コッ コッ
また、あの音が聞こえる。
階段を駆け上がる音が……
コッ コッ コッ
私は置時計を見た。時刻は午前二時を少しまわったところ。
コッ コッ コッ コッ
布団を頭からかぶる。心の中で助けを呼ぶ。
ガチャ ガチャ ピンポーン ガーン
ドアノブをまわしている。
チャイムを鳴らしている。
ドアを叩いている
また、あいつが来た。
たくちゃんだ。
ガチャ ガチャ ピンポーン ガーン ガーン ガチャ ピンポーン ピンポーン
出たくないよ〜 だって、たくちゃんは……
ピンポーン ガーン ピンポーン ガチャ ガチャ ピンポン ガーン ガーン
事故で死んだから……
でも、いつまでも逃げてられない。
きっと、拓ちゃんは自分が死んだ事しらないんだ。
私が教えてあげないと……
私は布団から抜け出すと玄関のところまでいって、
ドアについてる覗き穴から外を確認した。
拓ちゃんはいない。
でも……
私と和泉拓人は小学四年の時から親友だった。
和泉のあだ名は拓ちゃん。
名前からとって拓ちゃんだ。
私達は京都の洛北ニュータウンというところに住んでいた。
拓ちゃんは小四のときから身長が高く170センチ近くあった。
体格がいいと子供のころは腕力をいかして
いじめっ子とかになりやすいが、
拓ちゃんは、性格が穏やかでのんびりした雰囲気があったので
クラスの人気者だった。
小学校のときは、近所の池や公園でみんなで釣りをしたり、
警ドロや戦争ごっこを、
拓ちゃんを中心にして遊んで楽しかったものだ。
そして私達の友情もいろんな遊びをしているうちに深まり、
いつのまにか何でも悩み事を相談し合う仲になっていた。
しかし、私と拓ちゃんの楽しい日々は、中学を境にして一変した。
高校にいくための受験戦争のおかげで……
拓ちゃんの両親は親父が高校の教師で母親が中学の教師をしていた。
そのため、両親は教育熱心で拓ちゃんになにかあるたびに、
やれ、勉強しろ、いい高校に入れ、友達を選べとか
言っていたそうだ。
そのストレスのために、拓ちゃんは優しい性格がかわって、
私以外の同級生をいじめるようになり、どんどん不良化してしまっていた。
そのうちに、拓ちゃんは両親に暴力を振るうようになり、
両親から避けられるようになっていった。
ある時、わたしは拓ちゃんの家に遊びに行くと、
小学校のときにキレイだった拓ちゃんの部屋は、
壁中に穴がボコボコあいていて、テーブルの上には無造作に
タバコとライターが投げ捨ててあった。
わたしが何でこうなってるのと聞くと、
拓ちゃんは、むしゃくしゃしたら、親父とか壁殴るんだ。
その後の一服はうまいぞと笑って言った。
そんな日々が続いていたが、時間はすぎさり高校受験も終わり
私が高校二年になったある日、家に拓ちゃんが訪ねてきた。
私は拓ちゃんに会うのはひさびさだった。
中学卒業後、私は受験に失敗して地元の公立高校にはいけず、
仕方なく働きながら高校にいく道を選択した。
今では、私は親元を離れて実家の近くのアパートの二階に一人で住んでいた。
不良だった拓ちゃんは、頭のいい、
親の血をひいているのか勉強もあまりしていなかったのに
公立高校に合格していた。
そうしてお互いの進路が変わったため、以前のように遊ばなくなり
二人の距離はあいていた。
そんな折に拓ちゃんの突然の訪問。
拓ちゃんは会うなり私に泣きついてきた。
「どうしたんだよ? 突然泣き出したりして、
悩み事でもあるのか?」
「あぁ、聞いてくれよ〜
実はなぁ〜 俺、毎晩女の霊に悩まされてるんだよ」
「霊って? お化けの事か?」
「そうだ、お化けのことだ。このままだと
あの女に殺されてしまうよ」
「何かされるのか?」
「あぁ〜寝てたらクビ絞めてくるんだよ」
「え〜マジかよ」
「ほんとだよ、俺の首みてくれよ、絞められた跡ついてるだろう」
私は拓ちゃんの首を確認した。
確かに拓ちゃんの首には絞められた様な青あざがついていた。
「でも、何でお前が首絞められるの? なにかその女にしたのか?」
「俺は女には、なにもしてないよ。ただ叔母ちゃんに……」
拓ちゃんの話はこうだった。
拓ちゃんは中学から続いていた家庭内暴力が、高校にいっても止まず、
遂には親父の歯を折ったり、骨折するぐらい強く殴ったりして
警察沙汰になるぐらいエスカレートしていたそうだ。
それで、見かねた母親がどうしたものかと、親族に相談したらしい。
そしたら、母親の姉さんにあたる人がわたしが面倒みますといってくれたそうだ。
その姉さんは、大阪の高槻のマンションに一人で住んでいて、
高槻からだと拓ちゃんの通学も出来ると
言うことで話がまとまった。
いい加減、拓ちゃん自身も実家に嫌気がさしていたので、
すぐに叔母さんの家に居候することにした。
叔母さんは、早くに夫を病気で亡くしていて、遺族年金と生命保険金で
生活していた。
それから一カ月ほど一緒に生活してみて、拓ちゃんは叔母さんが
意外に金を持ってることをしった。
金に目をつけた拓ちゃんは、叔母さんに金の無心をするようになった。
「叔母さん、学校の教科書代まで払ってないんだ。体操着盗まれたので
買わないといけないんだよ」とかいう風に……
でも、叔母さんもバカではないので、そのうち拓ちゃんに金をわたさなく
なったそうだ。
そうなると、今度は叔母さんに対しても暴力を振るって金を貰うようになった。
そんな、生活をしているうちに、女の霊が現れるようになった。
最初は寝ているときに金縛りに遭う程度だったが、
そのうちにベッドの下の床から、誰かが上ってくるような感じになりだした。
叔母さんに対する暴力がエスカレートする度に、
拓ちゃんの心霊体験もエスカレートしていったそうだ。
そうして、最近では女の霊が寝ていると、現れて首を絞める。
拓ちゃんは、叔母さんにそのことを言ってみた。
すると、叔母さんは女の霊のことを聞くと嬉しそうに拓ちゃんにいったそうだ。
「あの女を見たのね。私もここに、住みだしてから時々見るのよ。
でも悪いことはしないわよ。だって私の肩とか揉んでくれるのよ」
「なに、言ってんだババァ〜、何が肩もむだと〜、俺は毎晩首しめられるんだよ」
「きっと、あなたが叔母さんを苦しめるからそうなるのよ。
あなたなんかぁ、あの女にとり殺されたらいいのよ」と言ったそうだ。
それを、聞いてゾッとした拓ちゃんは、叔母さんをなぐってから
私の家にきたそうだ。
私も拓ちゃんの話を聞いてゾッとしたが、
バイトに行く時間がせまっていたので、拓ちゃんに
アドバイスだけして帰ってもらった。
「拓ちゃん、叔母さんに暴力振るうのやめろ。それと嘘もつくな」
拓ちゃんは、うんうんと私にうなずくと、乗ってきた原付バイクに
乗って帰っていた。
それから二週間ほどたったある日。
すっかり、拓ちゃんの話など忘れていた私は、
そろそろ寝ようかと思いベットに就いていた。
時刻をみると午前二時を少しまわったところだった。
すると、ピンポーンとチャイムが鳴り、ガンガンとドアを叩く音がした。
「誰だろうこんな時間に」と私は思い、玄関の覗き穴から相手を確認した。
そこには、悲痛な顔した拓ちゃんがドアをガンガン叩いていた。
「おい、いるんだろう。頼むから、中にいれてくれよ
でないと、俺は今度こそ……」
私は正直ためらった。この前の拓ちゃんの話を思い出したからだ。
私の頭の中では、嫌な妄想がした。拓ちゃんの背中に女がへばりつき
拓ちゃんの首を絞めてるような気がする……
もう一度、恐る恐る覗き穴から外を確認した。
いるのは、拓ちゃんだけだった。
私はドアの鍵を開けると、拓ちゃんを家にいれた。
「どうしたんだよ、そんな青い顔して」
「また、あの女だ。」
(やっぱり、そうかぁ)
「首絞められたの?」
「うん、それで逃げてきた」
拓ちゃんは、でかい図体でブルブル震えていた。
「逃げる途中もなぁ〜俺がゲンチャリを運転してると、背中に乗っかって
後ろから、ゲンチャリのハンドルをつかんで、俺を事故らせようとしやがる」
拓ちゃんは興奮してそう話した。
「朝まで泊めてくれよ、朝になったら帰るからさぁ〜」
「分かったよ、ここでいいなら、朝までいろよ」
「ありがとう、助かる」
そういって、拓ちゃんはタバコに火をつけた。
タバコを持つ手がブルブル震えていた。
「俺、悪いけど明日、早いから寝るなぁ〜
拓ちゃんはそこのソファーにでも横になってくれよ」
「あぁ、わかった。ありがとう」と拓ちゃんは言った。
そうして、私は床についた。
そして朝になった。
部屋には拓ちゃんはいなかった。
やっぱり、俺帰ると置手紙がしてあった。
なんだぁ、あんなに怖がっていたのにオカシイなぁと
思ったが、それ以上考えずに、私はバイトにいった。
バイト後、学校に行ってアパートに帰ってきたら夜の九時になっていた。
何気に夕刊をみていたら、小さく事故の記事が載っていた。
本日未明、国道で原付バイクにのった少年がダンプに巻き込まれて死亡
死亡したのは、公立高校に通う和泉拓人君十七歳と書かれていた。
私はその記事を見てめまいがした。
その夜からずっと、午前二時を少しまわると、私のアパートに
訪問者が現れた。
コッコッ ガチャガチャ ピンポーン ガーン
覗き穴から見ると誰もいない。
でも、私にはわかる。拓ちゃんに違いないと!!
そして今夜も……
今激しくドアを叩かれている。
早く拓ちゃんに事故で死んだ事を教えてやらないと……
拓ちゃんは成仏できないんだ。きっと……
私はドアについてる覗き穴から外を見た。
拓ちゃんはいない。
でも……
外には、ボロボロの白い服を着た女が、激しくドアを叩いている。
顔半分は焼け爛れていて、口から血を流している。
ガーン ガーン ガーン
白い顔をした女は、私が覗き穴を見ているのがわかるのか
私の視線に向かって、ニヤッとわらった。
そして、かすれた声で
「おまえの お友達が さびしがって いるよ
一緒にあそびたいんだって……」
いやだぁ〜 いやだぁ〜 死にたくないよ〜
私は心の中で叫んでいた。
すると、さっきまでドアを叩く音がしていたのが、とまった。
覗き穴をもう一度見ると、女の姿は無かった。
私は少し安心して振り向くと
あの女が私の正面にたっていた。
女はケタケタ、笑っているように見えた。
そして、わたしの首を絞める。
かすれた声でお前も死ぬんだよと聞こえた。
いやだぁ〜死にたくないよ〜
拓ちゃん助けてよ〜 友達だろう。
遠ざかる意識、その時、頭の中で声がした。
聞き覚えのある声。
そう、拓ちゃんの声だ。
「わかった、助けてやるよ そのかわり、墓参りぐらいしてくれよな〜」
頭の中の声をきいた後、首が急に楽になった。
女のいた方を見ると、半透明の拓ちゃんが女の
髪の毛をつかんで、壁の中に消えていく姿が見えたような気がした。
そして私は、意識を無くして倒れた。
気がつくと、私は玄関の前で倒れていた。
時計を見ると、朝の八時になっていた。
あれは、一体なんだったんだろう。
わかっているのは、拓ちゃんが助けてくれた事。
そして、私は心の中でつぶやいた。
ありがとう。拓ちゃん
約束どおり、今度お前の好物をもって墓参りに行くからな〜
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