Fly1「ぷろろーぐっ」 その6
「それからはもうドタバタ。帰国したダンナと大喧嘩して結局離婚して。何とか押し切って翔の親権だけは取ったんだけどね」
予想以上にヘビーだ。言うなればパンドラの箱を開けた女性・パンドラになったような気分だ。
となりで柑太もヤベえなー、という顔をしている。
そりゃそうだ、そもそもこの話を切り出すきっかけを作ったのは、他でもないお前だ。
もう後戻りどころか、立ち止まる事すらできない状況。歩く側から道が崩れていくような、そんな状況だ。
翔子さんはというと、もう完全に自分の世界に入ってしまったようだ。もはやこちらの相づちも耳に入っていない様子だった。
「その事があってから、あの子心を閉ざしちゃって。多分家族が崩壊したのは自分の病気のせいだと思っているんでしょうね。本心は分からないけど、清明に入ったのは多分医者になるためだと思う。あの子は自分を憎み、自分の病気を憎んでいたから」
今翔子さんが話した出来事は、多分いくつもの偶然と不運の重なりに寄って起こった物だと思う。
たぶんそこにはいくつもの"たられば"が存在しているのだろうし、後悔や自責といった感情も多かったことだろう。
そして、幼い翔の心を縛った感情は……。
――自分が病気にならなければ姉が死ぬような事はなかったのに。
――自分が病気にならなければパパとママは離婚しなかったのに。
挙げればきりがないが、たぶん大部分はこの二つだったのだろう。
だから翔は心を閉ざしたのか。
もう自分のせいで他人を不幸にするのは嫌だから。
だから心を閉ざし、人とのかかわりを嫌うようになった――。
察するにそのような事なのだろう。
「だから、あなた達に協力してほしいの。今日逢ったのも何かの縁だから。翔と友達になってやって、あの子の心を開いてあげてほしいの。今まで何度も試みたけど、あの子は私にもダンナにも心を開いてくれなかった。同年代の友達に頼るしかない状況なの」
気持ちは分かる。親なら誰だって自分の子供の事は心配なのだから。
だけど、私達にはたしてそんな大役が務まるのだろうか。
私達はただ単に人数合わせのために、彼を柔道部に引き込もうとしてここまでやってきだだけ。
そんな私達に、翔の友達になる資格があるのだろうか。
わからない。そんな資格はないかもしれない。だけど――。
「わかりました。私達で力になれるか分からないですけど、やってみます」
私がそう答えた理由は二つあった。
一つはここまで話を聞いてしまった以上、断りようがなかった事。
もう一つは、なんとなくだが翔の気持ちが解らないでもなかったから。
私自身、似たような経験をした事がある――といっても親兄弟とかではなくて、ペットのインコの話だが。
昔、私は家で一羽のセキセイインコを飼っていたのだが、ある日ケージのロックを閉め忘れて遊びに出かけてしまい、その間に近所の野良猫にやられてしまったという事があった。
誕生日に飼ってもらって大事にしていたインコだったので、流石に落ち込み自分を責めた。
そう、自分がロックをちゃんと閉めて遊びにいっていれば、と。
そんな時私をはげましてくれたのが、隣にいる柑太だった。
本当の意味の友達はそういう時にとても大きな力になってくれる。私はそれを身をもって体験していた。
だからこそ、今の翔にはそういう"本物の"友達が必要なのではないか、と思ったのだ。
「よかった。私も出来るだけバックアップさせてもらうわ」
翔子さんは安堵の表情を浮かべた。
こうなったらなるようになれ、だ。私達の――いや、私の勧誘作戦はいつのまにかお友達作戦に変更を余儀なくされていた――のか?
とにかく実の母親の翔子さんを味方につけたのだ、こうなったらとことんまでやるだけだ! |