挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

20/204

ハゲとショッピング

 GWはまだ続いている。
 ペンションから帰って来た翌日の昼、紫苑は駅で人を待っていた。

「すまんすまん、待たせたな。いや、ちっと寝坊しちまってよ」
「いや良いさ(俺の時間を無駄にするとか万死に値するわ)」

 やって来たのは頭が眩しい花形元――――ハゲだった。
 前日に一緒に服でも見に行かないかと言う誘いを受けてそれに乗ったのだ。
 面倒なこと極まりなかったが、こう言う付き合いも疎かに出来ない。
 人間関係と言うやつが齎す力は大きいのだ。

「それより学校から二駅も離れていないが……こんなところに店、あるのか?」

 一応はこの辺りも紫苑の生活圏と呼べる距離だ。
 もっとも、駅の近くにある業務用スーパーに偶に来るくらいだが。

「おう、割と知らない奴多いんだがな。質は良いし値段も安い、良いとこだぜ」
「ほう……それは嬉しいな」
「案外値段とか気にするタイプ?」

 ハゲの先導で歩き出す二人。こうして見ると実に学生らしい光景だ。
 とても冒険者学校の生徒には見えない。

「(暗にケチだってかハゲ野郎? その頭眩しいんだよ!)まあな。俺、親居ないからさ」
「……そっか。変なこと聞いて悪かった」
「良いって良いって。今更そんなこと気にするほど柔じゃないしな」

 それは混じりっ気無しの本音。
 ハゲもそれを察したのかこれ以上は何も言わなかった。
 変な空気になるより楽しい空気の方がずっと良いからだ。
 そう言う意味では紫苑と同じくらい彼も空気を読むことを大切にしていると言って良いだろう。
 まあ、何故大切にしているかの理由は百八十度異なるが。

「ところで春風、ファッションにこだわりとかあるのか?」

 そう言うハゲの今日の服装は割と地味めだ。
 ミリタリーパンツに黒のタンクトップ、その上に白いシャツを羽織っている。
 無難な服装と評するしかないだろう。

「こだわり、か(安ければ何でも良い。だってイケメンは何を着ても似合うからな)」

 値段、それ以外にこだわっていることなど特になかった。

「まあ、強いて言うならば色んな場に合わせやすい服装、かな。
服装と言うのは時と場所に合わせて変えるものだろう?
だからなるべく多くの場で着られるようなものを選んでいるつもりだ」

 今日の紫苑の服装は細身の黒パンツと蒼のカーディガン、インナーには無地の白。
 これまた無難なファッションで改まった場で無ければ何処へでも着て行けそうだ。

「あー……特に自己主張とかはしないタイプなわけね」
「まあな。そう言うのはルドルフ辺りの役目だ」

 パーティメンバーのファッションについて評価するならルドルフは我が道を往く系だ。
 奇抜であろうと何だろうと気に入れば何でも着る。
 栞の私服は基本的に和装だが時と場合、
この間の山歩きの場合などでは動きやすいスポーツウェアに身を包む。
 麻衣は紫苑と同じで服装自体は無難、
帽子やアクセサリーなどの小物系で自己主張をするタイプ。
 天魔の場合は若干軽めのヴィジュアル系を好んで着ている。

「はは、確かにイメージだわ」
「だろう? この間皆でペンション行った時なんて山の中で甚平着て来たんだぞ甚平」
「うへ……マジ?」
「嘘を吐いてどうするんだ」

 相手をディスるためなら嘘も吐く――――なんてのは三流だ。
 紫苑は基本的に他人を信用していない、
陰口なんかを叩けば絶対にバラすはずだと思っている。
 だからあくまで事実を事実として伝えること以外はしないのだ。

「うぅむ……何と言うか、流石だなぁ……」

 ドン引きだと言わない辺りハゲは優しいのだろう。

「人目を気にせずポジティブに、そこは見習うべき点かもしれん」

 紫苑がそれを見習えばもっと生き易いのは言うまでもない。
 相手が優れていても劣等感を抱かずに認められ、
些細な言葉で一々ディスられた! と怒る必要も無い。
 そんな生き方が出来たのならばさぞや幸せな人生だ。
 まあ、毒が抜けた紫苑に今と同じような振る舞いは出来ないだろうが。

「かもなぁ。俺にゃ出来んぜ。だって甚平だぜ甚平。部屋着や祭りならともかくさ」

 登山する人間がそんな軽装をしていたら浮く、とっても浮く。
 場に合った服装と言うのはとても大事なのだ。

「あ、そうだそうだ。もしかしてアイリーン戦で着てたスーツってルドルフが用意したものか?」
「……よく分かったな(あのマフィアみてえな格好か。二度としたくねえわ)」
「いやまあ、今の話を聞くに……な?」

 あのスーツはわざわざルドルフが職人に仕立てさせた一品である。
 何でまたと思わなくもないが、一大決戦に臨む以上は当然とのことだ。
 確かに見栄えも良く格好もついたが、それでもあのセンスは無い。

「あれも凄いセンスだったよな。春風、嫌じゃなかったのか?」
「(嫌に決まってるだろ。でも高い服だったから着ないわけにもいかないし……)」
「せめてシャツを紫じゃなくて白に変えて、それでネクタイも暖色系なら……」
「ああ、普通のスーツと言えなくもなかっただろうな(全部オーダーメイドだからなアレ)」

 プレゼントと言うことで貰ったから勿体なくて今でも取ってはあるが、
紫苑はこの先あの正装に身を包むことはないだろう。

「っと、ここだよここ。行こうぜ」
「こんなとこにアーケードあったのか……」

 アーケードの中には色んな店がギッシリと軒を連ねていた。
 少々歩くには狭いが、それでも見ているだけでも楽しい。

「(けど、食べ物屋と服の店を近くに置くのはどうだ? 臭い移るじゃん)」

 ケバブやキムチ、タコス、色んな国の食べ物が置いてあるのは良いがどれも臭いがキツイ。
 焼肉の臭いまで何処からか漂って来るし……これは大丈夫なのか?
 少しばかり不安に思いながらも紫苑はハゲの背を追う。
 その途上でちらりと服の値札などを見てみると、確かに安い。

「この店がそうだ、俺のお気に入り。まずはTシャツから買おうぜ」
「ん、そうだな(へえ……言うだけあって良い感じだな。やるじゃんハゲ)」

 今はまだ五月だが、これからどんどん暑くなっていく。
 その前に半袖のシャツを何点か買っておきたいと思っていただけに、
ハゲが最初に連れて来た店のチョイスは良かった。
 ところ狭しと並べられたTシャツはデザインもサイズも様々で値段もリーズナブル。
 しかも二枚買えば千円になるらしい。

「(ついつい買い過ぎてしまうかもしれん……お、これ上下で三千円か)」

 半袖のセットアップジャージに目をつける。
 白地に桜があしらわれたそれは部屋着にするにはピッタリかもしれない。

「(だが白って汚れが……かと言っても黒もなぁ。便利だし合わせやすいけど……)」

 真剣に悩んでいる紫苑を、ハゲは少しキョトンとした目で見守っていた。
 基本的に真面目だと思っている紫苑がこんな姿を見せるとは思っていなかったのだ。

「よう、こっちのパーカーなんてどうだい?」

 何だか楽しくなって来たハゲは奇抜なパーカーを勧めてみたりした。

「お前……それはちょっと無いだろ? ピンクって」

 しかもフードには兎の耳がついている。
 幾らイケメンである自分でもそれはちょっと可愛過ぎると引き気味だ。

「洒落でこう言う着るのも悪くないんじゃねえの?」
「むぅ……だったら花形、お前これ着てみろよ」

 紫苑が手に取ったのはモノクロ配色のパンダパーカーだ。
 フードにある耳と目がとってもキュートでハゲが着るようなものではない。

「うはは! ないわー、そりゃないわー!!」
「あはは、だろう?」

 紫苑はここしばらく感じていなかった穏やかな時間を満喫していた。
 確かにハゲも優秀なAクラスの一員で嫉妬の対象ではある、
それでもずば抜けた連中ばかりを見て来たから余り気にならないのだ。
 だからこそ何時ものディスをせずに済んでいる。

「とりあえず俺はこれと……ああ、キャラものってのも悪くないか。この二枚買うかね」
「ふむ、なら俺は上下セットとTシャツ二枚だな」

 会計を済ませた二人は紙袋を手にぶらぶらとアーケードを進む。
 目的の服は手に入れたがそれだけで帰ると言うのもつまらない。
 どうせなら休日を思う存分に堪能せなば損と言うものだ。

「前の体育の時間の時も思ったけど、お堅いだけじゃないんだな春風って」
「(ウィットに富んだイケメンだからな)そりゃ人間だからな、当然だよ」
「これまでのイメージ的にあんまそうは見えなかったからさ。でも良かったよ、付き合いやすくて」
「俺もだ。何と言うか……花形みたいに大人しい相手は久しぶりだったからな」

 ここ最近の交友関係は気障でお馬鹿な金髪、ストーカー染みた呪いの日本人形、
ヤンデレストーカー、普通の関西弁女、チート女、合法ダークロリと濃い面子ばかり。
 ただでさえ嫌なのに離れられない、そのおかげで紫苑のストレスはマッハだった。

「うん、まあ何と言うか……心中お察しするぜ。確かにすげえ奴らなんだろうけどなぁ」
「(ああ……やっぱ外から見ても色物だったんだ)」

 そんな連中の一員になっていると言う事実に悪態よりも哀しみが勝ったようだ。
 と言うかその腐った内心さえ見えれば紫苑も色物の類だろうに。

「そろそろ昼だし軽く何か喰うか?」
「そうだな。花形、お前ここは詳しいんだろ? オススメを教えてくれよ」
「任せときなって! ほら、あっちあっち」

 連れて来られたのはたこ焼きの屋台だった。
 だがメニューを見ればただのたこ焼き屋でないことが分かる。

「これ……モンスターの肉なんかも使ってるのか……」
「珍しいだろ? たこ焼きの具は普通のから変わったもの、滅多に喰えないものまで勢ぞろいだ」

 商品として出す以上、勿論味に間違いはないだろう。
 だからこそ他の楽しみも見出せる――成るほど、確かにそれはオススメだ。

「普段倒してるような奴らがどんな味か気になるだろう?」
「ああ、腹と好奇心を満たせるってわけだ。オススメと言うだけはある」
「へへ、だろ? おすすめはこの三十個入りのボリュームパックだ。ちと値は張るがこれが良い」
「(千五百円か……まあ、許容範囲かな?)分かった。じゃあそれを頼もう」

 三十個入りの巨大パックを二つ頼むと十分ほどで注文の品がやって来た。
 歩きながら食べると言うのは少々下品だがこれもまた一つの風情だろう。

「パックの蓋見てみ、何処に何が入ってるか分かるようになってんだぜ」
「へえ……これは良いな。じゃあ早速」

 蓋にはどの列の何番目に何の具材が入っているかが記入されており、
紫苑はパッと目についたミノタウルスのステーキ入りを口に運ぶ。

「ッ! これは……良いな。普通の牛肉よりよっぽど美味しいじゃないか」
「お気に召したようで何より。でも外れもあるかもしれないから気を付けろよ」

 どうしたって好みと言うのは出て来るからそれも仕方のないことだ。

『おい、具の中に蛇とかもあるが……食べるのか?』
「(ああ、お前への嫌がらせのためにな!)」

 蛇のモンスターと言うのも存外多く、炎蛇の蒲焼入りなんてのもある。
 ゲテモノゆえに少々戸惑いはしたが、千五百円も払ったのだ。
 全部食べなければ採算が取れないし、何より嫌がらせにもある。

「痛いッ! でも何か美味い!!」
「痛い具もあるのか……それはちょっと嫌だな」
「慣れれば病み付きになるぜ」

 そんなことを話しながら歩いていると休憩所を見つける。
 ベンチが置かれただけの簡素なものだが十分だろう。
 二人はジュースを買ってベンチに腰を落ち着ける。

「そういやさ花形」
「あん?」
「お前、天魔をライバル視してたよな?」

 十中八九知らないであろう事実を伝えてリアクションを楽しもうという魂胆だ。

「おう! 次はぜってーリベンジするぜ!!」
「実はな、外道天魔は――――」

 ニッと茶目っ気を含ませた笑みを浮かべ真実を告げようとするが……

「――――僕がどうかしたの?」

 聞き覚えのある声に邪魔をされてしまう。
 振り向くと、後ろには今話題に上がっている天魔が立っていた。

「! 何で、こんなところに居るんだ? それに、その格好……」

 ガーター付きの黒いバルーンキュロットにモノクロストライプのビスチェ、
今の天魔は何処からどう見ても女の子にしか見えない格好をしている。
 確かに系統こそ彼女の好きなパンクロック系だが……

「ああ、これ? いや実はさぁ。女の子だとバレたじゃん? いや、隠してなかったけどさ」

 少し困ったような顔をしているのは、
その格好が彼女にとっても不本意なものだからだろうか?

「ああ……(義肢ってのがまた何とも言えない……メンヘラ系っぽいわ)」

 不揃いの義肢二つがパンクファッションに一味添え、
見方によっては確かにメンヘラと言えなくもない危うさを醸し出している。

「したらさぁ、麻衣ちゃんと栞ちゃんがね? 女の子らしい格好しろってここ連れて来たのよ」
「それでそんな格好に?」
「うん。フワフワの着せられそうになったけど、せめて僕の好きなジャンルでさせてくれって言ってね」

 キュロットの端を摘んで見せる天魔、
お似合いではあるが本人的にはどうにもしっくり来ていないようだ。

「で、ちょっと疲れたから休もうかなってここに来たら僕の名前が聞こえてさ」

 それでやって来たのだと肩を竦める天魔。
 珍しいことに彼女は割りと疲れているようだ。
 それほどまでに麻衣や栞に付き合ったのが堪えているのかもしれない。

「あ、たこ焼き一個貰うね」
「……どうぞ(一個分の代金を払えよ)」

 どこまでセコいんだお前は。
 と言うのはともかくとして、
紫苑の横に居るハゲはたこ焼きを口元に持って行く寸前で完全にフリーズしていた。
 突然現れたライバル――だと思っていた奴が女だと知らされたのだ、無理もない。

「あれ? ハゲくんじゃん。何やってんの? おーい、聞こえてる?」

 ぺちぺちと眩しい頭部を叩くその手に遠慮は無い。

「(ブッ……っく、くくく……ちょ、ちょっと赤くなってるぞ頭……)」

 ぺちぺちがべちべちに変わりハゲの頭には赤い刻印が押されていく。
 手の平型のそれは何とも間抜けで、紫苑は吹き出さないように堪えるので必死だった。

「お、お……」
「ようやく反応したね。やっほー、元気?」

 プルプルと震えているハゲの顔は如実に語っていた――信じられないと。
 確かに色んな意味で信じられないだろう。
 女だと言うのに躊躇いもなく両手を捨てたり首を掻っ捌いたりするのだから。
 男ならばまだ、男の勲章として誇れもするだろう。
 だが女性と言うのは綺麗で居たいと思って当然。
 自分から疵物になるなど正気の沙汰ではない。

「女……?」
「うん。別に男だって偽ってたわけじゃないからね? そこら辺勘違いしないでよ」

 パンパン! と景気よくハゲの頭を叩く天魔。
 彼の頭は別に打楽器でも何でもないのだが……

「な、ななな何で……そんな……」
「だから偽ってたわけじゃないってしつこいなぁ。
僕は普通に暮らしてたよ? トイレだって女子トイレ行ってたし」

 本当に偶々他の生徒とバッタリ会わなかっただけで、
会っていたのならば女だと言うことがもっと早くに知れ渡っていただろう。
 偶然に偶然を重ねた結果が今なのだ。
 アリスがお姉さん、と天魔のことを呼ばなければ気付かれるのはもっと遅かったかもしれない。

「……ふ、普通にショックだ」

 ハゲはフェミニストと言うわけでもなく、どちらかと言えば古臭い女性観の持ち主だったようだ。
 勿論蔑視はしていないが、それでも男が男足る矜持を持っていた。
 だからこそ女である天魔に格の違いを見せ付けられたことが悔しくてしょうがない。

「まー、あれだ。頑張れば良いんじゃない?」
「……天魔、それは励ましになってないような気がするんだが?(ブハハハwww良いぞ、もっとやれ)」

 紫苑の隣に腰掛けた天魔はパクパクとたこ焼きを食べている。
 ハゲがヘコもうが何しようが彼女にとっては関係ないのだ。

「それより天魔、三人で来たんなら他二人は?(見つかる前にとっとと帰りたいんだが……)」
「ん? あー……黙って抜けて来たから僕のこと探してんじゃないかな?」
「戻らなくて良いのか?(って言うか戻れ。そして俺の前から消えろ)」
「アハハ、良いよ良いよ。紫苑くんと一緒の方が嬉しいもん」
「(え? 同行する気!? 何この厚かましい女……)」

 戦々恐々とする紫苑、本当に他人には厳しい男である。

「あ! ようやっと見つけたで天魔ちゃん! 何処行ってんよもう……」
「あら? 紫苑さんに……同じクラスの花形さんまで。奇遇ですね」
「麻衣、それに栞も……(うへぇ……見つかっちまったよ面倒極まりねえ)」
「あれ? 何で花形くんヘコんでるん?」
「そっとしておいてやってくれ(でもイジメたいならイジメても良いのよ?」

 だってその方が見てると楽しいから。

「天魔から事情は聞いているが、何と言うか……不釣合いだなこの場所に」
「ええまあ、自覚しています。私は麻衣さんに連れて来てもらっただけですので」
「そう言う紫苑くんこそ、何でここに――ってのは聞くまでもないか。よう知ってたねここ」
「いや、花形に教えてもらったんだ。昨日服買いに行かないかって誘いが来てな」

 仲が良いわけでもないが、それでも付き合いとしてやって来た。
 そして中々楽しい時間を過していたのだが女連中と会ったことで紫苑のテンションは急降下だ。

「しかし桝谷、お前よく知ってたじゃねえか。地元に住んでる春風も知らなかったのによ」

 ようやくハゲも回復――したわけではなさそうだが、
このまましょんぼりしてても埒が明かないので無理矢理切り替えたようだ。

「(それは暗に俺の足元がお留守ですよとでも言ってんのかハゲ! 下の毛も剃ってやろうか!?)」
『既に生えてなかったらどうすんだよ。つーか早くたこ焼き食べろよ。俺様まだ空腹』
「(喋ったと思えば食べ物のことばかり……本当に意地汚い奴だよお前は!)」

 意地汚さでは紫苑も負けていないので良いコンビじゃないか。

「そらまあ、うちはパンピーやさかいこう言うトコはチェックしてんよ」
「(さりげにディスられてますよ栞さーんwww)」
「そのおかげで私も今日は良い経験が出来ました」
「(ケーッ! 良い子ぶりやがってこのアマぁ……!!)」
「はは、良かったじゃん。俺も春風と一緒に回ったがすっごい楽しそうだったんだぜコイツ」

 コイツ、と呼ばれたことに苛立ちながらもコクリと頷き同意を示す。
 反発して変な空気になったら嫌だもん。

「へえ、ちょっと意外。買い物とかで喜ぶんだね紫苑くん」
「そら人間やから当然やろ。まあ、いっつも仏頂面やから気付かへんけど」
「お二人とも失礼ですよ。でも、確かにそうですね。物欲なんかも無さそうですし」

 女三人がクスクスと笑う度に紫苑の阿修羅ゲージが上昇する。
 マックスになれば今夜は苛立ちで睡眠時間が減ること間違いなしだ!
 苛立ちが外に向かわず内に向かうのは臆病と言うべきか、
あるいは他人に迷惑をかけないので良いことだと言うべきか少々迷う。

「そんなことないぞ。たこ焼きだって楽しそうに美味しそうに食べてたしな」

 変に美化してやるなとハゲが苦笑する。
 この好意にケチをつけるところは無いように思えるが……

「(それは俺がガキみてえだって言いたいんですかねぇ……!!)」

 この男は別。無から有を生み出す勢いでケチをつけてくる。
 どんな好意も紫苑にとってみれば侮辱となり得るので気を付けよう。
 まあ、気を付けなくても直接害を成して来る可能性は皆無なのだが。

「いよっしゃ! どうだ、これからは皆で回らないか?」
「それは良いけどさ。ハゲくん、携帯鳴ってるよ?」

 大昔にやっていた大喜利番組のテーマが聞こえて来る。
 誰のものかと思っていた紫苑だが、どうやらハゲのだったらしい。

「誰だよ……もしもし? え……ああ、うん……分かった。しゃあねえな、兄ちゃん今すぐ帰るからよ」
「どうしたんだ?」
「ああ、スマンな春風。うちのチビが熱出したらしくてよ。親父もお袋も居ねえみたいだから帰るわ」

 すまん! と頭を下げてハゲは足早に去って行った。

「ほへぇ……ええお兄ちゃんやねえ。見かけによらず」
「後光が差しているように見えるね」
「あの、天魔さん? それはどう言う意味で――いえ、止めておきましょう」
「(俺をモンスターの群れに放り出して行くなんて……裏切り者! 友達だと思ってたのに!!)」

 ショックを受ける紫苑だが……友達だと思ってる割には酷いこと言ってたじゃないかお前。
 ハゲと言う呼び方だってフレンドリーさよりも侮蔑が大きかっただろうが。

「四人になっちゃったねえ」
「やねえ。どうせやったらルドルフくんでも呼――――」
「すまん! 俺も携帯鳴ってるので失礼するぞ(ナイスタイミング!!)」

 麻衣が余計なことを言おうとした途端に鳴り出した携帯。

「あ、薬師寺先生ですか? 休みだってのにどうしたんです?」

 電話をかけて来たのはヤクザだった。
 一体何だろう? と思いつつも用件を伺うと……

「え? 今すぐ学校に……? 他の連中も集めて? はぁ……分かりました」

 用件は単純、学校に来いとのことだった。

「皆、聞こえていたよな?」
「うん。今栞ちゃんがルドルフくんに電話かけてるよ」
「まだまだお休みやのに一体何やろねえ」

 思い当たる節は特になく、全員が首を傾げている。

「ルドルフさんに連絡はしておきました。それでは、向かいましょうか」
「だね。今すぐってんだし公共機関使うよりも――――こっちの方が良いかな?」
「(うぉおおおおおおおおおお!? な、ななな何をしやがるテメェ!)て、天魔?」

 いきなりお姫様抱っこされた、屈辱だった。
 紫苑にとっては七代先まで祟っても飽き足らない辱めだが、やった方は気にしていないようだ。

「では麻衣さんは私が」
「うひゃ! 何や女の子に抱っこされるんて照れるわぁ」

 天魔と栞は紫苑と麻衣を抱いたまま飛び上がってアーケードの上に昇り、
そのまま屋根伝いに学校がある方向を目指す。
 ジェットコースターどころではない衝撃にビビリまくりの紫苑だがやっぱり意地でも態度に出さない。

「わはははは! これ面白いわぁ♪」
「(こ、ここここれだから粗野な女は嫌いなんだ!)」

 肝が据わっている麻衣はキャッキャと楽しそうにしている、
それにジェラシーを燃やしていると時間はすぐ流れてあっという間に学校に辿り着く。
 四人はヤクザが居る生徒指導室に入ると、既にルドルフは到着していた。

「ふむ、休み中にすまんな。だがよく来てくれた諸君」
「それで先生、我らを呼び出した理由を聞きたいのだが? 私は祖父とベーゴマをしていたと言うのに……」

 その歳で、しかもこの時代にベーゴマかよ。

「前に言ったことを覚えているな? またいずれ戦ってもらうと私は言った」
「それは、各県の代表とでしょうか?」

 栞の問いに少しばかり驚いたヤクザだが、知っているのならば話は早いと大きく頷く。

「そうだ。他校でも四月に行った戦いをやっており、代表が選出されている。
そのうちこの段階に駒を進めて良いと判断されたのはうちを含めて二十二校」

 一都一道ニ府四十三県総てに冒険者学校があるわけではない。
 それでも日本全国で三十ほど存在している。
 そのうちの二十二がいわば――――本選に駒を進めたと言う。
 しかし、何故このタイミングで?

「本来なら数も数だし夏休み中かその後に行われるはずだったが、休み明けすぐに決まった」
「はいー? 何だってそんなことになってんのさ。つーか通常授業はどうするの?」
「無論、免除だ。そして理由だが――――」

 ここで紫苑の鼻は不穏な臭いを嗅ぎ付ける。
 このまま走り去りたいがプライドが赦してくれない。

「――――十八のパーティが潰された。死んだり、重傷を負ったりでな」

 残り四のパーティならば段取りもそこまで必要ではないと言うことだろう。
 だが、大事なのはそこでなく十八のパーティが潰されたこと。

「……各学校側でも下手人に見当がついていたのでは?(そいつら逮捕しろよ!)」
「そうだな、だが証拠が無い。それに止めるつもりも――――察せ」

 一般人に被害が出ることもあっただろう、
だがその上で尚も戦わせようとしている……何か大きな事態が動いていると見て間違いない。

「(……よし、逃げよう。だがカッコ悪く逃げるのは俺の流儀じゃない。
あくまで仕方なくと言った体でだな。ああそうだ、毒薬でも呷ってやろう。
うんうん、それを顔の見えない暗殺者のせいにすれば已む無く辞退出来――――)」

 と、そこでヤクザがファンシーな封筒を紫苑に投げ渡す。

「ラブレターだ」
「?」

 封筒を開けると便箋には短くこう書かれていた。

"舞台の上で会いましょう、待ってるわ"

 差出人は不明だが、誰が書いたかは嫌でも分かる。

「(イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!)」

 絶  対 に 逃 が さ な い――――そんな少女の激情が手紙には篭っていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ