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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

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イケメンはどんなお洒落でも似合うから困る

 月末、今月は入学に始まり予期せぬAクラスへの振り分け、恥ずかしい二つ名を得る。
 チート女との限界ギリギリバトルや交通事故に遭い掛けるなど……紫苑にとっては厳しい月だった。
 それでもその辛さを一時忘れられるくらい今は幸せだった。

「(――――よし、やるぞカス蛇)」
『おう』

 学内に設置されているATMの前で神妙な顔をしている紫苑。
 何を隠そう――――今日は給料日なのだ。
 チキンハートの小者にとっては艱難辛苦を乗り越えた末に辿り着いた楽園とも言える。
 ゴクリと喉を鳴らし専用の通帳を挿入し、しばし待機。
 記帳されて戻って来た通帳を見て思わず、

「(っしゃキタコレ! パネェ金額入ってんぞオイ!)」

 小さくガッツポーズ。
 ちなみに言うなら人目は無い、何せ放課後だから。
 一年だけに限らず二年も三年のAクラス生徒も大概は昼休みまでに記帳や引き出しを終えるからだ。
 いや、そもそも一応設置されてはいるがATMの利用者自体が少ない。
 Aクラスの人間は余り金銭に執着する性質でも無いからだ。

『おい、約束覚えてんだろうな?』
「(分かってる……分かってるさ……)」

 紫苑は今、幸福に包まれていた。
 自分より才ある人間に囲まれて、劣等感に歯軋りしながらの生活。
 それだけでもキツイのにチート女に絡まれたりトラックに絡まれたり……辛かった。
 だからこそ頑張りが形となる給料日が嬉しくて嬉しくてしょうがない。

「(外食だろ? 安心しろ、ちょっと良いとこ連れてってやるからよ)」
『っしゃ! 期待してんぞオラァ!!』
「(任せろ。賞金が結構な額だったからな)」

 基本給自体は納めた素材・アイテムなどもあり多少上乗せされていたが予想の範疇。
 紫苑の計算通りの金額だった。
 それにプラスされている六百万円――――これが恐らく賞金だ。
 一人頭六百万の合計三千万、それを高いと見るか安いと見るかは個人の主観だろう。
 情報集めや監禁、策の実行のために骨を折った栞。
 策の要である毒薬を買うために自腹切った天魔と麻衣。
 全員分の正装を用意したルドルフ。
 彼らはそれに加えて身体を張って戦っても居たのだ。
 そんな彼らにとっては少々安い金額と言えるかもしれない。
 まあ、それで困るような経済力はしていないのだが。

「(いやぁ、頑張った甲斐があったぜ)」

 だがコイツはどうだろう?
 確かに頭を働かせはしたが痛い思い一つしていないのだ。
 と言うか状況だけを見るなら朝から高級懐石に舌鼓を打って、
食後の軽い運動に補助魔法を唱えただけである。

「~♪」

 口座から幾らかの金額を引き落として意気揚々と校舎を出ようとする紫苑だったが、

「やあ、ご機嫌だね紫苑くん」

 下駄箱の前で待ち構えていた天魔に呼び止められてしまう。
 何時もならここで悪態の一つ二つ三つ四つくらいは吐き出すのだが……

「ああ、給料日だからな。初めてなんだよ、仕事をしてお金を稼ぐって言うのは。
(天魔じゃーん! 相変わらず楽しそうな顔しやがってよぉ……俺も楽しいぞ!!)」

 気持ち悪いくらいに機嫌が良かった。
 給料日と言うだけでここまでの幸せに浸れる紫苑は幸せな人間なのかもしれない。
 ああいや――――常に他者に対してジェラっても居るのでトントンか。
 少しは妬むことを止めればもっと幸せになれるだろうに……

「あー……そう言えば僕も初めてだ」
「その割には何の感慨もなさそうだな(もっとアゲてこうぜオイ!)」
「はは、僕は紫苑くんみたいに根が真面目じゃないからねえ」
「(褒めても何も出ねえぞオォイ!)フッ……と言うか天魔、何でこんな時間まで学校に?」

 空はもう茜色になっている。
 紫苑は嫌なことは先に終わらせようとばかりに、
図書室で今日出された宿題を片付けてから引き出しに行ったからこんな時間になってしまった。
 しかし天魔はどうだ? 自主鍛錬などをする生徒ならば残っていてもおかしくはない。
 だが彼女は生憎とそう言うものに熱を入れる性質でも無いのだ。

「いや、一回家に帰ったんだけどさ……」
「? 何故また学校に?」
「紫苑くん、携帯は?」
「携帯? ああ、さっきまで図書室に居たからな。勿論電源は切ってある」

 春風紫苑はマナーを遵守する。
 ゴミはポイ捨てしないし、電車で電子機器は電源を落とす、
優先席には絶対に座らない――――だって人目が気になるから。
 マナーも守れない低脳な人間だと思われる屈辱には耐えられないのだ。
 尚、マナーを守らない人間に対しては別に何とも思わない模様。
 いや、むしろ見下せる対象であるから好意すら抱いているかもしれない。

「それなら、無理も無いか。実はさ、紫苑くんと話したいことがあってさ」
「俺と?(おうおう、何でも話せよ。大阪の父とは俺のことだぜ!)」

 古臭い占い師みたいな自称である。

「さっきさ、警察から電話あったの」
「(……逮捕されるのだろうかこいつ。まあでもしゃあないよな。面会くらいは行ってやるか)」
「あの暴走トラックの運転手、今朝方意識を取り戻したらしい」
「! それで?(そうだ! 忘れてた……あのオッサンから慰謝料ふんだくらなきゃ!)」

 紫苑と天魔に向けて突っ込んで来たトラックの運転手。
 彼はあの後入院したのだが、頭の打ち所でも悪かったのかずっと意識不明だったのだ。

「――――自殺したらしい。これから先を思えば悲観するのも無理ない、のかな?」

 人こそ殺していないものの、間違いなく会社はクビ。
 保険が降りるとは言え破壊した器物の弁償、
轢きかけた二人への謝罪、ことによったら訴えられるかもしれない。
 そんな暗い未来を想像してしまったら自死するのも已む無しか。

「な……」

 天魔の言葉を聞き思わず言葉を失う。
 そりゃ憎い相手と言えども死んでもしまえば憐憫の一つや二――――

「(死に逃げかぁああああああああああああ! ふ、ふふふふふざけやがって……!!)」

 ……憐憫も同情も無いようだ。
 あるのは金を毟り取る先が無くなったことへの哀しみと、
死んで逃げた運転手への赫怒しか無いらしい。

「(ぐぎぎ……! 会社側に請求するにも、上手いこと逸らされるのがオチだし……畜生ぉお!)」
「……やっぱり、気になる?」
「(へ?)」

 紫苑の沈黙をどう受け取ったのか、天魔は幾分真面目な表情に変わる。
 そもそもからして彼女は気になっていたのだ。
 あの事故から感じる得体の知れない違和感がどうにも引っかかる。

「紫苑くんも見たと思うけどさ、あのオジさん――変だったよね?」
「……ああ(変? 何が変だったんだ? クソ、思い出せ俺ェ!)

 知らないのは恥ではない、それを認めぬことが恥なのだ。
 そんな感じの言葉があるが、正にそれだ。
 知ったかぶるから苦しむことになる。

「衝突の怪我でなったにしては、あの状態はどうにもおかしい(確か、変な感じだったような気が……)」

 必死に記憶を辿ってそれらしい答えを導き出す。
 紫苑の記憶にある運転手は目の焦点が合っておらず、涎は垂れ流し。
 激突のショックだけでいきなりああなるのは少しばかりおかしい。

「うん、そうだよね。僕もそう思っててさ」

 紫苑が導き出した答えは正解だった。
 何のかんの言っても彼は状況をよく観察しているし記憶力も良いのだ。
 加えて理解力も優れている。
 まあ、他人の粗ばかりを探していた人生だから自然と目が培われたのだろう。

「だがあの場で調べるわけにもいかなかったからな(つーかどうでも良い)」

 問題なのは死に逃げして払うべきものを払わなかったことだ。
 紫苑と天魔の間にある意識の差はどうにも埋められない。

「だよねえ。だから警察から詳しいこと聞きたかったんだけど……」
「無理だったか」
「うん、あんまり聞けなかった。何でも持病の発作を抑える薬のせいで事故ったと見ているらしいけど……」

 一応はその理由でも納得は出来る、出来るのだが……
 天魔は喉に小骨が引っかかったような気持ち悪さが拭えない。

「(つーかいい加減帰りたいんですけど……)」

 逃げられた苛立ちを鎮めるために自棄食いがしたくてしょうがない紫苑だった。

「あ、そう言えばさ。紫苑くんが修理に出した電気コンロどうなった?」

 考えても分からず気分転換にと話題を変える。

「(……んなこと聞いてどうすんだよ)ああ、大丈夫だった。と言うか特に異常は無くてな」

 下校時に電気屋から受け取って、
その夜に使ってみたら今度はあっさりと使えたのだ。
 おかげで料金も取られずにラッキーと紫苑は大喜びだった。
 朝に事故に遭いかけたのに何ともおめでたい男である。

「へえ、そうなんだ。原因何だったんだろうね」
「電気屋の爺さんも首を傾げ――――!」

 小動物、と言うのは危機に敏感である。
 あっちに行けば何か良くないかも? あの動物はちょっと危ないかも?
 そんな風に感覚で危機を避けるのだ。

「どうしたの?」

 考え過ぎ、被害妄想、そう受け取られても仕方ない。
 それでも紫苑はただでさえその二つが強い男だ。
 加えて小者であるがゆえに危機には敏感。
 小動物のように感覚で理解出来ずとも理屈で危機を見つけることが出来る。
 勿論、目の前に立てば感覚も働くが見えない状態では理屈オンリーだ。

「……俺は、昔からそうだった。電化製品が壊れた場合はな、あの時間に家を出る」

 一度足りとも他の電気屋に行ったことはない。
 安いと言うのはそれだけで素晴らしいことだから。
 だが、そのためには朝早くに電気屋に行かねばならないのだ。

「朝に出して帰りに受け取る、それが俺の定められた行動だ」
「!」

 天魔の顔色が変わる。何を言いたいかを悟ったのだ。
 加えて、警察官が御喋りの中で漏らしたある言葉にも思い至る。

「言ってたよな、警察官がさ。この間も危ないのがあったと。そして……」
「――――被害者は冒険者学校の生徒だともね」
「前衛の人間ならば日常で怪我を負う事態になんてそうそう無いだろう」

 高い実力が伴っていなくても前衛と言うだけで、
身体能力も頑健さも常人のそれと一線を画しているのだから。
 それこそあるとしたら飛行機事故とかそのレベルだろう。

「つまりは後衛の人間が重傷を負ったってことになるね」
「理由は分からない。しかし、後衛の人間を狙っていると言う仮定で進めよう」

 紫苑は内面はともかく外面だけは良い。
 他人に怨まれるようなヘマをやらかす男ではないだろう。
 だからまったくと言って良いほど心当たりは無い。

「まず第一に、黒幕が居るとして俺がそいつの立場に立ったとしよう。
偶然を装って狙うのならばターゲットの行動様式をしっかり把握するだろう。
そして俺の場合ならば、電化製品のそれだ。
電化製品が壊れた場合にどうするかを調べていれば色々とやり易い」

 長いこと同じような行動を取っていたのだ。
 調べ上げることも容易いだろう。
 どの時間帯にどの道を通るか、それが分かっているのなら話は早い。
 電化製品に細工をすることくらいは簡単だ、セキュリーティも無いアパートなのだから。
 そうやって紫苑が電気屋へ行くように誘導すれば後は簡単だ。

「どうやってかは分からないけど非合法な手管を使えば、
紫苑くんを撥ねさせることくらい簡単だよねえ。
しかも事故に遭った時、一人でも死にはしないかもだけど大怪我で長期の離脱は免れない」

 回復魔法と言うのは便利だ、便利なのだが……困ったこともある。
 怪我などをしても回復魔法が使えるならば医者はどうすれば良い?
 魔法を使える者が何でもかんでも治してれば医者はおまんまの食い上げである。
 なのでややこしいことに使用状況と言うのが限定されている。
 例えば事故に遭ってすぐに治療しなければいけない、
そんな人間の傍に立ち会った場合ならば問題なく使用出来る。
 しかし、病院に運ばれ入院した場合は別。そこからは医者の領分だ。

「冒険者学校の敷地とかでならまた別だけど一旦病院に運ばれちゃうとねえ」

 他の状況としては今言ったように冒険者学校の敷地で、
その学校の生徒ならば――と言うのもあったりする。
 社会とはまこと、複雑なものだ。

「……ああ。だが、やはり理由が分からない」
「だよねえ。無差別――にしては手が込みすぎているよね」

 無論、天魔とて今話している内容が完全な正答だとは確信していない。
 そもそも事故に遭ったと言う他の冒険者だって偶然かもしれないのだから。
 これはあくまで仮にそうだとしたらと言う前提の話だ。

「(清廉潔白、純真一途、誠実で名の通った俺が怨まれる覚えも無いしな)」

 とりあえず一回、それらの単語を辞書で引いてみるべきだろう。

「怨恨、ならば一番分かり易いんだがな」
「でも紫苑くんに怨まれる覚えとか無いでしょ?」

 怨恨など紫苑にとっては忌避すべきことだ。
 誰かに怨まれているなんて想像しただけで怖気が走る。

「(分かってるじゃねえかキチガ●!)そうだな。
だが人間、生きていれば知らぬうちに恨みの一つや二つ買っているもんだ。
良かれと思ってやったことだって、された当人にとっては余計なお世話かもしれない。」

 常に誰かを怨んで妬んで捻くれてる紫苑が言うことだから説得力があった。

「ああ、確かにそうだ。その眩しさが――――時には憎く思えるかもしれないねえ」

 紫苑の誠実さを嫌う人間が居てもおかしくはない。
 もし、そう言う人間が今回の件に関わっているのならば……
 天魔はぞっとするほど心が冷えていくのを感じていた。

「まあでもやはり怨恨は薄いだろうな(俺完璧だし)
怨恨となると引っかかっていた他の冒険者の件が分からなくなる」

 事故に遭ったと言う冒険者学校の生徒は間違いなく紫苑と同じ学校ではない。
 そう言う話には敏感な彼が知らないと言うことは間違いなく他校だろう。
 加えて他校の生徒に知り合いは居ない、
紫苑と面識がまったく無い生徒の両方に怨みを持つ人間など確率としてはゼロに近い。

「かな。それにそもそも、事故に遭ったってのがその人だけじゃないかもだし」

 詳しく調べて居ないからどうとも言えないが、
他にも似たような感じで事故に遭っている他校の生徒が居るかもしれない。
 そうなるとやはり無差別なのかと思えて来るが……

「……駄目だな。思考が堂々巡りだ」
「だね。僕らの懸念通りだとしたら次のリアクションを待つしかないよ」
「(そんなリアクションあってたまるか!)」

 何もない方が良いに決まっている。
 しかし、一度脳裏をよぎった不安は中々消えてはくれない。
 給料日で舞い上がっていた紫苑の心はすっかり沈下していた。

「(あー……嫌だなぁ……しばらくロクに寝られんぞこりゃ)」
『それより早く飯食いに行こうぜ』
「(お前、俺がどうなっても良いのか!? 一蓮托生なんだぞ!!)」
『いや、何のかんのでお前は上手く切り抜けるさ』

 だから飯食べに行こうと急かすカス蛇はまるで子供のようだ。
 そんなカスに苛つきながらも、
逃げられた苛立ちと見え隠れする不安を紛らわすために食事をするのは悪くないことだ。

「家に帰ってたのにわざわざすまないな」
「ううん、僕も気になってから良いよ」

 尚、紫苑は最初気付いてすらいなかった模様。

「(ん、待てよ……コイツが来なきゃ嫌な思いせずに済んだんじゃねえか!)」

 その場合は命の危機――らしきものに気付けなかっただろうが。

「む、卿ら何をやっておるのだ?」

 天魔と挨拶を交わして帰ろうとした矢先だ、
半裸のルドルフとスポーツウェアに身を包んだ栞が近寄って来る。
 二人ともほんのりと顔が赤く、今の今まで鍛錬に励んでいたのだろう。

「まあちょっとね。それより二人は?」
「鍛錬がてらつい先ほどまで模擬戦をしていたのです」
「私の勝ち越しだがな」
「ええ、ですが次は負けません。色々反省点も浮かび上がりましたし」
「それは楽しみだ。どうだ天魔、卿も参加してみんか?」
「見知った相手と闘るのはねえ。真新しさが無いじゃん」
「言ってくれますね。まあ、飽き性な天魔さんらいいと言いますか」

 こう言う会話は一度始まると長いのだ。
 どうやって先に帰ることを切り出すか思案していると……

「ああそうだ。紫苑、卿今から暇か?」
「今から?(飯喰いに行きたいんですけどー! お腹空いたんですけどー!)」
「実は一度行ってみたい飲食店があってな。奢るので着いて来てもらえないだろうか?」

 金持ちルドルフの行きたい店、奢り――――断る理由は何処にもなかった。

「ああ、喜んで。それで、何処の店なんだ?」

 ワクワクしながらもそれを表情には出さずに問いかけた。
 ルドルフはその問いに満面の笑みで答える。

「――――ファミレスだ」

 心なしか目がキラキラと輝いているのは何故だろう?
 何にしても紫苑はその面がとても気に入らなかった。

「(………………は?)ファミレス?」
「うむ、一度行ってみたかったんだがマナーも何も知らんからな。栞に聞いてみたのだが……」
「恥ずかしながら私もそう言った店には足を運んだことがなくて……」
「あー……そういや僕も無いな」

 二人はそう言う血統の人間だからそれも仕方のないことだろう。
 天魔の場合は単純に甘いものばかり食べている偏食家で、
ファミレスのスイーツ(笑)より専門店の方がずっと良いと思っているからだ。

「卿ならば知っていると思ってな」
「(俺が庶民ザグレートだって言いたいのかテメェ!)まあ、そりゃ行ったことはあるが」

 怒髪天を突く――――ただし心の中で。
 どんな怒りも面に出さない最強のポーカーフェイスだ。

「では頼む。ドリンクバーとやら気になっていてな」
「(にしてもファミレスかよ、テンション下がるわー……コース料理とかだと思ったのに……)分かった」

 一度承諾した手前、断ることも出来ないので渋々応じる紫苑。
 通帳の記帳を行った頃に比べるとテンションも随分と下がったものだ。

「そうだ、卿ら二人も来んか?」
「よろしいのですか? ならば御言葉に甘えさせて頂きます」
「僕も紫苑くんが行くなら行くよ」
「よし! ならば麻衣も呼ぼうか。すまんが紫苑、連絡を頼めるか? 私は着替えて来るのでな」
「了解だ(ファミレス……ファミレスて……)」

 自腹で高級料理店に足を運ぶつもりだった、
しかし奢りに喰いついたせいで安っぽいファミレスで食事を取る羽目になってしまった。
 何ともまあ、アレな男である。

「ああ、俺だ。そう……今から、大丈夫か? ああ、うん。分かった」
「どうだって?」
「今商店街にあるゲーセンに居るから学校で待っててくれだとさ」

 通話を終えて携帯を仕舞おうとしたところで、また着信が入る。
 見覚えの無い番号に首を傾げながらも通話ボタンをプッシュ。

「もしもし、どちらさ……ああ、その件ですか。了解です、分かりました。ありがとうございます」
「誰?」
「(何でテメェに言わなきゃなんねえんだよ……と言いたいがコイツにも関係あるしな)」

 今度こそ携帯を胸ポッケに仕舞って一足先に天魔にあることを伝える。

「俺達が事故に遭った日の放課後のこと、覚えてるか?」
「あー! はいはい、アレが出来たんだね」
「ようやく彫金が終わったらしい。麻衣が来たらファミレスに寄る前に取りに行こうか」
「うん♪」

 そうこうしているとルドルフと栞が戻って来て、ほどなくして麻衣もやって来る。
 五人は学校を出ると、繁華街にある冒険者専用ショップに足を運ぶ。

「いらっしゃい。ごめんね、随分と待たせちゃって」

 入店すると気の良さそうな爺さんが笑顔で紫苑を迎え入れてくれた。

「いえいえ、こちらが無理を言ったので御気になさらずに(無理言ったのは後ろの馬鹿共だがな)」
「そう言ってくれると助かるよ。はい、お待ちどおさま」

 机に置かれていた木箱の蓋を開けると
中にはハルジオンをモチーフにしたピアスが五つ入っていた。

「うわぁ……綺麗やねえ」
「灰輝金――――っと、今の子らはミスリルか。ミスリル製だから当然さね」

 ことの始まりはパーティ共用資金を用いてここで買い物をした時だ。
 紫苑は店内に展示されていたアクセサリーの中でハルジオンを象ったピアスを見つけた。
 耐毒効果のあるこのピアスは品があり、
何より名前にちなんでいることもあって即座に購入を決意した。
 だが、ルドルフが余計なことを言ったのだ。
 どうせならパーティのシンボルに全員でこれを揃えようと。
 しかし店内にあったのは一つだけ。
 この店では彫金もしているとのことなので多少値は張るが新しく彫ってもらい、
ついでに幾つか効果も追加してもらおうと言うことになったのだ。
 結果として紫苑も店内に置いてあった一つを買えず、今日までお預けになってしまった。

「耐毒、耐麻痺、ついでに複数購入のオマケで体力増強も加えといたよ」
「ほう、気前が良いな店主。ありがたく受け取ろう」
「はいどうぞ。御代は既に貰ってるからね。ああ、穴はどうする?」

 ちなみに紫苑を始めとして全員ピアス穴は開いていない。

「サービスで開けるけど、開けてくかい?」
「御願いします。ふふ、初めてなのでドキドキしますね」
「御客さん達、全員ピアスは初めてかい?」
「まあね。アクセとかで飾ろうとか思ったことも無いし」
「私も衣服やタイピンなどには気を遣っているがピアスは無いな」

 全員がピアス初体験と言うこともあり、
店主はイヤーロブ――耳たぶに穴を開けることを提案し全員がそれ承諾した。
 本来ピアスの穴を開けるにしても医師の手でする方が安全なのだが、
冒険者である紫苑らにとっては関係無い。
 化膿しようが何しようが最悪、ダンジョンの中ででも回復魔法をかければ良いのだ。

「はい、これで終わり。姿見あるからどうぞ」
「ありがとうございます(ヤバイ……俺、カッコいい……イケメンはどんなお洒落でも似合うから困る)」

 姿見に映った紫苑の左耳に輝くハルジオンのピアス。
 丁寧な彫金のおかげでかなり見栄えが良い。
 他の面子も美男美女揃いなのでよく似合っている。
 ピアスなんて言うとチャラいイメージがあるが、それはやはり着ける人次第だ。
 良かれ悪かれちゃんと芯のある人間が着ければ似合うもの。
 似合ってなかったりイメージが良くないのはピアスに人間が負けているから。
 紫苑もそう、腐ってはいるが徹底的にブレていないからピアスに負けていない。

「ふむ、良いな。チームとしてのまとまりが強くなった気がする」
「ですね。来年も、再来年も――――卒業してからも皆さんと一緒に居られれば嬉しいのですが」
「アハハ、栞ちゃん。来年のこと言うと鬼が笑う言うやん」
「その鬼すらも殺す僕らにゃ関係ないんじゃない?」
「(何この空気……腹立つわぁ……青春かよ。うっぜえ)」

 チームのシンボルを手に入れたことで一名を除き団結力が高まったようだ。

「はは、若いって良いねえ」
「(そうだな、アンタみたいに老い先短いのと違って輝かしい未来があるからな)」

 孫を見守る優しい祖父のような目が気に入らなかったようだ。

『おい知ってるか紫苑、お前も何時か老いるんだぜ?』
「(知ってるよ!)」
「ああそうそう。ピアス自体はコーティングしてるから手入れは要らないけどさ。
人間の方は別。定期的に外して消毒とかするように。冒険者でも一応はね」

 冒険者としてやっていける肉体があるからとて油断はするなと言うことだろう。
 目上の人間の忠告は素直に聞くべきだ。

「助言感謝する。また何かあれば皆で寄らせてもらおう」
「はいよ。今後ともご贔屓にねー」

 店を後にした一行はファミレスを目指す。
 特にルドルフと栞のブルジョワ階級は楽しみでしょうがないようだ。

「そやそや。皆、ゴールデンウィークはどっか遠出する予定とかある?」
「僕は無いね。家でゴロゴロする予定」
「私も祖国の土を踏むのは一人前になってからと決めているからな。大阪に居るつもりだ」
「同じく。別段行きたいところもありませんので」
「紫苑くんは?」
「俺も無い。強いて言うなら近場の美術館巡りくらいか。それがどうかしたのか?」
「えへへ、実はなぁ……」
「(勿体ぶるなよ鬱陶しい。ブってんじゃねえよバーカ)」

 得意な笑みを浮かべて麻衣が頭上に掲げたのは何かのチケットだった。

「学校に戻る前に商店街で福引してん。そしたら運良く一等当たってな。
何と、山奥にある秘湯へ二泊三日のご招待! それも五人分や!!」

 カッ! と紫苑の目が見開かれた。
 話の流れからして麻衣は自分達をと一緒に行きたいのだろう。
 ならば、

「(喜んで着いて行ってやろうじゃないか!)」
「どや? 皆で旅行するのも悪くないと思わへん?」
「温泉か! 日本に来てから一度は行ってみたいと思っていたのだ」
「休みの間に英気を養うために湯に浸かる……素敵だと思います」
「麻衣が良いのなら俺も行きたいな」
「紫苑くんが行くんなら僕も」

 全員から同意を得られたことで麻衣の笑みが更に深くなる。

「――――よっしゃ! ほなら決まりやな!!」
「(ふぅ……真面目に生きてりゃやっぱ良いことあるもんだな)」

 天魔との会話で顔を出していた不安など、既に忘却の彼方だった。
 往々にしてこう言う時は良くないことが起こるのだけど……まあ、言わぬが花か。
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