宇宙は常識になったと人は言う。宇宙を翔る術も、途方もない距離を観測することも人 類は出来るようになった。宇宙人と呼ばれる人種とも、平和的にしろ敵対的にしろ交流を持ち、技術面での協力体制もできている。お互いの歴史や文明の情報交換も行われ、地球人類は宇宙に迎えられたと言っても過言ではないところまで成長していた。
だが、いくら技術が発達しようと、解明出来ていない事、事件、場所が、宇宙には数多くある。これはそんなものに魅せられた者たちが紡いだ、歴史の1ページである。
ここは、地球から何光年離れているか分からないほど遠い、名もない未開の小惑星。水もなく砂漠だけが広がっている。そこにある、いかにも何かありそうな遺跡。調査すらされず見捨てられた場所。
「……匂うな。お宝の匂いがプンプンしやがる」
その遺跡を見上げながら、そう呟く1人の少年。年の頃は18〜9歳くらい。服は黒のハーフジャケットとジーパン。荷物はウエストポーチのみという軽装だ。「お宝」という単語が出て来たところをみると、トレジャーハンターなのだろうが、全くそうは見えない。だが、そのままズカズカと遺跡の中に入っていく。直後、
−ゴゴォォォー−
けたたましい轟音とともに、少年が消えた先から土煙が起こった…。
数分後、5人の男が同じ遺跡の前にやって来た。それぞれ探検家のような格好をしているが、服の汚れから年期の違いが良く見える。
「ここか、お宝が眠っているという遺跡は!」
初老の男が遺跡を見るや駆け出す。
「お待ちください! ブエフ様!」
2人の男がそれに追いすがる。離れた位置でそれを見ている残りの2人。1人は長年愛用したであろう傷や汚れが目立つ服を着用し、気は優しくて力持ちを絵に描いたような風貌をし、名をパブロウ、歳は31。ベテランのトレジャーハンターである。もう1人は、おろしたての服に着られている感のある、まだあどけなさの残る少年。名はアーカライル、歳は15。パブロウに弟子入りしたばかりの、新米トレジャーハンターである。
「やっと着きましたね、師匠」
「あぁ、ここが今日我々が挑む遺跡だ。ブエフ殿に感謝せねばな、この機会を与えてくれた事に……」
そう言いつつ、2人はブエフ達3人の方を見た。遺跡の発見に喜び跳ね回る小柄な男と、それをなだめるボディガードのような2人の男がそこには居た。
パブロウとアーカライルは、ブエフによって雇われこの辺境の惑星までやって来た。ブエフとは、先ほど遺跡を見るや否や駆け出した、小柄な初老の男のことである。彼は地球ではそれなりの富豪で、金目の物に目がなく、宝の在り処を聞きつけると、銀河の彼方まで飛んでいくほどの貪欲家である。今回もこの惑星にある遺跡の中に莫大な富が眠っていると聞きつけ遥々やって来た。だが、自分達だけでは確実に宝が手に入るとは限らない。そこで、腕利きのトレジャーハンターを雇い、確実に手に入れようと目論んでいるわけだ。
「でも、大丈夫でしょうか? ここは例の遺跡、ですよね?」
「だから来たんじゃないか、アーカライル。帰らずの遺跡? 大いに結構。トレジャーハントに危険は付き物だ」
「はぁ……」
アーカライルが心配するのも無理はない。この遺跡には、『帰らずの遺跡』という、分かりやすい異名が付いていた。最初、ブエフの誘いに乗ってきたハンターは、この遺跡に行くというのもあって、パブロウ達しか居なかった。何人ものハンターが帰って来ていない遺跡など、好き好んで行くわけがない。それも他人のためとなると、ハンター達の腰はさらに重くなった。では、なぜパブロウは行く気になったのか? 理由は至極簡単で、『面白そうだから』。パブロウという人間は、困難で有れば有るほど、達成した時の興奮に生きがいを感じる人間なのである。
「おいっ! 何をもたもたしている。早く行こうではないか!」
「そうですね、ブエフ殿。さっそく行くとしましょうか」
待ちくたびれたブエフが呼んでいる。パブロウは元気に返事をし、アーカライルと共にそこへ向かった。
遺跡はなおも、怪しげな雰囲気を漂わしていた……。
「真っ暗で何も見えんなぁ……」
ブエフがそう言うのも無理はない。入り口から5メートルも進まないうちに、辺りは真っ暗になり、一寸先も見えない状況になっていた。
「灯りを付けましょう」
パブロウの言葉に、アーカライルとボディガードの2人は灯りを付けた。アーカライルは松明を、ボディガードは懐中電灯を灯し、辺りは一気に明るくなった。
「おおっ! 良く見える良く見える! さぁ、進むぞ!」
明るくなるや、すぐに進みだすブエフ。
「ゆっくり行かないと危険ですぞブエフ殿。何があるか分かりませんからなぁ」
「大丈夫じゃよ! それよりも、わしは早くお宝が拝みたいんじゃ!」
パブロウの忠告を無視し、どんどん突き進むブエフ。とその時、
「オッサンの言う通り、それ以上行くと危ねぇぞ」
上からいきなり、声が降ってきた。その声はアーカライルでも、パブロウでも、ましてやブエフやボディガードでもない。ただ、少年の声であった。
「誰じゃ!?」
皆驚き、その場できょろきょろしだした。だが、次の瞬間、
―ゴゴォォォー―
「あぁ、もう手遅れだ」
地を揺さぶるような轟音が響きだし、空気までもが振動し始める。いち早く異変に気付いたパブロウは走り出していた。ブエフ達の所まで行くと、ブエフの襟首を掴み、勢い良く後ろに引っぱりその場から飛び退く。刹那、今までブエフが居た付近の床が、一瞬にして崩れ落ちる。逃げ遅れた、ボディガード達を巻き込んで……。
「うわぁぁぁぁ……」
床の崩壊は、パブロウ達の寸でのところで止まった。と同時に揺れも収まり、あろう事かゆっくりとだが確実に、床は元に戻っていった。
「うそ……」
後には、アーカライルの呟きのみが残っていた。
「だから言わんこっちゃない。人が親切に教えてやったのに……」
先ほど上から聞こえてきた声は、いつの間にか後ろから聞こえていた。アーカライルとパブロウは振り返る。だが、逆光で良く見えない。アーカライルは持っていた松明をその声の主に向けた。そこには、黒のハーフジャケットとジーパンを着た、1人の青年が立っていた。
「お前は、誰だ?」
「オレか? オレは……」
パブロウの質問を、素直に返す青年。一息置くと、自分の事を言い放った。
「オレの名前はクイット、しがないトレジャーハンターさ。よろしく、コンプリートハンターのオッサン」
「えっ!?」
アーカライルは驚いた。『コンプリートハンター』。これはパブロウの、トレジャーハンター界の通り名だったからだ。そう呼ばれる理由は、パブロウは今まで解き明かされてきた遺跡や神殿、などと言った場所を全てもう一度最深部まで行き、帰ってきたという事実があったからだ。
最初面食らっていたパブロウも、やっといつもの自分に戻り、体制を立て直した。
「ほぅ、私の事を知っているという事は、トレジャーハンターと言うのは嘘ではないようだな」
「信じて貰えた?」
「あぁ、信じよう。いつここに来た?」
「オッサン達より先に来てた」
「なるほどなぁ」
クイットとパブロウが会話している間、余りのことに気絶していたブエフをアーカライルは看病していたが、
「う〜ん……はっ! 床が〜!」
やっと目を覚ましたようだ。
「ブエフ様、大丈夫です! 床はもう落ちません!」
目を覚ましたと思ったら、恐怖にうろたえ出すブエフ。なんとかなだめようとするアーカライル。
「わしは……生きとるのか?」
落ち着いてはきたが、半恐慌状態は変わらない。見兼ねたクイットとパブロウは、アーカライルの手助けのために会話を中断せざるを得なかった。
ブエフは部下を2人失ったというショックにはすぐ立ち直り、床への恐怖もなんとか治まった。ブエフの事を済ますと、トラップの回避についての話となった。
「どうやら振動に反応するようだが……」
「どうしたら良いんでしょう?」
「まだか? わしは早く宝が見たいんじゃが」
「ならそのまま行けば? 落ちるだけだけどな」
「バカもん! それが嫌じゃから、早く良い考えを出せと言っているんじゃ!」
「はいは〜い、すいませんでした〜」
などと言う会話が幾度となく続けられている。トラップを回避する策は一向にでず、だからといって、入り口に戻ろうとすれば、振動でトラップが起動してしまう。いわゆる、八方塞がりと言った状態だ。だがその中で、パブロウは1つの結論を導き出していた。
「クイット」
「んっ?」
ブエフにどやされているクイットに、パブロウは声をかけた。結論の真意を確かめるために。
「お前は、我々より先にここに来ていたと言ったな。そしてお前も、あのトラップに引っかかりそうになった。違うか?」
「正解。そのと〜り」
「では、どうやって回避した? 今お前がここにいるということは、答えはもう出ているんじゃないのか?」
パブロウが出した結論。それは、クイットがすでに答えを出しているということ。そうでなければ、忠告など出来たはずもないし、そうであれば、色々な事の説明がつく。
「どうなんだ?」
「……」
パブロウはクイットに詰め寄る。
「……分かった、オレの負けだ。確かにオレは答えを知ってる」
クイットは根負けした。
「本当ですか? っで、答えは?」
「勿体ぶらずに、早く言わんかっ!」
その事実に、喜びを隠せないアーカライルとブエフが一斉に詰め寄ってくる。
「分かった分かった。言うから、ちょっと落ち着けっ! ……でも、あんた等に付いてこられるかな?」
クイットは、含みのある笑みをたたえながら、答えを口にした。
「ヒェ〜!」
下を見ると、先ほどトラップがあった床がよ〜く見える。高さは大体5〜6メートルくらいだろうか。
「これぐらいでビビってどうするアーカライル。そんなんじゃあ、一人前のトレジャーハンターにはなれないぞ」
「そうじゃな、ビビりめ!」
「自分も背負われてちゃ、説得力ゼロだな」
「黙れ! 若造!」
今4人は、床トラップを回避するべく、壁に面した出っ張りの上をほぼ横歩きで移動しているところだ。
クイットが言った答え、それは、
「壁は崩れない。だから、あそこを伝って行けば、トラップはスルーできる」
「だが、道具もなしにどうやって登った?」
ふとした疑問をぶつけるパブロウ。それを聞くとクイットは小さな笑いを1つこぼし、グッと身を屈めると、フッとその場から消えた。かと思うと、クイットは先ほど自分で指差した壁の出っ張りの上にいた。どうやら、自力でジャンプしたようだ。
「道具なんて必要ない。オレにはこの体1つあれば良い」
「……恐れいったよ」
そんなこんなで、今に至るわけだ。
「しかし、便利だな、それ」
クイットはパブロウ達が使っている道具を指して言った。
「ん? これか? これはな、グラビティーブーツと言ってだな……すまん。機械には疎いんだ。アーカライル説明してやってくれ。気が紛れるだろう」
「わ、わわ分かりました。やって、みます。……ぇっと、グラビィティーブーツはですね」
グラビィティーブーツとは、小型の重力発生装置を靴に装備させ、垂直なところも歩行可能にしたもの。重力のない惑星などでも活躍する。両手に同じようなものを付ければ、90度の壁も登ることができる。
「じゃあ、壁を横に歩けば良いんじゃないか?」
「効果は足にしか発動しないので、身体は惑星の重力に引っぱられます。なので、永い時間立ってられないでしょう」
「融通利かないなぁ」
「小型ですから、アハハ…」
「っと、トラップゾーンは抜けたな。降りて大丈夫だ」
説明をしているうちに、かなりの距離を進んでいたようだ。内心ホッとしたアーカライル。
「なぜわかる?」
「石投げたら、ここまでだった」
パブロウの問いにそうとだけ答え、またも眼前から消えるクイット。スタッという音と共に、床へと降り立つ。その振動に反応し、床トラップが作動した。入り口の方から床がどんどんとなくなっていく。1つまた1つと消え、クイットのところまでついに迫ってきた。だが、クイットの予想通り1メートル以上も向こうで、ぴたりと止まった。
「っね!」
振り向き様そう言いながら、ニヤッと笑う。
「さぁ、行こうぜ」
「……悪運の強い奴め」
ブエフの呟きを無視し、ぽっかりと開いていた2つ目の入り口に向かっていった。
部屋に入ってみると、やはり真っ暗で何も見えなかった。先ほどの部屋よりは狭いようだが……。
「そこに燭台あるから、付ければ」
「わ、分かりました……え!」
アーカライルは驚いた。クイットは暗くて見えないはずの方を指差し、さらにそこに燭台があるとまで言ったのだ。疑いつつ、示された方に松明を向けると、そこには確かに燭台があった。その事実に驚いたのは、アーカライルだけではなかった。
「クイット、もしや暗がりでも目が利くのか?」
「あぁ、うん」
驚愕の事実を簡単に認めたクイットに、驚きを隠せないパブロウ。
「……おい小僧! これが終わったら、わしの専属ハンターにならないか?」
「嫌だね!」
ブエフの勧誘を一言で切り捨てたクイット。
「オレは、自由気ままに行きたいところにいって、好きなように生きたいんだよ。そんなことより、今度はなぞなぞみたいだぜ」
話題を変えるように、この部屋の仕掛けを指摘しだした。アーカライルは燭台に火を灯して回っていたため、部屋はより見やすくなっていた。部屋の広さは20畳ほど。有るのは左右の石像と、固く閉ざされた扉が正面に。床の真ん中には、文字らしき物がある。
「その文字を解読して、石像をどうにかすると、扉が開く。随分簡単だな」
パブロウは長年の経験則から導きだされた考えを口にする。
「じゃあ、さっさと解読してくれ!」
「そういわれてもなぁ……。アーカライル、読めるか?」
「えぇ〜! 無理言わないでくださいよ! 師匠に読めない物が僕に読めるわけないでしょう!」
「それもそうか。さて、どうしたものか……」
「宝を…求めるも…のよ」
困り果てていた時、クイットが呟きだした。
「…像を…切り裂け…輝き…で。……そう書いてあるみたいだ」
「読んだのか? その文字を…」
「まぁね。……像ってこれだよなぁ…切り裂く?」
パブロウの言葉を簡単に返すと、クイットは1人でぶつぶつ言い出した。そうしながら、石像を触ってみたり、壁を探ってみたり挙動不振と言った感じだ。
「ついに壊れたか?」
「いや、考えているのでしょう。答えを…。我々も考えよう」
4人とも考えを巡らし始めた。さっきの文字を反復してみたり、紙に書いて、縦に読んでみたりするが、ガッチリはまった答えが出てこない。
「いっそのこと、本当に切ってみたらどうだ? 出来ないこともなかろう?」
「それでは、輝きでの部分の意味がなくなってしまう。輝き……」
「輝きって、光も輝きですよね?」
―ピクッ−
アーカライルの言葉に反応するクイット。
「だがなぁ、光でどうやって…」
「わかった!」
今までぶつぶつとしかしゃべっていなかったクイットが、大声をだした。かと思うと、燭台の灯をどんどんと消していく。
「何をしとるんじゃ! 見えなくなるだろう!」
「素人は黙ってろ!」
そして、最後の灯を消すと、アーカライル達に振り返り、クイットは言い放った。
「ガキ、灯りを消せ。オッサン、オレが言った方の石像を動かすの手伝ってくれ」
「えっ? でも……」
「分かった、お前を信じよう。アーカライル」
「……はい」
指示に従い、松明の灯を消す。部屋はまた、暗闇に帰った。
「何をするきじゃ?」
「静に、ブエフ殿」
部屋の中は静まりかえり、周りの様子もクイットにしか見えていないだろう。そんな中で、クイットは目を閉じ、耳を済ませた。クイットが求めている音。それは風の音。常人には聞こえない音を捉えようとしていた。
―……〜―
「! 右の石像だ!」
「よし来たっ!」
クイットとパブロウ、2人で右側にあった石像を横にずらす。だが、ビクともしない。
「無理かなぁ……」
ここに来て初めて、クイットが弱音を吐いた。だが、
「……どぉりゃ〜!!」
気合と共にパブロウが力を込める。ビクともしなかった石像が、ゆっくりと動いていく。10センチほど進んだ頃、変化は起こった。なんと、石像の後ろに、細長い穴が出てきたのだ。その穴は外に続いてるらしく。暗闇の中に一陣の光が差し込んだ。
「もう良いぞ! そこをどけっ!」
2人ともクイットの指示と共に石像から飛び退く。すると、細長い穴を通った光は細長い真っ直ぐの線になり、動かしていない左側の石像のちょうど真ん中を通った。まるで、切り裂くように……。
「像を切り裂け、輝きで。……完成」
すると、その光の線に沿うように、石像が真っ二つに分かれた。中から現れたのは、正四角柱の石盤だった。ゆっくりとクイットは石盤の上に手を置いた。そしてついに、正面の扉が地響きとともに、その入り口を開けた。
「……どんどん行こうか」
疑う事も忘れ、ただただクイットに付いていくことしか3人は出来なかった。
「天秤…ですよね?」
「天秤…かな?」
「天秤…だな」
「天秤しかなかろう」
3つ目の部屋には、人が乗れそうなほど巨大な天秤があり、その下は、底が見えないほど深い。そして足元にはまた文字。
「今度はなんて書いてある?」
何の疑問もなく、パブロウはクイットに聞いた。
「えぇ〜と、…1人の…いの…ちの…重さを…しれ。と書いてある」
「どういう意味じゃ?」
「全然わかりません…」
「天秤…重さ…命…」
頭を抱える3人とは対照的に、
「今度のは、分かりやすいな」
パブロウは答えにすぐ、行き着いていた。
「師匠、分かったんですか!?」
「あぁ。つまり、1人の人間の命を犠牲にしろってことだ」
軽い口調で言われたため、事の重大さに気付くのに少し遅れてしまった。
「1人を…犠牲に…。えぇ〜!!」
アーカライルは盛大に驚いた。
「どういうことですか!」
「言葉の通りさ。目の前に天秤、乗るところは2つ、命の重さ。これだけ揃ってれば気付くだろう。1人は奈落の底に行き、残りの者達が先に進める。分かりやすいじゃないか」
「確かに、それしかないな」
パブロウの意見にクイットも賛成した。
「そうじゃとして、誰が犠牲になる? わしは依頼主だ! お前達の仕事はなんだ?」
「分かってますよ。ブエフ殿にこの遺跡の宝を手に入れさせること。なので、私が犠牲になろう。アーカライル、後は頼んだぞ」
「し、師匠! 何を言ってるんですか? まだ習ってないことがいっぱい…」
「私はな、アーカライル」
わめき続けるアーカライルを止めるように肩に手を置き、パブロウは静に語りだした。
「いつ死んでもいいと思って、トレジャーハンターをやっていたんだ。無茶ばかりしていたら、いつの間にか『コンプリートハンター』などと呼ばれるようになった。だがお前に会い、生きた証ぐらいは残していこうと思ったんだ。そしてお前はもう、技術はどうあれ、私の魂は受け継いでいるはずだ。それに、死ぬ時は冒険の途中でと決めていたから、構わないのさ」
「でも…」
「まだ学びたいと言うのなら、そのクイットに付いていけばいい。こいつなら安心だ」
改めて、クイットを見るパブロウ。今度はクイットの肩に手を置き、
「後は、頼んだ」
「まかせろ」
口数少なく会話すると、予告もなく走り出し、片方の天秤に飛び乗った。
「師匠! 待って!」
追いかけようと走り出したアーカライルだったが、クイットに捕まり止められる。
「くそっ、放せよ!」
「……」
捕まえたアーカライルを右小脇に抱え、左にブエフを抱えると、パブロウとは逆の天秤に飛び移る。と同時に、天秤が動き出す。パブロウの予想通り、パブロウの天秤は下りて行き、3人の乗る天秤は上がっていった。
「そんな、嫌だ嫌だ嫌だ! 師匠〜!」
「じゃあな、アーカライル」
「うわぁ〜!」
アーカライルは泣いていた。泣く事しかできない自分に怒りを覚えていた。それでも、闇に落ちていく大好きな人に、腕を伸ばしていた。届かないと分かっていても、伸ばしていた。
「……バカ野朗〜!!」
4つ目の扉を抜けた瞬間、来る事を待っていたかのように灯りが灯った。というより付いた。その灯りの下に、見間違えようのない、分かりやすい宝箱があった。
「や、やった」
クイットの腕から逃れると、ブエフは宝箱に駆け寄った。クイットは動こうとしないアーカライルを、そっと下ろした。
「ついにたどり着いたぞ! さぁ、おいでませっお宝ちゃん!」
言いながら、宝箱の蓋を開ける。だが、
「……ん?」
中に入っていたのは、一枚のカードのみ。クイットも近づき覗き込む。
「どういうことだ?」
カードを見つめ、どういうことかとブエフとクイットが混乱していると、
―宝を求めし者よ。汝に問おう―
「誰だ!」
何処からともなく、声が聞こえてきたかと思うと、ライトが点灯し、目の前に巨大画面が現れた。そして、顔らしきものが映りだした。
「なんだこれは!」
「この遺跡の作り主じゃないのか?」
顔はなおもこちらを見ていたが、重々しくその口を開く。
―答えよ。最も大切な物はなんだ? 答えれば、宝を渡そう―
「大切な物…」
ぽつりと、アーカライルが呟く。ブエフは宝が手に入らなかった怒りに任せて言い放った。
「ふざけるな! そんなもの、金に決まっているだろう! さぁ、答えたんだ。宝をよこせっ!」
しかし、答えたのにも関わらず何も起こらない。
「どうした! なぜ宝を渡さない!」
ブエフの問いに、反応するかのように画面の顔が変化し、赤に反転した。
―お前は、不適正だ!―
次の瞬間、
「何を?…ひっ、あああああああああああ!」
ブエフは悲鳴と共に全身を痙攣させ、止まると白目をむき倒れた。どうやら、カードから電気が流れ出したようだ。
「な、……」
さすがのクイットも面食らった。間違った答えを言えば電気ショック。だが答えが分からない。
―さぁ、次の者、答えよ!―
クイットの背中を冷たい汗が流れる。
どうする…
その時、
「最も、大切な物は……」
今まで黙っていたアーカライルが口を開く。答えようとしているのだと気付いた時には、クイットはアーカライルを信じるしかなかった。
「それは……命だ!」
……
静かに、時だけが流れる。そして、変化が起こった。
―人間よ、良くぞ答えた。宝を授けよう−
そう言うと、画面から顔がいなくなり、扉のように開く。
―我々が今まで預かってきた命を返そう−
クイットは扉の奥を見て目を見開いた。
「……ガキ、オレに弟子入りなんて考えるなよ。オレに習いたかったら、そこでピンピンしてる師匠に、免許皆伝してもらってからだ」
アーカライルはその言葉に顔を上げた。手を伸ばせば届く距離に、そのひとは居た。
結局、この遺跡がなんのために作られたのか、誰が作ったのかは、今だ解き明かされていないが、隠されていた宝、それは『帰らずの遺跡』に過去挑み、この異名の糧となったトレジャーハンター達だった。トラップに捕らわれ、死んだと思われた彼等は、実は生きていたのだ。どうしてかは分からない。生存者の話を聞いても、『気付いたらここに閉じ込められていて、生かされていた』としか出てこない。とにかく、謎なのである。
だが、僕は思う。少なくとも、この遺跡を作った者は、命の尊さを理解し、心優しく純粋な存在だったのではないか、と……。
答えがあるわけではない。もしかしたら、どこか別の場所に隠れているのかもしれない。まだこれは、ほんの1ページにしか過ぎないのだから。
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