その5
数々の女の子の告白を断ってきた小太郎。振られた女の子の中には、先ほどのクラスメートのようにロクでもない子もいたかもしれないが、きっと胡桃が足元にも及ばない美少女もいただろう。頭脳明晰な子もいたろうし、天真爛漫な子や家庭的な子もいたであろう。それらの子の告白は断ったのに、なにゆえ胡桃の告白はあっさりと受け入れてくれたのか。
不可解である。
奇怪でさえある。
さっきまでそんなことは全く考えもしなかった。昨日告白をOKしてもらった後も、喜びに我を忘れ、思春期の女の子としてまことに恥ずべきことに、思わず家族に言いふらすことまでしてしまったほどだった。それから今の今まで実に幸福な気分だったのだ。それなのに……。
友だちは選んだ方が良い、と胡桃は猛省した。
とにもかくにも気になって仕方がなくなった胡桃は、ベルギーの名探偵に倣い、灰色の脳細胞をフル稼働させてみた。しかし、さっぱり分からない。そもそも灰色ということからして分からない。雨後のタケノコのごとくニョキニョキ現れた自称親友どもではない真の親友に相談してみようかとも思ったが、もし彼女にまで首を捻られたらなけなしの自信を喪失してしまうかもしれないと胡桃は恐れた。結局、胡桃は直接本人に訊いてみることにした。
「何でわたしの告白OKしてくれたの?」
とは、何ともぶしつけな質問のように思えたが、是非もない。気になって仕方が無いのである。
――最悪、からかわれてるだけってこともあるかも……。
「緊張した様子で告白なんかしてくるから冗談で付き合ってやっただけだよ、ハハハ」
とか、
「ずっと可愛い子ばっかりに告白されて飽きちゃった所に君程度の子が来たから返って新鮮でさ、ククク」
だの。秀麗な面を歪めて小馬鹿にしたような笑みをもらす少年の姿をした悪魔の像が、胡桃の頭に浮かんだ。何と恐ろしいことだろう。胡桃はふるふると身を震わせると、自分で自分を抱くポーズを作ってみた。華奢な女の子がやると一層可憐に見えるそうである。胡桃がやっていけないことがあろうか。断じてそんなことはない! と胡桃は断ずる。
そんなことをして遊んでいるところへ、
「クルミちゃん」
爽やかな声がして、声よりなお清々とした容姿の少年が現れた。昨日と同じくらいの時刻、日がもうしばらくしたら一日の役目を終える頃、これも昨日と同じ校門前である。小太郎とは、部活が終わったあと一緒に帰ることを約束しておいたのだ。
「早速、カノジョと帰るのかよ」
近くからかかる冷やかしの声に、胡桃は顔を熱くしたが、小太郎は動じた様子でもない。羨ましいだろ、と笑顔で返して余裕を見せてから胡桃の隣に並んだ。
歩を合わせて十歩ほど歩いたのち、胡桃はわき腹の辺りをつねるようにした。つねることができるお肉がついているのがちょっと切ない。自傷行為は趣味ではなく、正気を保つためである。小太郎と並んで歩いていると、どこからともなく温かい幸福感が胸のうちに溢れてきて、なんかもうどうして付き合ってくれる気になったのか、などということがどーでもいいことのように思えてきたからである。恐るべし、恋の力。
胡桃は脇腹の痛みをピリッと感じながら、小太郎に尋ねた。
にこにこしていた小太郎の顔がくもり、ちょっと困ったような顔になった。胡桃はすぐに後悔した。付き合い初めからうっとうしい子だと思われたかもしれない。
「ごめん、忘れてください」
付き合ってくれる理由を訊いたことで、付き合えなくなったら本末転倒もいい所である。胡桃は謝ってこの件を流そうとしたが、
「初めてだったんだ」
ほぼ同時に、小太郎が口を開いていた。
「初めて、クルミちゃんが面と向かって告白してくれた。これまで告白してくれた子はみんな、メールとか友だち伝えとかでさ。それはいけないことじゃないかもしれないけど、告白をメールでするってことはさ、別れるときもメールでするってことでしょ。ある朝起きて、メールをチェックしたら、一言『別れましょ』ってあったとして、それで終わっちゃう関係なんて、最初から結ぶ必要がないと思わない?」
滔々と話す小太郎に、始め胡桃はふむふむと納得した。まことにもっともである。自分で行って良かった。ビバ、あたし! しかし、そのうちに大変なことに気がついた。
「メールや他人の口を介さず直接告白してくれたから」
と小太郎は言う。ということは、
「じゃあ、その……何ていうか、別にわたしじゃなくても、直接告白してくれる子だったら……」
誰でも良かったということになるではないか!
胡桃は慌てて口を閉じた。
それは流石に失礼すぎることに気がついたのである。
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