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俺と隣の席の魔女シリーズ  作者: 冬木ゆあ
第三章 天然姫と意地悪王子
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第三話 ミス・ミスターコンテスト2

 体育館に音楽が流れると照明が消されて薄暗くなった。

 舞台にスポットライトが当てられる。

 そこに出てきたのは放送委員の委員長の桃木ひとみと副委員長の高堂久士だ。

 長い髪を二つに結んで、赤淵の眼鏡をかけた桃木ひとみが片手を高々と上げる。


「お待たせしましたー! 今年度もはじまります! F高の美の頂点を取るのは誰か! ミス・ミスターコンテスト!」


 甲高い可愛らしい声が体育館に響く。

 どこからか「ももちゃんせんぱーい」という掛け声が飛んだ。

 制服をきちんと着こなし地味な印象の高堂久士の甘く痺れる様な低音ボイスが辺りを包む。


「進行は高堂久士と――」

「桃木ひとみがお送りします」


 わぁっと会場が盛り上がった。

 ひとみが隣に立つ久士を見る。


「さて、さて。高堂君、今年はレベルが高いと思いませんか?」

「そうですね。投票するみなさんも悩んでいる方が多かったように思います」


 舞台上でひとみと久士が進める中、舞台袖では拓也と悠里が待機していた。拓也はあいかわらず爽やかな笑みを浮かべていて緊張などしていないように見える。

 対して、悠里は辺りをきょろきょろと見渡し、落ち着きがない。

 目つきがギラギラと周囲を威嚇している。

 見兼ねた拓也が声をかけた。


「悠里、大丈夫?」

「だ、だ、大丈夫なわけないじゃない! なんで拓也はそんなに冷静なのよ」


 悠里が噛みつきそうな勢いで言った。

 拓也が苦笑を浮かべる。


「俺も緊張しているよ。ほら、大丈夫だから落ち着いて。悠里が困っていたら俺がフォローするから。ね?」


 拓也が笑みを浮かべると、辺りにいたミス候補たちがざわめく。

 悠里は大して気にした様子もなく拓也をじっと見上げた。

 切れ長の瞳が拓也を映している。


「わかった。わたしも拓也が困っていたら助けてあげる。……あんたには必要ないかもしれないけど」

「そんなことないよ。悠里が一緒で心強い」


 拓也の言葉に悠里は笑みを浮かべた。いつもの強気な悠里の笑顔だ。

 それと同時に舞台の上にいるひとみが言った。


「二次審査に進むのはミス・ミスター共に各五名、ベストカップル賞は三組です。それでは、一次審査の結果を発表します。まずミスター候補から。高堂君、お願いします」

「はい。では、発表します。一年C組岡崎和仁、二年A組伊藤一馬、二年B組篠原拓也、三年E組金井正志、三年G組諸見克弘。以上です」

「続いてミス候補の発表です。一年A組井田雪美、二年B組豊川悠里、二年D組岩下琴枝、三年C組鳴海君江、三年F組嶋田ちなみ。以上です。最後にベストカップル賞候補を発表します。二年B組、二年D組、三年F組の三クラスです。では、舞台上にどうぞ!」


 わぁっと盛り上がる会場に総勢十三人の候補たちが現われた。

 その中にはもちろん拓也と悠里の姿もある。

 拓也は相変わらず爽やかに微笑み、悠里は青い顔で舞台に登場した。

 その合間にひとみが言う。


「今回、ベストカップル賞にエントリーされている二年B組は篠原君、豊川さんともにミス・ミスター候補ですね。それから二年D組の岩下さんもミス候補にエントリーされています。今年はダブル受賞も期待できそうですね」

「そうですね。――では、これより二次審査のインタビューに移ります。まずはベストカップル賞候補の三年F組のお二人からお話をお伺いしましょう」


 三年F組の二人が前に出てきて、ひとみと久士の間に挟まれるように立つ。インタビューがはじまった。


 一方、舞台の下のアリーナには観衆に紛れてミス・ミスターコンテストを見ている健臣たちがいた。

 健臣たちは人垣をかき分けるようにして舞台からそれほど離れていない場所を確保していた。

 健臣が隣にいる直に小声で呟く。


「なぁ。悠里、大丈夫かな?」

「顔が強張ってる……」


 直も不安そうに答えた。

 その時、舞台上に立つ拓也が健臣たちに気がついたようで視線をこちらに向けた。

 そして、視線が葵に向くとやはり浮かぶのはニヒルな笑みだ。

 健臣が苦笑する。


「問題は悠里より拓也かもな。『爽やか王子』があの笑顔じゃみんな驚くよ」

「だよな……」


 直も口元を引きつらせながらそう言った。

 舞台上では拓也が隣にいる悠里に耳打ちする。


「直たちがいたよ」

「え? どこ?」


 悠里が直たちの姿を探すように観衆を見回している。


「三年F組のお二人、ありがとうございました。――それでは続いて、二年B組のお二人、こちらへどうぞ」


 ひとみが拓也と悠里に声をかける。

 悠里がぴんと背筋を伸ばして、表情を固めた。


「悠里、行こうか」


 拓也がぽんと励ますように悠里の背中を叩いた。

 悠里はうなずき、強張る顔で前に歩みを進めた。

 それと同時に悠里は体育館を眺めて直の姿を探す。

 しかし、なかなか見つからない。ひとみが笑顔でインタビューをはじめた。


「篠原君は二年連続で二次審査まで進んでいます。今回こそはと意気込んでいますか?」

「俺にできることは応援してくれる人に応えるだけですよ」


 そう言って拓也は観衆に笑みを向ける。

 すると女の子たちの黄色い歓声が飛んだ。

 それに応えるように拓也が手を振る。

 観衆を見回していた拓也が一点を見た。そこに立っているのは葵だ。

 葵がひらひらと手を振ると拓也の笑みがニヒルなものに変わる。

 悠里が拓也の足を踏んだ。


「いった……」

「顔が怖い方の笑顔になってるわよ。気をつけてよね」


 悠里が小声で言うと、拓也が苦笑気味に悠里を見た。

 なにも足を踏む必要はないじゃないか。

 そう言おうと思ったが、悠里は観衆の方を向いている。

 拓也がその視線を追うと直がいた。

 やっと見つけることができたようだ。

 暗くてよく見えないが頬に手を添えて『笑え』とジェスチャーしているようだ。

 その様子が一生懸命で拓也は思わず声を上げて笑いそうになる。

 その隣では先程から表情の硬かった悠里の頬が緩み、ふっと微笑んだ。

 するとほんの僅かに観衆がざわめいた。


「さて、恒例の質問をお二人にしてみたいと思います。お二人の好きなタイプを教えて下さい。まずは篠原君から」

「タイプですか……。そうですね。好きになった人がタイプかな」


 拓也はそう言ってニヒルな笑みを浮かべた。

 それを傍で見ていたひとみと久士がはじめて笑みを崩し、口元をひくりと引き攣らせる。

 しかし、会場からは女子生徒の黄色い悲鳴が上がった。

 観衆の中にいる健臣と直が驚いたように辺りを見回す。


「なんであの笑顔で喜ぶの?」

「遠いからよく見えてないんじゃない?」


 二人は顔を見合わせて引き攣ったような笑みを浮かべた。

 拓也はその声援に答えるようにまた手を振っている。

 爽やかな笑みに戻っていた。


「つ、続いて、豊川さんにお伺いしてみましょう。ずばり好きなタイプは?」

「……一緒にいて楽しいやつかな」

「まるで誰か個人のことを言っているようですが、好きな人のことですか?」

「な、内緒に決まってるじゃない!」


 悠里が真っ赤な顔で言った。

 緊張が解けたのか、いつもの強気な悠里らしく質問に答えていく。

 けれど、どこかいつもと違う柔らかい雰囲気が出ていた。

 いい雰囲気でインタビューが進んでいく。


「お二人は普段から仲がいいと伺っています。お互いをどう思っていますか?」


 久士の質問に拓也と悠里はお互いの顔を見た。


「悠里は時々おてんば過ぎるけど、ちゃんと自分を持っている女の子だよね。まっすぐなところは見習いたいなと思っています」


 拓也がにっこりと微笑む。

 悠里はそんな拓也の顔をじっと見る。


「拓也は大人っぽくて頼れる感じ。だけど、実は腹黒いと思うのよね」


 悠里の答えに会場がどっと笑いに包まれた。

 ひとみがマイクを離して堪え切れないと言った様子で大笑いしている。

 久士が低音ボイスで笑いながら、「以上、二年B組のお二人でした。ありがとうございました」とインタビューを締めた。

 腹黒いと言われた拓也はなんとも言えない表情を浮かべている。

 悠里が元いた場所へ戻る途中で岩下琴枝と視線が合う。負けず嫌いな瞳でお互いを見た。

 拓也はほんの少しだけ驚いたような表情を浮かべたあと悠里に尋ねる。


「岩下さんとなにかあった?」

「ちょっとね。負けられない理由ができたのよ」


 そう言って拓也を見た悠里は、ほんの少しだけ楽しそうに見えた。

 続いてインタビューを受けるのは岩下琴枝の二年D組だ。

 琴枝は可愛らしい笑みを浮かべながら相手の男子とともに前に出る。

 ひとみが笑みを浮かべて言う。


「岩下さんは二度目のコンテストですね」

「はい。去年は一次審査で落ちちゃったので、今年は二次審査まで進めて嬉しいです」


 赤らめた頬に手を添え、少し緊張したような笑みを浮かべている。

 久士の顔がほんの少し緩んでいるのは気のせいだろうか。


「さて、岩下さんにも好きなタイプを聞いちゃいましょう」

「えー。恥ずかしいなぁ。好きなタイプは、そうですねぇ」


 少し上を見て考える素振りをする琴枝に久士がフォローを入れる。


「ゆっくりでいいですよ」

「ありがとうございます。――好きなタイプは琴枝を好きになってくれる人かなぁ」

「そうなんですね。趣味はありますか?」


 ひとみが尋ねる。琴枝はにっこりと笑って答えた。


「お料理とお裁縫です」

「いいですね。得意料理はなにかありますか?」


 久士が質問を重ねた。

 琴枝は首をかしげて固まった。

 戸惑ったように口を開きかけて閉じる。視線が泳いでいた。


「えっと……カレーライス?」


 会場からわずかに笑い声が上がると、琴枝は唇を噛んで顔を顰めた。

 そして、そのままうつむく。久士が慌てた様にフォローを入れた。


「カレーライスですか。嫌いな人はいないですからね。――では、長光君の好きなタイプをお聞きしましょう」


 気まずい空気のまま二年D組のインタビューが終わった。

 先程までの気の強さが琴枝からは感じられなかった。

 悠里は少しだけむっとしたように琴枝を見ていた。

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