挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

41/204

ハゲと合コン

 七月に入り、嫌になるくらい元気な太陽の下で紫苑らは踊っていた。

「暑いな……」
「ああ。体育祭の練習で実習潰れるのは良いけど……暑すぎだわ」

 ハゲと手を取り合って踊っているのには理由がある。
 現在、クラスの応援ダンスの練習をやっている真っ最中なのだが普通に踊るだけではつまらない。
 男子が女装したり、女子が男装としたりする方が面白いのでは?
 そう言う流れになり、くじ引きの結果、紫苑が女子役を引き当ててしまった。
 本来ならパートナーはルドルフなのだが実行委員の仕事で今は居ないため、
同じく実行委員がパートナーに居るハゲが臨時で相手役を務めているのだ。

「ほら、そこでターンだ。遅れてるぞ花形(暑いし男と手ぇ繋がなきゃならんしで最悪だわ)」
「おっと、すまねえ」

 軽快な音楽に合わせて踊っているが、紫苑の心は全然軽快ではなかった。
 それでもキレのあるダンスをしているのは馬鹿にされたくないからである。

「けどさぁ、この応援ダンス……別に全員参加じゃなくても良いんじゃねえの?」
「だったら女子にそう言えば良いだろうに」
「いやお前、こう言う時の女子に逆らえるかよ」

 応援ダンスを仕切っているのは女子で、男子はそれに従うだけ。
 踊りの振り付けから選曲に至るまで、男は一切関わっていない。

「だったら文句を言うな」

 肩を組んでチアリーダーのように足を上げ下げ、
普通の学校と違って運動音痴は居ないので全員サマになっている。

「いや、でもさぁ……お前良いんかよ?」
「何が?」

 投げキッスをしながら紫苑が問い返す。
 この動作は女側限定なのだが……妙に似合っているのが腹立つ。
 真顔で投げキッスをする男なんて滑稽極まりないはずなのに。

「今は普通の格好だけどさぁ……お前、本番女装するんだろ?」

 今はジャージ姿だが、本番では別だ。
 ウィッグを着けて、詰め物をして、女物の服を着ることになっている。
 そのための衣装選びなども総て女子の仕事だ。

「ああ(さぞや美人になるだろうな。参ったな……女共の嫉妬を買いそうだぜ)」

 お 前 は そ れ で も 男 か。
 女装に対する抵抗感どころか、ノリノリじゃねえか。
 しかもどんだけ自信過剰なんだよ。
 所詮男は男、女の格好をしようとも女を超えられるわけがないのだ。
 いやまあ、ブスな女だったら話はまた別だが。

「嫌じゃねえのかよ」
「(お前と違って俺イケメンだからな)嬉しいわけじゃないが……年に一度のお祭りだろ?」
「楽しまなきゃ損ってか。やっぱお前、ちょっと変だよな」
「どこが?(落書きするぞハゲ!)」

 紫苑は常々思っていた、その光輝く頭に一筆入れたいと。
 向日葵の絵とかを描いてやればとっても愉快な気持ちになれるはずだ。

「真面目でござい! って顔だけど堅物じゃねえってことさ」
「前にも言ってなかったか?」
「何度でも言っちまうくらい意外なんだっつの」

 両手で紫苑を持ち上げて宙高く放り投げる。

「そいつはどうも」

 飛んでいる紫苑は空中でクルクルと回転してから着地。
 アクロバティックなダンスだが、これも冒険者学校ならではと言えるだろう。

「どういたしましてってか……よし、キメ!!」
「ああ!」

 真顔でセクシーポーズをする紫苑、普通に気持ち悪い。

「はーい! もう一回行くよ! 笑顔忘れずにね! 春風くんもスマイルスマイル!」

 応援ダンスを主導している女子が手を叩いて繰り返しを告げる。
 その際、真顔で踊っていた紫苑にも注意を一つ。

「(俺の笑顔は百万ドルなんだよ! こんなとこで見せるほど安くねえの!!)」

 一セントの間違いではなかろうか?

「だってよ。ほら、笑顔笑顔」
「……ああ」

 とは言うものの必要な場面以外でしか笑顔を決め撃ちしない紫苑は仏頂面のままだ。
 それでも笑顔が苦手っぽいと言う印象がクラスメイトにもあるから問題はないだろう。

「そういや、天魔はアレ男装するんだっけか」

 栞と手を繋いでいる天魔を見てボソリと呟く。

「らしいな。と言ってもアイツの場合は、なあ?(常時男装だし。カマ――じゃなくてオナベだっけ?)」

 今でこそ私服は女の子らしいものになったが、学校では男子の制服を着ている。

「ああ。何時もと変わらねえよな。逆にフリフリの服着て女装した方が良いだろ」
「いや、女装って表現はおかしくないか?(正論中の正論だわ)」
「はは! だぶぉ!?」

 そんな話をしているとハゲの頭に石がぶつけられる。
 投げたのは言うまでもなく天魔だ。
 どうやら彼女の耳にも届いていたしい。

「(ハゲ頭が赤くなってるwww超受けるんですけどーwww)大丈夫か?」
「あ、ああ……こっからは声を潜めて話そうぜ」

 人殺しの眼をしている天魔を見て流石のハゲもビビったようだ。

「よう、ちょいと聞きたいんだが……紫苑、お前今日の放課後暇か?」
「ん? 別に約束なんかはないが……」
「じゃあさ――――合コン行かね?」
「合コン……合同コンパか!?」
「馬鹿! 声でけえよ!!」

 キョロキョロと辺りを見渡すハゲ。
 天魔にも栞にもアリスにもアイリーンにも聞こえていなかったらしく、誰も注意を向けていない。
 ほっと胸を撫で下ろしつつ、ハゲ詳しい説明を始める。

「いやな、実はBに居る俺のダチ二人と合コンの約束あったんだが、来れなくてさ。
何でも彼女にバレたとかで。いや、彼女居るのに合コン行くのもどうかと思うけどよ」
「そりゃ確かに不義理だな」
「ああ。だから彼女にボコボコにされたらしい」

 女の恐ろしさに男二人は身を震わせていた。

「でも、向こうは三人集まってて店の予約も取ってるからさぁ中断出来ねえんだよ」
「だから俺に来いと?」
「ああ。普通の女子高の生徒なんだけど、これが結構可愛いんだよ。な、頼むよ!」

 俺を助けると思って! 懇願するハゲに表面上は渋る紫苑だが……。

「(普通の女子高生……良い響きだ)」

 内心では普通の女子高生と言う響きに鼻の下を伸ばしていた。
 ここ最近百合を除けばドギツイ女ばかりだったからしょうがないだろう。

「金も俺が払うからさ。な、良いだろ? 頼むよ」
「……女の子と何を話せば良いか分からないぞ?」
「大丈夫大丈夫。お前顔良いから多少ぶっきらぼうでもいけるって!」
「(分かってるじゃねえかハゲ!)それなら、まあ……御飯を食べに行くつもりで参加しよう」
「っし! んじゃ、ルドルフにも声かけといてくれ。外人って受け良いからさ」
「了解(和洋のイケメン揃い踏みか……ま、奴より俺のが顔良いけどな!)」

 兎に角、これで楽しみが出来た。
 おかげで応援ダンスの練習でも僅かにだが笑顔が出るようになったのは僥倖と言えるだろう。
 そのまま、応援ダンスやら何やらの体育祭へ向けての練習は日が暮れるまで続いた。

「これで、よしっと(喜べカス蛇、タダ飯食えるぞタダ飯)」
『加えてお前の場合は女も、だな』
「(まーな。付き合う気はさらさらねえが、眼の保養ぐらいにはなるだろ。
と言うか一般人だからな相手。すっげえチヤホヤしてくれるのを期待してる)」

 紫苑は終わるとすぐに家に帰ってシャワーを浴びて私服に着替えて待ち合わせ場所に急ぐ。

「よ! 待ってたぜ紫苑」
「すまんな、待たせてしまった」

 互いにしっかり心得ているもので、
二人共にラフではあるが洒落っ気も滲ませた格好をしている。

「後はルドルフだけだな。アイツも割と乗り気で助かったぜ」
「楽しいことが好きだからな、アイツは」
「顔は良いのにちょっと馬鹿、結構受けるぜあのタイプ」
「(そう言うお前はどうなんだろうな。ハゲてるしwww)」

 全国の頭が寂しい人間に向かって喧嘩を売っているのだろうか?

「揃っておるようだな。いやはや、少しばかり道に迷ってな」

 ルドルフもようやく来たのだが……。

「お、お前……」

 ルドルフの格好を見て金魚のように口をパクつかせるハゲ。
 だが、驚いているのは彼だけでなく紫苑もだ。

「(何 で コ イ ツ 着 流 し 着 て ん だ よ)」

 紫苑とハゲの二人はカジュアルな格好をしているのに、
ルドルフだけは余りにも目立つ藍色の着流し。

「似合うか?」

 背中にはド根性と言う文字と鳥獣戯画風の蛙の刺繍が入っている。
 もう何て言うか馬鹿丸出しだ。一緒に歩いて噂されるってレベルじゃない。

「(そのドヤ顔止めろ、すげえムカつく)……おい、どうする花形?」
「お、おう……だがまあ、アイツ外人だし……何か、そこら辺で誤魔化せないかな?」
「どうだろうか?」
「何だ卿ら、見惚れたか?」
「(殺すぞ馬鹿金!!)」
「ま、まあ……しゃあねえよ。もう時間もねえし、ほら行くぜ」

 三人が入ったレストランは普通の学生ではちょっとキツイレベルだが三人にとっては何でもない。
 個人個人の稼ぎでも楽勝だ。
 まあ、紫苑はケチだから奢りでなければ一生行かないだろうが。

「予約していた花形だけど」
「承知しております。お席はあちらに」

 これならフォーマルな格好をして来た方が良かったか?
 紫苑は一瞬そう思いはしたが、相手に合わせるならこれで十分だろうと思い直す。
 相手は普通の女子高生であり、経済力では負けている。
 そんな相手に正装を用意させるのは酷だ。
 だと言うのに男側だけバッチリキメていたら空気が読めていないにもほどがある。

「ほう……良い雰囲気の店ではないか」
「(お前の格好で台無しだけどな。店員さんが妙な目で見てたぞ)」
「だろ? 相手の子に気を遣わせず、尚且つそれなり良いとこ探したんだよ」
「細やかな気配りだな花形」
「ったりめえだ。さて、そろそろ来ると……お、来た来た!」

 三人組の女の子がこちらのテーブルに近寄って来る。

「ハナちゃんお待たせ! へえ、カッコイイ人揃えたじゃん♪」

 お団子ヘアーの女子が代表してハゲに声をかける。
 三人の中のリーダー格なのだろう。

「俺含めて、だろ? そっちも可愛いじゃねえか」
「(ハナちゃんて……気持ち悪っ!)」

 三人が席に着き、これでようやく合コンが始まる。
 ハゲの前にはお団子が、紫苑の前にはボブカットの少女、ルドルフの前にはポニーテールの少女。
 髪型が被っていないのは好印象だ。髪型の好みに合わせることが出来る。

「んじゃま、自己紹介しようか。男子側代表の花形元だ。ツレ二人はクラスメイト」
「私が一応女子側代表なのかな? ハナちゃんの幼馴染の高倉翔子です!」
「じゃあ二番手は俺が、春風紫苑。今日はよろしく頼むよ」

 女子三人に向けて小さく頭を下げながら、値踏みを始める。

「私は菅原雛です。どうぞよろしく御願いします」
「(このボブは……うん、普通。顔はそこそこだが、後は話して性格を確かめるしかないな)」
「なら、次は順番的に私か。ルドルフ・フォン・ジンネマンだ。ドイツ人だが日本を愛している」
「ドイツって言うと……ビールの国? あ、あたしは三船幸だよ!」
「(このポニーはアホだな。知性が見えない。後品性も)」

 薄汚い値踏みしてるお前に品性があるとでも言うのか。

「ビールの国か……まあ、間違ってはおらんな。
後、日本人にとってのドイツのイメージで言うと……ソーセージ辺りもそうか」

 ルドルフ自身も祖国の話をする時に、
よく聞かれるので日本人が抱くドイツへのイメージは承知している。

「確かに大多数はそうかもしれませんね。ですがドイツは詩人の国でもあるのでは?」
「と言うと……ゲーテやシラー辺りか? 有名所で言えば」
「春風さんは詳しいので?」
「いや、有名どころを幾つか知ってるだけだよ」
「ちなみに好きな詩は?」

 会話の流れに乗ってみると、予想以上に雛が食いついて来た。
 他の四人は置いてけぼり――と言うわけでもなく、それぞれ楽しそうに会話をしている。
 コミュ力の高いハゲと愉快なルドルフだ、受けが良いのだろう。

「(食いついてくるな……ちょっとウザイかも)
五月の歌、かな? あれは秀逸だ。言葉にするだけで自然の情景が浮かんで来る」

 雛の相手をしながらも、紫苑はバレないように幸へ目を向けていた。
 楽しそうにハゲとお喋りをするちょっと馬鹿っぽいあの子の方が好みだからだ。

「まあ、女好きなのはどうかと思うがな」
「それでも彼が綴った詩に罪はありませんがね」
「違いない!」

 七十代の爺が十八の女を口説く、現代なら事案ものである。
 そんなゲーテが名を残していることが未だに不思議でしょうがない。

「ところで春風さんは冒険者――の卵なんですよね。良ければお話、聞かせてくれません?」
「それは構わないが……さて、女性に話せるラインと言うのは中々難しくてな」
「命の危険が伴う職業ですものね。グロテスクな話題もあるでしょう。でも、私は平気です」

 知的好奇心が旺盛なのだろう、雛はグイグイと攻めて来ている。

「ああ、なら……っと、少しトイレに行って来ても良いかな?」
「はい。お待ちしています」

 トイレに駆け込む紫苑、別に催したわけではない。

「お、待ってたぜ」

 先にトイレに行っていたハゲが紫苑を迎える。
 ハゲは席を立つ際にアイコンタクトを寄越したのだ。
 ある程度のところで作戦会議をしようと。

「ああ……しかし、ルドルフは気付いてなかったみたいだが?」
「うん……まあ、アイツは良い。俺ら二人で場を動かす。頼むぞ孔明」
「(分かってるじゃねえかハゲ!)頼む、と言われてもな」
「良いじゃねえか。それよりどうよ? 気に入った子は居たか?」
「強いて言うなら三船さん、かな」
「意外だな。菅原さんとか結構お前と良い感じだったじゃん」
「明るい人と話したいんだよ。それで、花形はどうなんだ?」
「俺? 菅原さんとか結構好みかなぁ……席、後で上手く動かして良いよな?」
「ああ」

 普通こう言うトイレ会議は女性がやるものでは? そう思わなくもないが男だってやるようだ。
 ハゲは割りとマジでこの合コンに熱を入れているらしい。

「ちなみに菅原さんの何処が良いんだ?」
「――――ケツ」

 花形元、まっこと潔い男である。

「両手で鷲掴みたい、出来れば顔を埋めてみたい。良い肉付きだし」
「そ、そうか……(ドン引きだよこのハゲ。いや、ある意味男らしいのか?)」
「紫苑は確か唇、だっけか? あの三人の中で誰が良いよ?」
「うーん……特に誰と言うのは無いな。そもそも俺はお喋りしに来ただけだし」

 それとタダ飯を食らうためだ。恋愛をするために来たのではない。
 そもそもからして紫苑の理想はひじょーに面倒だ。
 あの三人は可愛くはあるが、男を立てるタイプではない。
 見下せる部分もあるかどうか不明。その状態では好きになる以前の問題だ。

「何だよつまんねーな。もっと楽しもうぜ!」
「楽しんでるさ。女の子とお喋りしながら食事……十分楽しいし華やかだろ?」
「カーッ! 欲が薄いなぁ」
「そもそも恋愛ごとは得意じゃないんだ。どうすれば良いか分からない」
「それは納得だ。さて、そろそろ戻るか?」
「ああ。あんまり長いこと席を立ってるのも変だしな」

 二人揃って席に戻る。女子連中も何をしていたかぐらいは察しているだろう。
 それを態度に出さないのがマナーだと弁えているから何も言わない。
 そう言う空気を読めるのは紫苑にとっては好印象だった。

「お待たせ。それじゃ、話そうか」
「はい! 御願いします」
「こんな職業だからな……やっぱり、人死には多い。それは学生でも同じだ」
「入学は自己責任と聞いていましたが……誓約書などは?」
「勿論書いた。ちなみに、死んだらそこまでってほど冷たくはない」

 保険や葬儀などのアフターケアについてもしっかりしている。
 紫苑は雛が好みそうな類の話題を振り続ける。

「これはAクラスだけではあるんだが、確定申告なんかもやってもらえるんだ」
「春風さんはAクラスなんですか?」
「ああ。学生ではあるがしっかり給与を貰っている」

 彼女はどの話題にも興味深そうに相槌を打っているので、
紫苑の読みはバッチリ当たっていると言えるだろう。

「つまりそれだけ厳しい場所に行っている、と?」
「その通り。実際、何度か死に掛けた」

 ちなみに私生活でも、この男は片腕を喪失したりしている。

「では、その腕も冒険で?」

 雛は目敏く腕の継ぎ目を見抜いた。
 とは言え、これはダンジョンでモンスターに斬られたわけではない。
 いやまあ、確かに今の栞はある意味でモンスターだが。

「ま、そんなところだな。ちなみに、この右腕のタトゥーもそうだ」
「人柄に似合わないなとは思っていましたが……何か特別なものなんですか?」
「ああ。モンスターを倒したら何でか知らないが腕に浮かび上がったんだ」
「へえ、それはよくあること?」
「少なくはあるが過去に事例が無いわけじゃない」

 ふと、雛や他の女性陣の視線が男達の後ろに流れていることに気付く。

「どうしたんだ?」
「いえ、可愛らしい女の子が入店して来たのでつい……」
「あれ……ほら、あれ何だっけ! 御伽噺の! あたし子供の頃読んだんだけどな」
「不思議の国の、でしょ? でも、本当に可愛いわねあの女の子」

 タラリと冷や汗が滴り落ちる。
 紫苑が恐る恐る振り返ると、

「(あのロリ知ってるぅううううう! あの顔よく知ってる! だって一緒に住んでるぅううううう!)」

 アリスが店の入り口付近に居るのだ。

「お姉さん達、早く早く♪」
「そう急かさないでよアリス」
「そうですよ。淑女たるもの慎みを持たねば」

 次々と現れる知った顔。しかもあれは偶然ではない。
 だって、全員チラリとたが一瞬紫苑を見ていたのだ。

「(じょ、女子力底辺大三元!? 役満じゃねえか!!)」

 意味の分からない単語が出て来るほど紫苑は焦っていた。
 別に付き合ってはいないので疚しいことはないだが、
単純にメンヘラ三人が何をするか分からないのが怖い。

「それじゃあ、女子会始めようか」
「わーい! 何だか大人な感じね!」
「ふふ、今日はお酒も飲んじゃいます?」

 穏やかな声色がとても怖い。仲良く談笑しているその姿が気持ち悪い。
 背中に絡み付くドス黒い何かがとても重い。
 紫苑は流れ出る汗を止められずにいた。

「あれ? 春風さん……それに他の二人も、顔色悪いですよ?」
「汗すっごい! 冷房弱いのかなー」
「ハナちゃんどうしたの?」

 真ん中に座る紫苑に他の男二人の視線が突き刺さる。

「……これ、私は関係ないよな? だって紫苑連れ出したのハゲだし」
「……ハゲ言うなコラ。え? 嘘? 別に付き合ってないんだろ?」
「……聞かれてたんだ、あのダンスの練習の時に」

 ガタガタ震え出す男三人、見ているこっちが気の毒になるくらいだ。

「さて、では女子会と言うことで何を話しましょうか?」
「やっぱり好きな男の子のこととかじゃないかな?」
「コイバナね!」

 注文を終えた三人はそんな話題を打ち出した。

「私が好いている方は、誠実で、努力家で、悲しいくらいに優しい人です」
「僕もそうだよ。ちょっとばかり不器用でもあるがね。基本仏頂面だし」
「あら奇遇私の好きな人もそうよ。表情が変わらないのと不器用さはパパ似らしいわ」
「合コンなんて浮ついた場に来るような人ではなく、古き良き大和の男でしてね?」
「ただ、御願いごとに弱いんだよね。友達とかに頼まれると断れない」
「それは良いのだけど、もう少しキッパリ断っても良い気がするの」

 紫苑はさっきまで食べていたものが込みあがって来るのを感じていた。
 普通に怖いし普通に辛い。白々しいやり取りが胃壁を削っていく。

「後、交友関係を改めた方が良いと思うね」
「ええ。特に頭頂部が寂しい方とは」

 それって俺のことじゃねえか! ハゲは頭を抱えたくなった。

「そのハゲもそうだけど……私としては、色々知ってるもう一人もどうかと思うわ」
「ああ、四月からずーっと一緒で私達の気持ちも知ってるはずなのにねえ」

 それはひょっとして私!? ルドルフの震えが加速する。

「確かにちょっと……赦せませんねえ」
「だよねえ?」

 夏だと言うのにこんなにも空気が冷たい。
 死人のような顔色をしている男三人を見て合コン相手の女子組は首を傾げている。

「ハナちゃん、ホントに大丈夫?」
「ルドルフもすっごい顔してるよ。あたし風邪薬持ってるけど要る?」

 楽しい合コンは何処かへ消え去ってしまった。
 この空気を一体どうすれば良いと言うのか、その答えは誰にも分からない。

「まあでもさ、僕らの好きな人が合コン行ってても大丈夫だよね?」
「そうね。あの人に釣り合う人なんて、よっぽどの美人じゃなきゃ駄目だもん」
「そうですね――――私のような女が一番です」

 栞の言葉がトリガーだった。和やかだった空気にほんの一筋の亀裂が入る。

「ははは、何を言ってるんだか。冗談が上手いなぁ栞ちゃんは」
「余りに愉快過ぎて首を引き千切りたくなったわ」

 僕っ娘と邪悪ロリの笑顔が剣呑なものに変ずる。
 一見すれば花のかんばせ、しかし一皮剥けば阿修羅のそれだ。

「別段おかしなことを言ったつもりはありませんが?」
「いや、おかしいよ病院行け病院」
「頭のね」

 こんな時だけ息ピッタリだなお前ら。

「そんな必要は無いと思いますよ。客観的な事実を述べただけですし。
何処ぞの金髪では相手が少女性愛に見られてしまうし、
自分の胸や恥ずかしい部分を触らせる痴女では余りに不憫。
であれば私しか居ないのでは? 何処ぞの二人よりも女性らしい身体つきと慎みを持っていますし」

 スタイルで言うなら栞>天魔>アリスとなる。
 しかし、今まで誰も触れて来なかったそこにメスを入れれば……。

「あれ以来、壊れて彼の心労になってる女が何を言っているのやら。
ま、心労って意味じゃあどっかのロリもそうかな? 一緒に暮らしてストレス溜まってるみたいだし」
「謳ってくれるじゃないの。けど、うるさい鳥は首を刎ねられてしまうのよ?」

 ミシミシと何かが軋む音、これはヤバイ。
 殺気が膨れ上がり、

「死ね」
「死んじゃえ」
「死になさい」

 死ねの三重奏を火種に大きく爆ぜた。

「逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ハゲの号令と共に紫苑らは一般人の少女三人を抱えて店から飛び出す。
 楽しい合コンは一瞬で惨劇に変わったのだ。
 であれば、少しでも早く逃げ出すのが正解。
 男達は少女を抱いたまま繁華街を駆け抜けて安全圏まで離脱する。

「……俺達、何も悪いことしてねえよな」

 安全圏に辿り着いたところで少女ら三人を家に帰し、
紫苑らは近くにあった公園にやって来ていた。

「……ああ(俺、何であんなのに惚れられてんだ)」

 自 業 自 得 だ よ。
 男三人はブランコに腰掛けてうな垂れている。
 その姿に題名を着けるならば――――負け犬三連星と言ったところか。

「……何故、奴らが来たのだ?」

 ぎぃ、ぎぃ、と寂しげに揺れるブランコ。
 男達のテンションは急降下し過ぎて地面にめり込まんばかりだった。

「花形が合コンの話を持ちかけて来た時、聞いてたんだ。
聞こえていないフリをしながらもちゃんと聞いてたんだよアイツら。
(何て性格の悪い女達だ! ちょっとは俺を見習ったらどうだ!?)」

 紫苑を見習えば最早取り返しがつかなくなる件について。

「お、女を甘く見ていた……つーかよ紫苑!
一応アイツらお前に惚れてんだろ!? もっと何とかなんねえの!?」

 ハゲの言葉に一瞬キレそうになった紫苑だが、喧嘩をする余力などなかった。

「言っただろう? 俺は恋愛ごとが苦手だって……それに、どうしようもない。
各々、疵や抱えているものがあるから、どうしたって普通にはなれないんだ。
あいつらもそれを分かってて忌み嫌いながらも受け容れようとしている。
けれども、正しくは受け止められてない。
だから、せめて俺だけでも肯定してやらなきゃ、悲しいじゃないか。
それでも、一応は他人を傷付けないようにと何度か言い聞かせてはいるんだがな」

 それでも常時感情が暴走している少女らには届かない。
 勿論、紫苑の言うことを守って一般人には被害を出さないだろう。
 敵対している者や悪意を持つ者でない限りは、あくまで恋敵にのみ敵意を向ける。
 だから、あの店を壊したり何だりしてもしっかり賠償はするはずだ。
 いや、店だけじゃない。居合わせた客にもしっかり補償をするだろう。
 その程度の財力は持ち合わせているから。

「(人間、大抵のことは金で解決出来るからなぁ……)
ただでさえ複雑怪奇な女の子の心を、俺一人で自由自在に出来るわけがないんだよ」

 だがまあ、やるとなった以上は、
金を払ってから別の場所で殺し合いを始める可能性が一番高いだろう。

「う……まあ、そりゃそうか」
「実際紫苑はよくやっている方だと思うがな」

 一緒に居る時間が長いルドルフはそれをよく知っている。
 栞がああなってからはコマメにケアしているし、
天魔とアリスが殺し合いをしていれば仲裁に入る。
 紫苑も自分なりに頑張ってはいるのだ――――効果が薄いけどな。

「はぁ……もうぐだぐだ言っても仕方ねえか! そもそも俺のキャラじゃねえし!」

 ガシガシと乱暴に頭を掻いて、ブランコの上で立ち上がる。
 何とも言えないモヤモヤを振り払うように勢い良くブランコを漕ぐハゲ。
 こう言うサッパリとしたところが彼の持ち味なのだろう。

「それより、これからどうする? このまま解散か?」

 ハゲに対抗してルドルフも立ち漕ぎを始める……小学生か。

「んー……いや、それじゃつまんねえ。
男三人ってのもアレだが、今日は飲み明かそうぜ!
家に帰るのも億劫だし、どっかのホテルで三人部屋取ってさ。
朝まで騒ぐのよ。どうだ? そう言うのも悪くねえと思うんだが」

 ハゲの提案にルドルフは満面の笑みを返した。

「うむ! それもまた良いだろう。では早速買い出しに行くか。なあ紫苑!」
「ああ、そうだな(何このフワっとした空気? ないわー)」

 男達の夜は、まだ終わらない……。
お姉ちゃんの反響が大きくてちょっと驚いてます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ