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ミーナちゃんの冒険 作者:paiちゃん
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M-001 お婆ちゃんとの約束

 その夜、私は何時もは閉める筈のカーテンを開けたまま、ベッドに潜り込んでいた。
 ウトウトとしたまどろみの中、時折目覚めては星空を眺め…また眠りに落ちる。

 ここは、エントラムズ王国の王都にある貴族街の一角。
 お父さんは貴族ではないけど、王国の閣僚の1人だ。
 この国には貴族を名乗る家は極僅か。その貴族達でさえ、現在の当主が亡くなれば貴族の称号は無くなるのだ。

 私には姉と兄が1人ずついる。
 私はお婆ちゃんの血を受継いでネコ族のような耳と尻尾があるけど、兄さんにはそれがない。
 ちょっとうらやましそうに、私の尻尾を小さい時は見てたんだ。
 一番上のファリス姉さんは、亀兵隊の中隊長だ。お婆ちゃんの率いる部隊の1つを任されているらしい。あの有名な月光部隊だ。
 兄は、お父さんの片腕として官僚組織というところで働いている。
 私は、自由に生きなさいと言われて育ったけど……。

 大きくなったらお婆ちゃんみたいな人になるんだ。
 それには、お婆ちゃんみたいにハンターになって何時かは銀になるんだ。
 そしたら、姉さんだって私を亀兵隊に迎えてくれると思う。 
 そんな計画を話したら、お婆ちゃんにが笑ってたけど……。
 でも、何時かはあの有名な虹色真珠を耳に飾るんだ。それが私の夢なんだけどな。

 突然、窓の外に大きな流れ星が見えた。町の一角から天を目指して流れて行く。
 また、誰か死ぬんだわ。
 あの方角は……。
 そんな事を考えながらまた眠りに落ちる。

 ドンドン……と部屋の扉を叩く音が聞える。
 急いで起き上がると、枕の下から短剣を取り出した。
 部屋の扉の鍵を開けると…青白い顔をしたお母さんが立っていた。

 「ミーナ。直ぐに仕度をしなさい。お婆さんが危篤なのよ!」
 私は驚いて着替えをする。まだ春とはいっても夜は寒い。何時もの普段着に革の上着を着て階段を下りていった。
 「揃ったね。では出かけるぞ」
 お父さんの後について、私はお兄ちゃんとお母さんの4人で、夜のエントラムズの通りを小走りに歩いて行った。

 私のお婆ちゃんは連合王国の英雄の1人と言われている。
 でも、私にとっては良いお婆ちゃんだ。たまに昔話をしてくれる。その時のお婆ちゃんの顔は最初は嬉しそうなんだけど、必ず最後は悲しそうな顔になる。

 もう1人のお婆ちゃん。サーシャお婆ちゃんも、たまにそんな顔をする時があった。
 2人のお婆ちゃん達のお蔭で、今の私達の暮らしがあると学校では教えて貰ったけれど……。

 何があったの?って聞くと、何時も笑って誤魔化されてしまった。
 そんな、サーシャお婆ちゃんは今年の冬に亡くなってしまった。
 本来ならば、お婆ちゃんの旦那様と一緒のお墓に入る筈が、大きなお墓に1人で眠っている。
 そのお墓の形は巨大なガルパスだった。
 お婆ちゃんに手を引かれ、そのガルパスの顔の近くに作られた献花台に花を置いたのがつい昨日のようだ。

 お婆ちゃんの屋敷には慌しく人が出入している。
 そこに私達一家が行くと、直ぐに亀兵隊の人がお婆ちゃんの部屋に私達を案内してくれた。
 「かなりの激痛である筈なのですが、ミーナ様に会うまではと薬の服用を拒んでいるのです」

 その言葉に私達は慌ててお婆ちゃんの部屋に飛び込んだ。
 クッションを背中に当てて、お婆ちゃんは静かにお茶を飲んでいた。
 私達の突然の来所に吃驚しているようにも見える。

 「そうだったね。私が呼ぶように言い付けたんだっけ……。ミーナだけを呼んで来いと言ったんだけれど、皆も付いて来てくれたのね」 
 そう言って、小さく微笑んだ。

 「ミーナ……ここにおいで。確かミーナはハンターになったんだね」
 「はい。12でハンターになりました。もう直ぐ1年になります。レベルは赤の4つですけど……」
 私は、おばあちゃんのベッドの脇にある小さな椅子に腰を下した。

 「ギルドを通さずにミーナに依頼をしたい。他の者ではたぶん無理。……サーシャちゃんは言っていた『もし可能だとすればミーナ位のものじゃ。』ってね……」

 サーシャお婆ちゃんは希代の軍師。それこそ天才と言われていたらしい。そのサーシャお婆ちゃんが私を指名したって事は……。私も才能があるってことかな?

 「あの牙を見て御覧。……あれは、エルフの里を訪ねた帰りに仕留めた物。お兄ちゃんと2人で何とか倒した、その記念品。
その彫刻を御覧。少女が4人前を歩いているね。その中の1人は私で、もう1人はサーシャちゃん。先頭を勇ましく歩いているのはアルト姉様。最後の小さい子がリムちゃんよ。
その後ろで私達を見ている少女がミズキ姉様とディー姉様。最後に私達全員を見守っているのがお兄ちゃんよ」

昔から不思議な置物だと思っていたんだ。こんな牙を持つ獣は見た事が無い。そこに彫られた7人の内3人は検討が付いたんだけど、残りの4人はまるで判らなかった。
でも、それだったらおかしな話だ。お婆ちゃん達は国の英雄とまで言われている。残りの4人はどうなったんだろう?重罪を犯して処刑されたのだろうか……。それとも人知れず静かに眠っているのだろうか?

 「気が付いたようだね。私が依頼したいのは、その4人の消息を尋ねて欲しいの。
アルト姉様は元モスレム王国の王女。魔物襲来の迎撃で魔物の呪いを受け何時までも少女の姿のままでいるわ。ディー姉様は、人形が魂を持った姿なの。
ミズキ姉様とお兄ちゃんは、不思議な人達だった。何時までも歳を取らずに、怪我すら瞬時に治ってしまうの。
 今でも、この世界のどこかで暮らしている筈。釣りが好きなお兄ちゃんだったから、どこかの水辺で今日も釣りをしているかもね」

 そう言って小さな笑い声を上げた。

 「ミーナ……頼める?」
 「でも、私は赤4つ……。依頼なら、ファリス姉様の方が遥かにレベルが高いよ」

 私が無理だと首を振るのを、お婆ちゃんは笑いながら見ている。

 「あの牙を下ろしなさい」

 突然、お婆ちゃんは鋭い声で亀兵隊の従者に告げると、3人掛かりで大きな牙を壁の金具から取外した。おおきな牙をベッドの反対側の壁に立て掛ける。

 「牙を逆にするのです!」

 お婆ちゃんの言葉で、取外された牙が逆向きにになる。
 そこには、新たな彫刻があった。3人の姿がそこに刻まれている。

 1人はお婆ちゃんだ。でも着ている物は……どう見てもお古を手直しした物だし、ポシェットは縫目まで見て取れるほど、手作り感溢れるものだ。更に靴は……こんな靴は見た事が無い。たぶんこれも手作りなんだと思う。
 お婆ちゃんと手を繋いでる人は、さっきミズキ姉様と言っていた人だ。見た事がない服装で背中にバッグを背負っている。そんな2人を傍で優しそうに見ている人もミズキ姉様と同じ服装だ。この人がお兄ちゃんなんだ。

 「そっくりね」
 「あぁ、確かにお婆さんがミーナに託すのも判る」

 何の事だろう?
 そう思って振り返ると、レムお兄ちゃんが教えてくれた。
 「この彫刻の姿とお前がそっくりなんだよ。ミーナはミーアお婆ちゃんと瓜二つなんだ」

 「この彫刻は、ずっと秘密にしていたの。1度だけモスレム新王の宴席で披露したけど、当時の御后様はあえてお兄ちゃんに見せなかった。
 私を辛い仕事から解放してくれ……妹にしてくれた。
 私は、両親の顔さえ知らない。物心着いたころから毎日薬草を取っていた。
 そんなある日、ガトルに追われた私が木から落ちた時、そこにお兄ちゃん達がいてくれた。
 それからの10年は楽しい日々だった。
 大きな戦もあったけど、お兄ちゃんが私達を守ってくれた。
 そんな時、お兄ちゃん達は旅立った。私達の未来を作ると言っていたけど……。私には良く判らなかった。
 それでも、そんなお兄ちゃん達の旅立ちを、4人の国王達が悲壮感に溢れた顔で見送っていたわ。
 それが、最後だった。何が起こってもお兄ちゃんなら避けて通れる……そんな、お兄ちゃんが帰ってこなかった。
 ……もし、お兄ちゃんにめぐり合ったら……。
 ……ありがとう……と言って頂戴お兄ちゃんの妹で、ミーアは幸せだったと伝えて頂戴」

 何時しか私の顔は涙に濡れていた。
 そんなに大好きだったお兄ちゃんはどうして旅立ったんだろう……私はその事にも興味が惹かれた。

 「分ったよ。……絶対に、お婆ちゃんのお兄ちゃんを見つけて、お婆ちゃんの言葉を伝えてあげる!」

 私の言葉を聞くと、同じように顔を涙で濡らしたお婆ちゃんが、壁際の小さなタンスを指差した。
 従兵がそのタンスを開けると、革の上下が入っている。それをお婆ちゃんの膝に持ってくると、次は幅広のベルト、それに……あの有名なグルカを持ってきた。

 お婆ちゃんがベルトの腰の位置に付けられた大きなバッグを開けると、袋を3つ取り出した。

 「この袋は私の亡骸と一緒に柩に納めて。これは、お前達にはタダのゴミ……でも、私には大切な宝物。
 この袋はミーナに。この中の道具は私がハンターだった頃の物。貴方の旅に役に立つはず。さぁ……早速着替えて、私に見せてごらん」

 私はお母さんに連れられて隣の部屋に行くと、直ぐに着替えさせられた。
 再び、お婆ちゃんの前に赴く。

 「立派だよ、ミーナ……。リムちゃんが妹になった時はお前より小さかった。それでも、3年もせずに黒になった。……さぁ、これを付けなさい」

 従兵がお婆ちゃんからグルカを受取ると、私の腰のベルトにグルカを差して鞘をベルトにしっかりと取付けた。

 「最後は、この袋。この中に手を入れて、片手で握れるだけの硬貨を取出しなさい」

 お婆ちゃんに言われるままに袋に手を入れ、ぎっしりと詰め込まれた硬貨を握って袋から手を出した。
 お婆ちゃんの布団に手を広げると、金、銀、銅貨が手から零れ落ちる。
 いったい幾らあるんだろうか?

 「金貨は3枚だね。銀貨が8枚。そして銅貨が5枚。…これがミーナにあげられる軍資金。大切に使いなさい。……でも、ハンターなら、これで良いのかも知れないね」

 そう言うと、小さな革袋に硬貨を詰め込んで私にくれた。
 私に傍に寄るように手招きする。

 「良いかい。外に出たら、この笛を吹きなさい。チロルが直ぐにやって来る。……そしたらネウサナトラムのリムを訪ねるの。……きっと力になってくれる」

 そう言って、自分の胸から小さな銀細工を取り出して私の首に掛けてくれた。良く見ると笛だ。

 「ここからなら、2日で行ける筈。……さぁ、出かけなさい。そして、世界を見てきなさい」
 「お婆様、あのグルカは亀兵隊に帰属する物。軽々しくミーナに渡して良いのですか?亀兵隊中隊長であるファリスに贈るべきなのではないですか?」

 「問題ないわ。あのグルカは、アルト姉様のグルカを型にしてバビロンでダマスカス鋼に変えた物。柄はお兄ちゃんが仕留めたレグナスの牙その物。
 私達4人がグルカを持っていた事から、亀兵隊が私達のグルカに似せて今のグルカを作ったの。あれはハンターだった私の宝。この世に3本だけのグルカよ。
 あのグルカを見せればお兄ちゃんも判る筈。だからミーナに託すの……」

 そんな凄い片手剣なの?
 吃驚している私に従兵が包みを渡してくれた。
 「お弁当と水筒ですよ。」

 何時の間にか私は旅立ちの準備をさせられていた。
 そりゃぁ、その内に家を出て諸国を廻ろうとしたけど……。まさか、こんなに急になるとは思わなかった。

 「お婆ちゃん……。行って来るわ。待っててね」
 そう言ってお婆ちゃんの頬にキスをすると、今度はお母さんにキスをする。
 「無茶はしないこと。……良いわね」
 そう言って抱きしめてくれる。

 「元気でな。毎月、1回は連絡を寄越すんだぞ!」
 お父さんは私をハグしながらそう言った。

 「場合によっては姉さん達と追い掛ける」
 お兄ちゃんがそう言って肩を叩く。

 「では行って来ます!」
 大声でそう言うと私はお婆ちゃんの部屋を出た。
 続々と集まってくる人達を掻き分けて屋敷の外に出ると、早速銀の笛を吹く。

 何なんだろう?と訝しく思っているとカチャカチャという爪音を響かせて1匹のガルパスがやって来た。
 鞍も付いている。ヒョイって飛び乗ったけど、このガルパスって…確かお婆ちゃんのチロルだよね。
 (我はチロル……ミーアの縁に連なる者よ。我と絆を望むか?)
 (私はミーナ。ミーアお婆ちゃんは私の大切な人。そしてお婆ちゃんのチロルはお婆ちゃんのお友達。なら、ミーナとチロルはお友達……)

 チロルからの呼び掛けにそう答えた瞬間、私とチロルの意識は重なり合った。
 「チロル……。ネウサナトラムに出発よ!」

 私がそう言った瞬間、一気にチロルが加速して通りを走りぬける。
 「ちょっと待った!ギルドで手続きしなくちゃ。」

 あまりの事に忘れていた。ハンターは町を離れる時にはギルドで手続きを行なう必要がある。町にどれだけのハンターがいるか把握する為らしい。

 カウンターのお姉さんは、「未だ早いんじゃない?」って言われながらも手続きを済ませてくれた。
 今度こそ、本当にネウサナトラムの村に向かって、チロルを駆って行った。

 
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