異世界に転生して可愛い女の子と旅をしながら超絶スキルで無双する
「お互い歳取ったなあ、宮城」
そう言ってビールを注ぐ坂口は、あの頃と同じように右の眉だけ釣り上げてニヤリと笑ってみせた。こうして彼と会うのも3年ぶりだ。宮城は顔を真っ赤にしながら、溢れる泡を慌てて迎えに行った。
「今何してるんだ?」
「今は……」
屋台のおっちゃんが目の前でテキパキと串に肉や野菜を刺して行く。その様子をぼんやりと眺めながら、宮城は少し顔を曇らせた。
「……相変わらずだよ。売れもしない個人用小型冷蔵庫を、馬鹿みたいな値段で売りつける毎日さ」
「何だ、仕事上手く行ってないのか?」
「行ってない訳じゃないんだけど……」
立ち昇る白煙の向こうで、坂口がその大きな目玉でじっと坂口を見つめた。宮城は食べかけていたふきのとうの天ぷらを皿に置き、小さくため息を漏らした。
「……なんて言うのかな。五月病に近い。給料だって悪くないし、休みもそこそこ取れてる。契約社員とか、もっと苦しんでる人達見てると、俺はまだいい方だと思うわ」
「ふぅん」
「だけど……これで良かったのかな、って。時々思うんだよ。お前みたいに、もっと別の人生もあったんじゃないかって」
そう行って宮城は坂口に視線を戻した。彼は彼で遠い目をして笑った。
「あの頃は、たくさん勉強していい大学に行って、大企業に勤めることが幸せなんだと聞かされていたけど……」
「テンプレみたいな人生に、飽き飽きしてきたのか」
「テンプレ。それだよそれ。結局、自分で自分に俺は幸せなんだって言い聞かせてるだけのような、そんな気もしてならない。今のままじゃ、他人の描いた幸せをなぞってるだけだ」
坂口の言葉に、宮城は身を乗り出した。
「その点お前は良いよな。高校卒業を待たずに直ぐに異世界だろ?」
「フフ」
いよいよ目が怪しくなってきた宮城に、坂口は更にビールを追加した。宮城は坂口の羽織った異世界のマントや薬草袋、背中に背負った聖剣をジロジロと眺めた。
「中身は坂口でも、外見はすっかりゲームの勇者みたいだもんな。理想の世界に、理想の仲間達……ったく、何で俺じゃなくてお前なんだよ。俺が転生してたらなぁ」
「お前だったら、どんなのが良いんだ?」
「そりゃお前、昔ネットで読んだ小説みたいにさあ……」
ハーレム、チート、VRに悪役令嬢……それから2人はしばらく思い出話に花を咲かせた。
「……それから好きな時に、好きなようにやってさ。お前にはその能力が備わってる。羨ましいぜ、ったく」
「……どうかな。俺も案外、お前と同じような事で悩んでたりもするんだぜ」
「お前が?」
怪訝な顔をしながら、宮城が海老の天ぷらを頬張った。坂口は何も言わず笑い、半分になったグラスを空にした。
「ま、お前ももう好きにして見たらどうだ。もう、テンプレみたいな人生には懲り懲りなんだろ?」
「全くだあ! 俺ァ異世界に行くぞォ、坂口! 異世界に行っへ、ハーレムだ、チートだ! こんあ天ぷらみたいな人生とはオサラバだあ! アッハッハッハ……」
それから夜も更け、べろんべろんに酔っ払った旧友を担ぎながら、坂口はまだまだ人の混み合うテンプレ通りを歩いて行くのだった。