、口を滑らせた麻斗に向かって容赦のないスリッパが飛んでくる。出所はかずいだ。
「くだらないことはいいですから、話を進めますよ」
自分から『女装』しろと言いだしたくせに、彼は一人でその話を自己完結させると、どんどん話を進めていく。なんとマイペースな副会長だろう。
そんな副会長を後目に、彼女は未だに胸をときめかせていた。
「いーよねぇ、女装」
夢見る乙女のような表情で、楽しそうに呟く梓。
「梓…そうじゃなくて、誰がやるかって話なんだけど…聞いてる?」
「じゃあ、涼ちゃんがやる??」
止めようとした涼に対し、彼女はキラキラしたその瞳を向けると突拍子もなく配役を振って来る。彼氏に女装を期待するって…心の中で彼はそう呟くと、そっと視線を外し「ごめんなさい」と謝った。
皐月祭まで、あと2週間。
波乱の幕開けは始まったばかりだった…。
前回までの話で「翔」君と「祐麻」ちゃんが全然出てきていない事に焦りを感じた作者です(^_^;)
今回は割と長くなったな…と。
ようやく脚本1話に入って来たので、内容的には書き易いのですが情景描写が大変です><;
この間、よからぬ「かずい」の襲撃も受けたので(笑)、頑張って更新しようと思います!!
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