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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

99/204

終わりの夜に道化は踊る

 クソつまらないベアトリクスの恋のアレコレに巻き込まれたりもしたが、
あれよあれよと時間は過ぎてゆき、今日で今年が終わる。
 来年こそは良い年になれば良い――紫苑はそう願っているが良い年になるわけがない。

「それでは紫苑さん、代表して乾杯の音頭を御願いします」
「……やらなきゃいけないのか?」

 午後六時半、醍醐邸には紫苑と彼に関わりがある者らが集まっていた。
 パーティメンバーは当然としてミラー兄妹、雲母、アイリーン、カマキリまでもが居る。

「忘年会なんだし、テキトーで良いんじゃないか? というか大人が居るだろう大人が」

 カマキリと雲母を見つめるが二人は苦笑するだけだ。
 第一、まとまりがないこの面子をまとめているのは紫苑である。
 ならば彼が音頭を取るのは当然と言えよう。

「はぁ……じゃあ、少しだけ。今年は俺にとっては色々な意味で大切な年だった。
成長出来たのかは分からない。それでも、皆と出会えて本当に良かった思う。
来年も皆と一緒に健やかに暮らせるように祈っている。では――――乾杯!!」

 長い話をするにしても空気が大事だ。
 忘年会で長話をするのは空気が読めていない。
 なので要点だけを抽出して素っ気無さを消し、それを以って乾杯の音頭とした。
 紫苑の声に追従するように乾杯の声が響き、忘年会が始まる。

『おうおう、流石金持ちだ。豪華なもんじゃねえか』

 会席膳に載せられた料理は食材は一級品だし手間もかかっているだけあってとても美味しそうだ。
 一人前お幾らなのか気になってしょうがない。

「しかし僕まで招いてもらって良かったのかい?」

 上座に座っているカマキリが少し申し訳なさそうに問う。
 上座に居るのは彼の他に紫苑と雲母、リーダーである紫苑を大人二人が挟む形になっている。
 本来は家主である栞も上座に居るべきなのだが、
そうすれば要らぬ諍いを起こす可能性もあるということでこの形となったのだ。

「鎌田さんと雲母には色々と便宜をはかって頂きましたからね」
「そうか……なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「(というかコイツ、よく大晦日に休めたな……)」

 ただでさえブラック臭が滲み出ていたので意外だった。
 紫苑としては今日も仕事で、
寂しいビルの中で一人カップラーメンを啜るカマキリを想像していたので期待外れも良いとこだ。

「そういやルドルフくん、ベアトリクスちゃんとの決闘はどうなったん?」

 ルドルフの心の準備もあり、行われたのは二十八日だったはずだ。
 とはいえ知っているのはそこまでで以降の情報は知らない。

「ん……まあ、その、何だ……お友達から始めることになった」

 戦うことで思いの丈は伝わった。
 しかし、これまで隔たっていた心の距離がある。
 まずはそれをどうこうしないことには始まらない。
 なので最初は友達から始めることになった。

「とりあえずベアトリクスも苦手なりに頑張ってコミュニケーションを取ることを約束してくれた」

 これまでのように見ているだけではない、歩み寄る形での始まり。
 恋が実るかどうかはともかくとして、この落としどころはそう悪いものではない。

「そか。で、ベアトリクスちゃんは今どうしてるん?」
「あれから一時帰国したよ。それで、改めて年明けにでも来日して大阪に住むそうだ」

 ルドルフの顔を見るにまだ苦手意識は完全には拭えていないようだ。
 それでも顔を見たら逃げ出すレベルではないらしい。

「それにしても忘年会とか、私初めてだわ」

 鯛の御造りを突付きながらアリスがポツリと漏らす。
 彼女の場合は両親が存命の時からそうだった。
 元々忙しいのもあったし、何より彼女に対して壁を作っていたから。

「まあ、これまでは大晦日だからと言っても特に何もして来なかったからな」

 ルークと二人になってからも特別祝いごとなんてものをしたことはない。
 彼からすればアリスが今こうやって誰かと一緒に年を越そうとしていることが嬉しくてしょうがなかった。

「へえ、じゃあ君らは今までどんな風に過してたのさ?」
「別に。何時もと変わらない普通の一日を過してたわよ」
「淡白」
「だねえ。確かに日本人じゃないけど生まれは日本なんだしさ。年越し蕎麦くらいは食べなかったの?」
「無いわね。年が明けても御参りになんかも行かなかったし」

 何とも味気ない日々を送って来たものだと天魔とアイリーンは呆れ返る。

『ちなみにお前はどうだったんだ?』
「(インスタントの年越し蕎麦喰って、年が明けたらクラスメイトと初詣に行ってたな)」

 紫苑もまたアリスと同じだ。
 祖父と暮らしていた時は大晦日には蟹やら何やらを食べていたが一人暮らしを始めてからはそれもない。
 質素倹約と言えば聞こえは良いが、コイツの場合はケチなだけ。
 ケチな紫苑は年が終わるからと言ってちょっと豪華になんて考えもしないのだ。

『味気ねえなぁ』
「(いや、味気無さで言えばアイツには負けるだろ)」
「? どうしたの紫苑ちゃん?」

 ここ数年の雲母の生活を考えれば自ずと答えは見えて来る。
 紫苑が出会った時と同じようなことを大晦日だろうと元旦だろうと繰り返していたのだろう。

「(イタタタタwwwイタイ人が居るよぉwww)いや、何でもないです」

 痛いのは笑えない不幸を大爆笑するコイツの方だ。

「そう? あ、これ美味しいわよ。食べる?」

 すっと天ぷらの乗った皿を差し出す雲母。

「いや、俺のもあるから大丈夫(ああでも、伊勢海老の天ぷらは貰っとこうかな?)」

 何故伊勢海老かというと高いから、繰り返すが高いからだ。
 味云々よりまず値段が出て来るのはどうかと思う。

「しかし、ありがとうな栞。こんな場を設けてくれて」
「ふふ……気にしないでください。ささ、一献どうぞ」

 近付いて来た栞が紫苑の盃に酒を注ぐ。
 それを見て他四人が目を光らせたのだがそんなものは無視だ。
 栞からすれば至極どうでもいいことでしかない。
 というかこれでは席を離した意味がない件について。

「よう姉ちゃん、ちょっと表出ろよ」
「道頓堀に沈めてあげましょうか栞お姉さん」
「浅ましい」
「言ってくれますね皆さん

 大晦日ぐらい大人しくしろと思うのだが、どだい無理な話だったのかもしれない。
 その後も笑えるんだか笑えないんだか盛り上がりを見せる宴。
 二十三時を超える頃には紫苑を除いて全員が全員とも潰れていた。

「(ふぅ……これだから低能は嫌いなんだ)」

 潰れてしまった全員を冷たく一瞥して紫苑は酒と盃を手に部屋の外に出る。

「(一人で飲む俺カッコ良くね?)」

 縁側に腰掛けて傍らに酒と盃を置く。
 月を眺めながら一人酒をする自分に酔いたいのだろう。
 流石その行動の総てが自分を演出するための男である、人目が無くてもまったくブレない。

『いや、俺様も居るだろうが』
「(お前は一人じゃなくて一匹だろうが)」
『ケケケ、まあ良いじゃねえか』
「(ん?)」

 ふと、酒を注ごうと右手で酒を掴もうとしたのだが……右手の感覚が無いのだ。
 ひょっとして京都での後遺症? そう不安になった紫苑だが、

『俺様が酌してやるよ』

 どうやら違ったらしい。
 カス蛇が紫苑の右手の制御を奪ったようだ。

「(お、おおおおおおお前!? お、俺を乗っ取るつもりか!?)」
『バーカ。そんな目的ならもっと早くやるさ。純粋に酌してやろうってだけさね』
「(ホントだな? 嘘じゃないな? 嘘吐きは地獄に堕ちるぞ?)」

 それを言うなら紫苑も地獄行きは間違い無しだ。
 しかし彼はこんな発言をしておいて自分は天国へ行けると信じて疑っていない。

『信じてるのかよ?』
「(信じてないけど無いとも言い切れねえしな。まあ良い、害意が無いなら特別に赦してやる)」

 注げ、と大上段からの物言いにカス蛇が苦笑を漏らす。

『フッ……ああ、そういや人間の詩にこんなのがあったっけ?』
「(あ?)」
『この盃を受けてくれ』

 紫苑の制御を離れた右手が酒を手にする。

『どうぞなみなみと注がせておくれ』

 盃に注がれる酒は透き通っており、月の光が良く映えていた。

『花に嵐のたとへもあるぞ』
「(――――さよならだけが人生だ、ってか?)」

 カス蛇の気障っぷりを嘲笑いながら盃を傾ける。
 喉に引っ掛かることもなく臓腑へと染み込む酒が冬の夜気で冷えた身体を温めていく。

『人間ってのは洒落た言い回しをするもんだ。なあ、そうだろ?
生きている限り別離は避けられない。だが、素っ気無く言い捨てるのも寂しいもんだ。
"さよならだけが人生だ"――これは良い。寂しさもあるが、それでも美しい』

 別離を知る人間だからこそ、生み出せた言葉なのだろう。
 カス蛇はこの詩を歌った者、それを訳した者に敬意を抱いている。

「(本格的に気持ち悪いなお前)」

 何処か寂しさを滲ませるカス蛇の言葉も紫苑の胸を打つことはない。
 つれない態度ではあるがカス蛇もコイツがこういう男なのは分かっている。
 薄汚くて、だってのに美しく見せようと見栄を張る。
 もうホントにどうしようもない、どうしようもないが――――それが愛しい。

「(ポエムるなら他所でやってどうぞ)」

 気が遠くなるくらい、長く長く時を重ねて来た。
 そんなカス蛇にとって春風紫苑との出会いは望外の幸運だった。
 もう二度と味わうことはないと思っていた感動とまた出会えた。
 カス蛇の人生――否、蛇生において真に彼の心を打ったことは二度しかない。
 その二度目こそが紫苑との出会いだ。

 出来ることならばずっとずっと傍で見ていたい。
 この愛しい輝きに永劫寄り添いたいと願っている。
 しかし、これより先訪れる時間の果てはカス蛇にもどうなるかは分からない。
 予測を立てることは出来るが……その通りならばやはり、最後の最期で別離は避けられない。

『良いじゃねえか。俺様もちっと酔ってんだ。語らせろよ』
「(きめぇwww)」

 そんな紫苑を無視してカス蛇はポツポツと取りとめのないことを語り続ける。
 これは本当に意味の無い時間だ。だけどもそれで良かった。

『始まれば、いずれ終わる……そう、そうなんだよ。当たり前のことだが、寂しいもんだぜ。
まあ、人間に別離を与える原因となった俺様が言えた義理じゃねえがなぁ。
ああでも……そうだな、うん、これで良かった気もする。
別離を与えたからこそ、俺様自身も更にその輝きの尊さを知ることが出来た』

 夢見る乙女のような、そんな甘い声色だった。
 カス蛇の言葉の裏にある凝縮された感情は如何なるものか。

『だから――――お前と出会えた。俺様とお前が出会ったのは、前も言ったが運命だ』
「(畜生……金持ちだからってこんな良い酒飲みやがってよぉ……)」

 紫苑は全然話を聞いていない。
 くっさい語りをしているカス蛇に付き合う気は毛頭無いのだ。

『俺様と紫苑も、始まり――出会った瞬間から終わりに向けて歩き出したわけだ。
すぐにとはならないが……まあ、ことが成ったら……俺様もお前にさよならを言う時が来るのかな?』
「(ツマミ持ってくれば良かった……でも取りに戻るのはカッコ悪いよなぁ……おいカッス、盃空だぞ)」

 徹頭徹尾我が我がでまったく話を聞かない紫苑。
 けれどもカス蛇は文句を言うこともなく、むしろ楽しそうに右手を操作して酒を注ぐ。

『それよりそろそろ日付が変わるんじゃねえか?』
「(んあ? あー……ホントだ。もう五十九分だよ)」
『じゃあ十秒前にカウントダウンしようぜカウントダウン!』

 楽しげなカス蛇だが紫苑はそこまでテンションが高くない。
 瞳を閉じて火照った身体を夜気で覚ましている真っ最中なのだ。

「(テメェ一人でやってろ)」

 十、

『ノリ悪いよなお前』

 九、

「(何で俺がお前にノってやらにゃならんのだ。無礼だぞ)」

 八、

『何処から目線だよお前』

 七、

「(一人称俺様に言われたくねえよバーカ!)」

 六、

『馬鹿って言う方が馬鹿なんだよバーカ!』

 五、

「(その論法で言うとお前もだがな。つか、何やってんだか俺らは……)」

 四、

『別に良いじゃねえか』

 三、

「(良くねえよ)」

 二、

『カカカ!』

 一、

「(何笑ってんだ!!)」

 零。

『これが笑わずに居られるかよ――――さあ、始まるぜ』

 零を数えると同時に紫苑の背後にある障子が勢い良く開け放たれた。
 中から出て来たのは鬼気迫る皆の顔。
 彼は皆、冷や汗を浮かべながら空を見ていた。
 何ごとかと思い紫苑も空を見上げると……。

「……何だ、あれは……? 孔……孔か?」

 空が剥がれ落ちるようにして形成された無数の孔。
 それは紛うことなくダンジョンに通じるそれであり、どんどん増えている。
 そしてその孔は日本だけで開いているわけではない。
 世界中で今この瞬間にも孔が開き続けているのだ。

『よぉ、またハブだったなぁお前』

 寝ていたはずの皆が本能に訴える異常に気付いて外に出て来た。
 しかし紫苑が異常に気付いたのは彼らが外に出て来てからだ。

「(う、ううううううるせえ! お、俺はコイツらより凄いからだ!!)」
『カカカ! まあ、間違っちゃいないがな』
「い、一体どうなっているんだ!? クソ、出てくれよ……!」

 動揺からいち早く立ち直ったのはギルドの職員であるカマキリだった。
 彼は即座に上の判断を仰ぐべく電話をかけた。

「(おいおい、マジでこれ何なんだ?)」
『最悪の年明けはこっからだぜ紫苑よぉ』

 言うや空に開いた孔が不吉な光を放ち――――異 形 の 雨 を 降 ら せ 始 め た。
 千か、万か、世界中ならばそれ以上の数かもしれない。
 降り注ぐモンスターの雨、それは地上に降り立つと同時に人を襲い始める。

「全員、迎撃だ!!(俺を護れ!)」

 突然のことに唖然としている面々に指示を飛ばす紫苑。
 当然ながら醍醐邸の庭園にもモンスターが降り注いだのだ。
 迎撃せねば危ない。

「了解! ワケが分からないけどボーっとしてる暇は無さそうだね!」
「デカブツルーク、あなたはここで紫苑お兄さんと麻衣お姉さんを護ってなさい!」
「兎に角目につく敵を倒す!」
「うむ、この状況ではそれが最善だろうな!!」
「何をするにもまずは目の前の敵ですね!」
「これがもしかして……いいえ、そんな場合じゃないわ」

 天魔、アリス、アイリーン、ルドルフ、栞、雲母、
前線で戦える面子が庭へ飛び出して目につくモンスターを片っ端から駆除し始める。

「な、なあ紫苑くん……こ、これ……い、一体何が起こっとるん?」
「さあな。だが、やるべきことは分かる。麻衣、冷静になれとは言わん。それでも自分の役目を忘れるな」

 癒し手である麻衣は継戦の要だ。
 彼女が動揺していれば万が一が起きた時、どうにもならなくなる。

「……ごめん、そやね。うん、分かった。大丈夫!」
「それで良い」

 街中から聞こえる阿鼻叫喚。
 そこにめでたい年明けの空気は無く、ただただ絶望だけが広がっていた。

「(とりあえず槍を召喚して……ん?)」

 紫苑が槍を召喚した瞬間だった、モンスターの視線が三色の光を放つ槍に注がれる。
 そして目の前の敵を放り出して一目散に紫苑目掛けて殺到。

「な!? ルーク!!」
「分かっている!!」

 六人の隙を突いて紫苑に襲い掛かったモンスターは総てルークに駆除された。
 守勢に長けている彼だからこその早業だ。
 六人は守備に問題が無いと判断するや、
更に攻勢を強めて醍醐邸に押し寄せていた数百の敵を十数分ほどで屠り終える。

「(ん? これチャンスじゃね?)鎌田さん!」

 混乱でまず何を言えば良いか分からず息を整えている面々より早くに紫苑が口を開く。

「な、何だ!?」
「どうやらこの槍でモンスターを釣れるらしい。
流石に大阪全域は無理だがこの近辺ぐらいなら問題無い。学校に誘導します」

 それだけで全員が全員紫苑の意図を察する。
 同時に戦いは終わっていないのだと再び集中力を研ぎ澄ます。

「なるべく早くに学校近辺の避難をさせてください……無論、可能ならば、ですが」

 何処もかしこも混乱の真っ只中。
 避難誘導なんて出来るかどうかは分からない。
 それでもポーズとして言っておく必要があるのだ。

「栞、何か足を用意してくれるか?」
「待って紫苑お兄さん。足って言っても車でしょう? 走れるとは限らないわ」

 だから、とアリスは前置きしてスカートをポンと叩いて鎧を纏った白馬の人形を出す。
 それはどんどん大きく膨らんで立派な巨躯を持つ牝馬へと。

「これなら雑魚ぐらいなら蹴散らせるし、速さも車に負けていないわ。操作だって兎と同じ要領だから簡単よ」

 これは元々アリスが広いダンジョンを探索する際の足に使うべく試作したものだった。

「すまない。皆、まだ戦えるな?」

 前で戦える面子が全員頷く。
 流石にこの一戦程度で限界が来るほどヤワな面子ではないのだ。

「なら皆は俺に並走して、敵を蹴散らしてくれ。だが、あくまで誘導だ。
本番は学校で。だから敵を倒すのは道を塞いでいる奴らだけで良い。麻衣は俺の後ろに乗ってくれ」
「わ、分かった!」
「よし。なら、全員行動開始!!」

 靴に履き、巨馬に跨った紫苑は麻衣がしっかりくっついているのを確認してから手綱を引く。
 彼の意思に呼応して醍醐邸の塀を飛び越えた凄まじい速度で駆け始める。

「(愚民共! 俺を見ろぉおおおおおおおおおお!)化け物共! これを見ろォ!!」

 惨劇の街を光る槍を掲げて白馬で疾走する。
 それはまるで英雄譚の一ページを見ているかのようだ。
 まあ、やってる男は英雄どころか小物AとかBとかそういう役どころの人間だが。

『おうおう、流石にこの段階まで来るとコイツらも槍が目障りなもんだって気付くようだなぁ』
「(あぁ!? 何言ってんだお前!? つーかこれやっぱ呪われた装備的なアレだったのか!?
畜生! もっと早く売り飛ばせば良かった! なあなあで使うんじゃなかった!!)」

 白馬に跨る英雄が引き連れている面子はどいつもコイツも他者の目を引く者ばかり。
 中身もアレなのが多いし、とんだブレーメンである。

「! 紫苑お兄さん危ない!!」

 真正面から飛来する鳥型のモンスター。
 直撃するかと思われたが、そうはならなかった。
 飛び上がったアリスが馬の頭に手を着きそこを支点に蹴りを放ったのだ。
 モンスターはその蹴りで顔面を潰されて絶命し道路に墜落する。

「すまん、アリス!」
「いいえ、気にしないで。それより何処まで行くの?」

 縦横無尽に街を駆け続けて数十分、もう誘導は十分かもしれない。
 というよりこれ以上引き連れるのは問題がある。
 まだ釣りをやるならば一旦釣った連中を片付けるべきだろう。

「よし(十分目立てたし)そろそろ学校へ向かう! 速度を上げるが大丈夫か!?」

 惨劇の最中でも目立って自分を飾ることは忘れない。
 それが人として正しいかどうかなんて論ずるまでもないだろう。

「問題無い」
「大丈夫さ。まだ、切り札だって残ってるしね」
「(ドサクサで死なんかなぁ……コイツら)」

 死んだ場合自分の命も危ないことに気付いているのだろうかこの馬鹿は。

「(気に入らんがまあ良い。行くぜハルカゼインパクト!! 俺の愛馬はイケメンです!!)」

 どっちかっていうとハルカゼウララの方が正しい気がする。

『しかし、今思ったんだが……餌としては活躍しても強化魔法で活躍は出来ねえんだなぁ』
「(やかましいわ!!)」

 立ち塞がる敵を蹴散らして学校のグラウンドへ突入する一同。
 すると、グラウンドの中には幾らかの教員と生徒の姿が。

「多分、鎌田さんが手配してくれたんでしょうね。ありがたいことです」
「桃鞍先生やヤクザ先生も居るじゃないか。あ、ハゲも居るよ」
「私達も負けていられんなぁ!!」

 紫苑がグラウンドの中央に辿り着くと、全員が彼を囲むように陣取った。
 どうやら槍の件もしっかり説明されているらしい。

「全員、聞いていると思うが敵はどういうわけかこの槍に釣られて来るらしい。
つまりはこれを持っている俺目掛けて敵は来る。皆はその迎撃を頼む!!」

 紫苑の言葉に雄叫びのような返事が返って来る。

「こうやって轡を並べて戦うのは久しぶりだな雲母! こんな異常事態でなければ嬉しかったんだがな!」
「ふふ、そうね。久しぶりに少女時分を思い出したわ!」

 5mはあろう巨大な鬼の拳を雲母が真横から斬り落とすとダメージにより硬直、
そしてその隙を逃すことなくモジョが飛び蹴りを放って敵の首を吹き飛ばす。
 降り注ぐ血雨の中を二人は息の合った連携で駆け抜けていく。

「(女王蟻の気分だぜぇ……死ぬまで働けよ働き蟻!)
麻衣、校舎の入り口付近で少し危なそうなのが居る。ルドルフ、麻衣を護衛して向かえ!」

 馬の上からだと戦場がよーく見渡せる。
 なので当然、誰が弱っているかも一目瞭然だ。

「分かった!」
「うむ、任されたぞ!!」

 馬上の麻衣を抱きかかえてモンスターを足場に指定された場所へ向かうルドルフ。

「アハハ、死体は有効活用させてもらうわよ」

 倒されたモンスターの死体を人形に変えて戦力を増強するアリス。
 その間、隙を晒すことになるわけだが、

「させません!!」

 栞が糸で編んだ防壁を出現させることで攻撃一つも通さない。

「しっかし、大乱戦じゃないか。元旦からとんだお祭り騒ぎだ!!」

 自分に迫っている攻撃を近場の敵を盾にすることで防御。
 数が多いのに統制が取れていない敵は格好の盾であり武器なのだ。

「正月なのに忙しい」

 一閃、二閃、槍が煌く度に複数の敵が命を散らしていく。
 周りに人が居るしフォローもしなければならないので、
個人としての全力は出せないものの、それでもアイリーンは強かった。

「(ふわぁ……あたし、何だか眠くなってきた)」

 ふ ざ け ろ よ テ メ ェ。
 誰もが頑張っている中でただ見ているだけの紫苑は本当にふざけていた。

『カカカ! やることねえもんなぁ』

 カス蛇は知っていた。
 ここに居る敵を退けたところで紫苑が望み通りに眠れないことを。
 この状況は言うなればジャブのようなもので本番はこれから。
 何せ空から降って来たのは知能も有さない屑のようなもの。
 真に人間を滅ぼそうとしている連中はまだ姿を見せていない。

「(早く終わらねえかなぁ……)」

 その後も数が少なくなれば他所から引っ張って来て倒してを繰り返して数時間。
 粗方倒し尽くし紫苑の街が静かになる頃には既に三時を回っていた。
 校庭では消耗激しい前衛の者らが座り込んで息を整えている。

「大丈夫か花形」
「お、おう……すまねえ」

 水が注がれたコップを受け取り口の中へ流し込むハゲ。
 紫苑を含めた後衛の人間は校舎の中からコップを持ち出して、
それに水を汲み消耗している人間に配って歩いているのだ。

「っかし……何なんだこりゃあ……?
家で家族とダラダラしてたってのによぉ……何でこんな数のモンスターが……」

 これまでも孔からモンスターが出て来ることはあったが、それでもごく偶に。
 これほどの数が現れたことなんて一度もなかった。
 しかも現れたのは遥か上空に開いた孔からだ。
 分からないことが多過ぎるとハゲは嘆息する。

「どうなっているんだかな……それより花形、(興味無いけど一応聞くが)お前の家族は無事か?」
「はは、心配してくれてありがとよ。だがまあ、町内に居た奴らはお前が連れてってくれたしな。
それに、町内の冒険者が避難誘導してから大丈夫さ。だからここに来れたんだ」
「そうか。それは(どうでも)良かった」

 柔らかな笑みを浮かべて今度は別の人間に水を配り始める。
 さて、そんな取り繕った外面はともかくとして……。

「(おいカス蛇。テメェ、何か知ってやがるな?)」

 ちょこちょこ意味深なことを言っていたカス蛇。
 紫苑もこの状況になると暢気では居られないのでようやく追求する気になったようだ。
 もっと早くにカス蛇の発言を拾って追及しておけというのは酷な話だろう。
 だってこの男は調子に乗りやすく、
目の前に危機が無いと増長して足下がお留守になってしまうのだから。

『ああ……そりゃまあ、色々知ってるぜ?』
「(最近は聞いてなかったけど、記憶の方も……)」
『とっくに戻ってるさ』

 しれっと悪びれることなく言ってのけたカス蛇に紫苑大激怒。
 自分は隠しごとをするのは良いが他人がするのは赦せないのだ。

「(隠しごととか最低だなお前!!)」
『それをお前が……ああ良いや。どうせ得意の棚上げだもんな』
「(おいコラ、今すぐ全部話せ!!)」
『まあ待てよ。ほら、そろそろのようだぜ。周りを見てみな』
「(あ゛?)」

 苛立ちながらも周囲を見渡すと、全員の顔色が良くない。
 それは疲労などではない、何せ後衛の人間まで同じなのだから。

「あ、あれ……? 僕、何で震えて……」
「クッ……! 力が入らん……」
「(何が起こってるんだ?)」

 校庭に居る面子は紫苑を除き、皆、苦しそうな顔で地面を見ている。
 まるで天に居る者を恐れて目を伏せているようだ。

『空を見てみな』

 言われて見上げると開いていた孔は総て消え失せ、変わりにおかしなものが見える。
 空をスクリーン代わりにしたように映る像はどれもこれも化け物ばかり。
 四目六臂の牛の頭を持った化け物、五つの顔を持つ猿の化け物、八つ首の蛇。
 そんな禍々しいものから神々しさを感じさせる女や天使のようなものまで、
次々と空に浮かび上がるそれらに地に伏す人々は己の罪を想起させられていた。

『なぁに案ずるな。見えているのは影だけ。奴らは実際にゃあ、まだこの世界に来れないからなぁ』
「(あのモンスター共を知ってるのか?)」
『ククク……』

 紫苑の問いには答えず、カス蛇は楽しそうに笑う。

『人はなぁ、生まれながらに罪を背負っている。いわゆる原罪ってやつよ。
しかぁし……ある時を境にして、人はもう一つばかり原罪を背負っちまった。
そのある時以前には無かった、以降に生まれた人間総てが背負ってる罪だ。
そう……あれは誰だったかな? そうそう、ニーチェだ。
神は死んだ! 神は死んだままだ! そして我々が殺したのだ! 上手いこと言ったもんだなぁ』

 これまで空に映っていたものが消え失せ、一際巨大なそれが現れる。
 三十六対の翼を持ち、総ての人間の罪を見逃さぬとばかりある無数の目を持つ天使。
 その天使は世界中の何処からでも見えるだろう。
 しかし、その天使が見ているのは極東の島国のある地域に居るある少年――春風紫苑だった。

『カカカ――――そうら、殺された連中がみっともねえ怨み節を謳ってくれるようだぜぇ!!』
次の話はいつもより長めになっています。
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