挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ね続けた末路を知る第二部

123/204

まあ何て利発そうな坊ちゃんなんでしょう!

 大阪城での一件から翌日。
 夜には京都組も帰還したのだが、
全員の疲労が濃いこともあり詳細な報告は後日ということに相成り解散となった。
 関東での問題もあったが、あちらも現世での活動限界を迎えたらしく一端退いたらしい。
 そもそも冒険者は別に紫苑達だけではないので早急に対処せよということにはならないのだ。

「それじゃあ、司会は俺が務める。書記は麻衣、頼む」

 朝食を済ませた後、一同はそのまま食堂に残り昨日のことについて話し合うことになった。
 ホワイトボードの前では紫苑がマジックを片手に他の面子を見渡している。
 何故か眼鏡をかけているがそれは栞の希望だ。
 こういう雰囲気でならば是非にと頼まれて断りきれなかった。

「うん、任せて」

 書記といっても何もノートに書くわけではなく、パソコンを使ったタイピングだ。
 話し合いの内容を書き起こし、それを後から紫苑がまとめてギルドに報告することになっている。
 わざわざ話し合わずとも最初から書面にまとめれば良いのでは?
 そう思うかもしれないが、これは全員の認識をすり合わせるための席でもあるのだ。

「それじゃあ……まずは京都組の報告を聞こうか」

 席も京都と大阪で分けられており、紫苑が大阪組へ視線を向ける。

「軽く話したけど新撰組は本命じゃなかったよ。彼らは操られてただけだった」

 食後のデザートをつつきつつ天魔がそう切り出す。
 そこは紫苑も聞いている。表面的には新撰組だったが黒幕は別に居たと。

「駅前で春風さんのご指示通りに釣りをやって平隊士を倒していますと大物が釣れまして、そこが取っ掛かりになりました」
「大物?」
「私と姉様が戦ったのは鬼の副長土方歳三、天魔さんは沖田総司です」
「……新撰組の顔じゃないか。よく無事だったな(ん? つーか何かコイツら妙に仲良くねえか?)」

 姉妹はまだ自分達が和解したことを大阪組――というより紫苑には伝えていない。
 しかし彼は何となく空気で姉妹が和解したことを悟った。

「(お、おもしろくねえ……憎み合ったままで、また何時か殺し合えば良かったのに……)」
「そこはまあアリスさんの援護もありましたので。
沖田総司と土方歳三の御二人は協力者を求めて私達に戦いを挑んで来たようでして」
「協力者……その新撰組を裏から操ってたって奴を倒すためか?」
「うん。僕とやってた総司が僕らなら大丈夫だってことで色々教えてくれてね。黒幕は九尾の狐だったんだ」

 京都組から経緯を聞いている紫苑は話が進むごとに機嫌が良くなっていった。

「(局長女に誑かされて馬鹿やったんすかwww
流石拳を口に入れることくらいしか取り柄のないブサメンは違うっすねwww)」

 秀吉ほどではないが近藤勇もちょっと好きになったようだ。

「で、九尾の居城に乗り込むために晴明に会いに行ったら正にその九尾と戦っててさ」
「そのまま戦闘に参加したわけか」
「そうだよ。で、まあ晴明や新撰組二人と協力して九尾を追い詰めはしたけど、逃がしちゃった」
「ですが晴明が言うにはかなり消耗しているようなのですぐにまた何か行動を起こすことはないかと」

 栞も紗織も、この場で姉妹の和解を告げるつもりはなかった。
 自分達のために一番心を痛めてくれて紫苑に真っ先に伝えたいからだ。
 そこらは他の京都組も汲んでいるようで、
彼女らもこの場で姉妹の和解とそれに伴う純化などについて発言することはなかった。

「それと天魔ちゃんなんやけど、紫苑くんみたいに晴明さんを呼べるようになったみたいやで」
「(ちょっと待て。俺だけのアドバンテージじゃねえの?)そうなのか?」

 密かに自分だけが英雄を召喚出来ることに優越感を抱いていた紫苑。
 しかし天魔も出来るとなれば希少性が一気に下がる。
 独尊の塊である紫苑にとっては耐え難いことだった――ざまぁ!

「まあね。これで連絡取って呼べるらしいよ」

 自分の左眼の下にある五芒星のタトゥーを指差す。
 紫苑が信長を呼ぶ際に額に浮かび上がらせるのと似ているがこちらは常時浮かび上がっているらしい。

「大陰陽師安倍晴明か……心強い味方が増えたな(畜生、信長とジャンヌより役に立ちそうじゃねえか!)」

 信長もジャンヌとそのオマケであるジルドレも基本的には戦うことしか出来ない。
 そりゃ確かに信長やその配下である秀吉らは頭も使える。
 だが多種多様な術などを使えるわけではないのだ。
 その点晴明は直接戦闘や数多の術でサポートもこなせてしまえる。
 紫苑が羨むのも仕方のないことだ。

「でね、その晴明なんだけどさ。大阪に戻ったら紫苑くんと話がしたいって言ってたんだ。呼んで良い?」
「ああ、構わない。京都でのことを聞くなら晴明も当事者だからな」

 紫苑の言葉に頷き、天魔は小さく念じた。
 するとすぐに晴明に繋がり今からここに来て欲しいという旨を伝える。
 彼女は快諾し、数秒も経たずに食堂の中に姿を現した。

「お初にお目にかかる。わらわは晴明、よろしく頼むぞ春風紫苑」

 恭しく一礼する晴明はとても優雅で、品の良さが滲み出ている。

「協力、感謝する。こちらこそよろしく頼む(BBA臭が滲み出てるな。見た目は若くても中身は木乃伊だろ)」
「うむ。個人的に話したいことも色々あるが、それは後でにしよう」
「助かる。撤退した九尾の狐について聞かせてくれるか?」

 京都であったことは全員が情報を共有出来た。
 となれば後は残された爆弾である九尾の狐について知るべきだろう。
 身内である晴明ならばこと細かに話してくれるはずだ。

「うむ。十中八九、わらわやそなたら――というより御身を狙うだろうな」
「晴明はともかくとして……俺?」

 因縁も何もない相手に狙われる筋合いはない。
 そもそも紫苑は九尾の狐と顔を合わせたことすらないのだから。
 向こうは元旦の件で一方的に知っているかもしれないが……。

「あの女は病的なまでに自尊心が高く執念深い。
加えて他人の大事なものを蹂躙することを何よりも好んでおる」

 ひょっとして紫苑の親戚か何かだろうか?
 傾国の悪女と性格や性癖が似通っているのは真人間失格である。
 もういっそ一緒にサークルでも作れば良い。

「此度、わらわがアレを退けられたのは娘らのおかげよ」

 つまり天魔らが居なければ手痛い敗走をすることはなかったかもしれないわけだ。
 しかし、現実に天魔らは存在して九尾の狐に痛打を与えた。

「そんな娘らの一番大事なものは何だ?」

 全員の視線が紫苑に突き刺さる。

「(俺マジで何にもしてないのにエキノコックスに狙われるのか!?)」
『エキノコックスて……確かに狐だけど』

 そして何もしていないというのも大きな誤りである。
 少女らの一番大切なものになったのは紫苑の行動の結果なのだから。
 つまり果てしなく自業自得だ。

「そういうことだ」

 女性陣の表情が悪鬼のそれに変わったが晴明はコロコロと笑うだけ。
 この程度では小揺るぎもしないのは年の功といったところか。

「直接的に殺害しようとするのは最終手段じゃろうし、そうする可能性も限りなく低い」

 九尾の狐が誇りとしているのはその美貌と纏っている色気だ。
 直接的な暴力を使わずとも至上至高の美しさがあれば何でも出来る。
 そう思っているからこそ直接的な手段には出ない。
 晴明との戦いでガチの殺し合いをしていたのは例外のようなものだ。
 本気で嫌いだから他人任せするのも嫌だ、自分の手で殺したいと思ったからこそガチバトルをやらかしていた。

「……つまり総司んとこの大将みたいな状態にするってことかい?」

 晴明の領域に連れて来られた廃人のような近藤勇を想起する。
 もしも紫苑があんな状態にされてしまえば?
 直に近藤の姿を見た少女らは間違いなく正気で居られなくなると確信していた。
 それほどまでに春風紫苑という人間は重いのだ。

「うむ。だがアレはまだマシよ。誘惑させたのも分け身であり本体ではなかったからのう」

 パチン、と晴明が指を鳴らした途端、この部屋に居る女は一人も動けなくなった。
 晴明はいきなり何をするという抗議の視線をスルーし、細く白い手を紫苑の頬に摺り寄せる。

「(何だコイツ?)」

 噛み千切りたくなるような紅く柔らかそうな唇、
抉り抜いてそのまま飾っておきたくなるような黒真珠の瞳。
 放たれている色気は雄性としての本能を刺激するもので今すぐ組み伏せてしまいたくなる。
 下から覗き込むように紫苑を見つめる晴明だったが……。

「――――まるで通じん、か」

 ふ……と室内に充満していた妖しい空気が霧散する。
 そう、晴明は試していたのだ。紫苑が誘惑に対してどの程度の耐性があるかを。
 九尾の狐の娘だけあって晴明もまた尋常ならざる色気を放つことが出来るのだ。

「僅かも顔色や脈拍に変化が現れんとは……そなた、あれか? 不能か?」

 紫苑は目の前に居る馬鹿を引っ叩きたくなる衝動を抑えるのに全力を注ぐ。
 キョトンと小首を傾げているのがまたどうしようもなく苛つくのだ。

「いや、そんなことはないよ。立派なものをお持ちで……ねえ? 僕も御世話になったし」
「元気」
「はしたないですよ天魔さん、アイリーンさん」
「確かにはしたないけど……栞、不能でないことは知っているでしょう?」
「お腹の中がすんごいことになったわ。私は身体が小さいから特に」

 男として劣等といわれても腹が立つが、
こうやって改めてトラウマを抉られるのも心底腹が立つ。
 紫苑は少女らとの悪夢を思い出して今にも吐き出しそうになっていた。

「(うぅ……何で、何で俺ばっかり辛い目に遭う……?)」

 幻想となり砕け散った大天使との睦言ならば幾らでも囁けた。
 しかし痛みしか齎さない現実の寒さに紫苑はもう凍死寸前だ。

『男ってのは一度でも抱けば多少は情が沸くってのにすげえなお前』

 百度抱いても嫌悪が募るだけだろう。
 それだけ春風紫苑という男は根元から腐っている。

「まあ不能というのは冗談よ冗談。なので婦女子がそう大っぴらにそのようなことを話すでない」

 昔の人間だけあってそこらは真面目らしく、晴明が幾分真面目な顔で注意を促す。

「いやいや晴明さぁ……今日日女でもシモ系の話ぐらいするっつーの」
「クラスのお姉さん達だって夏休み明けとかは色々エグイ話してたわね」
「そういえば明らかに化粧とかが変わった方も居ましたが……」
「栞、それはつまりそういうことよ」
「夏は大人になる季節」
「……え? 今時の若い子はそうなのかえ?」

 暗に時代遅れのBBAと哂われた気がして若干狼狽する晴明。

「まあ紫苑の下半身事情はともかくとしてだ。何故、卿の誘惑が効かなかった?
直接矛先を向けられているわけでもない私ですらクラリと来て思考が止まったぞ」
「……作り物である自分もだ」
「う、うちも女の子やけど……ちょっとドキっとしたわ」

 そんな疑問が投げかけられると晴明も落ち着きを取り戻し、扇子を片手に講義を開始する。
 どうやら先生気質らしく教えることが楽しいらしい。

「単純に、その魂がわらわより格上というのもあるのだろうが……それ以上に真心よな」
「真心、ですか?」
「そう。わらわの誘惑には揺るぎもしなかったが、娘達よ。
そなたらが想いを伝えた時などは反応したのではないか?」

 経験のある全員が頷く。
 まあ、実際は場の空気に合わせて紫苑がそういう演技をしただけなのだが。

「それはそなたらが、心の底から真っ直ぐ彼の者を想い純粋な愛を伝えたからであろ。
容姿や色気などではなく、その曇りなき誠実な愛にこそ心が揺れるのよ。
どんなに美しく、どんなに妖しい色気を放っていようとも、邪心混じりでは塵屑のようなもの。
例え醜女で魅力というものに欠けていようとも、その純真こそが黄金なのよ」

 遠まわしに紫苑ディスってんじゃねえ。
 晴明の発言はもう春風紫苑の存在否定である。
 上っ面だけは美しくて中身は邪心しかない地獄の汚物なのだから。

「そのような価値観で生きておる春風紫苑にとって、
わらわの誘惑など微塵の価値も無いものだったのであろうよ」

 微塵の価値も無いというのは確かだが、それは晴明が語ったような理由ではない。
 どんな美女美少女であっても自分の方が美しいとナルシスっているからだ。

「成るほどな。それならば納得だ」

 得心がいったと頷く一同。築き上げて来た"キャラ"というものは本当に偉大だ。
 コツコツ嘘を積み重ねて辿り着いた今日。
 カス蛇などは感慨深いものを感じてちょっと泣きそうになっていた。
 よくもここまでブレずにロクデナシのままで来たな……と。

「しかしこれならばあの馬鹿狐の誘惑も問題なさそうで安心したぞ。
誠実、純真純心――――あの女狐には何一つ備わっておらぬ、対極の要素だからな」

 それは紫苑にとっても何一つ所持していない対極の要素である。
 戦士が魔法使いの装備を着けられないように、
ガチ屑というジョブの紫苑も善人装備を身に着けることが出来ないのだ。
 まあ、ガチ屑装備をそれっぽく見せることにだけは長けているが。

「それでも狙って来るのは確かであろう。ゆえ、軽く準備を整えておくべきだと進言する」
「準備とは一体何をするのですか?」
「そうさなぁ、まずは大量の弓と空穂を用意せい。それにわらわが恒久的な術式を刻んでくれよう」

 弓と空穂、そのキーワードにピンと来た紫苑が晴明に問う。

「人為的に古空穂でも作り出すのか?」
「おや、博識よな。その通りよ。あれにとって古空穂は相性が悪い器物ゆえなぁ。
使う者が雑魚であろうとも一定のだめーじは与えられる優れものゆえ、数を用意しておこうと思うてな。
本来は空穂だけで良いのだが、より威力を高めるために弓の方も弄ろうと考えておる。
実際、弓というのも効果的だからな。弓と空穂の二役を揃えてやればそれなりに役立つはずよ」

 理解しているのは紫苑と晴明を除けば醍醐姉妹ぐらいだろう。
 特に姉妹は理解しているからこそ九尾の狐戦において弓を使ったのだから。

「ふるうつぼって何なん?」
「付喪神という言葉を知っておるかえ?」
「(俺に説明させろや!)」

 ドヤ顔で自分の知識を披露することが大好きな紫苑は激おこである。

「ものを大切に使ったら心が宿るゆーやつですか?」
「うむ。そういう認識で構わん。何にしろ器物が命を持つと覚えておくと良い」

 ゴホン、と咳払いを一つ。

「古空穂というのは那須野であの馬鹿狐を射た者の空穂が、
歳月を経て付喪神と化したものでな。それは一度九尾の狐に勝利しておるわけよ。
なので古空穂に収めた矢でアレを射抜けば誰でもそれなりのだめーじを与えられるのだ。
とはいっても実際の空穂は一つだけ。ゆえにわらわが同じようなものを量産しようというのよ」

 それは本物ではないが本物と同じくらいの効果を出せるので何も問題はない。

「成るほどなぁ……」

 麻衣を含めて知らなかった面子が感心したように頷いている。

「晴明、弓と空穂は後で手配させておく。準備が済んだらお前に伝えよう」
「うむ、頼むぞ。とりあえず狐対策としてはそんなところかの? ああいや、後はこれくらいか」

 ピッ、と人差し指を立てると晴明の懐から人数分の札が飛び出しそれぞれの手元に収まる。

「探知の符よ。アレが化けてそなたらに近付こうとした時に備えて懐にでも仕舞っておくと良い」
「化けた誰かが傍に居ると反応するのか?」
「そうじゃ。さて、時間を割かせたな。続きを話すと良い」

 紫苑の近くから離れて空いている席に腰掛ける。
 京都組の報告は終わったので次は大阪組だ。

「俺達大阪組なんだが……大阪城公園まで近付いて、
方針を話し合っていると空から全裸の豊臣秀吉が降って来てな」

 パッと聞く限りでは頭がおかしくなったんじゃねーの? と言われても不思議ではない発言だ。
 空から全裸の秀吉が降って来るという言葉が最早異次元である。

「ちょっと何言ってるか分からないですね」

 姉妹が口を揃えてツッコム。
 その顔は引き攣っており、マジか……ってな感想がありありと見える。

「いや、冗談ではないのだ。私もビックリしたが本当に空から全裸の秀吉が降って来たのだ」
「ちなみに秀吉なんだがこんなビジュアルだ」

 紫苑がホワイトボードに書いたのは人と猿の相の子のようなクリーチャーだった。

「えー……た、太閤さんってそんな感じなん?」
「自分が思うにこれはまだデフォルメされてるからマシな方だと思うぞ」
「まあ幻想となったせいで歪んだんだろう。だから猿の面影を持っているのだと思う」

 大阪人は何でか秀吉が大好きだ。
 麻衣もその例に漏れず秀吉のファンだったらしくガックリと肩を落としている。

「とりあえず私達は気絶している秀吉を連れて公園を離れたのだ」
「離れなければ秀吉を狙った攻撃に晒されて危険だったからな。
目が醒めた秀吉に聞いてみると、どうやら今回の一件は茶々の暴走らしい」

 大阪城を罠として使い戦力を増強した後に狸にリベンジをかます。
 それこそが茶々の目的だった。
 メンヘラーズが抱いた感想としては「感情に振り回される人多過ぎ」だ。
 何がってコイツらが思って良いことではない。

「とりあえず茶々をどうにかしようってことで動こうとしたら真田信繁――幸村が襲撃をかけて来てな。
兄より優れた弟はここに居るぞぉおおおおおおおお! ってアホな絶叫と共に」
「私もショックだったが、あれは躁病気味のキ●ガイだ」

 もう歴史上の英雄の人物像はボロボロだ。
 戦国三英傑の秀吉はモンキーで全裸だし、単騎駆けの幸村は躁病のキ●ガイ。
 醍醐姉妹などは眩暈がするのか額を押さえて遠くを見ている。

「信長とルドルフが相手取ったが、
性格に反してその実力は日ノ本一の兵という称号に恥じぬものでな。
しかも、真田の人間らしく頭もキレる。俺も信長も秀吉も完全に出し抜かれた」

 さらりと自分を三英傑の二人と同列に並べている辺りに自己顕示欲の強さが窺える。

「見事な立ち回りで俺は拉致された」

 瞬間、ギョロリとメンヘラーズの瞳が動きルドルフとルークを目で射抜く。
 お前ら何やってたんだよマジで殺すぞというメッセージが痛いくらいに伝わって来る。

「策を立てたのが黒田官兵衛で実行したのが真田幸村だ。
奇矯な振る舞いに目を曇らされていたのもあるし、あれは仕方の無いことだった」

 と、フォローを入れる紫苑だが内心ではルドルフとルークの無能を罵っていたりする。

「ちなみにその黒田なんだが秀吉に偏愛を抱いてる節があってな(つーかホ●だよ)」
「春風さん……それはそのぅ、黒田官兵衛は女だったり?」

 晴明や沖田総司も女だった、ならばクロカンも女かもしれない。
 であれば問題はないと淡い期待を込めて問うが、

「いや、男だ。まあ、当時としてはそう珍しいことでもないだろう」
「そうですけど……ああ、何だか色々ショックです……」

 衆道など戦国時代ではむしろ嗜みのようなものだった。
 彼の有名な信玄公だってそうだし、
中国地方ではホ●が死んで貿易が出来なくなる珍事などもあったのだから。

「ちなみに俺を拉致ったのは十勇士の猿飛佐助でな、実在してることに感動した」
「ああ、あれって創作じゃなかったんですねえ」
「大阪城への道すがら、俺は挽回の一手を打って信長や秀吉が多分、正確にそれを察してくれたんだと思う」
「うむ、その通りだ。雲母さんが乗り込んだタイミングも卿の考えを看破した信長の差配よ」
「やっぱりな」
「紫苑くんが打った一手って?」
「まあ、余り褒められたものじゃないが……」

 渋面を作りつつ策を披露すると、初めて知る者らは何ともいえない複雑な心境になった。
 紫苑が助かったのは喜ばしいが、あまりにもえげつなさ過ぎる。
 その人間を形成している核を自らの手で破壊するかどうかの選択強制。
 性質が悪いのはどちらを選んでも良いことがないという点だ。
 だというのに選ばなければならない。
 茶々に取れる選択肢があったとすれば、それはあの段階で和解することくらいだろう。
 しかしそれも彼女の人となりを聞くに不可能。
 つまり茶々はどうあっても辛い目に遭うことは免れなかったわけだ。

「胸糞悪いし、フォローだって雲母さん頼みだったから……もうこういう手は使いたくない」

 悔やんでいるアピールをすることで評判低下に待ったをかける。
 まあ、そうしなくても築き上げた実績があるので仲間達も苦渋の選択だったと理解出来るだろう。
 実際は苦渋どころか嬉々として茶々を虐めていたわけだが。

「その雲母お姉さんはどうしたの?」
「茶々のケアをするために大阪城に残ってもらってる。同じ母親同士だから、な」
「成るほど……色々考えさせられますね。母の愛の深さ……まあうちの母親は屑でしたが」

 紫苑以外は笑えないジョークを飛ばす栞。

「そうねえ……夫婦揃ってロクでなしだったわ。栞がバッサリ殺ったのも已む無しね」

 紗織も同意を示す。
 お前元々両親殺したことについても怨んでたじゃねえか! と思うかもしれない。
 しかし、姉妹の絆を取り戻したことで両親のことはどうでも良くなったのだ。
 親友のことは引き摺っているがそれは姉妹二人で背負う罪だと折り合いをつけている。

「あら、お姉さん達のパパとママはそれでも子供を愛してたでしょう? うちは愛情ZEROよ」

 ドヤ顔でいうことではない。
 ごくたまーに出て来る両親トークは何度聞いても笑えない。
 麻衣はキリキリと痛む胃を必死に押さえていた。

「何の何の。それをいうならわらわの母は三国を傾けて多大な迷惑をかけておるぞ」
「ああ、確かに晴明さんの母君には負けますね」

 というか九尾の狐は殿堂入りするレベルで駄目な母親だろう。

「あー……うー……紫苑くん、一応文字には起こしといたで」

 麻衣は話題を変えるように手元のパソコンを指差す。

「ああ、すまない。じゃあ後は俺がまとめよう」

 麻衣の隣に腰掛けた報告書の作成を始める。
 必要なことだけを分かり易く、相手にちゃんと伝わるように簡潔に、
それぞれの私見や今後起こりうるであろう脅威などについては別にまとめる。

「ところで紫苑よ、これからやはり関東へ向かうのか?」

 今は一端撤退しているとはいえ、また家康はやって来るだろう。
 それを止めるために関東へ飛ぶのかとルドルフが問うが、

「いや、今のところはギルドからそういう話は来ていないよ。一応鎌田さんにも聞いてみたんだが……」

 その時のことを思い出し、紫苑は内心で唾を吐く。

「"何も君達だけが戦えるわけじゃないんだ。今更といえば今更だが、僕らは大人だ。
何もかも子供達に任せっぱなしにするほど愚かではないよ。
君らは元旦からずっと戦い続けて来た。だから少しでも良いから休んで欲しい"――だってさ。
ありがたい気遣いだ。現状では何時まで休めるかは分からないがそれでもその優しさに甘えさせてもらおう」

 カマキリの良い人ぶった物言いが紫苑の苛立ちを刺激する。
 思い出しただけでも反吐が出るとばかりに機嫌は急降下。
 他人の好意を真っ直ぐ受け止められない愚かさよ……。

「とはいえ、信長や秀吉の話を聞く限りでは家康は俺の首を欲しているようだからな。
巻き込まれる可能性は高い。関東行きも有り得る、頭の隅に置いといてくれ」

 全員が頷くのを確認し、紫苑は報告書作成に戻る。

「しかし休んでろって言われてもねえ……僕ら基本外に出れないし」

 紫苑のホームであることも相まって大阪は割りと人の営みが再開されていたりする。
 加えて大阪城の戦力も加わったので治安は更に良くなるはずだ。
 とはいえ、紫苑らが外に出て買い物をしたりするわけにはいかない。
 余りにも顔が売れ過ぎている。
 紫苑は当然としてその仲間達もあの元旦で紫苑に続き明確に幻想に立ち向かった英雄なのだ。
 外に出ればちょっとした騒ぎになることは目に見えている。
 そんな現状で気軽に出かけるのは自粛するべきだろう。

「いい加減ここで身体を鍛えるのもなぁ……」

 娯楽が少な過ぎるのだ。

「読書という手もありますが、本を読んでばかりというのも不健康ですしねえ」

 一応読書以外でも運び込まれたテレビゲームなどもあるが、
ずっとそれをやっているというのもやはり不健康だろう。

「私はルークの改造とか色々あるけど……それも休んでるとは言えないわね」
「!?」

 まだ改造プランがあることをさらりと明かされたルークは驚愕を露にする。
 タンクの次は一体何になるのだろうか?

「地下ってのがなぁ……うち、おひさん浴びたいわ」

 勿論地下であることを配慮して鬱屈感を感じさせないように照明などにも気を遣われているのだが、
それでもやはり気分的に地下に居続けるというのはよろしくない。

「というか学校行きたい。こう、普通の生活に戻りたい」

 この中では一番、メンタルが弱いといっても過言ではない麻衣が弱音を漏らす。
 幻想回帰からまだ一ヶ月も経っていないが、あまりにも密度が濃過ぎた。
 平和だった時間に戻りたいと願ってしまうのも仕方の無いことだ。

「(メンダル弱い女だぜ)……憂いも何もない日常、か」

 ここで下手な慰めはしない。
 きっと戻れるよ! なんてのは無責任極まる戯言だ。
 不確かな状況でそんなことを口にするのは馬鹿のことすることである。

「ふむ……」

 しんみりとした空気に沈む少年少女らを面白そうに眺めていた晴明は、
何かを思いついたらしくポンと手を叩いた。

「――――ならば平和な夢でも見てみるかえ?」

 全員がは? という顔で晴明を見つめるが彼女はニヤリと愉快そうな笑みを浮かべるだけ。
 紫苑は一体どういうことかと問い詰めようとしたのだが、

「!」

 ブツン、と電源が切れたように視界が遮断される。
 意識はあるが、目の前は真っ暗。
 身体を動かそうと思っても動かせず、金縛りに遭ったように微動だにしない。

「(糞! あのアマ一体何をしやがった!?)」

 徐々に光が満ち、視界が戻り始め身体も自由に。
 紫苑は抗議をするべく晴明を睨み付けるが、

「……ここ、何処だ?」

 完全回復した視界に映ったのはとても奇妙な光景だった。
 何処かで見たような公園や懐かしさを覚える神社の境内、
何処かの御屋敷の庭、それも和洋が二つ――それらが総て混ざり合っているのだ。
 継ぎ接ぎ――端的に表すならばそれに尽きるだろう。

「ん? 何か声が妙に高いような……それに何か周りのものが大きく……」

 紫苑はすぐさま近くにあった公衆トイレの中に飛び込み鏡に己を映す。
 そこに映っていたのは十歳ぐらいの春風紫苑だった。

「(――――お子様の俺カッコ可愛いな! まあ何て利発そうな坊ちゃんなんでしょう! オホホ!)」
『え? リアクションそれ?』

 利発なガキならまず異変に対して反応しろ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ