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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

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眠りの森の屑

【京都】紅白の英雄 Part450【怪獣DIE決戦】

890 名前:女子更衣室の冒険者さん
   実際あの鬼って、何なんだろうな?ギルド側も完全に情報公開してないみたいだし

891 名前:女子更衣室の冒険者さん
   高校生二人にデスフラグを押し付けるブラック組織ギルド

892 名前:女子更衣室の冒険者さん
   霧の中ではあの二人以外の冒険者が動けないらしいけど・・・何かあるのかねえ・・・

893 名前:女子更衣室の冒険者さん
   選ばれし英雄的な?実際赤い方はともかく中二ハートを擽る白髪の方はなぁ

894 名前:女子更衣室の冒険者さん
   二人が京都入りしてすぐに助けられた人らテレビに出てたけど
   あの白髪くん死ぬつもりで僅かでも助けられたらって感じだったらしいな

895 名前:女子更衣室の冒険者さん
   そもそもミサイル効かないヤバイの相手によく戦おうと思えるわ
   あれって二人とも自主的に志願したんだろ?頭おかしいわ
   特にあの赤い子、マジで怖カワイイ!

896 名前:女子更衣室の冒険者さん
   男子高校生の方はそうとうなお人好しだったらしいからなぁ
   そりゃ報道の人間もインタビューする人間選んでるのかもだけど
   インタビュー受けた同級生の子ら軒並み春風くん褒めてるし

897 名前:女子更衣室の冒険者さん
   堅物、真面目、誠実、勤勉、絵に描いたような優等生らしいな
   つっても自分を削ってまでようやるわ、漫画に出て来るような奴だね

898 名前:女子更衣室の冒険者さん
   動画二つとも見たけど、最初あの子黒髪だったよな
   やっぱ白髪になってるのって「もう、これで終わっても良い・・・だから有りっ丈を・・・!」ってこと?

899 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>898
   何世紀前のネタだよ
   でも実際、ありゃやばいわ・・・マジで何かペナルティなきゃあんなこと出来ねえって
   チートとかそういうレベルじゃなかっただろ

900 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>898
   動画二つって何?一つはどっかのハッカーが京都駅前の監視カメラの映像
   ハックして流したやつだろ?男の子が避難誘導してる

901 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>900
   そっちとは別に紅白ペアと鬼の戦いを遠目で見てた奴が動画撮ってて
   それもネットに流れてんのよ。で、それがあり得ない
   例の春風くんが巨大な白蛇を操って鬼に噛み付かせたり、
   鬼の放った火炎を馬鹿でかい壁生み出して防いだり、
   剣の雨を降らせたりってね・・・音声は拾えてないけど、動画の中の彼、かなりキツそうだった

902 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>901
   女の子が鬼の首踏み潰した後だっけ?
   何か会話してたと思ったらいきなりとんでもない量の血ぃ吐き出してたっけ
   顔色も半端なく悪かったし、あれそのまま死ぬんじゃねって思ったわ
   報道では意識不明の重体ってなってるらしいけどさ
   キスしてたから毒って線も……って、する意味が無いわな。
   そっちより反動とかって線の方が有り得そう

903 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>898の「もう、これで終わっても良い・・・だから有りっ丈を・・・!」ってネタが
   ガチで笑えないレベルだと思う
   そりゃ今にも殺されそうって人間を見たら普通助けるだろうけどさ
   あそこまで体張ってって出来るかねえ・・・

904 名前:女子更衣室の冒険者さん
   高校生でも命懸けてるのにお前らと来たら・・・
   命懸けて現実と戦えよ!熱くなれよ!さあ、就職活動を始めるんだ!
   こんな時間からこんなとこ入り浸ってんな!

905 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>904
   おまいう

906 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>904
   うっせえ、こっちは依頼明けでオフなんだよ
   嫁さんに高校生と比較される俺の気持ちも察しろ!

907 名前:女子更衣室の冒険者さん
   >>904
   じゃあお前もとっととその醜い皮下脂肪と戦えよ
   鈍りきった体じゃ面接にも行けねえぜ!
   ってーかこの名前何とかならんのか
   女子更衣室というダンジョンで一体どんなお宝探してんだよ俺ら




 京都大虐殺より一週間、世間は未だ騒がしかった。
 ネットもテレビも新聞も、未だに京都大虐殺関連の新しい情報を発信し続けている。
 ギルド側が情報を限定的にしか明かさなかったのも一因だろう。
 下手に隠そうとすると暴き立てたくなるのが人間の性だ。
 ギルド側では名前を伏せていたのに紫苑の名が探り当てられてしまっている。
 報道でこそ実名は伏せているがネットの海では当然のように紫苑の名が語られていた。
 ちなみにカニは幾ら調べても情報が出て来ないらしく赤い少女などと呼ばれていたりする。

「……何処もかしこも英雄扱いだね」

 携帯の画面をスリープさせ、天魔がボソリと呟く。
 ここは学校の屋上で今は昼休み、
しかし彼女の陰鬱な空気にあてられたのか他の学生は誰一人としていない。

「僕は、英雄になんかなってほしくない。もっと自分を大切にして欲しいよ……」

 天魔達が病院でことの次第を聞いたのは総てが終わってからだった。
 彼らは即座に紫苑に会いに行こうとしたのだが面会謝絶。
 今は危険な状態だと言われて会うことすら叶わなかった。
 その翌日に四人は退院し学校にも復帰したのだが、未だに紫苑の容態は回復せず。
 科学医療だけでなく回復魔法を使っても一切癒すことが出来ないのだ。
 そのせいで今も危険な状態を行ったり来たりで見舞いに行っても顔を見ることすら出来ない。

「君しか出来ないからって、君がやらなきゃいけないってわけじゃないのに。
何で、何時も立ち向かうのさ。逃げたって良いじゃないか、逃げて……逃げてよぅ……」

 膝を抱えてそこに顔を埋める。
 くぐもった声は涙混じりで、不安と悲哀をこれでもかというほどに滲ませていた。

「僕、何て弱いんだ……あのダンジョンでもそう、今回のこともそう……」

 心の底から愛しているのに何もしてやることが出来ない。
 その事実がどんな痛みよりも重く深く天魔の心を突き刺す。
 力があれば助けになれるのに、力があれば痛い思いや苦しい思いをさせずに済むのに。
 普段こそ自分達が矢面に立っているが、
肝心なところでは何時だって紫苑が一番キツイ役目を担っている。
 リーダーだからと言えばそこまでだが、それで納得出来るわけがない。
 大切な仲間で、世界の誰よりも愛しい人なのだ。
 その人のために何かしてやりたいと思うのは当然のことだろう。

「怖いよ……紫苑くん……君が居なくなってしまうかもって思うと……」

 自分の無力に対する憎しみ、生きる意味そのものである紫苑を失う恐怖。
 ほの暗い感情が外道天魔という少女をどんどん侵食していく……。

「て、天魔ちゃん!!」

 暗い空気を打ち払うように屋上に飛び込んで来たのは麻衣だった。
 焦っているような、嬉しそうな、そんな表情をしている。

「麻衣ちゃん……?」
「し、紫苑くんにお見舞い出来るって! 危ない状況は抜けたらしいわ!
まだ意識は無いみたいやけど、顔を見るくらいならって……は、早く行こう!
栞ちゃんとルドルフくんがうちらの分も早退届け出してくれてるみたいやから!!」
「……そ、そうか。良かった……本当に良かった……ぐす……い、今すぐ行こう!」

 涙混じりのまま麻衣と共に屋上を飛び出した二人は校門でルドルフ、栞、
そして同じく早退したらしいアリスとルーク、アイリーンと合流する。
 栞が如何なる圧力を使ったのかパトカーを数台調達しており、
信号を無視して紫苑が居る病院へと急ぐ。

「君達も来たか」

 病院には既にカマキリと雲母の姿があった。

「か、鎌田! 紫苑は、紫苑は無事なのか!?」
「ああ……中には入れないが、外からは様子が見れる。行こう」

 二人の後を追ってICUの前に辿り着く。
 中には様々な器具を取り付けられて今も眠り続ける紫苑が居た。
 顔色は余り良くないが、どうにも死の気配が感じられない。
 確かに危ない状況は脱したようだった。

「お、お兄さん……ひっく……う、うぅ……良かった、生きてる……うわぁあああああん!!」
「うん、生きて、る。ちゃんと……生きてる……」

 アリスとアイリーンが抱き合ってその無事を喜ぶ。
 零れる涙を拭いもせず、ただただ喜ぶ。
 愛する人が生きていてくれた、これほど嬉しいことはないから。

「……紫苑くん、あんまり心配させないでよ。君が死んだら僕も死ぬよ?」
「も、もう……こないな時に物騒なこと言わんの!」
「……ああ、ようやく、ようやく少しだけ落ち着けました」

 心の底から安堵し、静かに泣く天魔と栞の二人を大泣きの麻衣が抱き締める。
 良かった、良かった、それしか言葉が見つからないのだ。

「当たり前だ、我が友がこんなことでくたばるものか!」
「……ルドルフ、涙声だぞお前」

 泣きながら満面の笑顔を浮かべるルドルフ。
 ルークも今この時は仏頂面を柔らかいものに変えて紫苑の無事を喜んでいた。

「何だか……私まで貰い泣きしちゃいそうだわ……ふふ、さっき泣いたばかりなのにねえ」

 喪失の痛みを誰よりも知っている雲母は、今日この日まで不安と恐怖の中に居た。
 少しでも気を抜けば絶望の闇に飲み込まれてしまいそうだった。
 だからこそ、紫苑の容態が安定したことを知ると人目も憚らずに安堵の涙を流した。

「はは……皆、酷い顔だよ。隈だらけじゃないか」

 瞳に涙を貯めたカマキリがそれを誤魔化すように口を開く。
 彼の言うように人形であるルーク以外は全員酷い隈を浮かべている。
 誰一人としてこの一週間、ロクに寝ていなかったのだろう。
 そしてそれは、

「ふふ、そういう鎌田さんも隈凄いで?」

 カマキリも同じだった。
 事後処理の忙しさだけではない、歳の離れた友人を心配していたからだ。
 ここに集った者達は皆、本気で紫苑の無事を祈っていた。
 だというのに当の本人からは欠片も情を抱かれていないのだから泣けて来る。
 諸行無常ってレベルじゃねーぞ。

「ち、違うよ! 僕のこれは……し、仕事が忙しかったからだ!!」

 照れてムキになり反論するカマキリだが、誰もそんなこと信じていない。
 その後も二十分ばかり良かった良かったと紫苑の無事を喜んでいたが、
全員が落ち着いたところでカマキリが話を切り出す。

「……君達にも詳しいことを話そうと思う」

 全員の顔が真剣なものに変わるのだが……。

「あの、そんな話をここでしてよろしいのでしょうか?」
「醍醐くんの疑問も尤もだけど――――離れたくないだろ? ここからさ」

 困ったように笑うカマキリ、確かにそれは皆の総意だった。
 無事が確かめられたとはいえ、まだまだここを離れる気にはなれないのだ。

「それにここはギルド系列の病院で、最低限の人払いも済んでる。
ここを通るのは事情を知る医師と看護士だけだ。話しても問題はないよ」
「そう……でもまあ、いざとなったら私が……」
「私が、何?」

 アリスの呟きを拾ったアイリーンが小首を傾げるが、アリスはガン無視だ。
 流石に堂々と洗脳するとは言うほど馬鹿じゃない。

「まず第一に知っておいて欲しい、
春風くんがこんな状態になったのは戦いで負ったダメージのせいじゃない。
いや、ある意味ではそうかもしれないが……それでも鬼に傷付けられたわけじゃないんだ。
彼の同行者も春風くんは終始無傷だと言っていたからね。
この中にもネットの動画を見た子が居るかもしれない。なら、分かるだろ?
決着が着いた時だって、春風くんの身体には傷一つなかった」

 殴られたら痛いし殴られた部位が傷付くだろう。
 病に侵されれば内蔵が弱ることもあるだろう。
 殴られてもいないし病でもないのに身体が急に痛むのはおかしいことである。
 そしてそのおかしいことが今の紫苑には起きているのだ。

「今の春風くんは全身の筋肉が断裂してたり、あちこちの骨が折れていたり、
内臓系がボロボロだったりする――――だが理由が分からないんだ」

 甚大なダメージを負うからには何某かの理由があってしかるべき。
 しかしその理由が紫苑には存在していない。

「勿論、原因らしきものは推測出来る」
「……例の神便鬼毒酒の霧だな」
「ああそうだジンネマンくん。しかし、しかしだ。具体的に何がどうなったかが分からない」

 酒を飲んだ結果どのような因果関係の下に傷を負ったかが分からない。
 そもそもからして神便鬼毒酒は成分上、ただの酒でしかないのだ。
 見えない部分に働きかけている何かを知る術は何処にも無い。

「回復魔法は通じないし、通常の治療も効いているかどうか分からない。
それでも、徐々に回復の兆しは見せているんだが……やはり油断は出来ないだろう」
「あの、アムリタ飲ませたらあかんの?」

 万能の霊薬アムリタ、あれならばと提案する麻衣だったが……。

「駄目よ麻衣ちゃん。
あなた達は神便鬼毒酒とアムリタの組み合わせで他の人より酷い状態になったんだもの」

 アムリタを飲ませるというのは今回の事態に限っては博打のようなものだ。
 それで大事な我が子を死なせるわけにはいかないと雲母は悲しそうに首を横に振る。

「神便鬼毒酒について、何か新しいことは分かっていないのですか?」
「不明だよ。そもそもからして、特異な症例が見られるのは春風くんだけなんだ。
彼にも色々と協力してもらったが、どんな風にその肉体に作用しているかが分からない」

 カニも特異と言えば特異ではある、しかし紫苑のそれとは異なっている。
 あくまで彼女には神便鬼毒酒が通じないだけ。
 飲んでパワーアップなんてことは一度もなかった。

「身体に変化が見られないなら――――魂だろ?」

 魂、それは古くからの命題だ。
 だが今を以ってしてもその存在は明確ではない。
 あるかもしれないし、ないかもしれない。
 存在を証明出来ない以上、そこに酒が作用しているかどうかなんて分かるはずがないのだ。

「勿論説としては外道さん、君のそれもアリだろう。
仮に神便鬼毒酒が魂に作用するものだったとしよう。じゃあどうする?
魂の存在は出来ないし、確認も出来ない。そこに効果がある薬なんて何処にもない」
「……魂、ね」

 アリスが苦い顔で呟く。
 具体的なメカニズムは本人にも不明だが彼女が造る人形は彼女の手で命を吹き込まれる。
 魂と呼ばれるものが意思の要となっていると考えても不思議ではないだろう。
 今まではそこに無頓着だったが、
こんなことになるのならばもっと詳しく調べておくべきだった――後悔がアリスの胸を締め付ける。

「喜びの後にこんな水を差すような話をして申し訳ないと思う。
でもね、君らにとっては彼は大切な存在だ。
だからこそ今現在春風くんの身に起きていることは総て知らせておくべきだと判断した」

 一応の安定は見せている、しかしそれだって確実ではない。
 カマキリはそう言いたいのだろう。

「気遣い、感謝する。だがそれだけではないのだろう?」
「ああ。座して待つ、なんて君らには似合わないからね。
一つ確認をしておきたい、君らは頼りになるリーダーが居ない現状でも戦えるか?」

 これまでの戦いを振り返れば小さいものはともかく、
大きい戦いおいては何時だって紫苑が勝利の要となっていた。
 勿論、総てが総てというわけではない。
 平泉での戦いでいうならば勝利を掴んだのはルドルフだ。
 しかし、策や冷静な判断を必要とする戦いの裏には何時も紫苑が居た。
 千丈ヶ嶽での戦いでもそうだ、生きて帰れたのは彼の機転ありき。

「当たり前だ。仲間とは支え合うもの、何時までもおんぶに抱っこでいるわけではない」
「……良い機会、かもしれませんね。非常に複雑ですが」
「精神的な支柱が無い状態でこそ、僕らの真価が測れるかもしれない」
「うん……出来るかどうかやない、やらなあかんのよ」

 カマキリが何を言いたいかは理解している。
 紫苑をこうしたものがダンジョン由来のものならば、
紫苑を癒すことが出来るものもダンジョンにあるかもしれない。
 確実とは言えないし徒労に終わる可能性だってあるだろう。
 それでも座して待つよりはよっぽど良い。
 ルドルフも、栞も、天魔も、麻衣も、皆が皆覚悟を決めた表情をしていた。

「なら、君らだけでも例のダンジョンを探索出来るよう取り計らっておくよ。
ただまあ……君らも病み上がりだ。一週間は調子を取り戻すために使うと良い」

 カマキリの言葉に四人が頷くと同時にアリスとアイリーンが手を挙げる。

「そういうことなら私達も探索のメンバーに加えていただけないかしら?」
「一度も二度も同じ」

 既に千丈ヶ嶽のダンジョンに潜った経験もあるし、実力だって確かだ。
 二人の参戦はありがたいと言えるだろう。

「春風くんの欠員もあるし……分かった、良いよ。逆鬼さん、あなたにも頼んで良いですか?」

 その都度その都度メンバーを入れ替えれば消耗を分散することが出来る。
 そう考えての提案だった。

「勿論よ。どの道、そうするつもりだったし」

 雲母の権限はかなり大きい。
 何せギルドの長が直々に起用したのだからかなり自由が利く。
 なので自主的に紫苑の居ないパーティに入ってダンジョン攻略に赴くつもりだった。

「そうか、それなら良かった……うん、なら話はこれで終わりだ。
後は気の済むまでここに居ると良い。今日のところはね」

 そう言って去ろうとするカマキリだったが、

「ああそうだ、一つだけ聞いておきたかったことがあるんだ」
「む、何だ?」
「僕は戦いに身を置く者じゃないからよく分からないんだが……。
あの動画について君らの私見を聞きたい。一応、参考までにね」

 動画、という単語に反応したのは天魔と麻衣だけだった。
 そのことに気付いたカマキリは一つの問いを投げる。

「……ネットとか、そういうの得意じゃない子は居るかな?」

 栞、ルドルフ、アリス、ルーク、雲母、アイリーンの六人が手を挙げる。
 この六人は動画を見ていない――カマキリはそう判断した。

「そうか……外道さんと桝谷さん以外の人達も春風くんが避難誘導をしている動画は見たね?」
「ええ、それがどうかしましたか?」
「あれはハッカーが流した監視カメラの映像なんだが……実は、もう一つ動画があるんだ。
そっちに関しては流石にヤバイから僕らギルドが報道規制を敷いたんだが、
ネットの海に流れているものは完全には消し去れなくてね。半ば公然の秘密になっている」

 それは紫苑が異常を露にして戦っている動画だ。
 余りにも異質過ぎるそれを公にすることをギルドは良しとしなかったが、
それでもネットに流れてしまったものを完全に消し去ることが出来ずにいた。
 今現在でも動画に関する規制やらがされているが……まあ、それは置いておこう。

「僕のパソコンにその動画が保存してある。
撮ったのは戦いを見ていた一般人らしくてね、その人が最初にネットに流したんだ」

 カマキリはバッグに入れてあったノートパソコンを取り出し、その画面を見せ付ける。

「本来なら彼と共に戦った加藤さんに詳しく話を聞きたかったんだが……。
それを聞く目に彼女は既に姿を消してしまってね。なあ、君達はこれをどう見る?」

 動画ファイルをクリックし、再生が始まる。
 そこにあったのは怖気が走る異常だった。
 馬鹿でかい白蛇を乗り回し、万の剣を降らせ、巨大な防壁を生み出し、
暴虐そのもののような鬼を縛り付ける鎖を作り出していた。

「……何だこれは、魔法か? いやだが、まるで見たこともないぞ」
「神便鬼毒酒を飲めば幻術魔法が使えるとは聞いていましたが、これは……」

 あくまで幻術魔法は現実ではない、呼んで字の如くに幻。
 頭に偽りの映像を見せたりすることしか出来ない。
 ゆえにこうやって映像に残るのは明らかにおかしいことだ。

「映像に残っとるやん……幻術魔法、ちゃうよね?
しかも剣で傷付けられた地面とか、蛇が通ったとこに痕が残っとるやん!?
でも、紫苑くんが使えるのは強化魔法やし……」

 麻衣は頭がどうにかなりそうだった。
 理解の範疇を超えているのだ、こんなものをどう飲み込めば良いのだ。

「神便鬼毒酒を飲んで使えるようになるのも幻術魔法、だよね? じゃあ何だいこれ?」

 条理を踏み越えた力に対と、
それを操る紫苑への恐れが綯い交ぜとなって皆の表情が険しいものに変わる。

「覚醒?」

 ここに来て第二の力に目覚めたのでは? とアイリーンが推測を打ち出す。
 だが、覚醒だとしてもこれは一体どういう魔法なのだ?
 映像越しにも真に迫る白蛇や剣などはとても幻には見えない。
 確かにそこに存在していたとしか思えない。

「……いえ、これは何か別の新しい力じゃなくて同じ幻術魔法なんじゃないかしら?」

 アリスの呟きに全員がどういうことだ? と疑問を露にする。

「騙す対象が人かそれ以外かってことよ」
「意味不明」
「アイリーンお姉さんは考えるということを少しはしなさい」

 これはあくまで仮説、
と前置きした上でアリスは画面の向こうで紫苑が起こしている現象に対する推論を話し始める。

「例えば私の手を見てちょうだい」

 広げられたアリスの手には当然のことながら何も無い。

「私の手の平には飴玉が乗っている――と頭に誤認させるのが普通の幻術魔法。
実際、紫苑お兄さんがお酒の力で使ってたのはそっちの方よね?」

 チラリとカマキリに目をやるアリス。
 彼は若干驚いたようだがコクコクと頷き肯定の意を示す。

「あ、ああ……実験を行っている部屋をモニタリングしていたが、
そこでは慌てふためく僕らの映像しかなかった。春風くんはずっと立ったままだったよ」
「そう。なら紫苑お兄さんは普通の幻術魔法を使っていたのね。
まあ、普通と言っても百パーセント通用するのだから、ある意味普通じゃないけど」

 思えば異常はそこにも見て取れる。
 既存の幻術魔法という枠を飛び出していないだけで、
百パーセント成功する幻術魔法なんて脅威以外の何ものでもない。

「で、映像の中で紫苑お兄さんが使っているのが幻術魔法だとして……。
それは騙しているのが人間の脳とかモンスターの思考を司る器官じゃないと私は思うの。
幻術魔法は観測をする対象を欺く、私やお姉さん達は見たものをそのまま認識している。
互いが互いを認識し合っているわけだけど、そこからもう一つ視点を上げてみて。
私達は誰かに認識されているんじゃないの? 陳腐な物言いをするならば"世界"とか、ね」

 人も、土も、植物も、空気も、総て命だ。
 ならばそれらを内包するこの世界も一つの大きな生命と言えるのではなかろうか?
 実際にそのような概念は色々なところで提唱されている。
 そして世界が一つの生命だというのならば、
その中にある無数の命を認識している器官のようなものがあっても不思議ではない。

「……つまりアレかい、紫苑くんは現実を改変したって?」
「そうよ。世界は白蛇や無数の剣群を"有る"と認識したの」

 世界という大きな括りから見れば人間も、鬼も、己が認識している小さな存在でしかない。
 その認識に紫苑が白蛇やらを割り込ませたのだとアリスは推測している。

「そして、そうやって紫苑お兄さんが世界に認識させた大きな蛇とかは、
同じく世界に認識されている側の私達と同列の本物になる。
だから鬼に傷を付けることが出来るし、映像にだって残ると思うの」
「……神様?」

 アイリーンの言葉はこの場に居る者達の総意だった。
 世界改変、現実を書き換える力、それは正に神の所業だ。

「いえ、多分そうじゃないわ。
霧に満ちていた京都はある種の閉じられた世界だった。
実際、霧の中では別種の法則が働いていた、冒険者は悉く動けなくなるってね。
こちらの世界ではそんなことは起きない、だから別世界と言っても過言じゃないと思うわ。
そんな隔離された小さな世界だったからこそ、紫苑お兄さんはあんなことが出来た」

 ゆえに紫苑は万能の神ではないとアリスは断言する。

「にしても、明らかに常軌を逸しているだろう……。
アリス、卿の推測が正しいというのならば、
世界に"無い"と認識させればそのまま消すことが出来るということだろう?」

 例えば相対している誰かが居たとしよう。
 紫苑はそいつを世界に"存在しない"と認識させる、すると敵はどうなる?
 そのまま消えてしまうのではなかろうか。
 ルドルフは知らずかいていた汗を拭う。

「かもしれないわね。でも、それはとても恐ろしい力だわ。
だから紫苑お兄さんは無意識のうちにその選択肢を排除しているんじゃないかしら?」
「無意識……確かに動画を見た感じ、紫苑くんは自分の異常な力に気付いてなさそうだね」
「それでも並外れた自己を律す心がありますからね。アリスさんの推測は正しいのでしょう」

 相手は完全な敵とはいえ消すというのは善悪を通り越して恐ろしいことだと、
無意識の内に理解していたからこそギリギリで踏み止まれたのかもしれない。
 と、彼女らは推測しているがそれは違うだろう。
 仮にアリスらの推測が正しいとして、相手を消すことも可能かもしれない。
 しかし紫苑は怖いからなんて理由で使用は躊躇わないはずだ。
 使用しない理由があるとすれば、それは観客の存在だろう。
 如何にも頑張って戦ってます!
というアピールをしたいのならばパッと消すなんて選択肢はあり得ない。

「君の推測が正しいなら……本当に恐ろしい力だよ。
使う者が春風くんでなければ――嫌な想像が浮かんでしまいそうだ」
「でも、その恐ろしい力の代償がこれだよ」

 動画の中では紫苑が夥しい量の吐血をしていた。
 見ているだけでも痛みが伝わって来るような映像だ。

「安いのか高いのか、どっちなのだろうな」
「……紫苑にとっては、安い」

 多くの命を繋げることが出来た、紫苑ならば笑って安いと言い切るだろう。
 アイリーンはそれだけ言うと悲しそうに俯いてしまった。

「あの、雲母さん? どしたん? さっきからボーっとしとるけど……」
「……え? ああ、うん……少し、ね」

 雲母は今、二つのことを思い出していた。
 一つは自分とアリスが戦った時のこと。
 動画の中の紫苑が行使していた力はあの時の自分達に近いものだと感じたのだ。
 そしてもう一つはアレクのこと。
 彼が紫苑を護れと言ったのはこのようなことが出来るからか?
 このような力を振るわせないために護れと言ったのか?
 明確な答えが出ないまま、不安だけが募っていく。

「紫苑ちゃん……」

 今はただ、愛しい我が子の声が無性に聞きたかった。
81話から6~7話くらいまで紫苑離脱です。
+注意+
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