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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ね続けた末路を知る第二部

202/204

終幕寸前~恋文~

カス蛇の独白を最終話前に入れておく方が良いかなと思ったので追加。
 紫苑、なあ紫苑。この世の何よりも愛おしき我が相棒よ。
 俺様はな、ずっと――ずーっと考えていたんだ。
 幻想淘汰からこの一年半、ずっとずっと考え続けていた。
 別にこれからの世界がどうなるかとかそう言うことじゃねえぞ? そこについては心配していない。

 並行世界のお前が示唆していた正しき流れを破壊したツケなんてまるで気にしてねえ。
 どうしてかって? お前が、お前が存在しているからだよ。
 永劫の時間を歩む我が愛おしき友よ。
 お前の周りには尋常ならざる力を持つ人間が居て、そいつらもお前と同じく永劫の時間を歩むだろう。

 だが、仮にそいつらが居なかったとしても俺は大丈夫だと思うんだ。
 それは何故かって? さっきも言った通りさ。お前が居る、春風紫苑が永遠を生きているから。
 お前は人の夢そのものだ。
 人は醜い、ちょっと反省したかと思えば時と言う微温湯の中ですぐに腐っちまう。

 だけどな、人間は美しいものを心の何処かで渇望しているんだよ。
 明日は明るい日。
 諦めなければ夢は何時か必ず叶う。
 人類皆兄弟。

 愛することはこの世の何よりも素晴らしい。
 誰かを護るためにこそ自分の命を懸けよう。
 誰かを助けることに理由なんて要らない。
 歯が浮くような文句だろう? でも、大好きなんだよ、人間はそう言うのがな。

 人はそんな綺麗なものを表面上では小馬鹿にしてしまうけど、それは恥じているだけ。
 そんな綺麗な言葉を謳えるほどに自分が綺麗ではないから。
 綺麗ではないから遠ざけようとして、それでも恋しくて近付いて傷付いちまう。
 何つったっけな。そうそう、ヤマアラシのジレンマだ。それに良く似ているよ。

 紫苑、お前はそれを誰よりも知っているはずだろう。
 何せそんな人が心の奥底で渇望するものを利用してありとあらゆる人間を踊らせたんだからよ。
 お前は何一つとして綺麗なものを信じていないし望んでもいない。
 そして、だからこそなんだろうな。

 普通の人間ならばどうしたって捨てられない負い目。
 自分が真に正しい人間だと心の何処かで信じられない。
 必ず抱いてしまう負い目があるから普通の人間はどんな綺麗ごとを謳っても完全には至れない。
 多くの人間の心を打つ者は居るだろう、しかし総ての人間の心を打つことは出来ねえんだ。

 だけど紫苑、春風紫苑。お前と言う人間にはそれが出来る。
 厚顔無恥なまでに自分は絶対に正しい人間なんだと思うことが出来るから。
 お前は妬み嫉みで他人をディスりまくってる、それはすなわち自分が劣ってるってことを認めてるわけだが……。
 だけどお前は妬み嫉みながらも自分を至高と信じて疑わない、妄信なんて言葉で片付けられねえレベルだわ。

 明らかな矛盾。どう考えても破綻した論理。
 だけど、そんなものを蹴り飛ばしてお前は自分を信じることが出来る。
 ある種、人間にとっての理想だよ。
 自分を信じて微塵も疑わないお前の言葉の言葉だからこそ他人を信じさせることが出来る。

 どんな時代でもそうだよ。
 人間がどれだけ時を重ねようとも変わらぬ部分に向けられたお前の言葉は普遍の重さを持つ。
 だからこそ俺様は心配してねえのさ。
 例え幻想回帰以上の危機が人類に訪れたとしよう。

 お前は自分を輝かせる舞台に颯爽と出て行くだろう。
 そこでお前は力の限りに謳うんだ。
 そんなお前に魅せられた人間は――――強いぜ。
 総ての人間の心が一つになった時の熱量は半端じゃねえ。

 どんな困難も踏破出来る。
 お前だけだ、現在過去未来、真の意味で人間の心を一つにすることが出来るのは春風紫苑ただ一人。
 少なくとも俺様はそう信じている。
 重ねて言おう、だから俺様は心配してねえ。

 人類が滅ぶとすりゃそれは人類が自らの手で滅びを選んだ時だけだ。
 他の何にも人間はどうにか出来ねえ。
 人間が大好きな俺様の欲目と言えばそれまでだがな。
 ああ……前置きが長いってキレてるかかもしれねえな。すまんすまん。

 もう最後だと思うと、書いても書いても書き切れねえんだよ。
 いや、別に終わることは自体は怖くねえんだ。
 腐るほど生きて来たからな。見たいものだって見れたし後悔は無い。
 なんて言ったらお前はキレるだろうな「ふざけんな! 何悟り切った感じになってんだ生意気な! 死にたくないと泣き喚け!」ってな感じで。

 だけど、マジでねえのさ。
 お前に出会えた。
 お前と楽しい日々を送れた。
 昔日の後悔だった生命の実をお前に渡すことが出来て世界は人のものになった。

 な? やりてえことは全部終わってんだよ。
 だからこう……人間風に言うとアレだ。
 仕事一筋で生きて来たサラリーマンが定年退職後に燃え尽きた感じ?
 もうすっからかん、ガーデニングなんぞに手ぇ出しても長続きせず日がな一日ぼんやりしてる感じ。

 だから後悔は無い。後悔は――――いや、やっぱ駄目だ。
 ああうん、ごめん嘘吐いた。
 悟り切った感じを気取ってたが後悔はあります。
 人類の未来とかそう言うのは心配してねえけど、やりたいことがまだある。

 お前ともっともっとずっとずっと一緒に居たい。
 別に特別なことなんて望んでねえ。
 くっだらねえ一日一日をお前と過ごしていたいんだ。
 中身のねえ雑談して、罵られて、突っ込んで、げらげら笑いてえ。

 そこだけはやっぱり心残りだ。
 でもまあ、無理なもんは無理だしそこはしゃあねえよな。
 つーわけで、だ。そろそろ本題に入ろうか。
 冒頭で言った俺様がこの一年半、ずっと考え続けてたことだ。

 それはお前の幸せについて――何言ってんだって思うかもしれねえがまあ黙って読めよ。
 紫苑、なあ紫苑。これはもしもの話だ。
 だけど、かなり真実に近いことだと思っている。
 誰よりもお前の心に近付いた存在である俺様が導き出した答えだから信憑性はあると思う。

 もしも、幻想回帰なんてものが起こらなかった世界だ。
 俺様や他の連中とも何だかんだ関わりはしたが無事に新年を迎えたと仮定しよう。
 醍醐の屋敷で新年を迎えたお前はアイツらと初詣とかに言って有り触れた日常を過ごすんだ。
 人類存続の危機なんてものは何処にもなくて明日がずっと続いていく世界。

 醍醐紗織――いや、お前が言うところの大天使黒姫百合。
 幻想回帰が起こらなければ醍醐紗織は死んだままだった。
 黒姫百合と言う虚構の存在が今も続いていたんだ。
 お前からすれば喜ぶべきことだろうな。大天使のことが大好きだったから。

 さあ、考えてみようぜ。
 他の女達をバッサリ振って変なことが起こることもなく黒姫百合と付き合ったとしよう。
 そして醍醐紗織も黒姫百合を貫き通したとしよう。
 なあ、お前は幸せになれると思うか?

 見せ掛けの容姿はお前と比肩するものではなく目立つことはない。
 見せ掛けの駄目っぷりで変わらず見下せはするだろう。
 見せ掛けのキャラクターは決してブレはしない、お前の好みそのままだ。
 重ねて問うぜ、お前は幸せになれると思うか?

 なれる! お前は何の躊躇いもなくそう断言するだろう。
 お前は決して自分を疑わないものな。
 でもさ、俺様にはどうしてもそうは思えねえんだわ。
 何でかって? お前は満たされることを知らないからだよ。

 お前の望みを満たす条件下であろうともお前は必ず不満を持つ。
 底の無い桶に水は溜まらねえんだ。
 ああ嫌だ、違う、こんなんじゃない、俺はもっともっと幸せになれるはず。
 そうやってまた俺様の知る何時も通りのお前に戻るだろうぜ。

 けどよ、それは特別お前が浅ましいってわけじゃないと思うんだ。
 尽きぬ欲望――それは全人類が未来永劫背負い続ける罪業なのだから。
 ある意味で俺様が人類に背負わせた原罪の派生だわな。
 断言するぜ、人間は永遠に満たされることはねえ。例え不老不死の肉体を手に入れたとしても。

 満たされたと錯覚することは出来ても満たされることはない。
 例えばさ、死ぬ正にその瞬間に笑顔を浮かべる人間が居たとしよう。
 それを見ていた人間も微笑を浮かべた当人も満たされて終わるのだと疑いもしないだろうがそれは違うぜ。
 それは錯覚、或いは満たされたのだと思いたいだけ。

 真に人間が満たされる命ならば世界はとっくの昔に平和になってらぁ。
 満たされないから愚行を犯し続けるんだ。
 おっと、勘違いするなよ? 俺様は別にそのことを糾弾しているわけじゃねえんだ。
 愚かさも含めて俺様は人間を愛しているからな。

 話を戻すが人間ってのは絶対に満たされねえ命なんだよ。
 九十九.九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九九……。
 限りなく百に近付けども未来永劫百には至らず。
 さあ、そんな人間はどうすれば良い?

 満たされたと言う錯覚に酔う。
 満たされたのだと自分に言い聞かせ続ける。
 満たされなくても良い、それが人間なのだと開き直る。
 まあ、個人個人で回答は違うだろう。そこらは各々の自由だからな。

 お前に近しい人間は……どうだろうな? お前と肉体関係持ってる女達。
 アイツらはお前が傍に居るだけで、お前の傍に居させてくれるだけで幸せだと錯覚している人間だ。
 だってさ、よくよく考えてみろよ。めっちゃお前を求めてんじゃん。
 不器用な紫苑に、紫苑くんに、紫苑ちゃんに、紫苑さんにもっと愛して欲しいってさ。

 毎日が幸せだろうが、結局のところ満たされてねえ。
 おっと、満たされないのに幸せなのか? なんてアホなことは言うなよ。
 満ちることと幸せはイコールじゃねえんだから。
 っと、いかんいかん。まぁた話が逸れてくぜ。手紙なんて初めてだからどうにも上手くいかねえ。

 つまりだ、春風紫苑って存在一つを求めてるアイツらですらそんな感じだ。
 お前みたいに欲深な人間が満たされるわけはねえよな。
 かと言ってお前は逃げの回答を選べるような可愛らしい人間でもねえ。
 殆どの人間はもっともっとと欲しがるがどっかで逃げの答えを出す。

 さっき言ったような錯覚やら思い込み、開き直りでな。
 無念だって死んでく人間も、そいつらはその時点で諦めてる。
 足掻き続けられるのは一握りだよ、死の間際でも諦めないのはほんの一握り。
 お前はその一握りに分類されるんだろう。

 綺麗に終わりを飾り立てて満足、よし死のう! なんて思ってもいざその刹那になるときっと前言を翻す。
 誰よりも近くでお前を見続けて来た俺様が言うんだ、間違いねえ。
 お前を満たされないなんて欠片も思うことなくもっともっとと求め続ける。
 何某かを得てちょっと良い気分に浸れるがまた次を求めて彷徨うだろう。

 だけども永劫に満たされることはない、かと言って死ぬことも出来ない。不老不死だからな。
 未来永劫徒労のあぜ道を歩き続けるんだ。
 それでもお前の女達のように幸せを見つけられれば永遠の時間も苦痛ではないだろう。
 だけどお前は満たされることもないし幸せを得ることも出来ない。

 もしもお前以外の誰かがお前と同じ境遇にあったなら心を壊しているだろう。
 それほどまでにお前が置かれている立場は気の毒なんだよ。
 まあ、自業自得と言えばそれまでだが。
 不老不死を得る以前に嘘を吐くのを止めてしまえば少しは幸せになれたかもしれねえけど……無理だよな。

 他人によく見られたいから嘘は止めない。
 だけど嘘によって被る損害は嫌だ。
 お前の思想は要訳すると「森羅万象、俺に都合を合わせろ」ってことなんだが……。
 全部自分の都合の良いように、今日日小学生でもそんなこと真面目に想わねーよ。

 世の中そう甘くはないって分かってるからな。
 だけどお前は違う。
 どうして俺の思い通りにならないんだ、おかしいのは俺じゃなくて世界の方だ。
 素面でそんなことを言ってのけるんだもん、脱帽ものだよ。

 そんなお前だからこそ、決して折れることがない。
 飽いて餓えて永遠に延々と何かを求め続けていく。
 愚かだ、醜悪だ、みっともないしどうしようもない。
 世界中の誰に聞いたってそんな生き方に肯定は返って来ないだろう、あまりにも無意味過ぎて。

 だけどなあ、俺様はそれで良いと思うんだ。お前はそのままで良い。
 俺様に言われるまでもねえだろうけど、言わせてくれ――――お前はお前のままが一番素敵だ。
 人間らしいじゃねえか。馬鹿で醜くて吐き気がするくらいに貪欲。
 届かぬものに手を伸ばし続けて何度も挫折を味わってそれでも諦めずに手を伸ばし続ける。

 掴むことに意義があるんじゃねえ、諦めないことに意義があるんだ。
 お前の虚飾は人類が渇望する美しいものを体現している。
 お前の本質は人類が忌避しながらも決して捨てられぬ普遍の醜さを体現している。
 お前と言う存在はある意味で人間と言う概念そのものだ。

 それは俺様にしか知り得ぬ真理だろう。そう思うと、すげえ優越感だよ。
 春風紫苑と言う男を通して最も人間に近付けたこともそうだが、真理を独り占めだぜ? パネェ誇らしさだ。
 だから紫苑、お前はこれからもお前のままで生き続けろ。
 永劫に連なる時間の中を何よりも誰よりも美しく醜く生き続けろ――俺様が総て肯定してやる。

 嗚呼、俺様が蛇ではなく人間だったなら。
 お前の心に触れることは出来なかっただろう――ままならないもんだ。
 もしも俺様が人間ならばもっと違う関係だったかもしれない。
 いやまあ、お前は特に絆されることもないんだろうが……期待するぐらい良いだろ?

 男で同年代だったならば友達に。
 いいや、友達なんて関係じゃ物足りねえ。
 女で同年代だったならばもっと深い関係に。
 永遠の恋人春風紫苑――――言葉にするだけでもこっ恥ずかしいけど憧れるぜ。

 せめて、肉の身体を取り戻してヒトガタになれる術を収めてたら……。
 何度も言うけどままならねえよ。
 こうなったからこそ何もかもを変えられたしお前を愛せたんだからな。
 まあでもあれだ、折角だし俺様も最後に人間らしいことをしてみよう。

 そう、これは夢。届かぬ祈り。それでも手を伸ばし……あ、俺様手ぇなかった。
 畜生、どうにもこうにも締まらねえぜ。
 何時かまた、遠い時間の果てでお前に出会えますように。
 その時、俺様が新しいカタチを得られますように――そんな夢を抱いて俺様は逝こう、さようなら紫苑。




『永遠の相棒カス蛇より……っと』

 そっと、ペンを置く。
 紫苑の身体を操って手紙を書いていたのだがそれは彼以外には決して解読出来ないものだ。
 何せそれは言語とは呼べないものだから。
 敢えて言うのならば魂の波長、或いは信号を紙に投射したもの。

 解読出来るのは世界で唯一人、カス蛇と魂レベルで繋がっていた紫苑のみだ。
 ゆえにこれは彼にとって不都合なものにはならない。
 カス蛇は決して紫苑を裏切らない、常に一番の味方だから。
 とは言え、それが一方通行気味なのがもの悲しいところだがカッス本人はそれも良しと笑うのだろう。

『っかし……身体がだりぃ……』

 紫苑の身体を動かす以上、その感覚もダイレクトに伝わって来る。
 明日――と言うより今日か。今日が卒業式と言うことでほんの三十分ほど前まで飲んでいたのだ。
 家に帰りシャワーを浴びてベッドに倒れ込み紫苑の意識が閉ざされたところをカッスは狙った。
 同じベッドで寝ているアリスを起こさぬようにコッソリベッドを抜け出しリビングで恋文を執筆。

『手紙は……引き出しの中にでも入れとくか』

 音を立てぬように寝室に戻り机の引き出しに手紙を仕舞いベッドの中へ。
 これまで寂しそうに毛布を抱いていたアリスだったが、愛する男の温もりを察知したのかべったりと抱き着いて来る。
 一度も起きていないのだがこれはもう条件反射か何かだろう。

『手紙、読んでくれるかな……何か読まれねえ気もするけど……まあ、それはそれで良いか』

 もしも遠い未来に再会出来た時、ラブレターのことを言及されたら恥ずかしい。
 小さく笑ってカス蛇は瞳を閉じた。

『叶うと、良いなぁ』

 そうして蛇は夢を見る、その夢が叶うかどうかは――――さて、億年後の楽しみにしておくとしよう。
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