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金平糖memory

 カラカラカラ……コロコロコロ…………
 カラ……コロカラカラ……カラコロ……

 口の中で囁くような笑い声がこだまする。






 私は小さい頃から金平糖が大好きだった。
 小さくて、甘くて、いろんな色があって、宝石みたいにキラキラしてて、口の中に入れると優しくとけていく。少しとげとげしてるところも可愛い。
 一つだけでも良いけど、何個か一緒にある方がとても惹かれる。一つとして完全に同じ形はない。作った時の温度、湿度、糖分の量、銅鑼の角度などによって全然変わってくる。それはまるで人間のようだった。誰ひとりとして全く同じ人生を送って、同じ感じ方をする人間はいないと私は思う。

 私はそんな、人から出来た金平糖を集めるのが好きだ。

 私のおばあちゃんは喫茶店を営んでいた。おばあちゃんの入れてくれるコーヒーや紅茶はとても美味しかった。普通は白いお砂糖を入れるのだろうけど、おばあちゃんはその代わりに金平糖を入れて飲んでいた。
 おばあちゃんは不思議な(ジャー)を持っていた。それには色とりどりの金平糖が詰まっていた。おばあちゃんはその瓶を撫でながら、よく言っていた。


















 ーーこの瓶にはね、ここに来たお客さんたちの記憶が詰まっておるんよーー


「喫茶店は一息つく場所じゃけ、みんなその吐息のように、自分の話をしよる。嬉しい話……悲しい話……笑い話……怖い話……色んな話をしよる。その話は大切な……たーいせつな記憶(思い出)なんよ。私はね、ここにやって来てくれたお客さんが話しおるそれを聞いて、ここの中に集めとるんよ〜。」
 幼かった私は、おばあちゃんの言っていることが全体的によく分からなかったが、何か素敵なことのように感じられた。しかし、一つ明確な疑問があった。
「ねえ、おばあちゃん。どうして人の話が金平糖になるの?」
「ん、それはなあ。この瓶は、私のずっとずっとずーっと前から受け継がれとってなあ。私にも仕組みはよく分からんのよ〜。でもこんな広い世の中、説明出来ないことが一つや二つあったところで、なんら不思議はない。それに……」
 おばあちゃんは目を閉じて、少し考える素振りを見せる。
「それに?……」
「それになあ、なんか素敵やろう。まるで宝石集めしてるみたいで。そう思わん?あと、これは他の人には内緒なんよ。隠し事っていうのも素敵やろう。これはおばあちゃんとちさと……あんただけとの秘密。守れるな?」
「うん!」
「ほんなら、おばあちゃんと指切りげんまんしよか?」

((ゆーびきーり、げん、まん。うそつーいたーら、はーりせーんぼん。のーます。ゆーびきった!))

「ふふふふふ……」
「あはははは……」

 あれ以来、私はおばあちゃんが死ぬまで約束を守り続け、今でも守っている。















 ****

 目を開けると、見慣れた木製のカウンターが目に入った。どうやら少し眠ってしまったようだ。随分昔の夢を見ていたような気がする。
 今日は午前中はお客さんが来たが、午後はまだ誰も来ていない。時計を見ると午後二時だった。ここは私が営業する喫茶店ヤドリギだ。おじいちゃんとおばあちゃんがここに店を建てた時、人々が疲れた時ここで羽休めができるようにと思ってつけた名前だ。そして、おじいちゃんが亡くなったあとはおばあちゃんは一人でこの店を経営した。おばあちゃんの亡くなったあとは、継ぎたい人がいなかったため、更地に戻して売るという意見があったが、どうにか私が大学を卒業するまで粘って時間を稼ぎ、この店を継いだ。
 なぜなら、おばあちゃんが亡くなる前に、私は病院であの瓶を貰っていたからだ。おそらく、自分がもうそろそろ死ぬことを分かっていたのだろう……その時私は何があってもこの店を継ぐと決めた。



 チリリン
 ドアについているベルが鳴った。入ってきた男性はスーツ姿で会社員のようだった。ここ最近、贔屓にしてくださっているお客さんだ。四十代くらいで、おでこや眉間のシワから中間管理職感がすごいにじみ出ている。男性はカウンターの入口から数えて三番目の席に座った。
「いらっしゃいませー」
「ブレンドコーヒーで。」
「かしこまりました。」
 注文し終わると、彼は下を向いて目を閉じる。私は午前中のうちにあらかじめ挽いてあったコーヒー豆を使う。
 沸かしてあるお湯をネルフィルターに通し、フィルターの水気をきる。そしてフィルターに挽いてあるコーヒー豆を入れ、その上から少量の水を注ぎ込む蒸らす。その後、上から何回かに分けて改めてお湯を注ぐ。その間も彼は顔を上げようとしない。

「どうぞ。」
 私は彼の前にカップを置く。それと同時にミルクとレモンと角砂糖と…………それと(普通の)金平糖も。
 彼は顔を上げ何もいれないまんまひとくち、口に含んだ。
「はあ〜。」
 彼は今度はため息をつく。恐らく仕事で悩み事でもあるのだろう。私はそれには触れず、カップなどを布巾で拭く。しばらく、私が拭いたものを棚に戻す音と彼がカップを傾けて、ソーサーに戻す音だけがしていた。

「今日は天気が良いですね。昨日は雨だったから……」
「そ、そうですね。」
「何かお悩みでも?私で良ければお聞きしましょうか?」
「はあ、すいませんね。暗い顔して。」
「いいえ、気にしなくていいんですよ。喫茶店というものは一息ついて休む場所ですから。悩みがあったら、話してみてください。いつもはもっと遅い時間にいらっしゃるので、ほかのお客さんがいてお相手できませんが……」
「そうですね、今日は私の他にいないようですし、お言葉に甘えましょうか。」

 そうして彼はぽつり、ぽつりと話し始めた。








 ****

 私の思った通り彼は、中間管理職の代表である課長らしい。上からは変に期待され、面倒臭い仕事を任される。下からは、仕事をさせようと思っているのに、動いてくれず、うざいと思われる。しかし、大して給料が良い訳でもなく、一社員の時とあまり変わらない。まさに、絶妙なストレス役職である。

「この前はお前は課長なんだからこれくらい出来るよな!と言われて、部長から良く説明もされていない書類を書かされました。本来それは、部長が出さなきゃいけない報告書類なのに……それに部下に仕事を任せたのに、提出日に忘れてくるし。次の日ださせて見たら、文章の書き方からしてなってないし。上司からはそのことで部下の管理もろくにできないのか!と言われるし……部下からは相談を受けまくるし。もー」
 彼はカウンターに頭を打ち付ける。大丈夫だろうか……

 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、チーン……

 と、止まった。とりあえず何か言ってあげた方が良いのだろうか。
「大変なんですね……私は個人営業なんで全然詳しいことはよく分からなくて、すいません。」
 ガバッ!!
「ヒエッ!!」
「いえいえ、そんな事ないです!そちらにはそちらの苦労することがあるでしょうから。それに、こんなことはしょっちゅうあって、もう大して気にしてないんです。というか日常茶飯事で、いやはや板挟みは辛いですね〜それよりも……」
 彼は顔をかなり近づけて、私を見る。私は気まずくなって続きを促す。
「それよりも?」






 それは五年前、その頃にはまだ係長だった彼の元に新しい社員がやってきた。その社員の名前は、「遠藤修一(えんどうしゅういち)」。彼はその春に新規採用された社員で、とてもやる気に満ち溢れていた。
 彼は、とても真面目で仕事に一生懸命だった。(まあ、まだ会社に入ったばかりなのに、だらけている社員はそういないが……)それだけなら普通の新入社員と一緒だが、彼はよく気が利いた。コピー用紙がきれそうなら補充しておき、書類をまとめるクリップを探していると、自分のデスクにあるそれをかしてくれた。それは、気に入られようとかそういった欲望を含まない、純粋な優しさだった。

「俺は、そいつが今までの社員とは違って、とても感心していた。歓迎の飲み会の時に話すと、とりあえず先輩達に迷惑をかけないようはやく一人前になりたいと言っていた。とても将来が楽しみだった!!……すいません、あつくなってしまって……しかし、有能な部下ほど自分の元を早くにさってしまうものです。そいつは夏頃の仕事で成果を出して、上に呼ばれていきました。」
「それは、少し残念ですね。」
「いいえ、良いんです。能力があるならそれを発揮できるポストにつくべきです。私は応援していました。しかし、」
「しかし?」
「そいつはこの数ヶ月前、うちのビルの別の課の課長として戻ってきました。」
「ほう!!それはまた随分な出世で。」






 しかし、彼は変わってしまっていたという。部下に嫌味を言い、部長には媚へつらったらしい。それも、その気が利くところを生かして……

「あの頃は、ほんとにクソやろう!!と思っていました。あいつらはそもそも会社に入った時から性根が腐りきっていたのだと。でも、違いました。会社がそうさせてしまうのです。この環境が人を変えてしまうのです。相手にやって発散する加害者側になるのか、ひたすら溜め込む被害者側になるのか。あいつは加害者側になってしまった。だからと言って、あまりにひどく溜め込む被害者側になって欲しかったわけでもありません。一体どうしたら良いのか……」

 私は考えた。そもそも加害者側や被害者側になってしまうのはなぜなのか。もとがそんな良い人でもそうなってしまう理由……



















「あなたが、彼の逃げ場になってあげれば良いのです。そして、彼にはあなたの逃げ場に。」
「へ?」
「そもそも、そうやってしまうのはストレスの発散方法が無いからです。逃げ場が無い。これは辛いことです。部下には相談なんか出来ない。上司はきっと頼れない人だったんでしょう。それで、溜まっていくものの対処方法としてそのような行動に人は走ってしまうのです。上司に呼ばれ新しいところに行く……きっと頼れる人がいなくて困ったでしょう。」
「確かに、そうですが……もう遅い。あいつは変わってしまった。もうこんな私の言葉は聞き入れないでしょう。それに私は全然言える立場ではない。ただ溜め込んで何もしない私には……」

「遅くないです!!全然遅くない。今からでも良いから、相談相手になってあげてください。もし耳を貸さないなら、叱ってあげてください。彼は今でもあなたの部下です。部下が困っているなら相談に乗るのが上司。そうでしょう?あなたは人には迷惑をかけなかった。あなたは一人前の社員です。」
「……………そう、ですね。」
 彼は少し笑った。
「そうですよ。そして二人で飲みでも行ってストレス発散して下さい。もう彼はあなたと同じ役職なのですから、あなたの相談相手にも適任ですし、よろこんでなってくれるでしょう。」
「……はあ〜」
 彼は軽く息を吐くと下を向いた。

 もしかして呆れられたか、説教じみたことしすぎたのか、もっと無難に受け流すほうが良かったのか!
 私は不安になって彼に顔をのぞき込む。

 しかし、頭をあげた彼の顔はそんな顔ではなく、ただひたすらに穏やかだった。彼は口元に微笑を浮かべて口を開いた。
「まさかこんなに若い娘さんに慰められてしまうとは、情けありませんね。私もしっかりしなくては。あなたの言う通り、お互いに支えあえるようにします。」
 私はほっとして、笑顔になって言う。
「そうですか、良かったです。」









 ****

 彼はまだ残っていたコーヒーにミルクを少し入れて、一息に飲みほして出ていった。
「美味しかったです。」

 チリリン、コツン……
 どうやら彼の金平糖ができて瓶に落ちたようだ。私は、コーヒー豆を置いてある棚の一つに飾っているその瓶を覗き込む。さっきまで無かった一つが加わっている。多分これだろう。私はそれを手でつまんで、電気にかざす。それは瓶に入っている時にはただの緑色に見えたが、今は中心が赤いのが確かに分かる。

 チリリン
 私が金平糖を眺めていると、背後でドアのベルが鳴った。私は見ていたものを瓶に戻し、振り向く。
「いらっしゃいませ。」
 そこにいたのは、二十代くらいの若い男女だった。二人は窓から外が見えるテーブル席に向かい合わせで座った。男の方は英字の書かれた白いTシャツに青と黒のチェックシャツを着て、黒いスキニーパンツを履いている。女の方は、白黒のボーダーシャツにベージュのひざ丈スカート、それにジージャンを着てスニーカーを履いている。見た感じ大学のサークル仲間って感じだ。この近くには確か、何校か大学があったはず……

「アイスティー二つ下さい。」
「はっ、はい!かしこまりました。」
 急に話しかけられたので、少しびっくりしてしまった。私が二人の洋服チェックをしている間に、注文を決めていたようだ。私は注文を受け、おばあちゃんから教わった、茶葉から煮出した紅茶を氷で急速に冷やす方法で作ったアイスティーを、氷を入れたグラスに注いで彼らのテーブルに置く。ミルクとガムシロを添えて……


「あはははは!えーそうなのー。私てっきりもう終わってるのかと思ってた。」
「いや!!俺もそう思ってたんだけど……そんなん知らねー!!ヤベー!!つってて。」
「ははは!まあ、しょうがないよね〜。友達に任せてたんだもん。それは自業自得かな〜。」
「まあ、あの先生は出席確認あまあまだからな。自分の出席簿に丸つけてもらえるよう頼めばいいんだもん。」
「そういえばさ、………」
「あーそうだな〜。ここは……だし。次は……」

 私はさっきのお客さんが飲んでいたコーヒーのカップなどを洗い、カウンターの下の棚に戻す。


 私はとても懐かしいなあと思う。うちの大学も少し制度は違かったが、友達に任せておいても良いものであった。出席をしめすのはその講座をとっている生徒達それぞれに配られているカードで、講座をとっている仲良しグループで当番表を作り、今日は〇〇、明後日は△△、という風にやったものだ。
 と言っていも、たった二、三年前の事なのだが……コーヒー豆をガリガリと挽きながら、みんなどうしているかな〜?と考えていると彼らは遊び場所について話し始めた。出てくるのは、カップルがうじゃうじゃいる人気の遊園地やショッピングモールの名前だ。
 やっぱり付き合ってたかー。そうと分かるとさっきの服装チェックで思ったが、飲み込んだ感想が出てくる、

(そんな風に色が似たコーデしやがって!!仲良しアピールするな!)

 という。

 私はそれからは二人の会話は気にしないことにして、作業に集中する。











 ****

「あの〜もしもし?」
「お支払い良いですか?」
 そう言う彼らの声でふと、我に返る。
「すいません。はい、分かりました。アイスティー二つで六百円です…………はい、ちょうどお預かりいたします。ありがとうございましたー。」

 チリリン、バタン。
 コツン、コツン……

 窓から眺めると彼らが仲良く手を繋ぎながら近くの駅の方に向かって歩いて行くのが見えた。
「ふう〜、私も欲しいな。彼氏……まあ、とりあえず二人の見てみようっと。」
 私は再び瓶のある棚に歩いていき、新しく入った二つの金平糖を眺める。どちらも淡いピンク色をしていた。"しあわせ"って感じを全体で表したような色だ。確かこういう事を青い春、と書いて青春と言うのだったなと思うと同時に、服だけではなくこの色まで一緒とは、仲良しですね〜という感想もうかんできた。

 私は片付けをしながら、自分に休憩用の紅茶を入れた。そして瓶の中から、さっきの会社員さんが残していった金平糖を取り、良い香りを湯気と一緒に立ち上らせるカップに入れ、かき混ぜた。
 溶けていくにつれ、香りが変わってくる。全て溶けきり一口含むと、さっぱりしているが、少し辛みがあって芯の強い味がした。
「ふふ、あの人とそっくり。」
 おばあちゃんもこのように、紅茶に金平糖を入れてそのお客さんのことを思い出していたのだろうか……


 それから、営業終了時間までの三十分は誰も来ず、私は紅茶を飲みながら外を眺めていた。
「ん〜、そろそろ閉めるか。」
 私はカップを片付けて、ドアの方に向かう。そして表にかけてある札を裏っ返した。

 ーーCLOSEーー
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