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アルゴ! ホワイトクリスマス 作者:桐生 慎
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 いよいよ『アルゴ』へダイブした竜司ことスター・ドラゴンは、オタクの為の特別自治区・アキハバラへ赴く。城塞都市・アキハバラはその厳つい外面をクリスマス色一色に飾り立てていた。
 僕は正五角柱の水晶の柱の上で目覚めた。新谷お姉さんのコーディネートで購入しておいたエルメスのスーツ姿で横臥していた。上体を起こすと、五人の神官がそれぞれの角に立っている。

「希人よ。アルゴへようこそ」

 厳かに唱和する。これがNECであるところのシチズンかと感慨に耽る。一人一人のシチズンに人格があると言うのは嘘ではないらしい。アルゴの社会システムを動かしているのは、彼らシティズンだから、丁寧に接する様言われていたので、僕は頭を垂れる。

「スター・ドラゴンです。よろしくお願いします」

「スター・ドラゴン様。目眩などはございませんか?」

「では、こちらへ。住民登録をして頂きます。訪問のお目的は観光で間違いないですね?」

 住民登録を済ませ、窓口で預金を金貨で500ドル下ろして、教会の外へ出る。腰のサーベルの違和感が異世界へ来たのだと言う実感を抱かせる。
(丸井の奴が待っているはずだが……)と広場を見渡す。するとスーツの奥からトルルルルと着信音がした。『賢者の板』だ。

 動画付きメールだった。

 細身の眼鏡イケメンが「スター・ドラゴン。アルゴはどうだい? 広場の前に馬車を用意してある。早くきな。アキバ特区まで飛ばすぞ」
 思わず吹きそうになった。あのまん丸の丸井が細身の眼鏡イケメン?
 お互い、馬車の前で合流して、お互い涙が出るまで笑い合った。

「スター・ドラゴンだ。先導よろしく」

「ジョン・マックスエルだ。まかせろ」

 馬車は特注品らしく、内装がリッチで、揺れを殆ど感じない。

「町から町へ行くワープポイントの様なものは無いのか?」

「無い。移動は基本、徒だ。目的地の町の教会でセーブするんだ。次からは最後に立ち寄った町にダイブすることになるんだよ」

 王都ベネチアの西の門を出て、オリエント街道を西へ進む。馬車の速度はやや急ぎ気味だ。馬車にはシチズンのメイドが二人いて、サンドウィッチを勧めてくれたり、紅茶を煎れてくれたりした。二時間程の行程が終わりに近づいた。ジョンは金無垢の懐中時計を取り出すと時間を確認する。馬車の窓を開けて身を乗り出す。

「おおーーー。見えて来たぞ! スター・ドラゴン。特別自治区・アキハバラだ!」

 その言葉に僕も窓を開けて身を乗り出す。風が冷たく冬が近いことを示していた。

 特別自治区・アキハバラ。

 それは城塞都市だった。あまりに巨大な。堅固で味気ない作りの壁面城は緩やかな曲線を描いてそびえ建つ。敵兵が壁に取り付きにくくしてあるのだ。上部にある窓の様なものは熱した油を降り注ぐ為のものだろう。
 本来ならそのいかつさに感嘆しただろうが……

 城塞都市はその外面をクリスマス色一色に飾り立てていた。このアルゴでは入手も難しい電飾を壁一面に貼り付け、壁面に巨大美少女サンタの絵が描かれている。大きなのぼりが無数に突き立てられている。ちなみにその文字列は「クリスマス一大美少女コンテスト! 飛び入り歓迎!」「大同人誌市南館大会堂にて!」「素敵な異性とクリスマスイブを♪ 入札〆切り間もなく!」「クリスマスベストカップル審査会! 入賞者には豪華景品!」 頭がクラクラした。一体、幾ら金をかけた? 絶対、頭おかしい!

 ちなみにアルゴでは十二月二十五日は収穫祭の日で、聖人の誕生日でもないし、ましてやイブに意味などない。

 極端な一神教に支配されたアルゴのシチズンにはこの馬鹿騒ぎは正直意味不明だろう。 一部シチズンにゲストは毛嫌いされ『アウター』の蔑称で呼ばれると言うが、理由の一つは間違い無くこれだろう。

 馬車は正門と言うか馬鹿でかい城門へ向かう。結構長い行列が出来ており、出店まで出ている。ちなみに正門は特区アキハバラから認められたVIP専用の門だと言うことだった。それでこの行列とは……

 最後尾に並ぼうとしていると、フルメタルアーマーの衛兵が近づいて来た。アーマーの上からサンタコスチュームしているのは、頭を疑う。

「失礼します。お客様。通行書を拝見出来ますか?」

 ジョンは横柄な仕草でピンク地の高級紙に金文字で上にジョン・マックスエルと英文字で書かれた名刺大の紙を見せる。安物のコスプレ喫茶の宣伝のようだと思った。そして、名刺の中央には「のりちゃんのおハートマーク」がでかでかと描かれていた。日本語である。アルゴの公用語は英語だと言うのに……

 が、衛兵の態度は急変した。

「自治会長直々のお客様? それも、あのマックスエル様! 大変失礼いたしました。並んで頂く必要はありません。国賓対応で当たらせて頂きます! どうぞ。先頭で門をお潜り下さい」

 衛兵はそう言うと敬礼した後、賢者の板でどこかに連絡を入れていた。
 割り込む形で先頭から門を潜るのは良心が痛んだ。ジョンはどや顔をして言った。

「他なら知らず、ここアキバじゃ俺達は一級国賓扱いなんだぜ」

「なんで、俺達が?」

「売れっ子クリエーターとそのマネージャーだからさ。ここにはゲストのオタクしかいない。スター・ドラゴンの様に多くのフアンを抱えるクリエーターは正に神に等しい。君の生み出す新たな作品を、自治区の人々は垂涎の思いで待っているんだ」

 そう言って、ジョンこと丸井は僕の肩を叩いた。

 馬車は中央広場を突っ切って、王宮へと向かう。

 窓から人々の様子を見るとコスプレ儀体だらけだった。古今東西のアニメやゲームのヒーローやヒロインに分した儀体が笑いさざめいて歩いている。店の店員までもがコスプレ儀体だ。町と言ってよいだろう。町はクリスマス色一色で、高々にクリスマスソングを流している。もちろん、被っているキャラも少なくないが、それぞれ独特の個性があり、見分けることが出来る。

 その中で見た事の無いコスプレが何組か居た。銀髪の戦士装束のエルフに首輪に繋がれた逞しいダークエルフが連れられているのだ。

「おい、ありゃ、何のコスだ?」

 そう尋ねると、ジョンはため息をついた。

「お前は七大英雄も知らないのか?」

「アルゴの世界での冒険者の英雄だよ。あれはシルフィアとドロスの仮装だ。首輪はやりすぎだが、ドロスは奴隷の様にシルフィアに付き従っているそうだ」

「そんなに有名人なのか?」

「ああ、シルフィアの冒険譚はベストセラーになっている。常識だぜ?」

 三次元には興味が無いのだから、仕方が無い。
 それにしても、ドロスと言うプレイヤーが哀れに思えた。

 王宮に着き、馬車を降りると建物の入り口まで赤いビロードの生地が敷かれ、道が出来ていた。道の両脇にはウエディングドレスを思わす純白のドレスを着た美女達が控えていた。僕とジョンが姿を現すと、一糸乱れぬ同じ動きで頭を下げる。

「特別自治区・アキハバラにようこそ。スター・ドラゴン様、ジョン・マックスエル様」

 鈴の様な声をハモらせる。僕達が進むと後列から順に等間隔で僕らの後について来る。

「―――おい、彼女等って『第三女子空挺部隊』のバルキリー達じゃないのか?」

「気付いたか? 五年前のアニメだが『空女』は名作だからな。コスプレ儀体も多い。彼女等はのりちゃん専属の部隊だから強いぜ。全員、戦士レベルはCランクだ。気に入った娘がいたなら、今夜にでも夜伽に来させられるぜ」

 思わず喉が鳴った。凄い再現率だ。どの娘がどのキャラクターなのか直ぐ分かる。『空女』はエロゲーが原作の萌えアニメだ。美少女アニメをコアな軍事オタクをも唸らせるリアルな空挺部隊の生活と融合させた所で人気が爆発的に出た。主人公の冴えない若手将校が『第三女子空挺部隊』と言う問題児が溢れる部隊長となり、彼女等を一つにまとめ上げて、空挺部隊のTOPにまで成長させる物語だ。

十二人のメインキャラを全員攻略すると、アニメ最終話になった全員との多重結婚エンドを迎える。伝説の最終回だ。彼女等はそれを意識した衣装で僕達を出迎えた訳だ。当然、皆、個性的な美少女揃いである。こんな娘の誰かと一夜を共に出来たら、それは極楽としか言えない。

だが、僕は言った。

「いや。遠慮するよ。心に決めたキャラクターがいるんだ」

 バルキリーの二人が先頭に回り、広い廊下を先導してくれる。

「ほう。決まっているなら、話が早い。誰だい?」

 笑うなよ。僕は念を押して言った。

「ゴースト・イーターの夜美だよ」

 ジョンは目を丸くした。無理も無い。名作と言われているが十五年前のアニメ作品だ。コアなフアンも今や少数となりつつある。主人公と思われていた厚生省の悪霊殲滅部隊が、日本刀一本携えた夜美に殲滅させられるショッキングな第一話は語りぐさになっている。 僕は再放送を小学校の六年生に見た。

 夜美に一目惚れした。

 この作品が無ければ僕はイラストレーターになどなっていなかっただろう。

「―――夜美か」

 ジョンは眉をひそめて考え込む。

「やはり難しいか?」

「うん。このアキハバラで夜美のコスプレ儀体使っている奴はいるかもしれんが、娼館にはいないんじゃないかなぁ? まぁ、のりちゃんに無理を承知でお願いしてみよう」

「すまんな」

「かまわんさ」

 ジョンこと丸井は呵々大笑した。一時間後にその笑顔が凍り付くことも知らずに―――
アキハバラの首長・のりちゃんとの会談を果たすスター・ドラゴンとジョン・マックスエル。会談は穏やかに進むかと思えたが、竜司の希望を提示すると暗雲が立ちこめる。
竜司は理想の女性。夜美と遭遇する。
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