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アルゴ! ホワイトクリスマス 作者:桐生 慎
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 特区・アキハバラ自治区の王宮に招かれたスター・ドラゴンらは、王宮のプライベート空間の一室で建国の立役者にしてアキバ特区の支配者である、のりちゃんに会う。のりちゃんは猫耳メイドの姿をしていた。のりちゃんは気楽に二人に応じる。
 イブを過ごす女性に『ゴースト・イーター』の『夜美』を希望している旨を告げると、のりちゃんらは渋面を作る。
 そして自分達の建国の仲間に夜美の版権を取った儀体の持ち主がいるので、これを口説き落とせば報奨金を出すと言う。
 夜美と会ってみないと応えられないとする」スター・ドラゴンに、のりちゃんは自治会長命令で多忙な夜美を呼び出す。
 自分の理想の女性に相まみえて、スター・ドラゴンはただ見惚れるばかりだった。
 特別自治区・アキハバラを立ち上げたのは、のりちゃんと言う女傑とその仲間による功績だと言う。特区・アキバは小国家並の規模の自治区で、世界中のオタクが集まっている。それまでは、コスプレ儀体は謂われの無い差別に遭うことも多かったそうだ。これを一箇所に集めるのは、アルゴ全体の自治の安全性からも、コスプレ儀体による差別から抜け出すにも良い発想だった。

特区・アキバの政治を任されているのはのりちゃんを始めとする三人の女性で冒険者だと言う。七大英雄の一角、シルフィア・レス・ダンディビィーの私兵部隊『血風隊』に今も席を置き、シルフィアの口添えで法王と謁見して特区の許しを得て、この城塞都市を買い取ったのだと言う。その代金もシルフィアから出ているらしい。
 のりちゃん達は同人誌やフィギャー、グッズの販売をアルゴ全土で展開し、シルフィアからの借金も半分は返していると言う。

 アルゴの世界のオタクにとって、のりちゃんとシルフィアは足を向けて寝られぬ存在なのだとジョンこと丸井は説明した。

 僕はアルゴのオタクにとって英雄とも言うべきのりちゃんと言う女性に興味を持った。会う前から胸が高鳴った。長い廊下をくねくねと何回も曲がって進んだ。曲がり角にはドアがあり、衛兵が立っていた。皆、僕達に最敬礼をする。

 最後のドアを潜ると、広い吹き抜けのホールに出た。ホールには螺旋階段があり、上へ登る様になっている。これまで通って来たところとは雰囲気が違う。

「もしかして、王族のプライベート空間なのか?」

 誰ともなしにそう尋ねると、先頭の娘が答えてくれた。

「はい。そうです。今はのりちゃんとその親しい方のみが使われています」

 おひ。今、この子、自分の主を呼び捨てにしなかったか?
 やや、大きいドアの前で先頭の娘が止まった。

「のりちゃんは中でお待ちです。どうぞ、ごゆっくりご歓談下さい」

 ぺこりと一斉に頭を下げてバルキリー娘達は去って行く。取り残された気分でジョンを見ると、瞳で「早く開けろよ」と言って居る。

 ままよとドアをノックすると、「どうぞ。開いてますわ」と可愛い声が答えた。
 ドアを開けると、目の前にメイドがいた。猫耳メイドだ。

「ようこそいらっしゃいました。スター・ドラゴン様! もう会いたかったんだから!」

 といきなり首根っこに抱きつかれた。身長は150センチ程度なのに育つ所が育ちきっている。トランジスタグラマーと言う奴だ。胸に巨大なクッションを押しつけられて居る様で呼吸が苦しい。何とか離そうとするのだが、腕力が男並みに強い。

 パーン!

 ハリセンの音がして、メイドの後頭部を強打した。床に倒れたメイドが間をおいて「―――痛い……」と涙する。

「いきなり抱きつく癖を出すなと言ったでしょ! 自治会長としての尊厳と礼節を持って下さい!」

 ハリセン片手に肩で息をしているのは巫女装束の和風美少女だ。瓜実顔で大きな瞳は兎を思わせる。

「いきなりのご無礼お許し下さい。わたしは自治会長の秘書官・二条院五月と申します」

 ぺこりと頭を下げる。

「―――じゃぁ、ここに寝転がっているのが―――」

「特別自治区・アキハバラの自治会長のりちゃんです」

 二条院さんは絞り出す様な声で応えた。と、メイドが海老が跳ねる様に起き上がると二条院さんに詰め寄る。

「五月ちゃん、いきなりハリセンはないわー。ウチ、言うなれば国家元首やねんで」

「あんたが節操以て行動すれば、ウチもハリセン常備せんで済むんや!」

 そうか、ここでは秘書官がハリセン常備してるんだ。流石はアキバ。奥が深い。
 メイドはこちらに向き直り、コホン。コホンと咳をしてから、

「お騒がせしました。スター・ドラゴンさんの熱狂的フアンなもので……。ウチが特区・アキバを任されているのりちゃんです」

「えっと、のりちゃんさんで良いのかな?」

 衝撃を受けながら僕は尋ねる。それほどにのりちゃんは愛らしかった。金髪碧眼。カールした柔らかい髪の毛をしている。顔立ちは幼いのに色気がある。要はマリリン・モンローを幼くして目を大きくした印象だ。

 のりちゃんは指を立てて、チッ、チッ、チッと唇を鳴らした。

「のりちゃんはのりちゃんや。敬称なんかつけたらあかん。特区の憲章にもそう書いてあるんやえ?」

 成る程、それで、あのバルキリ-は敬称をつけなかったのか……。アルゴのオタクの救世主は実にざっくばらんな人柄の女性だった。

「まぁ、座って。座って。狭いテーブルやけど、身近でええやろ?」

 そう言ってのりちゃんは笑う。

 僕とジョンは円卓に腰掛ける。のりちゃんと二条院さんも腰掛ける。リ:スタートのヒロインの双子のコスプレをした二人が、カップにオレンジジュースを注いでくれた。

「ディナーは満漢全席でええかな? 酒は何でも好きなの頼んで! 部屋も用意しとるさかいな、ぶっ倒れるまで飲み食いしてや!」

 のりちゃんは僕の顔を覗き込む様にして、口早に喋る。

「有り難いお話ですが、商談は良いのですか?」

 のりちゃんはニヤリと嗤う。

「聞いてはれへん? 商談はジョンさんとの間でついとるねん。後は、スター・ドラゴンはんが誰とイブを過ごすかやな。ウチのHP見張ったんやろ? どの娘が良いかもう決めた? ウチが相手してもええねんで!」

 言葉を濁す僕を見て、ジョンが助けに入った。

「それがな、のりちゃん。こいつ、理想の相手がいるとか言うてますねん」

 なぜか、ジョンまでが奇妙な関西弁になっている。翻訳機能を通して関西弁に聞こえてる訳ではないので、のりちゃんは日本人で生粋の関西人なのだろう。

「大抵のオーダーには応じるで。で、誰をお望みや?」

「ゴースト・イーターの夜美なんです。無理でしょうかね?」

 ジョンはもみ手で愛想笑いを浮かべる。
 のりちゃんからは笑顔が消え、それまで、微笑んでやり取りを見ていた二条院さんをかえり見る。二条院さんからも笑顔が消えている。二人は真顔で視線を暫し交わした後、同時に深いため息をついた。

「「夜美かぁぁあ~~」」

 二人はハモって言う。遠くを見る視線をしている。
 その視線のまま

「ウチらの娼館に夜美をモデルにしたコスプレ儀体は流石におらんわな~」

 のりちゃんは独りごちる様に言う。

「でしょうね~ でも、夜美型の儀体の娘をご紹介頂けませんか? こいつ、ご執心なんですよ」

「それは出来るが、イブを共に過ごせるかは保証の限りではないよ」

「そこをなんとか―――」

「ジョンさん、ちょっと待って―――」

 のりちゃんは掌を向けてジョンを黙らす。
 そして、僕の目を見つめて―――言う。

「なぁ、兄ちゃん。ウチや二条院が版権を取ったコスプレ儀体やって分かるよな?」
「分かります。『艮探偵事務所』の戦闘メイド『のりちゃん』と特殊戦闘員の『二条院五月』ですよね?」

「そうや。版権取っているからオリジナルそのままの儀体で、ハンドルも作品のそれを名乗れる。このアルゴでは、名前の被りは無しやからね。のりちゃんたるのりちゃんはウチだけや。

 ―――それでや。ここからが本題なんやけど、アルゴ自治区の建国に関わったウチの同士に夜美の版権取った儀体を操る奴がおる。性格もアニメと似ている。極端な男嫌いや。このアルゴで純潔守ってるイカれた奴や。
 それでな、兄ちゃん。ここからが相談なんやけど―――

 この夜美を紹介するから、イブまでに口説き落としてみいへんか? 見事、夜美の純潔奪ってくれたら、こっちから特別報酬出す。そこまで夜美にぞっこんなんやら、この話、乗ってみいへんか?」

「―――のりちゃん。それは危険です。夜美はこれまで言い寄る男を二人斬り捨てています。スター・ドラゴン様の身が危険です」

「そやけど、夜美はスター・ドラゴンさんのイラストの熱狂的フアンや。そこから責めたら何とかなると思えへん?」

「それはそうですが、あの娘はアキバの軍事の長です。軍事教練も受け持ち、なおかつ、血風隊の戦士として向上するために多くの時間を費やしています。デートなんかしてる時間ありませんよ?」

「そこは自治会長特権の命令でなんとかする」

「あの剣鬼が素直に言うことを聞きますかね?」

「夜美がいつまでも純潔守っていたら、あの娘の為にならないと思わへん?」

「それはそうだけど……スター・ドラゴンさんに不利な契約になってしまいます」

 のりちゃんは「あっ!」と言う顔をした。

「やっぱり、夜美型の儀体用意させよか? 名前は夜美やないけれど……」

「ちょっと待って下さい。僕の夜美への固執は病気の類いです。別にイブに抱くことに固執していない。イブを共に過ごすだけでも満足です。まずは―――その夜美さんにお会いしないと答えられません」

「よっしゃ! 夜美をここへ呼びつけよう。五月ちゃん、会長命令で夜美ちゃん、ここへ直ぐ呼んで!」

「承知! 軍事教練中ですが、最優先で呼び出します!」

 双子のメイドの表情に緊張が走った。


「まぁ、緊張して待っていてもしゃあないし……」

 と言うのりちゃんの一声で、僕らは満漢全席に箸をつけながら、夜美を待った。

 箸が進み、談笑が興に乗ってきた頃、部屋にノックの音が高く響いた。双子のメイドの顔に緊張が走る。どうやら、夜美は畏れられる存在らしい。自治区のTOPののりちゃんがざっくばらんな性格なのとは随分、差異がある。

「入っておいで~」

 ほろ酔い加減ののりちゃんが応える。
 双子のメイドがドアを開ける。

 僕は目を奪われた。そこに夜美本人がいた。

 腰まで届く長い黒髪はキューティクルが光っている。濃い紺のセーラー服姿は夜美そのものだ。左手にやや長い日本刀が握られている。白く小さな瓜実顔に、切れ長の瞳が冷たい輝きが宿っている。小さな唇は血の様に赤い。

「軍務最高責任者・夜美。自治会長命令により参りました。遅れて申し訳ありません!」

 最敬礼で凛とした声を上げる。声までがアニメの夜美そのものだった。僕は箸を落とし、食い入る様にその姿に見入ったのだった。
遂に『夜美』の登場です。ただ見惚れるスター・ドラゴンですが、この夜美。なかなかの難物の様です。
スター・ドラゴンこと赤城竜司はイブを夜美と過ごせるのでしょうか?
乞うご期待!
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