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Psycho Detectives 〜サイコ探偵社〜
作:佐倉信輔



Case2「白き監獄(ザ・ロック・オブ・ホワイト)」 #2


                                    2

 形だけの朝の回診が済むと、しばらくは暇な時間が訪れる。
 マルコは欠伸あくびをして、大きく伸びをした。
 マルコ――というのは彼がこの施設にやってくる前まで名乗っていた名前で、ここに入れられた時にその名前は消滅している。
 この施設――国立 特殊・特異疾患 管理・研究センターに収容された者は、収容された時点で戸籍を抹消され、表向きは死んだ事にされてしまう。
 そして、入所者は通常通し番号で呼ばれ、二度とその名前を使う事はない。――通常一度収容されれば死ぬまでここからでる事はできないからだ。
 が、通し番号では分かりにくいので、便宜上以前使っていた"マルコ"という名前で表記する事にする。
 マルコがこの施設に収容されたのは、今から七年前のことになる。
 当時マルコは高校生。イタリア人を父に持つハーフであった彼は、学校でもよくもて、それなりに学生生活をエンジョイしていた。
 ただ、彼は子供の頃から人より疲れやすい子だった。
 朝礼の時にも倒れる事が多く、貧血気味なのだと言う事は自覚していた。
 マルコの身に転機が訪れたのは、十七歳の誕生日の事だった。
 朝、いつもどおりに学校にいく支度をしていると頃に、その人達はやってきた。
『政府の者です』
 それだけ言うと、何も事情を説明されずマルコは外に停まっていた車に押し込まれたのだった。
 そして連れて来られたのがこの施設だった。
 政府の者だという男は、マルコに向かって感情の無い声で言った。
『君は病気に侵されている。現代の医学では解明されていない、非常に特殊で特異な病気だ。そのような病気である以上、君は一般社会で生活する事はできない。よって、今日からここで生活をしてもらう。――いつの日か君の病気の治療法が見つかり、治療できるその日までね』
 そして七年経った今も彼はここにいる。未だ治療法は見つかっていない。
 "造血不全血損性重症貧血症候群(Vampire syndrome)"、通称"吸血鬼病"――それが彼の病名だった。
 人は骨髄中にある造血幹細胞で赤血球や白血球、血小板などのいわゆる"血球"と呼ばれる血液成分を製造している。これら血球にも寿命があり、寿命を向かえて老廃物となった血球の代わりに造血幹細胞が血球を製造し、供給する事で血液中の血球数を一定値に維持し、生命活動を保っている。
 この血球のバランスが崩れると様々な症状をきたしてしまう。例えば血友病等のように血小板の製造に異常が出ると、怪我などをした時に血が止まらなくなってしまう。白血病などで白血球の製造に異常が出ると、免疫機能が低下し様々な病気にかかりやすくなってしまう。そして、赤血球が減少すると酸素を体中の細胞に運ぶ運搬機能が低下し、いわゆる"貧血"状態になる。
 この貧血にもいくつかのパターンがある。最も一般的なのは鉄分の不足で赤血球の構成体の一つであるヘモグロビン|(主成分は鉄)が不足して起こる"鉄欠乏性貧血"。他に重症の貧血とされる物として、何らかの原因によって、赤血球が製造能力を超える速度で壊される事で起こる"溶血性貧血"。そして、骨髄の造血幹細胞そのものの異常によって起こる"再生不良性貧血"の三つだ。
 しかし、マルコの病気はそのどれにも該当しないものだった。
 しいて言えば一番近いのは"再生不良性"の貧血だろうか。
 マルコの造血幹細胞は全く機能していなかった――つまり、赤血球・白血球・血小板、全てが全く作られない状態だったのだ。
 その上、マルコの血液中の血球は、通常よりも速い速度で壊れている事も分かった。
 このまま放っておけば、血管中の血球が消滅していき、いずれ呼吸障害を起こすか、感染症を起こして死に至るだろう――施設の職員であるドクターは彼にそう宣告した。
 もちろん症例の無い病気なので、治療法などこの世には存在しなかった。
 当然"再生不良性貧血"や"白血病"の治療で用いられる"骨髄移植"も試みた。
 だが、移植した骨髄も機能することなく死滅し、何の効果を得る事も出来なかった。
 彼の残された道は、毎日輸血を行い血球を補充する事だけだった。
 だが、毎日輸血を行う事は身体に著しい負担をかけるしコストもかかる。
 ところが、検査と研究の中で病気の代償に得た彼の特異能力が判明したのだった。
 それは、このような病気を抱えながら彼が十七年間生き長らえられた理由、とでもいうべき物だった。
 通常人間は消化器から血液を吸収する事はできない。吸収できるのは栄養分のみで、消化管中に流れた血液は口か肛門から排出されるだけである。いわゆる、吐血や喀血かっけつ・下血と呼ばれる重篤な症状とされる現象である。
 ところがマルコの場合、消化管から血液を吸収し、そこから血液成分を再構築して血管に送る事ができるのだった。
 つまり、魚でも何でもいいので血液を口から取り込めば、自分の血液として再利用できるのである。
 病名の通称、"吸血鬼病"はここからつけられた名だった。血液を飲む事でいき続けるのだから、まさに吸血鬼だ。
 それ以降、マルコは毎日血液を摂取しながら生活する事になった。
 その量はだんだんと増え、今では一日一リットルの血液が必要な状態になっていた。

                                    3

「ちょっと待って、マルコって誰よ?」
 そこでユアンの話を遮って、思わず私は言った。
 ユアンは「おいおい」と両手を広げて言った。
「もちろん俺のことだよ。さっき言ったろ? ここに収容された患者は戸籍を消されるから、俺らは仮の名前を名乗ってるって。親から貰った俺の本当の名はマルコ・サルディーニ・城崎しろさきってんだ。もっとも、既に消滅してるからあまり意味はないんだけどな」
 へえ――じゃあ、ユアンの青みを帯びた茶色の目は病気のでいとかではなくて、単純にハーフだからってことか。
 そこで不意に私はある事に思い当たった。
「あれ? じゃあユアンがいつも飲んでたのって――」
「ああ、血液だよ。ただし、俺の体質に合うように成分とか調合されたものだけどな」
 てっきりワインか何かだとばかり思っていた。
 だから、私はコイツの事を飲んべの女たらしと認識していたわけで。
「まあ、慣れればワインみたいなもんさ。多少鉄臭いけどな」
 そしてユアンは話を続けた。







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