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俺と隣の席の魔女シリーズ  作者: 冬木ゆあ
第一章 俺と隣の席の魔女
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閑話―3.5話―

 健臣が松岡家での夕食に慣れてきた頃のことだった。

 松岡はいつものようにビールを片手にテレビ鑑賞にうつつを抜かし、真子はせっせと夕食を作っている。

 健臣はそわそわしながら松岡とともにテーブルの方でテレビを見て、真子を見てを繰り返し、なにか手伝うことはないかと臨戦状態を保っていた。

 だが、やはり夕食前に手伝うこともなく、真子の「ごはん」のひとことで健臣と松岡はリビングテーブルの方へ向かう。

 そして健臣は定位置となった松岡の隣の席に腰かけた。

 今日は餃子だ。健臣は瞳を輝かせる。


「まぁ、たれちょうだい」


 松岡が真子に言った。健臣も餃子から瞳を離すことなく、急いた気持ちを必死に押し止め、たれを求めて手を差し出した。


「まぁ……子さん」


 健臣の顔がかぁぁと赤くなる。松岡につられて『まぁ』と呼んでしまった。

 さらにそれをなんとか誤魔化そうとして失敗した。

『まぁ子さん』ってなんだと健臣は心の中で自分自身に突っ込む。

 松岡と真子はわずかに驚いた顔で健臣を見た。

 そして松岡はおかしそうに笑い、真子もくすっと笑った。

 健臣は赤い顔でうつむく。


「先生につられただけですから!」

「いや、だけどさ、『まぁ子さん』って! 新しいなっ!」


 松岡が腹を抱えて笑いながら言うと、真子が少ししかめっ面になる。


「かずちゃん、笑いすぎ」

「だって、だってよう」


 松岡は笑いすぎて咳こんでいる。

 しばらくして落ち着いてきたのか、目尻にたまった涙をぬぐいながら健臣に目を向ける。


「いやぁ、笑った、笑った。常盤も『まぁ』って呼べば?」

「いや、さすがに同い年の女の子を気軽に『まぁ』なんて呼べません」

「まじめだな」


 幼い頃からそう呼んでいるならまだしも、最近知り合ったばかりの十六歳の女の子につけるあだなではないだろう。

 健臣はそう思って、苦笑しながら水を飲んだ。

 真子にもらった餃子のたれを小皿に出しながら、これからは気をつけようと思った。

 しかし松岡が「まぁ」「まぁ」と何度も言うものだから、健臣は何度もつられそうになる。


「まぁ、おかわり」


 松岡が茶碗を真子に手渡す。


「常盤くんもごはんのおかわりいる?」

「ありがとう。ま、子」


 またうっかり「まぁ」と言いそうになると、それを誤魔化し「真子」と呼ぶようになった。

 松岡は吹き出しそうになるのを必死に堪える。

 真子は名前で呼ばれるのが慣れないのか、少し照れくさそうにしていた。


 そして気がつけば健臣は「真子」と呼ぶようになっていた。

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