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003-003
 おれとノエルタリアが親しいという噂は、やはりどこからか漏れていた。
 それでも構わないと、おれは思っていた。
 おれは変化した。
 脱皮を済ませた蛇のように、おれの精神は、ひとまわり図太くなったのである。

 彼女と出会う前のおれは、虚栄だけは人一倍の見栄坊だった。
 が、それは劣等感の裏返しに過ぎなかった。
 けれど、ノエルタリアを知ったおれは、自分自身を信じることを覚えた。
 文字通り、自信がついたのである。

 あの、真に誇り高く美しい姫君がおれを、おれだけを、対等とみなし接してくれている……そのことによって、それまでただのハリボテでしかなかったおれのプライドは、自信に裏打ちされた真実のものに……少なくとも、それに近づきつつあった。

 周囲の雑音が、本心から気にならなくなったのだ。
 がむしゃらに無視しようと努めるまでもなく。

 それにまた、彼女も彼女で、おれと森で会うのを、別段だれにも言いふらしはしなかったが、と言って、逆に細心の注意を払ったり、こそこそしたりはしなかったのである。
『変わり者のひねくれ王子と、口をきかぬ異国の姫、か』
『お似合いではないか』

 大半が、そう黙認してくれていた。
 ところが兄は、面白くなかったらしい。

 兄はもう十七で、正妻をとっくに迎えていて、しかし子供はまだいなかったから、こんなにも慌しく側室を構える必要はまったくないはずだ。ノエルタリアには関心がない様子だったのに……それとも、彼女の近寄りがたい雰囲気に圧されて、手を出したくとも出せなかったのか……ともかく、おれに横取りされるのだけは、我慢ならなかったというわけだ。

 兄はノエルタリアに、求婚した。
 ノエルタリアは……いつものように黙して語らず、首を縦にも……横にも振らなかった。
 横にも。
 沈黙は、了解と取られた。
 それでも彼女は、弁解もしなかった。

「何故だ、ノエルタリア!」
 逆上したおれは、森の中でだけ自然に振舞おうという、暗黙の約束を破って、彼女の寝室に忍び込んだ。
 そして彼女の腕を掴んで揺さぶり、オウムのように何度も同じ問いを繰り返した。

 ノエルタリアは、なにも言わなかった。
 なにも、言ってはくれなかった。
 おれのなすがまなに揺さぶられながら、決してその心は、おれの思うままにはならなかった。
 森のおれと城のおれとは、まったくの別人だと言わんばかりに、無表情で無抵抗で、おれのすべてを拒絶する。

 そうこうするうち、不穏な気配を察した侍女がその場に踏み込んできて、おれを見るなり金切り声を張り上げた。
 おれは王により謹慎を申し渡され、三日後の今夜……ようやく軟禁状態からの脱走に成功したのだった。
 胸騒ぎに突き動かされ、おれは兄と兄嫁の寝室に乱入し、そして……この惨状をまのあたりにしたのだ。

「おまえには……できなかった。おまえでさえも……」
 炎を象った銀糸の刺繍が裾から妖しく立ちのぼる、雪白の夜着。
 その胸から左肩にかけて、まだらに返り血を浴びたノエルタリアが、語りだす。
 乾ききった金色の砂がこぼれ落ちるような、声で。


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