拗らせる。
国立星稜院学園には今世紀最高の頭脳を持ち、武道にも長け、素晴らしい人格者であり、血筋と家柄、家格を持ち、且つ見目に至ってはまるで神の写し身であるかの如く神々しい男子生徒がいた
その名は"現人神 神也"
あまりにも恐れ多いその名すら相応しいと言わしめる程に完成された彼は、しかし人の縁には極薄く
誰も彼もがその完璧さに声を掛けることすら憚られる程であった
多くのものを持つからこその不幸
そしてそれは、今現在も彼を苦しめていた……!
『だからにゃ!、しんやはこにょままいきゅと
しぇかいをはめちゅにおいやる まおーになるのにゃ!』
「……。」
「……。」
「……。」
「あー…現人神、授業に関係の無い私物は教室への持込は禁止だ」
「先生、その青く塗装された信楽焼きのたぬきは僕の私物ではありません」
『ぼきゅはしぶちゅじゃにゃくて ねこがたろぼっとなのにゃ!
ちょうこうどえーあいとうしゃいの しゃいしんがためっせんじゃーにゃのにゃ!!』
(((超高度AI搭載なのにメッセンジャーって…)))
授業の最中に突如眩い光と共に現れたNEKO型ROBOT(自称)に教卓を占拠(高負荷破壊)された教師と生徒達は
人類が消え去った後の未来から来たというソレを、現人神青年の私物という方向で強引に解決しようとしたが、流石に本人から拒否された
国立星稜院学園は帝王学を初めとした実践的教育を主とした良家の子女御用達のため、このように奇異な事態に陥った場合に生徒のみならず教師ですら臨機応変さに欠き
僅かに社会経験の勝る教師の臭い物には蓋…ではなく大人の対応が圧し折られると、彼らに後手はもう存在しなかった
そんな彼らの最後の頼みの綱は……
「……。」
「……。」
「……。」
じー。 という擬音まで聞こえてきそうな程に、クラスメイト達から篤い視線を一身に受けるも目線を明後日に固定したまま誰とも眼を合わせようとしない藤野朋恵であった
「藤野さん…」
「藤野さん…」
「藤野…先生からも頼む」
「うぅ…はい……」
現人神、クラスメイト、担任の順である
無言が有言の訴えになったところで未だ教卓を占拠(高(ry)するNEKO型ROBOT(自称)にイヤイヤながらも近寄る彼女は、アッパークラスな彼らの救世主、ザ・庶民であった
名前に反して友には恵まれないようである、所詮格差社会か、いとあはれぶ
このように国立星稜院学園ではあらゆる可能性を考慮して各生徒が自身の護衛を教室内まで伴うことを許可される他、1クラスにつき1~2庶民態勢を完備している(主に生贄方面に特化)ため父兄からの信頼もぺら…篤い、篤いったら篤い
「あの…えーっと…あ、お、お名前は何かな?」
『ニャンドリュー・ドゥ・ニャンゴロリッチモンド三世(一部様式美含)!
ひとよんで猫右衛門にゃ!!』
何一つかすっていない上に見た目も相まって色々と残酷である、責任者出て来い。
「り、立派なお名前だね
えーと、未来…から来たの? す、すごいね」
『えっへんにゃ! うやまってへつらうにゃ!!』
「あ、う、うん、すごいすごい、えーと…
な、何で現人神くんが魔王?になっちゃうの??
もうちょっと詳しく教えてくれる?」
『しんやはみそじすぎて まほーちゅかいになるにゃ!』
ぶっほぉッ!!
一応、社会経験(in俗世)のある担任教師が諸々を噴出した
が、純粋培養の生徒達には意味がわからず、担任の容態を気遣った
しかしフィルタリングされた情報以外を独自に入手していた現人神青年はピクリとこめかみを引き攣らせたのであった
「ま、魔法使い? 魔王じゃなかったの??」
『まほーちゅかいから まおーになるにゃ!
どにょめすもおすも、しんやとピー(護衛達によるホイッスル発動)しにゃかったのにゃ!
おそれおーいとか ちゅりあわにゃいとか、りゆーはいろいろにゃ!!』
「あー…うん、はい、ソウナンダー」
『だけどおよちゅぎがひちゅようにゃって、みんながいったにゃ!
にゃのにだーれもしんやとピー(護え(ry)しにゃかったにゃ!!
しょれでしんやはさびしくって しぇかいじゅーのにんげんとむりしんじゅーしたにゃ!』
(((……うわぁ。)))
状況を察した生徒以外の者達の心は今正にひとつであった
格好良い表現を使えば印象は丸で違ったのであろうが、結果は詰まるところ一緒である
薄氷よりも薄い他者との縁
理想という鎖に縛され理解されない孤独
仲間として、友として、伴侶として、誰一人として
……彼の人生に、心に、寄り添うつもりが"ない"のだと
未来の現人神神也の深い絶望と孤独、悲しみは
しかしNEKO型ROBOT(自称)によって、いろいろ拗らせた末の盛大な無理心中という黒歴史に成り果ててしまった
せめて死ぬときは、孤独から逃れたい
そう思った末の結末かもしれない
真実など、もしかしたら現在の現人神神也にすらわからないだろうに
「……それで、現人神くんを助けようと思って?」
人類を、ではなく現人神神也青年を
悲痛な面持ちでそう尋ねた彼女のその言葉に、彼は、その胸に温かなものが湧き上がるのを確かに感じた
……が。
『ちぎゃうにゃ!
えーあいのぼきゅたちは まんがもしょーせちゅもそうぞうできにゃいにゃ!!
もえぶしょきゅでしにしょうにゃ みんにゃのきちゃいをいっしんにしぇおって たいむすりっぷしてきたにゃ!!』
次の瞬間には台無しにされた。
「そ、ぇ、あ、えー…と……それは大変…だ…ね…?」
色々と粉々に粉砕されて進退窮まった彼女は混乱のまま立ち上がり、彼女達を見守っていたクラスメイトたちを振り返った
「み、みなさんに、カンパ…じゃなくて
えーと、寄付をお願いしたいんですけど、一口五千円ほどで…」
「寄付…ですの?」
「それはまた何故?」
「現人神くんを助けるためです」
「まぁ、是非寄付させていただきますわ、小切手でよろしいかしら?」
「わたくしも現金の持ち合わせがないので小切手で」
「僕も」
『ぼきゅのおきゃねは まんがをかってかえりゅためにょもにょだから あげにゃいにゃ!』
そうして集まった小切手の束を持った藤野朋恵は、気遣わしそうな面持ちで、そっとソレを現人神青年の手に捻じ込んだ
「現人神くん……」
「……藤野さん」
「このお金でプロのお姉さんに卒業させてもらいましょう」
ぷちっ。
「えっ、あれっ、何今の何かが切れたような音っ」
「右近、左近、ホテルとディナーの手配を」
「「は、御意に」」
「え、ちょ、どどどうしたの現人神くん?!
わ、わぁ、見た目に反して力持ち…
じゃなくてわたしを降ろしてさしあげてくださいませんかっ?!」
「先生、僕と藤野さんは体調が優れないので早退します」
「あー…うん、ほどほどにな」
彼女から捻じ込まれた小切手の束を護衛の手にスライドさせた現人神青年は乙女の憧れプリンセスホールドで彼女を拘束すると、もろ仮病を装って二人の鞄を持った護衛を引き連れ教室を後にした
そんなわけで三ヵ月後、二人はでき婚し世界は救われた。
……ごめんなさいごめんなさいご(ry