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「ノエル」
「ん……?」
「故国に、帰りたくはないか?」

 突然のおれの問いかけに、おれの腕の中でまだ、うつらうつらしていたノエルが、しっかり意識を取り戻す。
 おれの顔を間近で見返して、ノエルは慎重に答えた。

「それは、帰りたいに決まっている。でも、今のあそこは、とても危ない」
「おれと一緒でもか?」
 朝を告げる小鳥たちの声が、二人の沈黙の間、部屋に響いた。

「……どういうこと。連れて帰って、くれるの?」
「そう。そしておれは、おまえとともに、そこに住み、南方の地に平和を取り戻すべく働きたい……ノエル、おれは」
 前世のおまえもだが。

「かの地の人々に、大変な負い目があるんだよ。今までのおれには勇気がなかったから、その事実から目をそらしてばかりいた。おれには関係ない、仕方ないだろう、おれ一人の力では、どうにもならない問題なんだってな……卑怯者もいいとこだ。
 こんなちっぽけな人間に、どれほどのことができるかは、わからない。なにもできないかもしれない。けれどおれは、やってみたいんだ。やらなくてはならないんだ、今のおれにできる限りのことを、精一杯。
 ノエル、だがそのためには、おまえの協力が、ぜひ必要だ。
 例のあの、沈黙の掟だけどね……まずあれを、なんとかしなくてはと思うんだ」

 ノエルは身をこわばらせた。
「太古の昔は、それでよかったのだろう、けれども時代は変わった。慣習の異なる民族との交流も、盛んになってきた。なのに南方民たちがあのままでは……ノエル、わかるだろう? この手の説得は、他国者のおれには、おれだけでは絶対に不可能なんだ」

「……そんなことをしたら、追われてしまう、わたしたち。西方と南方の、ふたつに」
「最悪の場合、そうなるかもしれない。でも、ノエル、現在南方の受けている迫害は、正しいことだと思うか、おまえは」
 彼女は首を、激しく横に振った。

「間違ったことには異議を唱えたいんだ、おれは。世界中を敵にまわしてでも。
 おれは昨日まで、おのれの数奇な運命に対して、なんの意味も見いだすことができなかった。意味どころか、ただ不満なだけだったんだ。が、今はちがう。この時代、この瞬間に生きて動いている理由がはっきりわかる。
 おれはチャンスを与えられたんだ。本来ならば来世で償うべき業を、他ならぬ自分自身のこの手で、もしかしたら改善できるかもしれない……これは稀有な恩寵だ。感謝の念さえ抱いているよ。そうと悟ったからには……これ以上流されて生きていたくない」

 おれはノエルの髪を撫でた。
「おまえがいるから、おれはこんな大それた決心をすることができた。おれと一緒に立ち上がってくれないか、おれたち自身のために。
 人間が始めた過ちだ、人間に正せないはずがない。おれはそう信じたい。たとえおれの手では実現できなかったとしても、あとに続くだれかが、いつか、きっと……そうとも、困難なのは百も承知だ。たかがおれの一生で達成できるなどと、安易な楽観はしていない。だからこそ、そのためにも、だれかに継いでもらうためにも、今、明日でも明後日でもない、今、すぐに始めたいんだ……」

 ノエルはおれの話を、真剣な面持ちで聞いていた。
 おれは一旦、言葉を切って、彼女の反応を待った。
 やおら、彼女はおれに接吻し、そして……こうささやいた。
「それでこそ、おまえだ、イーダス・レムノスク」

 おれは仰天して、ノエルを見つめ返した。
「おまえ、どうして……まさか……ノエルタリア?」
「え?」
 おれに負けず劣らずの、びっくりまなこ。
 ノエル自身も、戸惑っているのだ。

「そうか……は、はははは」
 そうだ。ノエルもノエルタリアも、わざわざ区別する必要はないのだ。
 二人とも、おれの愛する、ひとりの女なのだから。

『マリッサ・ノエル、エレ・ノエル』
 二百年前に少しだけ教わった、ナハシャの言葉を心の中でつぶやいてみる。
『はるかなるノエル、そして身近にいる、もうひとりのノエル……』
このお話は、これでおわりです。最後までありがとうございました。

後日、目次を改変して、もっとちゃんとしたあとがきを書こうかなと考えちゅうです。
とにかく今は、ちょっと疲れてて^^;

じつは外伝もあります。近日公開予定です。よかったらまた読みにきてください。
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というわけで、後日です。
目次改変は、挫折しました……。
もっとちゃんとした、あとがきは……やっぱ、無理かも。

タイトルの意味は、最後まで読んでもらうとわかるしかけになってますが、直訳するとこれ「遠くのノエル、近くのノエル」と、なります。

しかし直訳だとあまりにも愛想がないので、ラスト、カッコつけさせてもらいました。

で、外伝はほんとにあります。
鋭意、下書きちゅうですので、しばし、お待ちをー。
(2009/12/13~連載開始しました! マイペース更新ですが、よろしくお願いします)
(~2010/01/12完結いたしました!)

楽しんでいただけましたら、さいわいです。
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