神殺しの剣
俺は装備を入念にチェックし、兜と鎧の紐を締め直す。
「おいおい、やり過ぎじゃねえか。俺がついてる。大丈夫だって」
「うるさいな!分かってるよ!」
人の言葉を話す剣、ダーインスレイブの軽口に少し苛立って返す。別名「神殺し」「親殺し」とも言われる魔剣とのことだが、その威厳はどこにもない。しかし、コイツに命を救われたことは一度や二度ではない。なんだかんだ言っても頼れる相棒なのだ。
そして、俺の後ろには頼れる仲間たちがいる。いや、もう家族と言ってもいいかもしれない。近接戦では無敵のバトルマスターのリューク、攻撃魔法はお任せの賢者のマーシャ、回復のマスターであるプリーストのネネ。
皆の顔を見ながら俺は過去の戦いを思い出していた。地獄の番犬ケルベロス、真紅の竜レッドドラゴン、蠅の王ベルゼブブ、そして、伝説の魔女ブリュンヒルデ。俺たちはこの世界を守るため全ての戦いに勝ち続けてきた。邪魔をする奴らは動かぬ屍となって死んでいった。
そうだコイツらがいれば、誰にも負ける気がしない。
バシッ!
殺した敵の返り血の匂いに誘われた周りを飛ぶ数匹の蠅を払い落とす。蠅の王の呪いか?はたまた魔女の呪いか?しかし、そんなものを恐れている場合ではない。
やっとここまできた。いよいよ最後の最後だ!これで全てが終わる。俺は皆を鼓舞するように叫んだ。
「さあ!行こうぜ!みんな!!」
突き上げたダーインスレイブがキラリと光った。
「いったいなんだ、これは?」
「うげぇー!」
異臭騒ぎで駆けつけた警察が部屋に踏み込んだ時、薄暗い1DKの部屋の中で母親と思われる初老の女の刺殺死体は発見された。腐敗の具合から死後数日は経っていると思われた。
そして、異臭と蠅にまみれたその部屋の中では、でっぷりと太った中年の男がひとり、突入した警官の姿にも気付かずモニターに向かってブツブツとつぶやいている。
遺体の側には凶器と思われる大ぶりのナイフがモニターの光を反射し、キラリと光っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
この中で本当の「神殺し」とは何か。何が彼を変えてしまったのか。感じて頂ければ幸いに思います。