挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ね続けた末路を知る第二部

113/204

おうおう、今度の敵は畜生ですか?

 一月六日、常ならばそろそろ正月ボケも抜けて会社や学校へ適応し始める時期だ。
 しかし、元旦からボケることすら赦されなかった今の状況では何の関係もない。
 朝九時、紫苑と笑えない仲間達は食堂に集まって皆で一緒に朝食を摂っていた。
 材料はギルドの人間が運んで来てくれるので調理するだけ。
 担当は紫苑とルドルフを除く面子である。
 その中にはルークも含まれており、異物感がパネェ。

「ふぅむ……前々から思っていたがナットウ、これはもう少し綺麗に食べられんのだろうか?」
「というかルドルフくん、外人さんなのに納豆自体は嫌いじゃないんだねえ」
「美味しいし身体に良いではないか。まあ、食べ難いのが難点だが」

 特に変わったこともない食卓。
 テレビからはモンスターの襲撃があった地方の情報、
幻想側に着き一般人を襲った冒険者の名前と顔写真が延々と流れていた。

「(にしても、上手いことやりやがる……)」

 幻想側に着いたとはいえ冒険者達は、幻想の領域で暮らしているわけではない。
 あくまで住処は現実世界。よっぽどのVIPで無い限りは幻想達も冒険者を招きはしないだろう。
 さあ、そんな冒険者達にとって今の状況は肉体的にも精神的にもキツイはずだ。

『何がよ?』
「(早期にこんな手を打てるってことがだよ)」

 晒し上げられた冒険者達は肩身が狭い思いをしているだろう。
 生きている以上、衣食住は不可欠だが真っ当な方法でそれを手に入れることは出来ない。
 そうなると強奪ぐらいしか手段がない、しかしそれをすれば更に疎まれる。
 報道は単純に裏切り者への攻撃ではなく、新たな裏切りを抑止する効果も含まれているのだ。
 裏切れればお前らはこうなるぞ、と。

「(法は人のものだ、しかし人のラインから抜け出したのならば人権もクソもねえ。
こうるさい人権者団体やら政治家が騒ぐかとも思ったが……連中も我が身が可愛くてしょうがないらしい)」

 政治家なども大多数は一般人で構成されている。
 ゆえに保身のためならば迷うことなく悪どい手を打てる――何とも人間らしいではないか。

「(俺はこういうケツに火が着いた人間の思惑が垣間見える報道は大好きだ)」

 そんな愉しみ方をしているのは世界でこの男ぐらいだろう。
 というかケツに火が着いているというならそれは紫苑も同じだ。
 世界で誰よりも幻想の存在に危険視されている人間なのだから。

「(生き残りたい連中と何が何でも殺したい連中、更にカオスってくだろうな世界)」

 ゲラゲラと嘲笑を浮かべ、対岸の火事を眺めているつもりの紫苑。
 このおめでたさ、ホント三歩歩けばすぐ調子に乗るなコイツ。

『まるで魔女の釜の中だな』

 何もかもが一緒くたに煮詰められて混ざり合い、何が出来るのかすら分からない。
 それは逆に言えば何が出来ても不思議ではないということ。
 そんな現状を歓迎しているのはカス蛇も同じだった。
 心なしか弾んだ声を聞くに、それは決して間違いではない。
 まあ、紫苑としては自分以外の機嫌が良いことが赦せないのだが。

「……食が進んでいないようだが、テレビを切るか?」

 強面のルークだが気遣いが出来ないわけではない。
 黙りこくっている紫苑を見てそんな言葉が出て来る程度には良い男なのだ。

「いや何、気にするな。テレビはそのままで構わない。
耳を塞いでいる方が苦痛だ。そして、そんな気遣いもしなくて良いぞ。俺が申し訳なくなる」
「……分かった。おかわりはどうだ?」
「ああ、もらうよ」

 ルークに茶碗を渡すと大盛りになって返って来た。
 沢山喰って英気を養え、元気を出せということだろう。まっこと無言の気遣いが光る男である。
 さて、そんな出来るデカブツなのだが……。

「ちょっとルーク、何やってるのよあなた」

 ジェラシーを剥き出しになる邪ロリ。
 他の面子もアリスほど露骨ではないが、若干顔が引き攣っている。
 一線を超えて以降、更に独占欲が高まったらしい。

「……すいません」

 平謝り、ジャパニーズサラリーマン的な発想である。
 だがまあ、男というのは何時だって折れる側なのだ。
 怒れる女性を前にして反抗したって良いことなど一つもない。

「(ふぅ……俺ってば好かれ過ぎだな。ウゼエことこの上ねえが)」
『でもさ、俺様すげーって思うの。あのレベルの重い女をバッチリ捌いてるお前』

 女を転がすのが上手いというのは褒められる才能なのだろうか?

「(バッチリ捌かなきゃヤバイんだよ……お前さ、マズローの欲求五段階説って知ってるか?)」

 何も好きでやっているわけではない。
 壊れ方が予想以上というべきか、何というべきか……上手くコントロールしなければ本当に危ないのだ。

『えーっと、何だっけそれ?』
「(まず初めに生きる上で必要なことを満たしたいって生理的欲求。
それが満たされると次が浮かび上がっていって、最終的に五つの階層が出来るやつだよ)」

 生理的欲求が満たされると安全欲求、
それが満たされれば所属と愛の欲求、そこも満ちれば自己承認欲求。
 そしてそれら四つが満たされると同時に浮かび上がるのが自己実現の欲求だ。

『ああはいはい、何か聞いたことあるかも。それがどうしたのよ?』
「(俺が見るに、このメンヘラ共の五階層には総て俺が絡んでいる)」

 生きたいという元始的な欲求を満たすために人は食事や睡眠をなどを求める。
 しかし、そもそもからして生きたいという欲求も紫苑ありきなのだ。
 京都に行く前のアリスとのやり取りを思い出せば分かり易いか。
 紫苑が死ねば自分も死ぬ、まず第一にそうやって生きたいという元始的な部分にすら紫苑が絡んでいる。

「(安全の欲求ってのもそうだ。一人ばかり例外は居るが、あれも別に安全を嫌ってるわけではない。
安定を、安全を求めるのは何故か。俺が居るからだ。俺と、安定した環境で共に居たいってな)」

 ゲロが出そうとばかりに嫌気が滲む言葉。
 これがブスならばともかく、曲がりなりにも美少女に好意を寄せられているのにこれだ。

「(所属と愛、これに関しちゃ言うまでもねえな)」

 承認欲求は他者からの尊敬、地位への渇望、名声、利権などで満たすことが出来る。
 他を嫌っている癖にここが狂った領域で高いのが紫苑だ。
 この承認欲求にも高次元と低次元があるとされているが、紫苑や彼を好く女達は低次のそれである。
 紫苑の場合は俗なもので、少女らの場合はただただ愛する人に価値を認めて欲しいだけ。

『最後の自己実現……これも、語るまでもねえな』

 何が酷いってこれがナルシストの戯言ならまだしも、真実なのだ。
 少女らの五階層には総て春風紫苑という存在が絡んでいる。

「(だからさぁ、扱いは慎重にしなきゃいけねえんだよ)」

 人の根幹を成す五つ総てに自分が絡んでいる以上、下手なことは出来ない。
 恋などよく分からぬと答えをぼやかしていたのもその一環だ。
 振る、それだけでも何が起こるか分からない。
 何せ振った時点で五階層が音を立てて崩れてしまうから。
 紫苑は上手く捌いているのではない、上手く捌かなければいけないのだ。

「(やべえ、何だか欝になって来た……何でちょっと優しくしてやったくらいでコイツら……)」

 そのちょっとがちょっとではないからに決まっている。
 心の傷を蹂躙してやるとばかりに核心を十六連射で抉った後に、
こりゃやべえとフォローをするから想いは強くなってしまうのだ。
 誰しもが求める共感、それを高次元で実現しているからこその結果である。

"それでは、全国のお天気をお伝えします"

 今日は全国的に雨らしい。とはいっても地下に居る紫苑達には関係のないことだ。
 そもそも外出する予定が今のところ無いのだから。

"え? あれ……え、あ、いや……か、関東を除き雨?"

 突然入った情報に慌てふためくキャスター。
 テレビを見ている紫苑らも一体どうしたのかと小首を傾げる。
 黙ってことの進展を眺めていると、

「関東だけ太陽が見える?(ちょっとよく意味が分からないですね)」

 テレビを見る限りでは何処もかしこも分厚い黒雲に覆われて太陽の姿すら見えないはず。
 だが、どういうわけか関東では黒雲が割れて太陽が姿を見せたらしいのだ。
 それに伴って雨も止んだとのこと。

「(関東ってまた随分アバウトな括りだなぁオイ)」
「どうせなら大阪も晴れにしてくれりゃあ良いのにねえ」
「やー、でもうちら地下に居るし天気とか関係ないんちゃう?」

 関東だけ晴れになった、確かにそれは不思議なことだ。
 とはいえ今の御時世にその程度のことで驚くことは出来ない。
 一同はニュースを気にも留めずに朝食を終わらせる。

『何が寂しいってさぁ……』

 食後、各々が食堂のあちこちで茶を片手に寛いでおり、
紫苑も文庫本片手にソファーにもたれかかっていたのだが、いきなりカス蛇がそう切り出した。

「(あんだよ?)」
『朝の情報番組でスイーツ系の特集やらなくなったのが寂しい』

 こんな状況でも美人リポーターが食べ歩きとかしてたら逆に尊敬する。
 こんな状況でもスイーツ作ってる職人さんも尊敬する。
 ちなみにカス蛇は林檎系の菓子が特集されていると凄く喜ぶ。

「にしても、奇奇怪怪ですね」

 ずずず、と茶を啜りながら栞が誰にともなく話を振る。
 ちなみに皆が飲んでいる茶を淹れたのは麻衣だ。
 紗織という前科者が居るので一番マシな自分がと買って出たのである。

「太陽が出て来たってあれかい?」
「ええ。まあ、今の状況でといえばそこまでなのですが……」

 まだ一週間も経っていないのだ。
 幻想が入り混じった世界に中々適応が出来ないと栞は苦笑する。

「しかも関東っていうのがな」

 紫苑もまた話しに割って入る。
 彼の中では既にこの異変を起こした存在についての見当がついていた。
 そしてそれは、

「ええ、これが日本全域というのならば天照辺りが思い浮かぶのですが……」

 紗織も同じだった。いいや、紗織だけではない。栞もそうだ。
 大体からして露骨過ぎるのだ。
 まあ、既に同時代の人間と面識があったというのも原因の一つではあるが。

「? お姉さん達も紫苑お兄さんも何か知ってるの?」
「知ってるというか……関東で太陽というと、合致する人物が一人しか居ないんだよ」

 徳川家康、三人の声が重なる。
 ああ、という顔をしているのはルークぐらいだ。

「狸の人でしょ? 何でその人が太陽と関係してるの?」
「贈られた神号ですよ天魔さん」

 家康は自身を神格化している。
 それ自体は別に珍しいことでもない。秀吉なども豊国大明神なんて号を持っているし。
 家康の神号を考えたのは側近であった天海らではあるが、
家康自身も生前から自分を神格化することにこだわっていた節がある。
 だからわざわざ遺言に自分を神として祀れだなんて告げたのだろう。
 信長の死が与えた影響は事の外大きいのかもしれない。

「薬師如来を本地として神格化された家康の神号は東照大権現。
如来も家康も特に太陽とは関係ありませんが……幻想というのならば、そうでもない。
祀られているのは日光、そして東照という字面。外道さん、パッと何をイメージします?」

 幻想には歪み――というか人のイメージが反映されている節がある。
 天狗っぽい義経、如何にも禍々しい感じの信長。
 であれば家康が存在しているのなら、似たようなことが起こっても不思議ではない。
 元々、人が幻想に影響を与えるというのは確かなのでそう的外れなことでもないだろう。

「んー……そりゃ、太陽、かなぁ?」
「大体の人がそうだろうよ。日光市の市章だって太陽をイメージしているしな」

 クッソどうでも良い脇の知識が豊富な紫苑。
 一体何をどう調べていれば地元民でもないのに日光市の市章について知ることが出来るのか。

「ふむ、成るほど……それで卿らは家康公を連想したのか」
「ああ。とはいっても、実際のところは分からんがな」

 あくまで推測だ。
 それっぽいというだけであって確証があるわけでもない。

「というかルドルフ、お前日本の文化とか好きなんだろう? だったら戦国武将なんかも……」

 それなりに知っているのでは? 確かにその通りだ。
 ルドルフのような性格ならば異国の英雄などについても調べていてもおかしくない。

「うむ、そうなのだが……武田信玄や上杉謙信、足利義輝らの方が……」
「あー……そういう系統か」

 家康も戦下手というわけではない、むしろ上手い方だろう。
 しかし、華がという点では今挙げた信玄や謙信には負けるのではなかろうか。
 足利義輝については戦上手かどうかはともかくとして、剣豪将軍と謳われた男だ。
 ルドルフとしては好みのタイプだろう。

「それにそもそも私は文化ならばともかく、英傑という点では戦いなどに重きを置くタイプだからな」

 徳川家康が神号を贈られたなどというのはルドルフにとっては本筋ではない。

「日本の英傑といえば戦国時代もそうだが、アイリーン、私は卿が羨ましいぞ」
「?」
「無双の強さを誇ったという平将門との一騎討ち……今になって惜しく思う」

 平将門と出会ったダンジョンに赴く際、ルドルフは留守番組だった。
 分かっていたのならば自分が行っていたのに……その顔には悔しさが滲んでいる。

「強かった」

 会話が噛み合っていないような気もするが平常運転である。

「そういう君も弁慶と一騎討ちしてんじゃん」
「しかも義経の太刀と弁慶の薙刀の柄を使って新たに槍まで仕立てていますし」

 価値が高過ぎて値もつけられないようなロンギヌスと違って、
ルドルフの槍は――――何だかとっても腹が立つ紫苑だった。

「あの時は正体を知らなんだからなぁ……ううむ、知っておれば……」

 義経と弁慶はルドルフの好みにピッタリだ。
 知らぬ内に戦っていたのだから幸運というべきか不運というべきか……。

"紫苑お兄さん、アリスの身体は美味しかった♪"

 たった一人を除き全員が噴き出した。
 他愛ない雑談の中に投下されたファットマン級の爆撃。
 ロリロリしい声だけに中身は即逮捕ものの着信音。
 音の発生元は紫苑の胸元だが……。

「……何か前にもあったぞこういうの」

 阿修羅の如き表情でアリスを摘み上げる天魔。
 ぶらーんぶらーんと首根っこを引っ掴まれたネコのようなアリスだが、その顔にはまるで反省の色が見えない。

「こうすれば色々と周知させられると思ったんだもん」

 紫苑自身、自分の携帯の着信音を聞くのは久しぶりだった。
 大抵はマナーモードにしているからだ。
 久しぶりにマナーモードを解除してみたらこれである。
 アリスの口ぶりからして結構前に仕込まれていたのは確かだ。
 もしこれが仲間内ではなく街中で、しかもアリスと一緒に歩いている時だったら……。
 つくづく悪運に恵まれた男である。

「(……何か欝になって来た)」
『悪態吐くのを遂に通り越したか……!』

 戦々恐々とするカッス。
 紫苑はげんなりとしながらトチ狂った着信音を吐き出し続ける携帯を止めるべく通話ボタンをプッシュする。

「もしもし、どうしたんですか鎌田さん」

 電話の相手はカマキリだった。
 漏れ聞こえる音から推察するに割りと焦っているらしい。

『春風くん、そっちにパソコンはあるだろう? ちょっと起動してみてくれ。口で言うより見た方が早い』

 疑問に思いながらも麻衣にパソコンを持って来るよう言って、それを立ち上げる。
 起動した画面を見るとメールのアイコンが光っており、電話口のカマキリの指示に従いそれを開く。
 中には動画が添付されており、それを開くと……。

「………………いや待て。ちょっと待て」

 京都、千年の魔都。
 彼の都にまつわる伝説・伝承には事欠かない。
 ゆえに何が起きてもそう不思議なことではないと思っていたのだが、ちょっと予想外だった。
 白く染め抜かれた袖口のダンダラ模様と浅葱色の羽織。
 それだけ見れば、ああそういうのも出て来るよねと納得出来た。
 問題はその羽織を着ている存在だ。

「うーん……っと、何これ? 犬?」

 アリスの呟きが総てだった。
 どう控えめに言っても犬人間――ってか二足歩行の犬が羽織を纏って日本刀を振り回しているようにしか見えない。

「確かに壬生の狼と称されたこともあっただろうがこれは……。
(おうおう、今度の敵は畜生ですか? まあヤンキー芋侍なんて畜生と変わんねえけどさ)」

 熱い新撰組へのディス。
 大河ドラマなども何十本と作られた新撰組で、今尚人気は根強い。
 その存在が犬畜生の姿で出て来たことで紫苑は上機嫌だった。

「すんごいモフモフだぞアレ。ううむ、私、ちょっとワンニャンパークとか行きたくなって来た」
「いやいや、ワンニャンとか可愛い形容詞使えるレベルやないてアレ。やっとること極悪過ぎるわ」

 動画では冒険者が追い詰められ、犬畜生に周囲を囲まれていた。
 一人に対して四の畜生だ。
 畜生達は手に持った刀を一斉に冒険者へと突き立てて命を奪う。
 他の場所でも畜生集団が似たようなことをやっている――何て嫌なワンワンランドか。

「んー……実に効率的な感じだけど侍として良いのかなアレ」

 天魔は畜生共の戦法自体を否定する気はない。
 分断、包囲、圧殺――――好み云々を除けばそれは戦いの常道だ。
 しかしイメージ的に侍! というイメージが強い新撰組。
 何か凄い鉄の掟とかあって破ったら即腹とか切っちゃう熱血硬派。
 そんなイメージが頭をちらつき、どうにも目の前の光景が腑に落ちない。

「そーそー、ドラマでも沖田総司とか美少年で、えらいカッコ良かった覚えあるでー」
「そりゃまあ……ドラマなどの創作で袋叩きを敢行する主役を書いては受けないでしょうからね」

 栞が困ったように笑う。日曜朝七時半くらいには割りと袋叩きをやっているような気もするが……。
 それはさておき、新撰組が生きていた当時を考えるに動画のようなことは日常茶飯事だったはずだ。
 なので彼女や紗織、紫苑としては別段動画に違和感を覚えることはない。

「問題は、この人達がどっち側かってことじゃないかしら?」

 畜生集団が襲っている冒険者、それが一般人を襲う敵側で、
だからこそ、不逞浪士を斬るぜ! と言わんばかりに畜生が張り切っているのならそれで良い。
 だが、その逆ならば動かねばマズイだろう。

「鎌田さん、実際のとこどうなんです?」
『……敵だ。冒険者、一般人を見境なく斬っているらしい』

 一応京都市民には避難命令を出しているが、何時嗅ぎ付けられるか分からない。
 新撰組をどうにか出来そうな冒険者がこの日本に紫苑らだけということはない。
 ないのだが、近畿圏ですぐに動かせて尚且つ一番勝率が高いのは紫苑達だけ。
 純化を果たしている雲母やアリス、天魔、アイリーンなどは凄まじい戦力となる。
 事態の収拾をさせる面子としては最上級だ。

「俺達はこれから京都に向かえば?」
『いや、実はまだあってだね……もう一つ添付ファイルがあるだろう?』

 アイコンをよーく見ればもう一つ動画ファイルが。
 とりあえず見てみるかとクリックし――――全員が微妙な顔をした。

「趣味悪ッ!?」

 麻衣が代表してツッコミを入れる。
 動画に映っているのは大阪城、黄金の大阪城だった。
 比喩でも何でもなしに大阪城がマジモンの黄金に変化しているのだ。
 あなたが落とした大阪城は金の大阪城ですか? それとも銀の大阪城ですか?
 正直者には全部差し上げましょう! ってな具合にマッキンキン。

「これは流石に僕も分かる。秀吉でしょ」
「秀吉でしょうね」
「秀吉以外が思い浮かびません」
「(あれ削ったら幾らに……ああでも刻印がねえしなぁ……)秀吉だろうな」
「うわぁ……太閤さんって趣味悪いんやなぁ」

 大阪城の主といえば豊臣秀吉以外では秀頼が思い浮かぶ。
 しかし秀頼はぶっちゃけ幻想になれるレベルの英傑ではないし、
父のように成金趣味があったとも伝えられていない。
 となると消去法と状況証拠で考えるならば豊臣秀吉以外にはあり得ない。

『こちらは今のところ、一般人にも冒険者にも被害を齎してはいないが……。
それでも流石に、僕らのホームグラウンドにあって放置をしているのも……』

 大阪でも幻想側に着いた冒険者と人類側の冒険者がドンパチやらかしている。
 紫苑らがモラトリアム中であることが幸いした。
 これならば京都と大阪の二面作戦に打って出ることが出来る。

「ならば、大阪は俺でしょうね。信長も居ますし」

 紫苑としては間近で畜生を煽って遊んでやりたかった。
 しかしそれはそれで危険だし怖いなーということで理を以って大阪組へと自分を入れる。

『ああ、とは言っても一人だけじゃ不安だ。パーティを二つに分けてくれ』
「了解(つーか何時の間にかさぁ、何でクソガキやらコミュ障、ババアもパーティインしてんだろうな)」

 そんなことを考えながら食堂の隅に置いてあったホワイトボードに名を書き連ねる紫苑。
 大阪組→俺、ルドルフ、ルーク――以上。
 京都組→醍醐姉妹、天魔、アリス、麻衣――以上。

「雲母さんとアイリーンは不測の事態にどちらにでも援護に行けるよう待機で御願いします」
『分かった。逆鬼さんにはそう伝えておくよ』
「それと、京都組のために用意して欲しいものが……」

 カマキリにある程度の要望を述べて電話を切る。
 後は迎えが来るまで作戦タイムだ。

「京都組のリーダーは麻衣、お前だ」
「うち!?」

 驚いている麻衣だが何も不思議ではない。
 他四人は性格もそうだが立ち位置的に常に最前線なのだ。

「と言っても、やばそうなら撤退を命令するだけで良い。あまり無茶は言わん。
俺と違って麻衣は回復役で別の仕事も多いからな。多くはさせん」

 丸っきりニートの強化魔法使いとは忙しさが違うのだ。
 最近全然使ってないので紫苑的にはもう呪文とかすら怪しい。

「さて、動画を見るに奴らの戦法は実にシンプルだ」
「単純だからこそ効果的、ですね」
「ああそうだ。分断されても麻衣以外の四人ならばどうとでもなるだろうが、麻衣はそうもいかんし」

 何より敵の土俵に付き合ってやる必要は微塵も無いのだ。

「釣られる前に此方が釣ろうと思うのだが……」
「んー、そりゃまあそれが出来るならそうするべきだろうね。でもさ紫苑くん、どうやって釣れば良いの?」

 新撰組の真似をして分断をやり返すにしても練度が違う。
 そもそも天魔らはそういうやり方をした経験がない。
 ぶっつけ本番の付け焼刃なら無い方がマシである。

「他には無い強みが俺達にはある。良いか?
多分世界中で神々や過去の偉人と一番多く触れ合っているのは俺達だ。
さあ、そこから考えてみよう。悲劇の最期を迎えた者らは往々にしてネガティブな感情が肥大している」

 信長を見てもそれは確かだ。
 飄々としていながら威厳を漂わせる彼も元旦の戦いで天使を前にした途端、憎悪を剥き出しにした。
 義経、彼も自分の道を悔いていた節がある。
 ジャンヌとジルドレ――語るまでも無い。

「栞、紗織、天魔、アリス――お前達には連中の傷を大いに抉ってもらう。
新撰組の傷やらコンプレックスについては、二人ならば何となくではあるが分かるだろう?」
「ふむ、成るほど……分かっていても出て来ざるを得ないようなことを言え、と」

 紗織の確認に頷きを返す。

「特に四人は女だ、それがまた連中のプライドを刺激するだろうよ」
「確かに当時はまだ男尊女卑でしたからねえ」
「鎌田さんには拡声器を四つ用意してもらった。何処でやるかはそちらの判断に任せる」
「僕らは詳しくないからねえ。栞ちゃんと紗織ちゃんに台本は任せても良いのかい?」
「とりあえず新撰組の逆鱗に触れそうなことを幾つか御教えしますので、天魔さん達はそれを元に自分の言葉で……」
「ああ、それなら大丈夫そうね。ようは悪口言いまくれってことでしょ?」

 頭の回転が速い面子は即座に作戦を立て始めた。
 暇があれば煽り合っている四人だ、さぞや新撰組を苛吐かせるだろう。

『お前がやりたそうな仕事だけど他人に任せて良いんか?』

 紫苑がやっていたならば憤死寸前くらいまでは追い込めるだろうし、
彼自身もやっていて愉しいのでは? カス蛇の問いにはそんな問いが含まれていた。

「(心惹かれるがやっぱり京都は危ないしな。まだ大阪の方が良い)さて、次は俺を含む大阪組だ」

 行儀良く待っていたルドルフとルークに向き直る。

「まず第一に、こちらは動きが無い。事前情報は無しのまま向かうことになる。
大阪城前で一応上司であった信長を召喚するが、どうなるかは分からない。
場合によっては敵対するということもあり得る。そうなったら俺を護って欲しい」
「問題ない。何があっても自分が護ろう」

 一個人として紫苑を好ましく思っているし、何よりもアリスの想い人だ。
 命に代えても死なせるつもりはない――ルークはとても頼もしかった。

「私は戦闘となった場合は敵を蹴散らし大将首を目指す、
あるいは撤退の道を拓くのが役割と認識しているが如何かな?」

 シンプルだ、シンプルであるがゆえに全力を出すことに集中が出来る。
 ルドルフとしては美味しいポジションである。

「パーフェクトだ。補足をするまでもない」

 大阪側の話がまとまったところでアリスが小さく手を挙げる。

「どうした?」
「えっとね、デカブツルークを使うなら一応説明しておこうかと思って」

 テコテコとルークの背に回ったアリス。

「この腰骨の辺りを三回叩くと……えい!」

 瞬間、ルークが変形を始めた。いや、比喩でも何でもなしに変形だ。
 ロボットのようにあちこちが組み変わり始めたのだ。
 突然のことにアリス以外の面々はポカーンと大口を開けている。

「前々から思ってたけど私も含めて飛び道具を持っている人って少ないでしょう?
砲兵的なのも必要かなーと思って少し前に改造してみたの」

 ドヤ顔で胸を張るアリス、その傍らに居るルークは……酷い。
 脚がキャタピラになっているし両手は馬鹿でかいガトリング砲が装備され、
背からはこれまた馬鹿でかい大砲が二門伸びている。

「この背中の大砲は紫苑お兄さんが滋賀で信長から貰ったっていう、不思議な鉄砲?
それの技術を転用してて、強力な魔法を四発ずつ仕込んでいるから切り札にしてちょうだい」

 褒めて褒めてと紫苑に擦り寄るアリスだが……。

「御主人、一体何時の間にこんな改造を……」

 困惑顔のルーク、どうやら本人の意思を無視して勝手に改造したらしい。

「知らんかったんか!?」

 余りの不憫さに麻衣は流れる涙を止めることが出来なかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ