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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第1章 ゴーストシップ
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第7話

前作と毛色の大きく違う作品ですが、お気に入り。評価感想としてくださる方がおり、

作者冥利に尽きる事この上なしです。本当にありがとうございますm(_ _)m

「戦闘行為……ちょ、ちょっと待って。何、帝国って戦争でもしてんの?」


 暗闇の中、明滅するランプへ顔を近づける太朗。


「否定ですミスター・テイロー。帝国には明確に敵対する勢力が存在しませんから、戦争自体が起こりえません」


「うえ、んじゃ何。喧嘩とかそういう感じ? この時代ではあれなの? 殴り合いの変わりに大砲ぶっぱなすのが当たり前なんすか?」


「どうでしょうねミスター・テイロー。そういう方もいるかもしれませんが、小梅のデータ・バンクにはそういった常識は記されていません。何らかの内部勢力の抗争か何かではないでしょうか?」


「あぁ、暴力団的なあれか? にしても、どうすんだ。巻き込まれたらやばいんじゃねえの?」


「そうですね、この船にはデブリ焼却用のレーザーくらいしか武装がありません。もし戦いになるとすれば、間違いなく撃沈されるものかと推測します」


「撃沈て……おおおおおおい、どうすんだ。どうすんだ!?」


「どうしましょうかねミスター・テイロー。ちなみに現地到着予定時刻です。何かに捕まる事をお勧めします」


 小梅の言葉が言い終えるや否や、再び船体を揺るがす振動が訪れる。太朗は這うようにして冷凍装置へしがみ付くとBISHOPを起動し、何か自衛の手段が無いかどうかを必死に探し始める。


「だああああめめめめえええだだあああああ、ぶぶぶそうううはきりいいいはなされてるるるううううう」


 振動により不気味な声色で太朗。彼の目には「オフライン」と表示された自衛用の武装関数がいくつも表示されており、事故による切り離しでエンジンや何かと共に切り離されたのだろうと推測した。

 そしてドライブの開始と同様に、前置きなく訪れた静寂。


 ――"オーバードライブ 終了"――

 ――"バッテリー回路迂回 終了"――

 ――"プログラム ノア 終了"――


 続けざまに流れる緑のメッセージ。オーバードライブ用に使われていたバッテリーが再び居住区へと戻され、いくらかの明滅と共に部屋に明かりが灯る。


「ついた……のか?」


 太朗は何かの戦闘音でも聞こえてこないだろうかと耳をすますが、少し考えて馬鹿らしい行動だとそれを取りやめる。宇宙空間には音を伝える空気が存在しない為、聞こえて来るはずがないからだ。


「小梅、どうなってる? なんかこう、スクリーンとか無いのか?」


「えぇ、ありますよミスター・テイロー。貴方の部屋へ行きましょう。自由出力が可能なディスプレイはあまりありませんから」


 そう言うと部屋の出口へ向かって車輪を回し始める小梅。太朗はもどかしいとばかりに小梅を掴み上げると、1年の間自室として利用して来た乗員用の個室へと走る。


「広域スキャンの結果、付近の船舶は4隻。どれも45km程の距離……おや、一隻撃沈したようですね。反応が消失しました」


「うげ、穏やかじゃねえな!! くそ、邪魔だ!!」


 太朗は机の上にちらばっていたコップやら食事用のトレーやらを床へぶちまけると、テーブルの上に小梅を乗せる。小梅は触手のようにケーブルを球体の体から伸ばすと、ディスプレイの下部にあるジャックへと接続する。


「……おいおい、なんだよこれ。船……なのか?」


 ディスプレイに表示された奇怪な物体に、怪訝な声を発する太朗。表示されているのは、船というよりはスクラップの塊。ひとつひとつを見れば元は別の部品だったと思われる鉄の棒。鉄板。ケーブル。何らかのガラス状のドーム。そういったものがぎゅっと圧縮されたように一つの巨大な塊を形成している。恐ろしい事にそれらは船としての機能をきちんと持っているらしく、時折姿勢制御の為にジェットを噴出したり、パイプを利用したと思われる部品からビームのような青い光を発したりしている。


「どうやったらあんなデザインの船が作れるんだよ……イカれてるってレベルじゃねえぞ。それともなんだ。リサイクルの天才だってか?」


「いいえ、ミスター・テイロー。あれを作ったのは人間ではありません。これはまずい事になりましたね。3隻の内、2隻はWINDのようです」


「ワインド?」


「えぇ、ワインドですミスター・テイロー。Wild Instructure Nude Drones。要するに野生化したAIです。自らを強化、増幅。そして複製する為であれば周辺のあらゆる構造物を利用しようとします」


「うぇ、よくわからんけど、宇宙のウィルスみたいなもんか?」


「そうですねミスター・テイロー。捕え方としては合っていると思います。定義にもよりますが、知的機械生命体として人類の天敵とされています」


「ウップス。じゃぁあれか。今戦ってるっぽいこのオンボロ船が負けたら、俺達も一巻の終わりってわけか? ……頑張れぇえ!! 超頑張って下さいオンボロ船!!」


 太朗が叫ぶように声援を送る相手は、どう見ても戦闘用とは思えないデザインの、恐らく何らかの作業船。クレーン状のアームや貨物室と思われるカーゴを多数取り付けたその船は、ワインドと熾烈なビームの撃ち合いを続けている。時折船体を取り囲むように青い光が発せられる事があり、恐らく敵の攻撃が直撃し、シールドが起動しているのだろうと太朗はあたりを付ける。


「なんか手伝える事とか無いのか? デブリ用のビームを収束させるとかそういうの出来ないの? ……っていうかアレ? なんか敵、近寄ってきてない?」


「否定。そして否定ですミスター・テイロー。デブリ焼却用のレーザーで相手のシールドをいくら焼こうと、向こうのシールド充填速度の方が早いでしょう。それと相手が近づいてきているのではありません。こちらが近寄っているのです」


 ディスプレイには、凄まじい勢いで接近してくるワインドの姿。実際に見えているのはレーダースクリーン上の光の点でしか無いが、もういくらもしない内に接近してしまうと思われた。


「おいおいおいおい、どうすんだどうすんだ。近づいたらこれ間違いなく襲ってくんだろ!?」


「えぇ、そうですねミスター・テイロー。距離が近い方が狙い易いのは当然です。あ、向こうの船への攻撃が止まりましたね」


 太朗はぎょっとしてディスプレイを覗き込む。そこには光学ズームされた不気味なスクラップの塊が映し出されており、その体の一部。先ほどまでオンボロ船を狙っていた銃口のようなそれが、ゆっくりと回転している姿が確認出来た。


「し、シールド展開!! 姿勢反転!! 敵にここらを狙わせないでくれ!!」


 太朗は叫びながら目を見開き、BISHOPを起動させる。その中でシールド制御関数群の近くが赤いエリアで囲まれているのが見え、小梅が補助をしてくれているというのがわかる。ここは今誰かが作業しているので、触るなというエリアだ。


「姿勢制御装置起動、急速……はまずいな。俺がミンチになっちまう。くそ、テンプレート改良。ここを中心に旋回!!」


 太朗は姿勢制御関数群の中身を展開すると、本来船体の中央を基点に回転する形となっている姿勢制御を、現在自分たちがいる居住区を中心に回転させるよう再プログラミングする。そうで無いと慣性の法則に従い、自分達が押しつぶされてしまう可能性があるからだ。

 ものの数秒で行われた姿勢制御命令は即座に実行され、船体がいびつな軌道で旋回し始める。


「ひぃっ!! 撃ってきた!!」


 ディスプレイ上に表示される青い閃光。ワインドを捕えていたカメラがこちらの船体からのものに切り替わり、高速で飛来するビームの塊を映し出す。


「なああむさんっ!!」


 太朗は身体を縮こませ、必死で机にしがみ付く。薄めで開けた目に船体へ衝突するビームの姿が見え、それが四方へ拡散して消えるのが確認できた。


「あれ? 思ったより揺れないのね」


「えぇ、ミスター・テイロー。この船の質量は大きく、シールドも十分に効果を発揮しています。よほど長時間撃たれ続けなければ大丈夫でしょう」


 小梅の声に安堵を覚える太郎だが、逆を言えば撃たれ続ければ危険だというだ。今この船の命運は、たった今シールドを抜かれて火を噴いたオンボロ作業船にかかっている事に変わりは無かった。


「ちょぉぉおおおおい!! 思いっきりやられてますよあの船!!」


 いても立ってもいられず、再びBISHOPを起動させる太朗。どんな事でも良いので、何か助けになれる事はないだろうかと必死に頭を働かせる。


「……なぁおい小梅。さっきさ、この船の質量はでかいって言ってたよな?」


「肯定ですミスター・テイロー。この船の元が何だったかはわかりませんが、スケールとしては巡洋艦のそれに匹敵します。切り離されて半分になったとは言え、巨大である事に替わりはありません」


 そら四千人分のカプセルがありゃあなと考えながら、BISHOPでの再プログラミングを進める太朗。小梅によるシールド制御プログラムの更新が素早く行われており、そちらのエリアの表示が驚く程頻繁に切り替わっている。


「……いよっし!! いっちょやったるぜちくしょう!!」


 太朗は姿勢制御プログラムを微調整すると、船の針路を微妙にずらす。エンジンが無い為に大きく変える事は出来ないが、ほんのゆるりとしたカーブを描く事くらいは可能だ。


「ワインドだかなんだか知らねぇけどよ、そこにいたのが運の、あどぶぇっ!!?」


 太朗が全てを言い切る前に船体がワインドへと衝突し、船を大きく揺らす。太朗は横から殴られたように吹っ飛び、進路側となる壁へと無様に激突する。衝突によって失われた速度分、太朗が加速された形だ。


「あぐっ……うぅっ……」


 頭を打って朦朧とする意識の中、明滅するBISHOPの中を必死に探索する太朗。


「異常……なし。へへ、ざまぁみやがれ」


 太朗は船体のシステムを一通り確認すると、

 痛む体に耐えながら、精一杯のドヤ顔を浮かべた。




何か説明漏れのある専門用語とか無いかどうか、不安です。

なるべく出さないようには努力いたします。

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