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退場

乙女ゲームの悪役ですが、始まる前に退場することにしました。

作者:鵠居士
私は、杜朋彰子もりとも あきこ
杜朋グループを纏める杜朋家の次女、中学一年生です。

私がそのことに気づいたのは、つい一年前の事です。
それは唐突でした。
自分の部屋にいた私は、目の前がパッと光るのを感じました。
そして、ここが生前プレイしていた乙女ゲーム『あなたと共に』の世界だと気づいたのです。

これが、転生なのか、それとも元々いた杜朋彰子を乗っ取ってしまったのか。
それは分かりません。
ですが、その瞬間私は絶望しました。
杜朋彰子は『あなたと共に』のライバルキャラにもなれない、悪役だったからです。
果てにあるのは、勘当、自殺未遂、精神病院に海外の好事家へ売られる。
そんな人生しか待っていないのです。

『あなたと共に』は三つのシリーズが出ていた乙女ゲームです。
私が死んだ時点なので、まだまだシリーズが続いている可能性もありますが、その時点で私には絶望しか残りません。
一作目は、彰子の妹である三女・翠子が
二作目は、姉である長女・莉子が
ヒロインでした。
三作目は、弟である長男・柚貴がメイン攻略キャラでした。

私である杜朋彰子は、その全てにおいてヒロインに陰湿な嫌がらせをするというキャラクターでした。
無表情、根暗、そして姉弟たちが苦しむ顔を見る時だけ笑顔になるという、なんともいえない存在でした。そして、ゲームが終了した時点で制裁を受ける運命です。

なので、私は決めました。
ゲームが始まるのは、翠子が高校一年になった年。同じ年に、高校二年の柚貴、大学二年の莉子のゲームも始まります。
つまり、私が高校3年の時です。
まだまだ全然時間はありますが、早々に無関係になることにします。
そして、私の、私だけの人生を歩みたいと思うのです。




まず私がしたのは、弁護士の下に行くことです。

彰子はボイスレコーダーを隠し持つ癖のある子だったみたいです。
これも、父親や母親、親族たちなどが他の姉妹だちを優先して彰子が言ったことやお願いしたことを蔑ろにした上、そんな事実もすぐに忘れてしまうためです。
その為、彰子はなんでもかんでも録音して証拠として保管する癖を持つようになりました。
お金は、お金持ちっぽくお小遣いをたっぷりくれていたものを貯金していたものがあります。
こんな家にいて人生を台無しにするくらいなら、孤児院などに行ったほうがましです。
前世で読んだ数々の小説では、周りを変えようとか、先回りして攻略キャラを落そうとかありましたが、そんなことをしても面倒くさいだけですし、あの人たちに関わるのは嫌でしょうがないんです。



「で、君は家を出ることを望んでいるんだね。」

有限実行。
あの後すぐに証拠などを纏めて弁護士の下を訪れました。
といっても弁護士に知り合いがいるわけでもないので、横着ではありましたがゲームの登場キャラクターだった弁護士、前橋晃の事務所です。
彼は攻略キャラの家と契約した優秀な弁護士で、彰子を追い落としヒロインや攻略キャラたちの前から消し去ってくれる存在でした。
そんなものに、この私(彰子)が頼るだなんて笑えますね。

「はい。今まで我慢して、どうにか私にも気をかけてもらえるよう努力してきましたが、限界です。もう夢は見ないことにしました。」
「うん。証拠も十分そろっている。ネグレクトを立証することは絶対に出来るだろうね。」
そりゃあ十分でしょうよ。
私じゃない彰子が集めたものが大半でしたが…。
私の、殺風景で参考書だけが入った本棚と簡素なベット、古い勉強机だけがある部屋の写真。
姉や弟、妹のきらびやかで本人たちの趣味のままに様々なものが買い揃えられた部屋の写真。
家族が集まるリビングの写真に写った家族写真。世界各国に行っているのか何枚も飾られているのだが、そこに私が写っているものは一枚もない。行くことさえ知らずに、使用人にも休みが与えられた旅行期間、彰子は一人で家で過ごしていた。長い留守なのだからと食材の殆どは無く、なんとかコンビニで買ったおにぎりなどで飢えを凌ぎました。たった一人、冷たいおにぎりを広い家の中で子供が食べている光景。一応ではあるものの当の本人である私が思い出してみても、もの悲しくて涙を誘う光景でしょう。
それに加えて、彰子の日々の日記に、様々な差別するような発言の録音。
これでネグレクトの被害者として保護してもらえないなら、国の法律が終わっているし、児相って組織居るの?状態、弁護士辞めちまえ状態だ。
「じゃあ、もろもろはこちらでやるけど。君はどうするの、これから?家には戻れないでしょ?」
「孤児院に行くことになるんじゃないんですか?」
「まぁそうなんだけど…君の家族が騒ぎ立てたら迷惑かけるでしょ?」
ニヤリと口元で笑っている前橋晃。
なんですか、その笑い方。彰子を追い詰めながらヒロインに垣間見せた嗜虐性あふれる映像を思い出してしまったじゃないですか。
えぇ、本当に。鬼畜スキーな方々からの支持が多かったということを唐突に思い出してしまった。ゲーム本筋では会話文だったり、匂わせる程度ではあったものの、中々に非道で外道な手段を用いる腹黒弁護士だったのは、公式で出された小説によって明らかになっていたな、と此処はあえて他人事のように思っておこう。

「そうですね。では、どうしたらいいか教えていただけますか?」

だが、まぁ前橋晃の意見も最もの事だ。
世間の目を気にするならば、私が今からすることを許すことは出来ないだろう。私達、幸せ家族ハートを本気で信じているのなら、家族なのに馬鹿な事をして一抜けしようとする私を許そうとはしないだろう。
あぁ、涙を浮かべて訴えかける姉妹達の姿を考えただけで怖気が走る。鳥肌で全身が凄い事になっているだろう。
本当に恐ろしい。
腐ってもヒロイン。彼女達の涙涙の訴えは人々を惹きつけることだろう。そして、彼女達を悲しませるなんてと連れ戻される私。愚かで酷い娘だ、と誰一人味方してくれるものもいないだろう。
面倒臭い。
転生もので切っ掛けを作っているのは、神だ。この世界にも居るのかどうかは知らない。だけど、私をこの面倒臭い世界に彰子として転生させた神という存在が目の前に居るとしたら、絶対に殴る自信がある。いや、殴るで治まるだろうか。顎に手を入れて奥歯を掴んでガタガタいわせてやろうか。それとも…。

「うちに来ない?」

前世の愛読書。『世界の拷問大百科』の内容を思い出しながら、顔も知らない、存在するかも分からない神をヒーヒー言わせる方法を考えていた私は、前橋晃の言葉を聞き流してしまった。
は?
けれど、聞き流しながらも可笑しな事を言われたということは理解し、何と言ったのか聞き返していました。

「だから。君みたいな面白い娘、私の家に居たら楽しそうだと思ってね。妹、娘、戸籍ならどうにでも出来るからさ、俺の家族にならない?」

「………ロリコン?」
ではないですよね?
拒否するでも、喜んびに咽び泣くでもなく、そんなことを聞き返している私はとても困惑し戸惑っていたのだと思います。
「違うからね?」
笑顔での否定が返ってきました。
でも、やっぱり、そうですよね。笑顔の背中に般若が浮かんでいました。
親切を申し出て、ロリコンなんて言葉が、しかもこんな子供から投げつけられたらそりゃあ怒りますよね。

「ありがたい申し出ではありますが、彼等が迷惑を掛けるというのなら前橋先生の御宅にお邪魔しても同じことです。こんな子供の依頼を受けて頂くだけでも迷惑でしょうから、これ以上迷惑をおかけするわけには…」
「大丈夫。」
辞退しようとした私の言葉を遮ってくる。
しかも、猛禽類のよう、と表現するような表情で私のことを射抜いてくる。蛇に睨まれた蛙ってこんな気分なのかなぁと暢気に考えなければ精神を保てない状態に、私は追い詰められています。
「そんな問題、気にする必要もないよ。俺の家はさ、はっきりと言ってしまえば杜朋よりも格上。家柄も財産も、企業規模も。だから、彼等は無体な真似は取れないよ。」

そんなことゲームにはでてこなかった…。

優秀な弁護士ってだけだったのに。
何その追加情報。
美形で金持ちで家柄も良し?
んなもん、身を寄せたが最後またまた厄介事に巻き込まれる、なんて未来しか想像出来ないじゃない!
「お-」
「断ったら、俺もこの依頼を断ろうかなぁ~。」
うぐっ。
お断りします、と言おうとしたのに。何としてでも、一刻も早くあの家から逃げ出したいっていうのに。
早々、こんな子供の依頼を受けてくれるなんて弁護士は居ない。

「どうする?俺の家族になっちゃう?」

なんだかノリが、某アイドルグループの社長みたいなんですけど?
前橋晃って、こんなキャラだったの?

でも、私が出来る返事は一つしかなかった。









「ご入学おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」

在校生による歓迎を受けながら、今日から通うことになる学園の校舎へと入っていく新入生達。
その中に、私、前橋彰子は元・妹の姿を見つけた。
不安と期待に揺れ動く表情がまた可憐だというときめきを周囲に巻き起こしている翠子の隣には、妹を出迎えに出た一つ上の兄である柚貴が居た。
「あぁあ、ついに始まったわ。」
新入生達に声を掛ける為に校舎の前に並んでいる生徒会メンバー達、部活の勧誘をしている在校生達。
翠子は面白いくらいに、その中から攻略キャラ達を選んでいるかのように話掛けたり、ぶつかっていったりしている。
柚貴もそう。新入生の中にいた、彼のヒロインと出会って話をしている様子が、彰子の居る図書室の窓から見てとれた。
「ちゃんとゲームが始まっちゃった。」
彰子は前橋晃の妹になった。
ゲームの中には前橋晃の妹だなんてキャラは出て来なかった。話にも出ていない。だから、関わらないで居られると思っている。だけど、なんだろう…不安で胸が一杯だった。

その不安は後日、本当になった。
「お姉ちゃん!どうして突然いなくなっちゃったの?私のこと、家族のことを嫌いになっちゃったの?」
「姉さん。貴女は酷い人だ。」
新しい学年が始まった数週間。
それだけしか経っていないというのに、すでに注目の的となった取り巻きまで作っている翠子。
柚貴も順調に、先年に続いて人々の注目を集めつつ、ヒロインの少女とのすったもんだを演じていた。
そんな二人に遭遇してしまったのが運の尽き。
っていうか、ねぇ柚貴?あんた、去年も何度か廊下とかですれ違ってるんだけど?その時には私の事なんて気づきもしなかったくせに。
なに、いまさら姉なんて言うのかしら?

翠子ちゃんを泣かせる酷い人。
柚貴様にあんな顔をさせる女。

彰子の苦難の日々が始まった。


「ねぇ、お兄様。ちょっと、やり過ぎちゃうかも知れないけど?弁護士なんだから、ちゃんと弁護してね?」
『弁護しやすいように、証拠はしっかり押さえておけよ?』

彰子の武器は、幼い頃と同じボイスレコーダー。
ちゃっちゃと証拠の音声を集めまくって、日記で記録。
被害にあったものなどはちゃんと写真に取りましょう。
もしも暴力を振るわれたら?
お医者さんで診断書を取って。

やられたらやり返す。
じゃないと、人生自体を退場することになっちゃうものね。

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