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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

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山奥でロリと戯れよう 弐

「紫苑お兄さん、どう? 気持ち良い?」

 食事を終えてさあ温泉だ! と意気込んだ紫苑だったが今はテンションだだ下がりだった。
 何せ広い露天風呂の中には自分とアリスの二人きり。
 ここの温泉は男湯と女湯に別れているのだが、
あの子くらいの年頃なら仕方ないと女主人が男湯に入ることを許容したのだ。
 では何故二人きりなのか。それは……

"一緒に入りたいと言われたのは卿だからな。私が一緒に入って柔肌を見るわけにはいかんよ"

 と言うルドルフの似非紳士っぷりが発揮されたからだ。
 女だと知らない天魔やルークも誘ったのだが、

"一寝入りしてから夜にでも入るよ。折角温泉に来たんだし一人で独占してみたいのさ"
"……裸の付き合いと言うのもしてみたいが、自分が入ればアリスの機嫌が悪くなる"

 とけんもほろろに断られてしまったのだ。
 ちなみに天魔だが、彼女は別にバレたくないから言ったわけではない。
 純粋にそんな気分じゃなかっただけ。
 風呂に入る気分だったのならば平気で男湯に入って来て紫苑に見せ付けただろう。

「ああ、気持ち良いよ(温泉は最高だがお前の存在は最高に不愉快だよ)」

 裸の童女に背中を流されると言うロリぃな方には大喜びなシチュエーションだ。
 それでなくても純粋に自分を慕ってくれている子供が、
背中を流してくれたら嬉しいだろうにこの男はまったく心を動かされていない。
 純度百パーセントの不快感しか持っていない辺りは流石。
 今だって後でまた風呂に入って背中を洗い直そうと考えているくらいだ。

「えへへ♪ 良かったぁ。じゃ、流すね?」
「うん、頼む(しかし温泉は良いなぁ……飯も美味かったし……)」

 夕飯のメニューはビックリ――――熊鍋だ。
 何でもルークが狩って来たものを女主人が調理したそうな。
 そのことで更に怖くなった紫苑だが、
よくよく考えなくても冒険者なら簡単に熊殺せるレベル居るだろう。
 幾ら見た目が怖いからってビビり過ぎ――――いや、その小者らしさが紫苑か。

「(地獄のクッキングパ●やるじゃねえか)」

 まあ、ビビってはいても姿が見えないところではこんなもんだ。
 毎度毎度のことだがどうしてこう、名前で呼ばずに失礼なあだ名をつけるのか。

「はい! じゃあ次はアリスね?」

 トテトテと紫苑の眼前にやって来て座り込む。
 傷一つ無い白い肌を見ているだけで十円傷をつけてやりたくなる。
 意味も無く高級車にイタズラをしていた過去を思い出し、紫苑はほんの少し涙が出そうになった。

「(あの頃は楽しかったな。将来への不安なんかも何もなくて)じゃあ、じっとしてろよ」
「うん!」
「(金だわしなんかがあれば良いのに……)」

 心なしか強めにアリスの背中を洗う。
 それでも彼女はくすぐったそうにキャッキャと笑うだけ。
 些細な抵抗すら通じていないようだ。

「ねえ紫苑お兄さん、何かお歌を歌ってくれる?」
「(俺の美声を聞きたいとな? ギャラはあるんだろうなぁ?)歌?」

 あるわけねえだろ。

「そう。日本のお歌。アリスに教えて?」
「……そうだなぁ」

 そりゃ紫苑だって小中と卒業して来た。
 音楽の授業で子供が歌うような童謡も幾つかは知っている。
 春よ来い、うれしいひなまつり、ちょうちょう、雪やこんこ、浦島太郎、
それらの候補が頭によぎるもののそれを素直に歌うのも癪だ。

「なら、わらべ歌を一つ」

 良い曲を思いついたらしく紫苑が嫌らしく頬を吊り上げる。

「あの町 この町 日が暮れる 日が暮れる。今きたこの道かえりゃんせ かえりゃんせ」

 遠い遠い、大正と呼ばれていた時代に発表された曲だ。
 楽しげなリズムだし今のところおかしいものではないのだが……

「お家がだんだん遠くなる 遠くなる。今きたこの道かえりゃんせ かえりゃんせ]

 帰っているのに何故家が遠くなるのだろう? 余りにも不可解だ。
 わらべ歌と言うのは何処か不気味さを含んでいて、この曲もその一種である。

「お空に夕の星が出る 星が出る。今きたこの道かえりゃんせ かえりゃんせ」

 はてさて、彼もしくは彼女はお家に帰れたのだろうか? あるいは……
 考えるだけで欝になってきそうなこの曲を、
分かった上で教えると言うのは根性が捻じ曲がっているとしか思えない。

「どうだ、覚えたかい?」

 泡を洗い流して二人は湯船に戻る。

「うん!」
「じゃあ次は俺と一緒に歌ってみようか(ふへへ、思いっきり暗い歌仕込んでやったぜ)」

 湯の中であぐらを掻き、その上にアリスを乗せて笑いかける紫苑。
 傍から見ればとても仲の良い兄妹に見えるだろう――まあ、実情はそうでもないのだが。

「えへへ、アリスとってもお歌が上手いんだからね。きっと聞き惚れちゃうわ」

 言うや二人は声を揃えて歌い始めた。
 心地良い低音の紫苑、鈴の音にも似たアリスの声。
 彼らのデュエットは聴いているだけで感動を喚起させるものだ。
 人格と歌声は比例しないと言う悲しい例である。

「さて、そろそろ出ようか(これ以上テメェと同じ湯に浸かるなんて耐えられねえぜ)」
「そうね……私も、何だか眠くなって来ちゃったし」

 脱衣所で身体を拭き、
パジャマに着替え終わった紫苑は髪を乾かしているアリスを置いて出ようとするが、

「ねえ紫苑お兄さん」

 アリスの声に引き止められて不機嫌ゲージが急上昇する。

「ん?」
「そのパジャマ、可愛いわね」
「(ほう! 分かってるじゃないか)そうかな?」

 黒地に黄色の星柄と言う夜空をモチーフにしたこのパジャマは紫苑のお気に入りだった。
 それを褒められたことで気を良くしたこの男はジュースを奢ることを決意する。

「ナイトキャップなんかもあればもっと素敵よ」
「あるぞ。三角帽の可愛いやつがな(ガキの癖にセンスがありやがるぜ……)

 備え付けられていた自販機からジュースを買って投げ渡してやると、
アリスは嬉しそうに受け取って飲み始めた。

「ありがとう。あーあ、私も帰ったらお兄ちゃんに新しいパジャマ買ってもらおうっと」
「はは、怖そうなお兄さんだが大丈夫か?」
「大丈夫よ。いっぱいいっぱいワガママ言えば最後には折れてくれるもの」

 イタズラな笑顔でウィンクする彼女は正に小悪魔だった。

「(計算高いやっちゃのう……可愛くないガキだぜ)女の子は怖いな。さ、出ようか」
「そうね。今夜は一緒に寝ましょ?」
「いや、それは……」

 ラウンジに行くとルークと他の面子がトランプをしていた。
 内容は大富豪で、どうやら一位は栞のようだ。

「(リアルで金持ってる癖に生意気な奴だぜ)楽しそうだな」
「ええ、そちらも楽しそうで何より。良かったですね、アリスちゃん」
「うん! それでね、今日は紫苑お兄さんと一緒に寝る約束もしたのよ♪」
「(は? そんな約束してねえよ。勝手ほざいてるんじゃないですわよ!)」

 アリスの言葉に待ったをかけたのはルークだった。

「あまりワガママを言うものではない。それに、自分は皆さんと話があるんだ」
「えー! 嫌よ嫌嫌。絶対ヤーダー!」
「アリス」

 若干語気を強めたルークに気圧されたのか、アリスが不貞腐れたようにそっぽを向く。

「まあまあアリスちゃん。うちらは明日もおるんやし、明日一緒に寝てもらえばええやん」
「むぅー……分かった。じゃあ、私はもう寝るわ。お兄さん、お姉さん、おやすみなさい!」

 パタパタと自分の部屋に戻って行ったアリスを見送りルークが溜息を吐く。
 皆からはお兄さんって大変だな……と苦笑を贈られる。

「それでルークよ、我らに話とは何だ?」
「……自分の間違いでなければ、皆さんは冒険者学校の生徒さんですよね? 年齢的には」
「そうだよ。皆揃って一年生でパーティ同士さ」
「自分も同じで冒険者学校に通ってる見習い冒険者で一年生なんですよ」
「ほう……まあ、そうかもとは思ってたがやはりそうだったか」
「せやけど何でうちらに気付いたん?」
「そのピアスです。皆さんの着けているそのピアスは冒険者用のアクセサリーっぽかったので」

 ルドルフらが気付いた理由はもっと単純だった。
 ルークが素手で熊を仕留めたと聞いたからだ。
 見ただけでも何となく分かるものだが、確信を持ったのはそれが大きい。
 同じようにルークもピアスで確信を得たのだろう。

「(冒険者かよ……うわぁ……余計近付きたくねえや。絶対前衛だしコイツ)」

 妹への無礼を咎められてボコられたら紫苑は二秒で半死半生になるはずだ。

「(あのクソガキにはもっと丁寧に接するか)で、話と言うのはそれか?」
「それとも他校の生徒同士で一つ盛り上がる、とかかな?」
「いえ、そちらにも興味が無いわけではありませんが……アリスのことです」

 困ったように頬を掻くルーク、一体アリスがどうしたと言うのだろうか。

「皆さんは冒険者で日常的ではないものに偏見も無いと思います。
本来なら会ったばかりの人間に言うことでもないんですが……あの子が懐いているようだし……」
「よく分からんが、我らは皆誠実に生きているつもりだ。何を言われようとも構わんぞ」

 尚、一人ばかり誠実と言う言葉に真っ向から逆らっている奴が居る模様。

「ありがとうございます……皆さん、アリスが幾つに見えますか?」
「幾つって――――十歳くらいやないん?」
「大きく見積もっても小学校六年生くらいに見えますが……」

 おかしな質問に首を傾げながらも二人は律儀に答えた。
 黙っていたルドルフや天魔も同じような感想だ。
 あの背丈や行動を見るに子供のそれにしか見えない。

「いいえ、あの子は自分と一日違いで生まれた妹で――――自分と同じ十五歳なんです」
「(その前にお前のその面で十五歳と言うことにビックリだよヘルクッキー)」
「ついでに言うならアイツも自分と同じ学校の生徒です」

 地獄のクッキングパ●からアレンジを加え、更に省略してヘルクッキーになったようだ。
 さて、それはともかく紫苑の感想も強ち間違いと言うわけではない。
 学生だと言ったから十代だと分かっていたし、それでもビックリだったが……まさかのタメ。
 どう低く見積もっても十八で、学生だと聞かなかったら三十手前だと思っていたはずだ。
 それほどまでに老けて見えるルークがじゅうごさい、ギャグだろうか?

「まさか、そんな……」
「ふむ、じゃああの子供らしさは演技だったのかな――とも思えないんだよね」
「うむ、普通の子供にしか見えなんだ」
「(え? 演技じゃねえの? だって十五歳でアレだよ? 気持ち悪いわ)」

 発達障害の一種――とも思えるが違うだろう。
 そもそもそれは脳機能の障害であって肉体の成長には関係ない。
 肉体の成長を阻害する病もあるが、それにしては健康すぎる。

「気付いたのは五歳くらいの時です。
自分はグングン背が伸びてるのにアイツは小さいままで十歳の時完全に成長が止まりました。
心の方も子供っぽいままで、病気かとも思ったんですが何処にも異常は無いんです。
勉学なんかについても自分よりも出来るくらいなんですが……」

 それでも心と身体は幼いまま。

「一応病院にも連れて行きましたが異常は無し。
ただ……爪や髪が伸びる速度がやけに遅かったりするんです。
爪なんて最後に切ったのなんて五年前なんです」
「それにしては綺麗に整えられていたような……」

 成るほど、確かに異常だろう。
 五年も爪を切らなければ延びっぱなしで酷いことになるはずだ。
 それで医者にかかっても病気でも何でもないと言うのだからおかしい。

「冒険者学校に入ってその筋の高名な方に聞いてみたら、
ダンジョンの中から広まった新種の病かもしれないと言うことです」

 ダンジョンから帰った人間が病を持って来ることは稀にある。
 それでも大概は対処可能なものらしいが、中にはまったく意味が分からないものもあるそうな。

「自分とこは親も冒険者だもんで、そのせいかもしれないと」

 持ち帰った病が母胎に居たアリスを蝕んだのかもしれない。
 ルークは運良く患わずに済んだが彼女は……

「自分はあの子を大人にしてやりたいんです。だって……寂しいじゃないですか」
「(ケッ……良い子ぶりやがって)そうだな。あの子の時間はゆっくりで……
子供のそれと変わらないのならばとても残酷だ。周りに置いていかれると思う時も来るかもしれない」

 ルークのような人間を見ていると、
家族のために必死で頑張る俺カッケー! ですか馬鹿野郎! としか思えないのが紫苑だ。

「うす、だから自分は冒険者になったんです」
「――――良い兄ではないかルーク・ミラー!」
「いえ……それより、あの子が他人に心から懐いたのは初めてでしてね。
自分でも何処か壁を感じてるんでしょう。でも、皆さん――特に紫苑さんは違った」

 温かい何かに惹かれたのかもしれないとルークは笑う。

「なんで、良かったら友達になってやってください」
「ええ、分かりました。それとルークさん、アリスさんを大人にすると言う目標……」
「うちらにも手伝わせてや。ダンジョンとかで何か関係してそうなアイテムとか見つけたらあげるし」
「……い、良いんですか?」

 驚きと喜びが混じったルークの表情を見て、皆が優しい笑顔になる。
 実直で不器用なこの巨漢を見ていて好感を抱いたのだ。

「構わん。困った時はお互い様と言うものだろう? それに卿のような人間は嫌いじゃない」
「見た目はクソゴツイけど良いお兄ちゃんじゃん。カッケーよ君」

 予言しよう――――紫苑は紫苑であると。

「(ハーッ!? 何言っちゃってんですかこのおバカさん達は!!
こんな自分に酔ってる野郎のために何だって協力してやらにゃならんのだ!?
それにそもそもアリスの病とやら……金の臭いがするじゃねえか。
上手くすれば老化抑制とかにも使えそうだし?
そんな金の成る木に成り得るかもしれないようなアイテムをタダでやるとか冗談じゃない!
それにな、俺だって興味あるわ。老いずにイケメンのままでいられるなんてよー!)」

 自分に酔ってるのは紫苑だし、
酔っていたとしても誰がために頑張るルークの方がかなりマシだ。
 加えて老いずにイケメンのままでとは言うが、
心根がしっかりしている人間は老人になってもイケメンのままでいられるだろう。

「そうだな、俺に兄弟は居ないがルークのような兄が居ればさぞ頼もしかっただろう」

 まあ、心で幾ら悪態を吐いたところで口に出せる度胸は無いのだが。
 それに――――ルークの言葉にどれだけ真実が混ざっていたかも怪しいし。

「ありがとうございます! 自分、嬉しいです。本当に本当にありがとうございます」
「ハハハ、頭を上げろルーク。卿のような男はドンと胸を張っているのが一番だぞ」
「だろうね。その方がさぞや勇ましいだろうに……まあ、妹さんには形無しみたいだけど」
「う、うす。やっぱり自分は男だし兄貴なもんで……どうにもアリスを甘やかしてしまうようで……」

 大きな身体を丸めて恥ずかしそうに俯くルーク。
 さて、この場に居る役者二人――――どちらの演技が上手いのだろうか?
 興味はあるが生憎とこの場に居るギャラリーに審査は不可能だ。
 何せどちらの演技にも気付けていないのだから。
 しかし、それを節穴と責めることは出来ない。
 天性の保身家であり嘘吐きでもある紫苑と、それに伍するルークなのだから。

「可愛い人やなぁ。はは、ホントに見た目と全然違うわ」
「よ、よく言われます」
「見た目通りと言うのもそれはそれで怖いですけどね」
「(うん、俺なら速攻で逃げるわ)ちなみに、ルークは前衛? 後衛?」
「自分は前衛です。武器は……身体だけはデカイもんで、素手です」
「はは、そこは見た目通りなわけか。面白いねえ」

 心優しき巨人――とでも評するべきか。

「鍛え上げた五体が武器か。私の得物は槍だが、そう言うのに憧れが無いわけでもない」

 言うや甚平の上を脱ぎ捨てて半裸になる馬鹿ルドルフ
 ギッチリ引き締まった身体は筋量ではルークに負けるが、別の美しさがある。

「もう、いきなり脱がんといてよ……あ、ねえねえルークくん。ルークくんは何処の学校なん?」
「長崎です。知り合いがこのペンションを紹介してくれて、息抜きでアリスと来たんです」
「へえ、僕らは麻衣ちゃんのお零れに預かって来たんだ」
「ここで会ったのも何かの縁。加えて先の約束もあるしな、連絡先を交わそうか」

 全員が携帯を取り出したのだから一人だけ取り出さないわけにはいかない。
 場の空気を乱すことも出来ず、紫苑も渋々携帯を出してルークと連絡先を交換する。

「皆さん、どうもです。本当に……嬉しいです」
「そう恐縮せんでええって。真面目やねえ」
「何処と無く紫苑さんそっくりですね。だからアリスさんも懐いたんでしょうか?」
「どうでしょう? アリスは自分にも懐いてるかどうか……」
「何を言っておるのだ。卿は兄なのだから自信を持たんか。なあ、紫苑?」
「(俺に振るなよどうでも良いのによぉ)そうだな」

 嫌々ではあるがルークを褒め称える言葉を脳裏に描く紫苑。

「お前は頑張ってるじゃないかルーク。頑張れば報われるほど優しい世の中でもないが……
そうやって必死に頑張っているその背を、妹はきっと見ているよ。
自分のために頑張ってくれる優しい兄に尊敬の念を抱かない妹はいないさ。
その証拠に、何だかんださっきだって言うことを聞いただろう?
アリスは口ではああ言ってるがお兄ちゃんのことが大好きなんだよ。だから自信を持て」

 即興でテキトーにここまでペラを回せる紫苑は役者だけでなく、
ホストや詐欺師と言った職業にも向いているのかもしれない。
 結婚詐欺師に転職すれば頭の軽い女を何人引っ掛けられることやら。

「……どうもです」
「フッ……っと、しかし山奥だからか獣の声がうるさいな。いや、違う。これは……」

 先ほどから遠くで聞こえていた鳴き声、
しかしそれは獣にしては何処か違和感を覚える。

「――――モンスターだねえ」
「近くに孔があるのか?」

 孔からモンスターが出て来ると言うのは珍しいことではない。
 しかし、それでも発見された孔の周囲には結界が張り巡らされている。
 それがあれば出て来れないし鳴き声だって聞こえて来ない。
 しかし、それが聞こえると言うことは……

「まだ国に発見されてない孔があるんかな? 最近出来たものやろか?」
「その可能性が高いでしょうね」

 孔と言う気付けば何処かに開いているものだ。
 国は孔を発見すべく定期的に自国の領土に探索隊を派遣したり、
各地に孔が発生した場合に探知する機器などを置いたりしているのだが……

「ここは山奥だしねえ。前に探索隊が来た時には見つからなかったのかもね。
もしくは最近出来たものか……まあ、どっちにしろ放置は出来んわな」

 幸いなことに山の中に住んでいるのはこのペンションのオーナーだけ。
 定期的にここへ物資を届けたりする者や、宿泊客も居るが今は居ない。

「明日の朝にでも連絡するとして、放置は出来んな。卿らもそう思うだろう?」
「ええ、一応安全のために出て来ているモンスターを駆除しておくべきでしょう」
「よっぽどの大物ならともかくそんな気配はしないしね。問題だろうて」
「リーダー、どうするん?」
「(確認取ってるけど……それってやるかやらないかじゃないよね!?)」

 どう言う組み分けで討伐に行くかと言うことだろう。

「(風呂上りに山歩きなんぞしたくないっての)
ならば、ここに残って備えるのは俺とルーク、アリスで良いだろう。
少ないが……防衛に徹するならば十分だ。万が一があっても、
俺が強化をかけてルークが防戦に専念すれば何とか持ち堪えられる。
第一、ルークは妹がここに居るからな。離れさせるわけにもいかんし連携の面でも、な。
なので俺達三人がここに残ってペンションの護衛に回る。討伐はお前達に任せるぞ」

 思惑はどうあれ徹底的な理詰めでそこに隙は無い。
 幾ら人間的に好ましいとしてもルークの実力を知らない状態で、
ルドルフらに混ぜるよりも残した方が一番やり易いだろう。
 紫苑が残るのだってそう。回復役は討って出る側でも守る側でも必須だが……
 リスクが高いのは向かう側だ。どちらかと言うならばそちらに配置するべきだ。
 防衛側には大物が攻めて来ない可能性が高い。
 何せそんなのが居るならば討伐側で察知しそちらで片付けるはずだ。
 であれば、やはり回復役は討伐側に配置し消去法で強化を担当する紫苑が防衛側に残った方が良い。

「アイサーリーダーお任せあれ。僕らがしっかりカタ嵌めてやるよ」
「風呂に入る前のちょっとした運動だな。卿は安心して待っていると良い」
「それに、お風呂に入ったばかりで山歩きさせるのも申し訳ないですし」
「あと、起きた時アリスちゃんが紫苑お兄さんおらん言うて泣くかもしれへんしな」
「(おうおう、物分りが良くて結構なことでござんすね)ルークもそれで良いか?」
「うす! 自分も異論はありません。しっかり守ります」

 これで話がまとまった、討伐組は意気揚々とペンションを出て行く。

「さて、俺達も動くか。流石に、パジャマのままじゃ格好がつかない。俺は着替えて来るよ」
「うす。じゃあ自分はオーナーを探して来ます。多分自室に居ると思うんで」
「分かった。それじゃあ後でまたラウンジで落ち合おう」

 そうして二人もそれぞれ向かうべき場所へと向かう。

『よう紫苑、面倒なことになったなぁ』
「(あん? 何がよ)」

 部屋に戻り着替えを始めた紫苑にカスが語りかける。
 近くに孔があったことを言っているのだろうが、的外れだ。

『いや、モンスター出て来たんだろ?』
「(バーカ。俺らはやることねえっての。優雅に茶ぁしばきながら待ってるだけで問題なし)」

 だって紫苑は自分が安全だと高を括っているから。

『そうなのか?』
「(そうなんだよ。あの馬鹿共に万事任せときゃ良いの。何とかなるだろうて)」

 そもそも温泉旅行で心身を労わろうと言う目的で来たのだ。
 それが何だってわざわざ疲れるようなことをするのか。
 紫苑にはそこが理解出来ない。
 モンスターだって別に放置していても何の問題も無い。
 明日になれば国の人間が来るだろうし、ここに敵が来たとしても全員居れば追い払える。
 だから待ちの姿勢で居れば良いだけ。
 なのにルドルフらはわざわざ討って出ると言う。

「(真性だねありゃ。ああ言う奴らにゃ着いていけませーん)」
『ホントお前は口だけ番長だなぁ……いや、口にはしてないから、かなりの小心者だよ』
「(うるせえ! それより着替え終わったし菓子でも持って戻ろうかな?)」

 ラウンジで優雅に紅茶を飲みながらクッキーでも摘む、
ルークに関してはテキトーに言い包めれば何の問題も無いだろう。
 頑張ってるルドルフらを肴にして開催するちょっぴり楽しいお茶会を想像して頬が緩む。
 悪趣味だが、こんな小さいことで楽しい気分になれる紫苑はある意味エコロジーだ。

「(あん?)」

 不意に聞こえたノックの音。

「(あのでくの坊か? ラウンジで落ち合うって言っただろうが低脳め)」
『それより出なくて良いのか?』
「(わーってるよ。今出るさ……あー……怠るい)はい、今開ける」

 扉を開けた瞬間――――白刃が紫苑の喉下に突きつけられた。

「(――――はい?)」

 思考が一瞬完全停止する。
 すぐに再起動させて刃の先を辿れば、そこには甲冑が居た。
 ハートマークを刻印された甲冑が紫苑に刃を突きつけているのだ。
 そして甲冑は一つではなく四つ、他はそれぞれダイヤ、スペード、クラブが刻印されている。
 そんな甲冑を従えているのは、

「はぁい、こんばんは――――紫苑お兄さん♪」

 合法ロリことアリス・ミラーだった。
 稚気を感じさせる笑顔の代わりに狂気を滲ませた笑顔を浮かべて手を振っている。

「……アリス、か(ちょっとどう言うことですの!? クソ、やっぱ面倒な感じだった!!)」

 あの変貌を見た時点で何をするでもなく放置していたからこうなったのだ、迂闊にもほどがある。
 ここらの見通しの甘さが何とも紫苑らしい。

「ふぅん、やっぱり驚いていないのね」
「いいや、驚いているさ(そして心底お前が嫌いになった)」

 アリスがこう言う行動に出た以上、ルークはグルと見て構わないだろう。
 頼れる仲間もおらずに刃を突きつけられている現状は、

「(絶対絶命!? もうやだ! 何やってんだよあの馬鹿共! 早く帰って来い!!)」

 お前が他の連中を討伐側に配置したんだろうが。
 せめて一人くらい残しておけば良いものを……

「それで、何の用かな?」
「うーん……大したことじゃないわ」

 だったら刃を引けよクソガキ! と内心で敵意を剥き出しにする紫苑。
 この状況をどうやったら打開出来るのか、まったく分からない

「――――お茶会の誘いに来ただけ♪」

 さあ、楽しいお茶会の始まりだ。
+注意+
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