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アルゴ! ホワイトクリスマス 作者:桐生 慎
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 五感がリアルに体感出来るバーチャルリアリティの世界・アルゴに十八歳となった竜司はデビューする。コスプレ儀体が跋扈するオタクの天国・特別自治区・アキハバラで国賓の扱いを受ける竜司は理想の女性「夜美」のコスプレ儀体を利用する少女を紹介される。
 そして、いよいよ、夜美との初めてのデートに竜司は赴いた。
 黒を基調とした地味な仕立ての高級車が夜美専用の馬車だった。

 僕らが向かい合わせに座ると、馬車は出発した。町中を抜け、山岳地帯へと向かう。山岳地帯の道は舗装もされていない九十九折りの悪路だった。僕は取っ手に捕まり、振動から身を守りながら、視線は夜美から離さなかった。

 どう言うコツがあるのか?
 夜美は馬車の振動など無い様に、姿勢正しく腰掛けて、微動だにしない。

 瞑目していた夜美が口を開いた。

「この和服はね、貴方を試したのよ。本当に『ゴースト・イーター』の夜美のフアンなのかをね。古いアニメだし、未だに固執する熱狂的フアンがいるとは思えなかったから……」

 静かな口調だった。僕は振動で舌を噛みそうになるのを避けながら、尋ねた。

「―――そ、それで、ぼ、僕は合格だったかな?」

「貴方は本物だった。昨夜の宴会での会話でも分かっていたけどね。『ゴースト・イーター』であんなコアな話出来ると思わなかった。正直、楽しかったわ。今日はわたしに合わせて和服で来るし、ああ。本物なのだなと思ったわ」

「そりゃ、嬉しいよ。僕も楽しかった」

「わたしは貴方のイラストの熱狂的フアンだし、そんな人にイラストを描いて貰えるのは光栄だと思うわ。けれど―――」

 夜美はそこで口を閉ざした。僕は再びその口が開くのを待つ。

「けれど、わたしは貴方の好意に応える術を持たない。わたしはのりちゃんや五月とは違うの。本質的に男嫌いなの。これは治しようがないわ。リアルでもここアルゴでもわたしは処女なの。アルゴでの活動はもう四年になるのにね……。アルゴにダイブする人の大半がSEX目的だし、その快感もリアルを超えると聞くわ。普通、四年もアルゴに居れば性に開放的になる。わたしは異端なのよ。だから、わたしなんかに固執しても無駄よ。代わりを捜しなさいな」

「いやだね」

 僕は即答した。

「君は僕の理想の体現者だ。こうして見てるだけで幸せな気分になれる。他の女性じゃこうはならないよ」

 夜美はジト目で僕を見る。暫し、沈黙があった。

「―――な、何かな?」

 沈黙に堪えきれず、僕が尋ねると、

「貴方、女慣れしているじゃない? もてるでしょうに……」

「それこそ誤解だ。僕はオタクで絵ばかり描いていて、女の子と付き合ったこともない。同じオタクの女友達は結構いるけれど、異性として意識したことはない。少女漫画や乙女ゲームは随分しているから、女の子との会話術は学んだけれど、れっきとした童貞の高校生だよ」

「そうよね。年下でもあるんだわ。わたしとのりちゃん、五月は高校時代からの親友でね、みんな、十八歳の誕生日にアルゴにデビューしたのよ。四年前になるわね。わたし達は剣道や空手の有段者と言うこともあって、ジョブ選択では冒険者を選んだわ。コスプレ儀体は差別されることが多くてね、他の冒険者と喧嘩騒ぎを良く起こしたわ。そうは見えないかもしれないけれど、わたし達、特に五月は血の気が多くてね。喧嘩騒ぎを起こすためにダイブしているかの様だった。おかげで、レベルや念度は鰻登りに上がったけどね……。わたし達のチームは人気があって名指しの護衛任務に事欠かなかったわ。おかげで、高校三年生で、一流企業の中間管理職並の収入があったわ。妬まれたわ。嫌がらせも受けた。でも、刃傷沙汰は起こさなかった。あの時までは―――」

 その時、馬車が止まった。

「夜美様、着きましてございます」

 御者の老人が声を掛けて来る。

「はい。ご苦労様。行きましょうか? スター・ドラゴンさん?」

 夜美はそう言って馬車を降りた。胃が七転八倒していた僕は救われた気分で馬車から降りた。澄んだ清浄な空気が肺に入り、身も心も洗われた気分になる。遅い紅葉がまだ残っており、清流の流れの音が大きく響いている。その日本的な光景に僕は感嘆の念を抱いた。

「スター・ドラゴンさん、こっちよ」

 夜美が橋を渡りながら手招きする。木製の朱塗りの太鼓橋で、これも日本的だ。

 夜美は太鼓橋の根元にある自然石を刻んで造った階段を渓流へと下りて行く。階段は渓流の湿気で苔が生え、その苔が水を含んで滑りやすい。夜美は軽快な足取りで下りて行くが、僕は手すりにしがみつき、おっかなびっくりの姿勢で下りる。渓流に沿って遊歩道がある。木製のしっかりした造りだが、やはり滑り気があり、足下が危うい。僕は下駄履きだ。慣れない下駄も相まって、夜美より十五メートル程遅れてしまう。対して同じ下駄履きの夜美はしっかりした足取りで進んで行く。時折、立ち止まって僕を待つ。上流へ向かって三十分程、歩いただろうか。徐々に滝の水音が大きくなる。やがて、七段の滝が姿を現した。滝の両横は深い紅に染まった紅葉が縁取っている。夜美は渓流の岩の上を軽く飛ぶ様に歩いて、滝を背景に僕を振り返った。

 美しかった。

 滝の清流の白と青。紅葉の赤を背に紺の着物を着て立つ夜美の姿は一幅の絵となっていた。僕はその光景を文字通り目に焼き付けた。儀体の目で見た光景は写真として記録に残せるのだ。

「涼しくて気持ちよいわよ。こちらに来ない?」

 夜美の誘いに僕は苦笑する。

「無理だよ。そんな岩場に行けないよ」

「―――でしょうね」

 夜美は頷き、飛ぶ様に岩場を歩いて、こちらに戻って来た。

「ここがワサラの滝よ。なかなか無い景観でしょう?」

「確かに……だが、変わった名だ」

「現地のシチズンの伝承では、この滝の古代の水神の名前らしいわ。この渓流はわたしの修行場でもあるのよ」

「禊ぎでもしてたのかい?」

「違うわ。シルフィア様直伝の修行法でね、この渓流の岩場を足場に自在に剣を振るえる様に修行したのよ」

「人間業じゃないね」

「アルゴで剣士として一流になるには、これくらい出来ないといけないの。シルフィア様に助けられてからの二年間は、のりちゃんも五月も修行三昧だったのよ。エンギシキと言う総合武術を極めようと必死だったわ。あの、のりちゃんですら……」

「余程の事があったんだね。訊いて良いの?」

「それを話すためにこの渓谷に誘ったのよ―――」



 夜美達三人はアルゴにデビューして三ヶ月程経っていた。コスプレ儀体の美少女三人組の冒険者の噂はすでに広まっていた。下手なBクラスの冒険者よりは腕が立つと言われ、警護の仕事が指名で入る様になっていた。羽振りが良かったのだ。

 その日も警護の仕事を終え、酒場で馬鹿騒ぎをしていた。そこを他の冒険者に絡まれたのだ。絡んで来た男の数は十五名。皆、Bランク以上の冒険者だった。目をつけられていたのだろう。

 のりちゃんがなぁなぁでいなしていたが、道化者呼ばわりされて、胸を触られた五月が切れた。巨体の男を店の壁へ投げて叩き付けた。

 男達の殺気が膨れ上がり、武器を抜いた。

「待った! 店に迷惑かけられへんやろ? 外に出ようや」

 のりちゃんがやむなく喧嘩を買った。

 全員で店を出た。先を進む夜美達三人の後ろに荒くれ男達が続く。路地に入った所で夜美が先頭の男を切り倒した。

「のりちゃん、五月、逃げろ!」

 多勢に無勢である。しかも男達はそこらのごろつきではない。狭い路地なら一対一で勝負が出来る。剣士である夜美が盾になるのは当然だった。斬りながら逃げた。だが、男達は仲間が落命しても構う様子が無い。追い詰められた結果、運の悪いことに広場に出た。

 男達は八名。皆、頭に血が上っている。

 チェーンメイルを着た男に夜美は殴り倒され、剣を失った。のりちゃんと五月が攻撃魔法を放ったが、敵にも魔道師がいて、ふさがれた。こうなると数の差でどうにもならない。

三人は散々殴られた後、服を剥かれた。

「そう言うやり方感心しないわね」

 静かな声が闇夜に響いた。そこの月の女神が具現化した様な銀の美少女が立っていた。一目で高位エルフと分かる気品があり、白い皮鎧姿から冒険者と知れた。その美少女の横には闇を凝縮したような雰囲気の大柄のダークエルフの剣士が冷たい目で男達を見据えている。二人からは静かに怒気が放たれている。

「なんだ? エルフの姉ちゃんも仲間に入れて欲しいのか?」

 剣を構えて男の一人が月の女神に手を伸ばした、次の瞬間、男は真っ二つになり血潮を撒き散らして倒れた。ダークエルフの男が斬ったのだろうが、誰もその剣筋を捕らえられなかった。魔道師数名が炎の矢を二人に放つ。矢は淡く光る二人を取り巻く壁の前に消え去る。念度の壁だ。それも尋常の念度では無い。

 男達は自分たちが逆らってはならない相手に攻撃を見舞ったことに総毛立った。

「シルフィア様にドロス様? 申し訳ありません。ご無礼をお許し下さい」

 男達は見事な変わり身で土下座する。

 シルフィアは軽愚するように鼻を鳴らした。

 その瞬間、雷撃が男達を消し炭に変えていた。

 夜美達は初めて見る七代英雄の力の片鱗におののきながらも平伏して、礼を述べた。

「あなたたち、一言も助けを求めなかったわね。気に入ったわ。わたしの弟子になりなさい」

 シルフィアは微笑んでそう言った。その間に、ドロスは毛布を調達して無言で裸同然の三人に渡した。

「わたし達はシルフィア様とドロス様に心酔したわ。二年間の修行の後、シルフィア様の私設部隊・血風隊に入団した。大義の名の下、多くの命を斬り捨てて来たわ。アキハバラ特区はのりちゃんとシルフィア様の発案で去年設立されたばかりのものよ。わたし達はその統治が軌道に乗るまで血風隊から派遣されているのよ。分かった? 芸術家の貴方とは住む世界が違うのよ?」

「―――それがどうしたの?」

「わたしは人殺しなのよ?」

 夜美は分からないのかと苛立った様子で声を荒げた。

「アニメの夜美だって、悪霊に憑かれた人を斬ってたじゃないか? それに、僕は闇落ちして、仲間を斬る様になってから、夜美は美しくなったと思っている。さっき、滝の前に立つ君を見て創作意欲がかき立てられた。僕にとって君は刺激的なモデルでしかないよ」

 僕の言葉に夜美は目を丸くした。そして真摯に見つめる僕の視線から目を外した。

「貴方は馬鹿だわ……」

「芸術家なんて馬鹿の集まりだよ」

「本当、馬鹿ね。不思議な人だわ」

 夜美は心からの笑みを初めて見せてそう言った。その微笑みは僕を虜にする魅力に溢れていた。
 天然の女たらしである竜司に、夜美は結構デレています。楽しくデートを重ねる二人は、クリスマスイブを二人ですごせるのでしょうか?
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