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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

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俺を待たせるとかマジ万死

 昨日で地獄の四人抜きを終え、今日は月曜日だというのに晴れ晴れとした気分だった。
 表面上は何時もと変わらないものの内心では浮かれまくり。
 放課後になった今でも気分上々(↑)である。

『つかさぁ、今日も遊びに行かなきゃならねえのにご機嫌だなお前』
「(あん? それでも今日はルドルフと麻衣の二人でデートじゃない。
最後の最後に特級の罰ゲームが無いだけ遥かにマシだっつの)」

 確かに今日の遊びもお金は総て紫苑持ちで、そこに思うことがないわけでもない。
 だが、デートの終わりに精神的拷問を受けないだけかーなーりマシなのだ。

「(しかしまだ終わらんのかアイツら……)」

 遊びに行くはずなのに今紫苑は屋上で一人。
 それは何故かというと委員会活動で二人が遅れているからだ。

『それよりさぁ、今日は何処行くんだ?』
「(あ? ルドルフの希望でまずはゲーセンだ。前に行ってから随分嵌ったらしい。
麻衣もゲーセンとかは割りと行くらしいからな、不満もないだろ。
そっからは飯食ったりテキトーに店冷やかしたりするよ……俺の金で)」

 そう吐き捨てると同時に屋上の扉が開き、ルドルフがやって来る。

「待たせたな。やれやれ、美化委員というのも大変だ」
「いや良いさ。それより何やって来たんだ?」
「ん? ああ。学校に花を植えようということでな。花壇作ったりとか色々していた。しかし麻衣はまだか?」
「(見りゃ分かんだろボケ)ああ」
「つまり、男同士の会話が出来るというわけだな」

 悪戯めかした笑顔が浮かぶ。
 ルドルフのこういう稚気に満ちた顔を見る度に紫苑は苛々を募らせているのだが知ったことではない。

「で、どうなのだ?」
「……どう、とは?」

 ルドルフが言わんとしていることは分かる。
 しかし紫苑からすればわざわざトラウマを掘り返すようなもので気分が良くない。
 なのですっとぼけたかったのだがルドルフはそれを赦してくれない。

「――――抱いたのだろう? いや、どちらかというと抱かれたという感じか?」

 ルドルフの指摘はこの上なく正しい。
 紫苑の意思が介在しないのでぶっちゃけ【ピー!】されたようなものだ。

「……下世話だぞ」

 咎めるような物言いだが一番下世話なのはこの男である。

「まあ良いではないか。で、どうなのだ? 全員と付き合うとかそういうことになったのか?」
「いや……責任を取ることさえ出来なかった」

 ぽつぽつと事情を語る紫苑。
 話を聞いているルドルフはうんうんと頷き時折笑みを浮かべていた。

「成るほど、天魔らしいな。フェアではない……そしてそれは他の者らも同じ、か」
「男の俺としては少し――いや、かなり困るんだがな」
「良いではないか。惚れた方が負けとは言うが男も少しは苦労せねばな」
「(他人事だと思って好き勝手……!)」

 実際他人事なのでしょうがない。
 ルドルフからすれば紫苑が何処の誰と寝ようとも関係ないのだ。

「友に一歩先を行かれてしまったなぁ」
「……そういうお前も婚約者が居るんじゃなかったか?」
「私は認めていないし、何よりアレも私を好いているのかよく分からんのでノーカンだ」

 ルドルフも別に性欲が無いわけでもないが、
ひたすらじーっと自分を見ているような女に興奮するほどおかしくはないのだ。
 幾ら美人であろうともそんなのには萌えない。

「ちなみに紫苑よ。複数の女性とそうなったことについてどう思う?」
「……自分がダメな男だと思うし、同時にここまで愛されていたのかと驚いて……戸惑ってる」
「ま、そうだろうな。卿は恋愛方面には頭が回らんようだし」
「うるさい」
「ハッハッハ! 良いではないか良いではないか!」

 悪代官のような口調だが爽やか過ぎて何か癪に障る。

「まあだが、それだけ愛されていると分かったのならば――――」
「無茶は控えろってか?」
「もしくは、無茶をする時は私にも一口噛ませろ、だな」
「(だったら神便鬼毒酒でダウンしてんじゃねえよタコが!!)俺だって好んで無茶をしているわけじゃない」
「フフフ……それより最初はゲーセンだろう? 私、格闘ゲームというのに興味があるのだが……」

 ルドルフのスペックならば小足見てから昇●だって余裕だろう。
 まあ、筐体がその反応速度について行けるかは不明だが。

「あー……格ゲーは俺もあまりやらないんだよなぁ」
「では二人揃って初体験と洒落込むか」
「それ何か違う。それに俺は初体験ではない。あくまで経験が少ないだけだ」
「後他にもガンシューだったか? それもやりたい」
「……ゾンビではないけどモンスターなら結構な頻度で倒してるじゃないか」

 ゲーム談義が白熱し掛けたところでようやく最後の一人が現れる。
 若干息を切らせているところを見るに急いで来たらしい。

「ごめんごめん、お待たせ。ほなら行こか」
「休まなくても良いのか?(俺を待たせるとかマジ万死)」

 ちょっと待たされたくらいで万死とか言う男はマジ万死だわ。

「時間勿体ないやん!」
「そうか……まあ、麻衣がそういうなら分かった。それで、何処のゲーセンに行くんだ?」

 商店街なんかにもゲーセンはあるが、
筐体の多様さを望むのならばここらでは不足だろう。

「私は二人に任せるぞ」
「市内まで出ればそこそこの店もあるが……」
「ああ、そこまで行かんでもええとこあるよ。こっから二駅くらいのとこにある店めっちゃええんよ」
「二駅……知らないな。なら、麻衣に案内を頼むよ」
「おしゃ、任せとき!」

 三人揃って屋上を出る。
 パッと見イケメン二人を侍らせ両手に花の麻衣に、
校内ですれ違った女生徒などが羨望の視線を向けていたが彼女はまるで気付いていない。
 加えて言うならルドルフも、気付いていたのは紫苑だけだ。

「(鈍感ってのは良い御身分ですわねえ……)」

 鋭過ぎるのも面倒なので何ごともほどほどが一番ということだろう。
 紫苑は鋭過ぎるがゆえに最適の立ち振る舞いをせざるを得ない。
 その結果として自らの選択を狭めているのだから馬鹿そのものだ。
 勿論本人だって気付いていないわけではない。
 だが、それ以上に人に良く見られたいと思ってしまうのだ。
 他人に良く見られたいというのは大なり小なり誰もが思うことだが、
誰も紫苑のように狂気の領域で思うことはない、だから彼は誰をも騙せてしまう。

「(……しかし初めて来るなここは)」

 目的の駅に降り立った紫苑は麻衣の後ろをテクテクと着いて行く。

『そう遠くない場所なのにか?』
「(近いからこそ、だ。
買い物でも近くでこと足りるし、足りなければ難波とかの大きい街に行くからな)」

 一体全体どうやって麻衣がここにあるゲーセンを見つけたのか少しばかり気になる。
 まあ、大したことのない疑問なので問う気は欠片もないが。

「っと、ここよここ」

 麻衣が立ち止まったのはそこそこ大きな三階建てのビルの前。
 どうやらこのビル総てがゲームセンターらしい。

「看板見た感じ、系列店とかってわけじゃなさそうだな」

 店名が書かれた看板は紫苑の知っている会社のものではなかった。

「うん。個人経営の店なんよ。でも品揃えは半端ないで?
メジャーなんからマイナーまで、それも何百年前のやつとかもあるんよ。さ、入ろ」

 促されるままに紫苑とルドルフが足を踏み入れる。
 ゲーセンらしい音と光の空間に一瞬圧倒されるもののルドルフはすぐにワクワクを止められなくなったようで、

「格闘ゲームは何処だ!?」

 と目を輝かせ始めた。
 それを紫苑が冷ややかな目で見つめているのが誰も気付いていない。

「まあまあ。その前にカード買わな」
「カード?」
「そ。ここはプレイする度に硬貨入れるんやなくて専用のカード買うんよ。
千円分とか二千円分、後は一日フリーパスみたいなんかな」
「へえ……変わってるな。じゃあ、三人分買って来るよ」

 少し離れた場所にあるカード発行用のマシーンに指定金額を入れて三枚のカードを発行。
 ケチだと思われたくないので無論フリーパスだ。
 一枚でも学生が一日に使うにしては大きい金額だったがここは我慢。
 金が減るのも嫌だが他人にケチだと思われるのも嫌なのだ。

「ごちんなります! ほなら、まずはルドルフくんの希望通り格ゲーコーナー行こか」

 連れて来られた格ゲーコーナーでは、
如何にもな熟練者が残像を出す勢いでゲームをプレイしていた。
 彼らは一体幾らぐらい格闘ゲームにお金をつぎ込んだのだろう?

「最新のんはちょい混んどるからレトロゲー行こか。ほらこれとか面白ない?」

 麻衣が指差す筐体に張られたポップには、
二十世紀の大人気格闘ゲーム! 総てはここから始まった! などと書かれている。

「ふむ、よしでは早速プレイしてみようか。紫苑、対戦するぞ」
「ああ」

 対面の台に座った紫苑はカードを入れてゲームを始める。
 映像からして古臭く、それがまた逆に新鮮だった。

『よう、どのキャラ選ぶんだ?』
「(赤ハチマキの白い胴着の男が初心者キャラっぽいが……)」

 どうせフリーパスを持っているのだ。
 何回でもプレイ出来るのだから使い易いキャラよりパッと見で気に入ったキャラを使う方が良い。

「(よし、この仮面で鉄の爪を着けた奴でいこう。何かイケメンっぽいしな)」
『如何にもな悪役っぽくもあるがな』

 決定ボタンを押すとすぐに戦闘画面へと移行する。
 ルドルフが選んだのは赤い隈取をした相撲取りのキャラ――チョイスが渋過ぎる。

「(えーっと、技は……っと)」

 筐体の端に書かれてあるコマンドを見ながら戦いを始める。
 最初は両者共に操作になれようとするため本格的には打ち合わなかったが、
画面上にあるタイマーが残り三十秒を切ったところで紫苑が仕掛けた。
 壁に張り付いた仮面男が勢い良く空中から飛び掛り両手の爪で相撲取りを切り裂こうとするが、

「(躱された!?)」

 相撲取りは紙一重でそれを回避し、仮面男の技をスカらせる。
 一瞬硬直した仮面男に次はこっちの番だとばかりに無数の張り手が叩き込まれた。

「(クソクソクソクソ……! このゲーム絶対おかしいよ! 何か俺にだけ不利に働くバグがあると見た!)」

 そ ん な バ グ が あ っ て た ま る か。
 その後も打ち合い続けるが紫苑は敵の体力を半分も削り切ることなくやられてしまう。
 やられたのが相撲取りというイケメンの対極に居る存在(偏見)ゆえにより屈辱が増す。

「フハハハハ! 何だこれ、面白いな! 凄いぞスモウレスラー!
HARITE☆ があれば何でも出来そうだ! ウハハハハハ!!」

 筐体の向こうから聞こえるルドルフの笑い声が紫苑の屈辱を更に煽る。
 無論、ルドルフは純粋にゲームを楽しんでいるだけで紫苑を馬鹿にするつもりなどないのだが。

「ルドルフ、もう一回勝負良いか?」
「ああ、何度でも受けて立つぞ」

 そうして再び同じキャラでリベンジを仕掛けるが――あっさり返り討ち。
 そもそもからしてルドルフの反応速度は尋常ではないのだ、勝てるわけがない。
 しかし悔しいものは悔しい。
 その後も何度か続け敗北が十回を数えた辺りで紫苑は席を立った。

「ルドルフ、麻衣、俺は別のゲームもプレイして来るよ」
「うむ! 私はもうしばしここで遊んで居るので気が向いたらまた来ると良い」

 ルドルフの言葉にひらひらと手を振ることで答えた紫苑はそのまま別のコーナーへと去って行く。
 麻衣もそうしようと思ったのだが、

「ああ、麻衣は少し待て。ちと話がある」
「うちに?」

 キョトンとする麻衣にルドルフが小さな苦笑を浮かべる。
 この気配り屋には少々強引であろうとも背を押してやらねばならないのだ。

「ああ――――卿、紫苑に惚れてるだろう」
「ぶっふぉっ……!?」

 麻衣が噴き出した唾はルドルフに全弾命中するかと思われたが、
彼は咄嗟に足下に置いてあった鞄を盾にすることでそれを防いだ。
 何というか実に無駄な身体能力の発揮である。

「な、何言うてんねん……」

 顔を赤くして胸を押さえる麻衣、態度から見ても一目瞭然だ。

「常に一歩引いてフォローに回っている卿だからな。
まあ、他の者らも気付いておらんだろうよ。
天魔や栞も他に熱烈なアプローチをする女達にばかり目が行ってるようだし」

 淡々と言葉を紡ぎ出すルドルフ、
彼もまた麻衣と同じように一歩引いた位置で馬鹿騒ぎを見ているから気付いたのだ。
 桝谷麻衣が抱く淡い恋心に。

「まあ、同じように紫苑に惚れてる者らは強烈だからなぁ。
想いの深度が尋常じゃない――というかぶっちゃけ怖い、モンスターより怖い」

 酷い言い草だが事実は事実なので麻衣も苦笑しか返せない。

「それほど強く想っている者らが居るから、引け目を感じているのだろう?」
「……まあ、せやね」

 あくまで麻衣のそれは、多分私は彼が好きなんだろうな……程度のものだ。
 他の面子のように誰憚ることもなく想いを謳い上げられるほどではない。
 ゆえに、あれだけ強く好きだという人間に申し訳なく思い身を引くのが正しいはずだと麻衣は考えている。

「だから彼の者らのように一対一のデートに誘えなかった」
「うん……」

 画面から目を離さずに話を続けるのはルドルフなりの気遣いだった。
 多分、麻衣は今の自分の顔を見られたくないだろうから。

「これはまあ……あくまで私の考えなんだがな?
強い想い、自分よりも世界よりも誰かを愛せる――それは素敵なことだろう。
だが、淡い想いを持つ者が強い想いを持つ者に引け目を感じるのは少し違うと思うのだ」

 恋愛に正解なんてものは無い。
 どんな意見も等しく正解であり不正解なのだ。
 ルドルフは恋をした経験こそ無いものの、そこらはしっかりと弁えている。

「誰かを好きだと思う気持ちは他人に否定出来るものではない。
否定するのは何時だって自分で……ようは諦めるかどうかが肝心だと思うのだ。
諦めるというならそれでも良い、潔く身を引くのも悪くない。
しかし、心の何処かに諦めたくないという気持ちがあって、
想いを捨てられないのならば戦うべきではなかろうか?
と言っても天魔やアリスのように物理的に恋敵を排除しようとかそういうものではないぞ?」

 むしろ物理的に恋敵を排除しようとするような輩こそが世間一般からすればマイノリティである。
 少なくともアレらが乙女のスタンダードなどと人類として認めるわけにはいかない。

「戦うというのは好いた相手と裸の己で向き合うことだ」

 その論法で言うならば紫苑は一度たりとも戦っていない。
 常に敵前逃亡と言えるだろう、もう何ていうか心底情けない。

「紫苑はあの四人を抱いた――否、抱かれたぞ。
なあ麻衣、どうだ? 卿はここで諦めるのか否か……どうなのだ?」

 その問いは麻衣の胸に深く突き刺さった。
 ああ、分かっている。天魔、アイリーン、アリス、栞の様子が違うことに。
 そう――言うなれば以前よりとても綺麗になっている。
 そしてそれは紫苑も同じ。元々大人びていたが最近は更に大人びて見える。
 麻衣がその理由に気付いた時に去来した感情は――――

「……無理、かな」

 羨ましかった。
 そのまま付き合うというわけではないのだろう。
 天魔らが考えていることは言葉にせずとも麻衣にも分かっていた。
 羨ましいのは真っ直ぐに想いをぶつけて大好きな人と肌を重ねたという事実。

「そうか……ならばもう何も言うまい。やるべきことを、したいことをするが良い。
まあアレだ。他の面子のように無理に頑張らなくても良いと思うぞ。あくまで自分のペースでな」

 デートしてそのまま押し倒せ! なんて普通の女の子に言うのは酷だしセクハラだ。
 ゆえにルドルフは自分のペースで頑張れとエールを贈った。

「あはは……うん。うちも……流石に一足飛びどころか棒高跳びレベルは無理やわ」
「だろう? 私はアーケードをクリアしたら帰るから、後はゆっくり楽しめ」
「え……でもそれは流石に……」
「なぁに、この店を教えてもらっただけで収穫はあった。気にするな。
紫苑にはアレだ、私は用事が出来たので帰ったということにすると良い」

 そう言って爽やかな笑みを浮かべるルドルフ――これが真のイケメンだ。
 紫苑のような似非とつけるのもおこがましいようなのとは違う本物である。

「そら、さっき紫苑は二階に上がって行ったから追うと良いぞ」
「――――うん! ありがとな」

 背中を押してくれてありがとう、勇気をくれてありがとう。
 感謝の気持ちはルドルフにも確かに伝わっていた。
 麻衣は振り返ることなく彼の傍を離れて二階を目指す。
 その途上で格ゲーコーナーを見つめる
銀髪翠眼の現実離れした美貌の少女とすれ違ったが今の麻衣の目には入らなかった。

「あ、おった」

 二階に上がるとレトロなメダルゲーに精を出している紫苑を発見する。
 その顔はえらく真剣で、それがどうにも面白くて麻衣は小さく笑みを漏らした。

「(俺の類稀なる眼力によるとだな。
二回あいこが続いた場合、次に来るのはチョキだ。これはほぼ間違いない!
これまで負け続けながらもしっかり観察していたんだよ。つーわけで次はグーだぁああああああ!!)」
『おい、パー出たぞパー』
「(きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!)」

 独自の理論を編み出してもそれが正しいとは限らないの典型である。
 というかジャンケンゲーム如きにここまで真剣になる高校生は如何なものか。

「(いや待て。分かったぞ、これは罠だったんだ!
二回あいこのパターンでチョキが来ると印象付けた後を狙ってのパー!
何て狡猾なんだこのゲームの思考ルーチンは……! 俺ともあろう人間が騙されたぜ!)」
『……狡猾も何もこれ、20世紀のレトロゲーだろ? そこまで大した思考ルーチンじゃないと思うんだが……』
「(シャラァップ! 絶対これ中身は現代用に改修されてるよ!)」

 そんなことをして何の意味があるのか。

「真剣にやっとるなぁ……普段のギャップもあるから……うん、何か可愛い」

 ちょっとばかり和んだ麻衣はもう少しその様子を眺めることに決める。
 ゲームなんかあまりしなさそうな紫苑が熱中している姿を見ているのが楽しいのだ。

『なあなあ、ちょっと俺様にやらせろよ』
「(ケッ、下等な爬虫類如きがこの高度な読み合いに勝てるかよ!)」

 まるで自分が高等な存在であるかのような物言いだ。

『まあ良いじゃん。ほら、グーだグー』
「(チッ、しゃあねえな。どうせ負けるよお前は)」

 グーボタンをプッシュすると軽快な音楽が流れ、

『お、勝った』
「(何でじゃぁあああああああああああああああああああああ!
おかしいやろがい! 何で俺は負け続けてんのにこのクソ蛇は勝つんだよ!?
俺以外の森羅万象あらゆる一切が敗者じゃないとかこの宇宙どうなってんだ!?)」

 ジャンケンゲームに勝てないくらいで宇宙にまで文句を言うのはこの男くらいだろう。

「(いや待て、所詮はマグレだマグレ。おいカッス、もう一回やってみろ)」
『えー……良いよ。じゃあ次チョキなチョキ』

 言われるがままにチョキボタンをプッシュすると――――またもや勝利。
 いやいやこれも偶然、そう思ってもう一回やらせてもまた勝利。
 三回連続でカッスは勝利を収めたのだ。

「(……これクソゲーだわ。爬虫類に媚びるゲームとか人間様用じゃないね。
高等な生物である人間様が爬虫類レベルまで馬鹿になるなんて不可能だし!)」

 負け犬の遠吠えという言葉をここまで分かりやすく体現する男もそうはおるまい。

『カカカ、俺様のLUCK値は半端じゃねえのよ。蛇って縁起物だしな!』
「(そういや蛇の皮を財布に入れとくと金持ちになれるんだっけ?)」

 さあ別のゲームで遊ぼうと我に返った紫苑の瞳に麻衣の姿が映った。
 彼女はヒラヒラと小さく手を振りながら笑っている。

「どうしたんだ麻衣?」
「あー……えっと、うちも二階のゲームやろかなって」
「そうか。あ、ルドルフは?」
「ルドルフくんは何や用事出来たから帰る言うてたわ」

 それは真実ではない、紫苑は即座に看破した。
 視線や僅かな表情の動き、声の抑揚などで嘘を感じ取ったのだ。

「(ははぁん……読めたぞ)」
『解説御願いします』
「(麻衣、この女俺に惚れてるじゃん? でもメンヘラ共に押されて遠慮してたじゃん?
多分あの馬鹿金髪も気付いてたじゃん? いけ好かないあの野郎は偽善を発揮するじゃん?
麻衣の背中押すじゃん? 頑張れって言うじゃん? それでコイツはここに来たんじゃん?
ルドルフのアホは大方気障ったらしいこと言って帰ったんじゃん?
紫苑には用事が出来たとでも伝えてくれとか言ったんじゃん?)」
『何だろ、その口調がウザ過ぎて内容が頭に入ってこねえや』

 うんざりしたような声色のカッス。
 こんな気分になるぐらいならば聞くんじゃなかったと絶賛後悔中である。

「そうか……なら、アイツへの埋め合わせは今度またするとしよう。麻衣は俺と二人でも大丈夫か?」

 ここで空気を読めないフリして帰るのも一つの手だが、
それで評価が下がってしまうのは耐えられないので灰色の質問を投げた。

「う、うん! うちはまだまだ大丈夫!」

 ほんのり頬を赤らめながらグっとポーズを作る麻衣。
 このまま帰らずに済んで嬉しいようだ。

「良かった。じゃあそうだな、折角だし麻衣が何時もやってるゲームとか教えてくれ」
「うちが? せやねえ、基本何でもやるけどレースゲームは絶対やるな。ちょっとやってみる?」
「ああ」
「ほなら丁度ええわ、この階にあるしな。行こ!」

 麻衣は紫苑の手を取って駆け出す。
 ほんのりと汗ばんでいるのは好きな人と手を繋いでいるという事実に緊張しているからだろう。

「バイクか……好きなのか、こういうの?」
「うん。何やカッコ良くない?
これ教習所とかでも使われとるシュミレーターの技術も使われとるからめちゃリアルなんよ」
「ほう……じゃあ軽く一勝負といくか」
「えへへ、手加減せえへんよ?」

 経験で勝っていようとも所詮は女、
男で尚且つ割と何でもこなせるイケメンの自分が負けるわけがない。
 そんな差別的発想で勝負を挑む紫苑だが無論結果は敗北、三度やって三度負け。
 その後も対戦ゲーなどで勝負するがダンスゲームもガンシューでも負け負け負け。
 運動神経自体は紫苑が上でも経験とセンスで麻衣が上回っており惜しいところまで行っても負け。
 一体この男は日に何度負けるつもりなのだろうか?

「やー、一人で遊ぶのんもええけど、やっぱ誰かと一緒のが何倍も楽しいな!」

 ゲーセンを出る頃には外はすっかり暗くなっていた。
 これから夕飯なのだが紫苑も麻衣もそこまで空腹ではない。
 なので軽く散歩でもしてからということになり二人は特に目的もなく街を歩いていた。

「それは良かった。楽しんでくれたのなら幸いだよ」
「……紫苑くんは、うちと一緒で楽しかった?」

 その問いの裏には少しばかりの不安が滲んでいた。
 正直に言うのならば楽しくなかったの一択なのだが紫苑はそれを選ぶことが出来ない。

「ああ、楽しかった。ま、手加減してくれなかったのはちょっとばかり悲しかったがな」

 冗談めかした物言いと小さな笑顔に麻衣の不安は跡形もなく消え去った。

「手ぇ抜いたら手ぇ抜いたで、ちょっと不満に思うんやない?」
「かもな。次やる時は勝てるように、時間がある時にでも練習しに来るかな」
「あはは、そう簡単には勝たせへんよ」

 そんな青春臭い会話を繰り広げていると駅前広場に辿り着く。
 季節は冬で今月はクリスマスがあるということで駅前は煌びやかなイルミネーションで彩られていた。

「わぁ……綺麗やなぁ……」
『君の方が綺麗とか言わねえの?』

 麻衣の言葉に頷くだけだった紫苑を見てカッスが小首を傾げる。

「(バーカ。そういうのはタイミングを見誤れば薄ら寒いだけなんだよ。
適切なタイミングで適切な言い換えをして吐かなきゃダメなのさ)」
『じゃあこういう時はどうすんのさ?』
「(柔らかな表情で黙ったままイルミネーションを眺めているだけで良い。
ま、他の女ならまた別かもだが……麻衣の場合はそれで問題ない。
しばらくはこのまま沈黙の時間が続いて次にコイツが話題を振って来るのを待てば良い)」

 二人はしばしの間黙ってイルミネーションを見つめていたが、
紫苑が予想したように最初に沈黙を破ったのは麻衣だった。

「なあ、紫苑くんはクリスマスとかどう過してたん?」
「クリスマスかぁ……うーん……父さんと母さんが生きてた頃はパーティをしてたが……」

 祖父と二人きりになってからはそういうこともなかった。
 プレゼントという名の臨時お小遣いは貰ったがその程度だ。

「一人暮らしを始めてからは……イブには友達と過すこともあったが……。
二十五日は基本一人で、次の日に安くなったケーキを買うくらいか?」

 どうでも良い余談ではあるが紫苑は初めからサンタを信じていなかった。
 タダで子供にプレゼントを配る奇特な爺が居るなんてあり得ねえと決め付けていたからだ。

「ちなみに麻衣は?」
「うちは友達と過したり家族で過したりやねえ」

 良かったらクリスマス一緒に過しませんか?
 駄目元で言ってみるのも悪くないかもしれない。
 しかし麻衣にはそこまでの勇気がなかった。なので、

「……でも、そうやね。今年は紫苑くんと――皆とパーティしたいかな」

 これが精一杯。

「そうだな……それは楽しそうだ。賑やかなのは好きだよ。プレゼント交換なんてのも良いかもな」
「プレゼント交換かぁ。確かに楽しそうやな」
『ちなみにプレゼント交換するなら何を用意するん?』
「(無難に手袋とかマフラーで良いだろ。後はちょっと洒落た感じのでミニプラネタリウムとか?)」

 奇を衒ったプレゼントではその場限りの受けしか得られないのだ。
 その点実用品やちょっとしたインテリアになるものなら無難な評価を得ることが出来る。

「さて、少し寒くなって来たしお腹も良い具合だ。良さそうな店でも探そうか」

 差し出された紫苑の手を握る麻衣。
 積極的とは言えないけど、それでも今はこれで良いのだ。

「うん!」

 ゆっくりでも良い、大事なのは一歩でも良いから進むこと。
+注意+
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