「うそだろ、スズさん。信じられないよ、そんなことって・・・」
居酒屋ももう11時をまわった頃。
店内はだいぶ盛り上がってきた。みんな、それぞれの席で、それぞれが楽しそうにワイワイやってる。
しかし・・・。
ある一ヵ所の席だけは、どんよりどんよりしたムードに包まれていた。カウンター席である。
「骨折したのは見りゃわかるけどさ、だけど、だけど、空中庭園から飛び降りて折ったなんて・・・」
山本君は立ち上がってテーブルを、どん!と叩いた。
「なんでそんな変なウソつくの!」
山本君の隣で、スズさんこと、鈴木さんは、日本酒を冷やでちびちびやりながら、うつむいたままブツブツ言ってる。
「うィー。空中庭園は空中庭園なんだよ。俺、行ったんだよ。ほんとだよ。ひっく。チケットもらったんだよ。部長にもらったんだよ。最近、鈴木君元気ないからここにでも行ってパーッと遊んできなさいって・・・ほんとだよ、ほんとなんだよ・・・ひっく、うィー」
山本君は、はァーと深くため息をついた。
こいつは重症だ・・・スズさん、奥さんが亡くなってから、どんどんやべえ方に行ってる・・・。
「ほんとだよ。ほんとだよ。なんで誰も信じてくれないんだよ。すごいアトラクションなんだよ。テーマパークが丸ごと空に浮いてて、あっちに行ったりこっちに行ったり、ものすごいスピードなんだよ。ジェットコースターなんて目じゃねえんだよ。なんで誰も信じてくれないんだよ。ひどいよ。みんなひどいよ・・・ひっく」
「はいはい、そうだね。ひどいね。みんなひどいね。空中庭園にみんな行ったことがないからそういうことを言うんだね。うん。みんなひどい。行ったことないからって信じないなんて、そのなんちゅうか・・・」
山本君は慰めよう慰めようと必死だった。課長がいつまでもこんな状態だと、うちはまるで仕事にならない。奥さんをものすごく愛してたのは知ってるけど、奥さんすごくやさしい人だったけど・・・でも、でも・・・うち、めちゃめちゃ営業成績、悪いねぇーーーーん!
「コラぁ。山本ぉ!」
スズさんが立ち上がった。ふらふらしてる。
「わ。スズさん。あぶない。倒れるよ。あ。いかん。グラスが倒れる」
ガチャーン!
「てめえだって空中庭園行ったことねえんだろ! 信じてねえんだろ! そうだろ! このクソ野郎!」
「ひ、ひィー」
山本君の胸倉をつかむスズさん。もうすでに逃げ出しくなってきてる山本君。
店内はますます賑やかになってきた。そりゃそうだ。11時半ともなれば、そろそろ酔いがまわってきてフィーバーする時間だよーー!
胸倉をつかんで離さないスズさんと、スズさんの顔に手を当てて逃げようとする山本君の隣の座敷で、あらららら、若者が調子に乗って口にふくんで火を噴いたぞー! こらぁー! ここは、全国びっくり人間ショーの会場やないねんどー!
「ぎゃはははは。ゴジラくん、サイコー。もっかいやって。ぎゃはははは」
「うひひひひ。そう? じゃーお言葉に甘えまして・・・不肖ゴジラ、ウィスキーと焼酎の割り割り大フィーバーやっちゃいむぅわーっす!」
若者はウイスキーと焼酎のビンを両脇から口にくわえるや否や、ぶわぁーー! と、さっきの二倍の大きさの火を噴いた!
「あちーーーーーーーー!」
空き皿を取りにきた従業員の田島君の茶髪に燃え移っっちまった。
あまりの熱さに、田島君は、我を忘れ、「水! 水!」と、座席のギャルのスカートをつかんだらば、
「いやーん! へんたーい!」
と、ギャルは叫び、田島君に平手打ちをくらわした!
「ぐはーーーーー!」
田島くんは数メートル後方にぶっ飛び、ウイスキーがズラッと並んだ棚に激突。
がらがらがっしゃーーーーん!
「ぐぉーーーーーーーーーーーーー!」
ぐったりして、割れたグラスの山に埋もれる血だらけの田島くん。
田島くん。
だいじょうび?
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