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ハルジオン~口だけ野郎一代記~ 作者:曖昧

嘘を重ねて引き返せなくなる第一部

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嗚呼、俺って世界一不幸な美少年だ!!

 既に連休は終わり、紫苑らは平常授業として孔の中にあるダンジョンを探索していた。
 暗い岩壁造りのオーソドックスなダンジョンだが、ここは厄介なことに上下左右の感覚があべこべになってしまう。
 それでも紫苑以外は普通に対応している辺り優秀なのだろう。
 まあ、その紫苑も混乱は表に出していないので傍から見れば対応しているように見えるが。

「しかし、どうもいかんよねこれは」

 三つ目の鬼を蹴り殺し戦闘を終えたところで天魔がぼやく。
 余りにも歯応えが無さ過ぎるのだ。

「うむ、同感だ。弱いと言うことはないし、実際強くはあるのだが……」
「どうにもこの程度? と思ってしまいますね」

 致命傷を与えれば死んでくれるのでアイリーンよりよっぽど優しいと言えるだろう。
 こっちは本気で殺しにかかっているし、致命打を与えたけれどまだ戦えるかも? と言う気構えで居るせいだ。
 どうにも肩透かし感が拭えない。

「成長、と言うことなのだろうがそれでも良くはないな。特に我ら前衛は」

 後衛と言う役割はぶっちゃけると敵の強弱があってもやることには変わりは無い。
 紫苑は事前に強化魔法をかけるだけだし、麻衣も傷の度合いを見て回復魔法をかけるだけだ。
 その点、前衛は違う。
 上手くペース配分をして敵を倒して次に備えなければいけない。

「気が抜けるのは良くない。こんなんじゃ雑になっちゃうよ」

 このダンジョンだけならばそれでも構わない。
 しかし、別のダンジョンを探索する時も今の状態を引き摺ってしまうのは良くない。
 何せ敵の強さも違うし規模も同じとは限らないのだから。

「(別に問題無いじゃん。俺TUEEEE出来るんだし……ケッ)確かに気分をリセットしなければな」

 前で戦いたくはないがそれでも活躍はしたい。
 後衛と言うただでさえ華が無い立ち位置で使えるのも補助魔法のみ。
 そんな紫苑からすれば圧倒的な力で敵を蹴散らす前衛の者らは嫉妬の対象なのだ。

「次にまで引き摺ってしまえば命取りになるかもしれない。
ああ、先生もそう言う理由で俺達を若干敵のレベルが低いところに送ったのかもしれんな」

 学校から転移出来る孔は百や二百どころではない。
 莫大な数の孔が世界には存在していて、手付かずのところも多いのだ。
 ゆえにある程度はどのレベルのダンジョンに送れるかも学校側で差配出来る。
 ヤクザは上手く気持ちの切り替えが出来るようにとの配慮で自分達をここに送ったのだろうと言う紫苑の推測は間違いではない。

「スパルタやねえ。でも、ありがたいことやわ」
「愛の鞭――と言うわけですね、。ありがたく受け取るか邪険にするかは己次第」

 ちなみに紫苑は後者だ。
 自分を想ってのことであろうと素直に受け取れるほど人間が出来ていない。
 中身の無いよいしょで喜べるのに、中身のある諫言には苛立ってしまう。
 人間としての小ささが露呈していると言わざるを得ない。

「良い教師だよ薬師寺先生は……なればこそ我らも期待に応えねばな」
「だねえ。でも僕としてはやっぱりキツイとこに送ってくれた方がありがたいんだけどね」

 モンスターの死体を漁りながらぼやく天魔。
 ありがたいと思いはするが、自分の性を満たせないのは不満なのだろう。

「自分磨きに余念が無い言うか……いや、自分が楽しみたいだけかな」
「どっちでも良いよ。それより、鬼って持って帰るのは内臓だけで良かったっけ?」

 鬼の腹を掻っ捌いて臓器を取り出しながら確認を取る。
 そう、鬼の臓器と言うのは精力剤の原料になるのだ。
 不眠不休で戦うサラリーマンの朝の一本として欠かせないオーガミンCなどにも使われている。

「そうだな。ああでも、その鬼は三つ目だろう?
鬼の亜種だ。額の目も使える。確か眼精疲労に役立つんだったかな?」
「へえ、よく知ってるね紫苑くん」

 鬼の目が高値で売れることを知っているからである。

「非才の身だから勉強が欠かせないだけさ」
「勤勉なのは良いことではないですか」
「そう言ってくれると嬉しいよ。それより、これで学校に納める規定量には達したな」

 Aクラスの人間には給与が出る。
 それは有望性を買われているからだが、さりとてただ勉強しているだけではお金は貰えない。
 勉学に励み、尚且つダンジョンの中で手に入れた素材等を学校に納品して初めて支給されるのだ。
 A以下のクラスでもダンジョンで手に入れた素材は買い取って貰えるが……
 如何せん、Aクラスの人間が探索するダンジョンに比べランクが低い。
 危険度も低いが手に入るものも大したものではない。
 はした金しか得られることは出来ないのだ。
 しかしAクラスの人間が探索するレベルでは本業のそれとも遜色はなく、手に入る物品も何かしら需要があったりするものなのだ。
 だからこそ学校側に一括で納めて給与の一部となる。

「今日だけで四十万くらいはいったんやない?」

 本来なら手に入るものによって値段も変動するのだが、そこは学生。
 Aクラスの人間が潜ったダンジョンで手に入れたものならば一定の金額が貰える。
 損と捉えるか得と捉えるかは個人の主観によるが、一定であるからこそ毎月決まった額の給与が支給されるのだ。
 ちなみに給料の額は一般企業のサラリーマンの月給に比べると天と地ほどの差があったりする。

「だな(来年はどうなるか分からんがAクラスに居られるうちに稼いでおこう)」

 冒険者で食っていくつもりもなく、就職に有利だからと冒険者学校に入学した紫苑。
 だからこそAクラスに入れたのは幸運だった。
 リスクも伴うがそれでも一年あればかなりの額が稼げるのだから。

「(あー……給料日が待ち遠しいなぁ。賞金も加味されてるらしいし……うへへ)」

 もし鉄面皮が崩れていたら、それはもうだらしない笑顔が浮かんでいたことだろう。
 俗の極みとも言って良い欲塗れの笑顔だ。

「後はダンジョンを踏破するだけで終わりだが、時間が随分と余るんじゃないか?」

 生徒手帳に備え付けられている時計に目をやりルドルフがぼやく。
 ダンジョンの中で普通の時計は意味を成さない、狂ってしまうのだ。
 しかしこの生徒手帳に備え付けられているのは特注。
 何処であろうと絶対に時間が狂わない優れもの。お一つ如何ですか?

「余るって表現はちょいちゃうんちゃう?」

 Aクラスでは始業時間は同じだが終業時間はパーティ単位で異なる。
 午前に座学などの普通の授業をして午後はダンジョンで探索。
 ダンジョンの探索が終わった時点でそのパーティは下校して良いのだ。

「確かにそうだが、まだ三時にもなっていないぞ?
「ここも粗方調べつくしたし後ですからね」

 もうニ十分もあれば完全踏破出来るだろう。
 それでもうやることはない。後はダンジョンを出て帰宅するのみだ。

「階層型ならば良かったんだけどねえ。でもここ、だだっ広いだけで上も下も無いし」

 その代わりモンスターが多いし上下左右の感覚も狂ってしまうのだが、
紫苑を除く者らにとってはその程度何の枷にもなっていないようだ。

「(ケッ……才能を鼻にかけてんじゃねえよ。マジうぜえ)」

 天魔の言葉に毒づく紫苑。妬み嫉みは今日も絶好調のようだ。
 いやまあ、それが絶好調なのは人としてどうかと思うが。

「単調だな。それもまた気が抜ける原因だ。早急に抜け出して自己鍛錬の時間に当てるか」

 ルドルフの言葉で再び歩き出そうする一行だったが、

「あら、これは……今度は前後が狂ったようですね」

 不可思議な感覚に襲われ足を止める。
 どうやらここは時間経過で更なる枷が嵌められるダンジョンのようだ。
 それでも紫苑を除く面々は何てことのないように歩き出そうとするが……

「どうしたん紫苑くん?」
「(ミスった! 超ミスった!)」

 前に向かい始めた四人とは違って後ろを向いてしまう紫苑。

「……いや、何か嫌な感じがしてな」

 当然のことながら嘘である。
 自分の失敗を誤魔化すためにテキトーぶっこいただけだ。
 前に向かって歩こうとしたら後ろを向いて歩いてしまうと言う感覚に慣れていないがゆえのミス。
 まあ、そんな感覚に慣れている人間も多くないがそれでも失敗は素直に認めるべきだろう。
 変な見栄を張るのは少々頂けない。

「? 気配なんか感じないけどなぁ。紫苑くん、割と心配性だよね」
「(うるせえ、間違っただけなんだよ。お前ら何てことない顔しやがってクソが!)根が臆病者でな」

 カラカラと笑われたことで羞恥心はマックスにまで上り詰めた。
 素直に適応力の高さを認め敬えない矮小な人間性が如実に現れている。

「はは、あれだけの胆力がある卿が臆病者とはな。世の臆病者に失礼と言うものだ」

 冗談めかして言っただけだし、尚且つ褒められているのだが……

「(うぎぎ……! う、ううう上から目線でもの言いやがって気障野郎が! この怨み忘れんぞ!)」

 じゃあお前が何時も心の中でしてる発言はどの目線からなんだよ。
 少なくともへり下ってないだろ、富士の山頂レベルからじゃねえか。

「ふふ、それでは参りましょうか」

 この劣等感は誰一人として紫苑がミスったとは思えないことにも原因があるのだろう。
 自分が出来るから他の人間にも出来る、それが彼なら尚更……あれ?
 つまりそれは紫苑が見栄を張り続けたせいだし自業自得じゃねえか。

「だね。早く帰っておやつの時間と洒落込みたいし。ああそうだ紫苑くん」
「ん?(集中してんだから話し掛けんなよ屑が)」

 今度こそ間違えずに歩き出せたことにほっとしながら進む紫苑だが、表情には出さないだけでかなり集中しているのだ。
 必死さを顔に出さないのは自分が美形だと自負しているがゆえ。
 美形の自分が無様な面を見せるのは耐え難い屈辱だから意地でも顔に出さない。
 確かに顔は良いが真の美形は容姿をそこまでに鼻にかけないだろうに、酷いナルシストだ。

「帰ったらまた公園のクレープ屋にでも――――ッ!?」

 弾かれたように振り向く天魔。
 これは紫苑のように間違えたわけではないのは言うまでもないだろう。

「どうしたんよ天魔くん」
「……甘かった。正しかったのは紫苑くんだ。情けないね、本職の前衛がさぁ」

 その言葉に全員が振り向くと数百m先の地面が大きく波打っているのが見えた。

「岩蛇か! 成るほど、これはまた最後の最後で難物が来たものだ」
「紫苑くんは気付いとったんやね?」
「(え!? テキトーぶっこいただけ……いや、認めるわけにはいかんな。プライド的に考えて)」

 頭をフル回転させてそれっぽり理屈を考える。
 思いつくまでにかかった時間何と四秒。
 その時間を溜めに使ったと偽装して大きく頷く紫苑。
 もはや芸術的と言って良い虚飾だ。
 この才能があれば怒られた時だってバッチリ言い訳が出来るぞ!

「ああ、そうだな。まず第一に引っかかっていたんだよ。
薬師寺先生がペースを狂わせるだけで終わらせるかとな……スパルタだからなあの人。
俺達が油断するのを見計らって強力な敵の一つ二つ出て来てもおかしくないだろう?
加えてここはオーソドックスなダンジョンだ。そんな場所での強敵と言ったら――最早言うまでもない」

 じゃあ何で言わなかったんだよ、とツッコミを入れたくなるだろう。
 だがそこらの良いわけを考えていない紫苑ではない。

「確証はなかったし先生の意を無視するわけにもいかんから黙っていたが……やはり岩蛇か」

 地面から飛び出したそいつは広い通路を埋め尽くしてこちらを威嚇している。
 全身が岩石で構成された岩蛇は非常に厄介だ。
 この蛇に殺されて命を散らす中堅どころも多い。
 何せ熟練の冒険者であろうとも不思議と気配を感じ取れないのだから。

「……つくづく、敵わんわ。臆病やわ、確かに」
「(はぁ!? 殺すぞテメェ!!)」

 お前が自分で言ったことじゃねえか。

「だがその臆病さは必須と言って良いだろう」

 人間である以上、気の緩みと言うのは出てしまう。
 それはアイリーンらと戦い油断しないことの大切さを知ったルドルフらもそうだ。
 激戦の後であるがゆえに生まれてしまった僅かな驕り。
 それが目を曇らせていた。だからこそ気付けなかった――否、それも違う。
 緩んでいなかったとしても気付けたかは怪しい。
 人と言うのは信じることで生きていけるから。
 疑うと言う行為は存外に辛いもの。だから教師が罠に嵌めようとしているなど想像も出来ない。
 ゆえに、

「先々、そして裏のことにも常に注意を巡らせる……尊敬します、心から」

 一人で疑うと言う辛い行為を背負って自分達を支えてくれる紫苑に感謝の念を抱く。
 しかし――――そんなものは善人の理屈でしかない。
 この場では少なくとも二名ほどそれに当て嵌まらない者が居る。
 天魔と紫苑だ。前者の場合は基本的に目の前のことしか考えていないから。
 ゆえに、目の前もその先もしっかり見据えている紫苑に敬意を抱いた。
 後者の場合はもっと単純――――奴は誰かを信じていないから。
 いやまあ、今回の件に関してはテキトーにでっち上げただけなのだが。

「さて、余りにも情けないな。であれば挽回するしかあるまいよ。なあ、天魔、栞」
「ええ。見事あの岩蛇を仕留めてみせましょうや」
「あれ殴ったら義肢ぶっ壊れちゃわないかな? けどまあ、紫苑くんに見直される方がずっと大事だよね」

 前衛三人の集中力が一気にマックスにまで引き上げられる。

「ほなら、うちも今回は出るわ。岩蛇は核を壊さな死なへんしな」

 岩蛇の特質すべき点は気配を感じ取れないこともそうだが、その再生能力にある。
 固体によって場所はそれぞれだが核と呼ばれる部分を破壊することでしか殺せない。
 ゆえにその核をどうやって見つけ出すかが生死を分けるのだ。

「(流石俺だ……この頭脳が恐ろしいぜ……)」
『んなこと言ってる暇ねえだろ。あの蛇、俺様に比べりゃ弱いがそこそこ強そうだぞ』
「(はぁ!? あっさり新入生の黒田に殺されかけといてほざいてんじゃねえよ)」
『ちげえよ! あれはあの女が強かったから――――』
「補助は必要か?」
『聞けよ!?』

 カス蛇の言葉を無視して皆に問いかける。
 紫苑にしても岩蛇は恐ろしいので気を抜くわけにはいかないのだ。

「そう言うところ甘いよね紫苑くん。別に必要ないよ」

 岩蛇と言うサプライズがあったのだ。この先も何があるか分からない。
 強化魔法も有限である以上無駄撃ちさせるわけにはいかない。
 そんな意図を込めての返事だったが、

「(何言ってんだテメェ!? 俺が殺されたら責任取れるのか!!)」

 無論のこと伝わっていない。

「そう言うのは優しいと言うんですよ天魔さん」
「安心しろ紫苑。少なくとも我らが共に在るうちは――――卿に二度目の喪失は経験させんよ」

 遊びがなく冷静沈着――――だと思っている紫苑が自分達を心配する理由は何か。
 初日の自己紹介もあって仲間――つまり自分達を心配してのことだと彼らは勘違いしている。
 ゆえに嬉しいような恥ずかしいような顔をしているのだが、

「(また意味の分からないこと言い出したよ……嗚呼、俺って世界一不幸な美少年!)」

 やっぱりコイツには伝わっていない。

「さあ、奴さんもそろそろ様子見は終わりっぽい。どうするのかな麻衣ちゃん?」
「アイツに触れたい。天魔くんと栞ちゃんはそのためのサポートをして」
「私は?」
「ルドルフくんは美味しいとこどりや。核を貫いたって」
「それは嬉しいな! では、始めようか!!」

 言うや天魔が麻衣を抱きかかえて疾走を始める。
 岩蛇の肉体から放たれた岩石弾が二人を射抜こうとするが、

「――――そのままスピードは落とさないでくださいな」
「――――言われるまでもないよ」

 栞の糸が二人に迫る岩石弾だけを絡め取って切り裂く。
 そのままスピードを落とさず岩蛇に接近した天魔は、

「おっと! それじゃ、よろしくね」

 尾を使った薙ぎ払いを回避し、
そのまま岩蛇の身体に足をかけて飛び上がり麻衣に接触を促す。

「あいあい。ほな――――喰らっとき」

 一瞬、ほんの一瞬の接触だった。
 麻衣の小さな手が岩蛇の身体に触れた瞬間、その肉体が砕け散ったのだ。

「身体がバラバラになった時、無事な部分が露出するんやろ?」

 岩蛇の攻略法としては爆撃魔法で全身を同時に砕き、破壊された瞬間に露出する核を狙うと言うものがある。
 麻衣が行ったのは回復魔法で爆撃魔法の代替をする定石の亜種だ。

「――――そこが核か」

 麻衣が岩蛇に触れた瞬間には力を溜めていたルドルフ。
 肉眼で核を確認すると同時に槍を投擲。
 白銀の閃光は見事に核を射抜いた。これで戦闘は終了だ。

「御見事! いや、凄いねえ。今の何さ麻衣ちゃん」
「前に言うたうちの奥の手や。過回復とでも言うべきかな?」

 ダメージを受けた箇所に莫大な治癒の魔力を流し込み回復させる。
 それが麻衣の回復魔法の要訣だ。
 欠点としては身体の一部に触れていないと効果が無いと言うことだが、それを補って余りある回復力を誇る――――それこそ回復のし過ぎで相手を傷付けられるほどに。

「実はな、岩蛇の身体の岩って無機物やないねん。確かに生きとるんや。
核から送られる信号で細胞が活性化して回復する言うんが奴さんの再生能力の正体。
ダメージを受けてない状態やったら信号も受け取ってない。
せやからうちの回復魔法がすんなり通って――――過剰な回復でその身体が砕けるっちゅーわけ」

 コップに水を注ぎすぎると零れる、その理屈と同じだ。
 何てことのないように言っているが、それでもキャパを超えるほどの回復を起こそうと思ったら生半な魔力では足りないだろう。

「麻衣、消耗は問題無いレベルか?(回復役が何やってんだよ! 調子乗ってんのか!?)」
「あはは、大丈夫大丈夫。流石にあの巨体やからそれなりにキツイけど……」

 それでもここに来るまでに一度足りとて回復魔法は使っていない。
 ルドルフ、栞、天魔が強過ぎたからだ。
 そのおかげで余剰魔力なら幾らでもあった。

「一回くらいなら平気。まだ余裕はあるよ」
「(ぐぉおぉ……か、格差社会か……! これだから富める者は嫌いなんだ!)そうか、それなら良かった」
『回復使えるんだから良いじゃねえかよ』
「(うるせえ! 俺なんて少ない魔力でカツカツなんだぞ!?)」

 全力で補助を行えば十回でガス欠になってしまう。
 しかしその十回分の魔力は今麻衣が見せた過回復の一回で吹っ飛ぶ。
 しかもそれで得られる効果は――――普通。
 いや、確かにかけられている側は強化をされている実感は得られるが普通なのだ。
 一流どころでは平時の十倍以上の強化を行えるものが居るのだから普通としか言えない。
 ぶっちゃけると大したことないレベルなのだ。

「やから安心して怪我してええよ!」

 茶目っ気たっぷりにウィンクを飛ばす麻衣。
 可愛いと言えるその仕草だが奴にとってはウザイだけだ。

「それはそれでどうなのかねえ」
「回復を使うのは卿の仕事だが、私達は怪我をせずに敵を倒すことが仕事なのでな」
「なるべく前衛のみで片付けるのが理想でしょう」
「ありゃりゃ、仕事が無いとうちら不安になるわぁ」
「(ニートしてて良いんですねヤッター!)」

 安全圏で見てるだけ、何と楽なことか! 紫苑にとっては最高の環境だ。
 まあ、こう言う人間が居るから時折後衛職は軽んじられるのだが本人はまるで気にしていない。

「フッ……我らを蒙昧共と一緒にせんでくれ。後ろに"居る"、その重要さは分かっている」
「そうそう。回復も強化もここぞって時だけでしょ」
「攻撃魔法を使えるのなら話はまた別ですが、御二人がなるべく仕事しないのが一番ですからね」

 回復は言うまでもなく怪我をすると言うことだから、強化はそれを使わねば危ないと言う敵に遭遇することだから。
 ゆえに二人が暇であると言うのは重要なのだ。

「うーん、紫苑くん。うちらホンマええ人らとパーティ組めたねえ」

 前衛三人の言葉が嬉しくて、つい紫苑にも同意を求めてしまう。

「そうだな(俺は優秀な奴が嫌いです)」

 自分が何もしたくないってことは、つまり前衛が優秀でなきゃいけないってことだろうが。
 この矛盾と我が侭は本当にもう如何ともし難い。

「フッ……照れるな」
「ですね。さ、とりあえず岩蛇から使えるものを回収しましょう」

 岩蛇の破片の中には時折宝石が混じっている。
 生きた岩の中で育まれたそれは好事家に高く売れるのだ。
 装飾品としてもそうだが、その宝石を細かく砕いて化粧品などと併用すると美容効果も高い。
 拳大のサイズならばン千万はくだらないだろう。

「(うひゃひゃひゃ! こりゃ今日は大儲けですなぁ)」

 なので紫苑の気合も尋常ではない。
 学校側に規定通りの値段で買い取られるだけなのにどうして?
 その疑問は当然だろう。だがそんなこと関係ない――――だってコッソリ着服するから。
 勿論大きなサイズはバレやすいから狙わない。
 狙いはあくまでちょっと大きなビー玉くらいのサイズだ。
 それぐらいなら他の破片を掴んでいる時にこっそり抜き取ることも可能だし、他の四人に気付かれない程度の器用さもあるから問題は無い。

「さて、粗方回収も終わったな。さあ――――気を抜かずに行こう」
「ああ(仕切ってんじゃねえよ気障パッキン)

 岩蛇のこともあってか気を引き締めなおした四人と、逆に岩蛇を倒したことでもう大丈夫だろうと気を抜いた紫苑は再び探索を再開する。
 注意深く行動するようになったため時間はかかったが、それでも三十分ほどで深奥に辿り着いた。

「これは……治療用の湧き水か。細胞を活性化させると言う」
「とりあえず汲んどこか」

 腰につけてあったバッグから小瓶を取り出し湧き水を採取し小瓶をそのままバッグへ。
 全員がつけているそのバッグは空間圧縮技術により見た目以上の容量を誇っている。
 旅行などの際にとても便利! お一つ如何ですか?

「これで探索は終了か。このまま転送して戻れりゃ楽なんだけどねえ」

 低ランクのダンジョンであれば何処に居ようと帰還は容易い。
 しかし、紫苑がカス蛇と出会った場所や今回のダンジョンなどは別。
 高位のものになるほど最初に転送して来た場所まで戻らなければいけないのだ。
 どうして転送が阻害されるかについては目下研究中らしい。

「仕方ありませんよ」

 苦笑しつつ一行は来た道を最短ルートで引き返す。
 浮かれ気分の紫苑を除き皆が警戒していたが何ごともなくスタート地点に辿り着き、そのまま学校への転送を開始した。

「うむ、何だかんだで良い経験だったな」

 無事に学校に戻った紫苑らは帰り支度を整えるために教室へ向かった。
 他に帰って来ている生徒はおらず、居たのはヤクザだけだ。

「先生、納品分です」

 代表して紫苑が全員のバッグをヤクザに提出する。
 ここから教師が得られた素材等を取り出し翌日のHRで返却するのがルールなのだ。

「確かに受け取った。しかし、全員無事のようだな」

 意味深な笑みを浮かべるヤクザ、恐らくは岩蛇のことだろう。

「あそこの構造が入れ替わった際に岩蛇の目撃例があったのだがな」
「生憎と、読まれてたぜセンセ。僕らのリーダー舐めないでよ」
「ほう……丁度良い刺激になると思ったが無駄だったかね?」
「いやそんなことはないぞ。薬師寺先生の意を汲んで紫苑は黙っていたからな」
「つくづく、出来る子だね。君は」
「いえ、そんなことありません(流石俺! 褒めろ、もと俺を褒めろ!)」

 思わず有頂天になってしまう紫苑だが……こう言う時、大抵しっぺ返しが来るのだ。

「ふふ、それでは私は一旦職員室に戻る。君達も気を付けて帰りたまえ」

 ヤクザが教室を出て行ったのを見計らって天魔が手を挙げる。

「どうかしたのか?(宝石売り払いたいから早く帰りたいんですけどー)」
「何て言うかさ、これから僕ら本格的にパーティとして始動するわけでしょ?」

 パーティ同士の戦いもあったがあれは別だ。
 冒険者の本分とはちとズレているのだから。

「でさ、僕思ったの。パーティの共用資金とか必要なんじゃないかってね」

 ニヤニヤ笑いを浮かべたまま懐から取り出したのは、

「――――こっそり抜き取っちゃった♪」

 岩蛇から取れた宝石だった。大きさは紫苑が着服したのより大きい拳サイズだ。

「(うげ!? あ、あの野郎……あんなサイズを抜き取りやがって……!)」

 憤慨する紫苑を他所に他の四人は――――照れくさそうに笑っていた。

「まあ、恥ずべきことだとは思ったが……実は私もだ」
「私も同じ理由で」
「あらら、考えることは皆同じなんやねえ」

 全員が全員懐から宝石を取り出す。
 サイズは天魔のが一番大きく、二番目が麻衣、三番目が同列でルドルフと栞だった。

「(こ、この空気で俺は持ってないとか言えねえ……! ああでも提出したくねえ!)」

 だがここで持ってないと言うと一人だけ考えてなかったみたいで間抜けだ。
 永遠とも思える三秒の葛藤を終えた紫苑は渋々懐から宝石を取り出した。

「む」
「おや」
「あら」
「ほへえ」

 紫苑を除く面子は皆、意外そうな顔をしている。
 対外的には真面目くんで通しているコイツがこんなことをするのが意外だったのだろう。

「……まあ、何だ。申し訳ないと思って小さいのにしたんだが、すまんな
(クソぉ……こんなことなら……もっと大きいのをパクってくれば良かった!)」

 他の四人に比べて圧倒的に小さいサイズが劣等感を刺激しているようだ。

「ふふ、卿らしいではないか。その誠実さ。私は嫌いではないぞ」
「なんちゅーかそれぞれのサイズが人柄を表しとるねえ」

 折角の儲けを手放すことになった紫苑が忸怩たる思いを抱えているのとは裏腹に、他の皆は楽しそうに笑っている――――これが人間性の格差か!

「(うぎぎ……嗚呼、俺って世界一不幸な美少年だ!!)」

 ほら、しっぺ返しが来ただろう?
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